ハティになっちゃった 作:生体部品3
匿名投稿だからなんでしょうか……?
さて、どの辺に出たかな?行きに降りたエレベーターからそこまで離れてはいないと思うんだけど。大脊柱下部が向こうだから……。僕が下層に下りてきた地点はそっちか。
下層から中層に上がれるところは限られている。ガーディナの対異形戦線があるからね。
なるべく大脊柱ルートはとりたくない。なぜって生きてる汲み上げセルの流れと戦場に散らばるセルにニンフっていうセルの塊を追って前半は異形の群れがいるし、後半は戦線を押し上げるために投入されたガーディナの自動機械とそれを指揮するニンフがいる。前線ができたばかりならともかく、今のガーディナに下層から上がってくるニンフを撃たない理由がないからね。戦線に被害を出したくないことを考えるとそっちとあまり戦闘するわけにもいかないし。
なら他のルートは、となると単純に遠いんだよね。普段使われてない、誰もいないからセルがない、すると異形にもうまみがないからその周辺に集まってなくて、ゲートを閉じておけばそれだけで突破されないホドの外側の壁近くの僻地ばかりだ。
それ以外だと上のプレートに穴が開いてるけど、飛んで中層側に来る異形が今はいないから放置されてるところとかもあるか。でも同高度や少し上でもなく、さすがに一層分丸ごと上に飛ぶことはできないからね。実質上から下に一方通行のルートと言っていいだろう。
あとは下層に太陽光を届けるルートがあるけど、光以外のものが通る前提じゃないから何があるかわからないし、下層側の出入り口が大脊柱の上の方に付属してるからそこまで行くなら大脊柱ルートとそう変わらないしね。
とはいえ、元々異形の大量発生前からそれしかルートがなかったのかと言われればそんなことはない。四方八方から攻撃されるのを嫌った中層側が、戦線構築するときに異形が下から上がれないように下層側の建物を破壊して今のようになっただけでね。大脊柱のサブのくみ上げルートとかはパイプだけしか残ってなかったり、それ以外は層の天井が抜けないように柱だけ残って床や壁が抜かれているところもある。*1
それらを除くと現在の下層にある大体の建物は下層の床から上の天井までの高さに比べるとわずかな高さしかない。大脊柱と比べてみるとわかりやすいね、層間プレートを抜けてすぐ下あたりの太陽光通路が離れる笠状のところと比べても1.2割くらいの高さしかないんじゃないかな?
ともあれ、そういう下層側から普通は入れなくなってるところについては中層側も地雷とかをまいておいて何かあれば見に来る、みたいな仮に異形が入ってきたときに気が付けるようにしかしていないところが多いからそこを通ってきたんだけど、行きに通った時にゲートを閉じた下層側からワイヤーロープで降りてきてそのままにしてあるんだ。
中層側からロープが見つかることはないと思うんだけど、下層で亡骸漁りをしているニンフに見つかっていたら少し面倒かもしれない。何かあってそこが使えなかったらさっき言ったそれ以外のルートを使うしかないからね。
ともかくそこまで向かうことにしよう。どこか近場からビルの上にあがってしまってまっすぐ行くつもりだ。これは亡骸漁りのニンフとかは普通とらないルートだ、なにせ物は上から下にしか落ちないんだから、上には上から降ってきたうえで誰かに取り逃された物資しかないからね。行きたい場所が既に決まっている移動のために通る以外ではあまりメリットがないのにたまに自動機械が狭いところに詰まって残っていることがあるから気は抜けないろくでもないルート。けど僕にとっては少し行けば行きに通った確認のとれたルートだし移動することだけを見れば早いルートだからね。
ここ下層のビルのワンフロアの長さにはいくつか種類がある。大きなものは3m弱くらい*2のフロアにある程度厚いフロア間を持っている他の階層でも見られるもの、小さなものは1.5mくらい*3のフロアに薄い板一枚が上の階の床と下の階の天井を兼ねる実用的ではなさそうに見えるもの。後者はフロアぶち抜きで上下に何本も柱が通ってることが多いのでもしかしたらかつては自動機械の巡回ルート制御用にただあるだけの建物だったりしたのかもしれないね。
下層のビルには下の方の階が入れないように鉄板で塞いであるところも多いけど、塞がってないとたまに小さいサイズの自動機械が入ってるときがあるんだよね。まぁ下の方が板で塞がってても、どこから入ったのかその上のとこにたまにいたりして。ニンフも鎧殻を得る前はそういうところに隠れる方の生き物だっただろうから何とも言えないけどね。
ちょうど地上に上がってすぐにワンフロアが短い方のビルを見つけた。このタイプのビルは側面の大部分が枠組みだけの窓のようになっているものも多いから、上りやすいんだよね。まっすぐな壁をむりやり登るのと違って、立てる足場につかめる上のフロアの床もあるから側面の開いた、縦積みのコンテナを登るようなもんだし。ちょうど下の方の鉄板も砂に埋まりかけてて下の方2フロア分くらいの板が砂山から出てるだけだから、それを埋めている砂山の上から跳べばすぐに上に登れそうだ。
そう思って跳びあがった僕の目に飛び込んできたのは、ビルの中に隠れていた真っ赤な弾倉に小さな胴体、そしてその上の笠のようなものの前部分にショットガンの砲身を持つ四本脚のあいつ*4だった。
「あっ」今一番会いたくないやつとの突然の出会いに勝手に意識のクロックが上がる。
反射的に持っているCaladbolgを向けて打つ。相手の笠の部分に穴を開けるが撃破できていない。
動き出した瞬間、壁際、折り返しで鈍った動きに二射目でとどめ。しかしCaladbolgの熱塵とすれ違いに相手の浸食弾が迫る。窓辺に着陸するつもりの機動に既に入ってしまっていて避けられない!
自動障壁に弾頭が当たり、止まる。衝撃で弾頭の浸食虫の含まれる液が弾ける。
自動障壁は衝撃の大部分をそこで止めてくれるが、別に止めた物がなくなるわけではないから
液がかかった瞬間、記憶にあるよりはるかに激烈なおぞましさに襲われる。
「ん”っ!?」思いっきり顔をしかめながら、多分僕は地上に向かって落ち始めていた。
立たないはずの鳥肌が*6立つなんてもんじゃない。熱いのか冷たいのかもわからない這いまわる電流に焼かれているかのようなビリビリとした痛み*7と体を穢されたような喪失感を感じる。生きながら浸み込んで食われようとしているのだから起きていることとしてはそこまでおかしいわけではないのだが。
でも、でも行きに食らったときここまで過敏じゃなかった!!これはどう考えてもおかしな記憶が追加されたせいに違いない。精神的な物だけじゃなくて感覚にまで影響してくるの勘弁してくれないだろうか。名前のない炭素生物の記憶の方の僕だって僕なんだったらせめて事前に僕に影響の内容を通知してくれ。そういう不意打ちほんといらないから……!!
加速した思考が戻る。砂山から跳ぶ前のところに戻るようにべちゃりと落下してそのまま坂を転がり落ちる僕の気分は最悪だった。
侵入した浸食虫は普通、少量なら素体表面を突破できずに免疫機能のような働きで死滅する。付着した量が多ければ表面を突破されそのまま体内を食い荒らされることになるけど、中で増えるわけじゃないからある程度大きなダメージはあっても表面と体内両方の免疫機能に攻撃されてそのうち死滅しきることになるので、それだけで死因になるほどじゃない。
記憶から出した情報で前と今のがどれくらい違ったのかを例えると、前のが
とてもつらい……
床に積もった砂の上で悶えながら、そんなたあいのない考えで浸食虫の駆逐が済むまでと思って意識を逸らしていたんだけど、ダメだ!これは戦闘型でも耐えられない!*9小虫を使う!*10
蠢く小虫をいつもみたいにぐいっといこうとして口に含んだ瞬間、未知の感覚が僕を襲った。
いや、これは知らないけど知ってる……!?化学物質由来な味覚!?ニンフの舌に味蕾はないだろ……!?小虫を飲み下すと体内からやたら爽快なシュワシュワした感じとともに解毒されて無力になった浸食虫が食い込んだ体表から一瞬で駆逐されていくのを感じる。
感覚としては無駄に爽快感があるのが逆にちょっと腹立たしいな。ちなみに感じた味は爽快感のかけらもない、蠢くもずくと炭酸が抜けかけたサイダーだったよ。味と感覚があまりにも不一致だ。
しかしどういうことなんだ?ニンフも味覚はある、あるがそれは炭素生物みたいに口に入れた物質が化学的に反応してどうこうって物じゃない。単にスキャン的に見てわかること、例えば手に持った修復剤が使用可能かどうか、その質はどうか、とかの詳細確認として
だからこれまでニンフの間に料理なんてものはなかったし、これからもどこからも文句なんて出ないでこれまでと同じ修復剤とか補給剤を食べていくんだろう。僕は次に食べるとき何を感じるのか既に今から怖いんだけど。
結局さっきのは
それはそれとして、追加された方の記憶が勝手に出てくる時もあれば、
ここでは危ないし、後で落ち着いたら確認しておこう。思えば最初に向こうが優位だった時を思い出すと視覚も炭素生物の視覚は情報量がニンフのものより少ない*12し、通信感覚は炭素生物になかったりでそもそも手持ちの感覚がかみ合ってなかったんだね。僕は僕と相互理解してわかりあう必要があるよ。
とりあえず今度こそ上にのぼろうと思って立ち上がった僕は、他の階にも何か隠れていると困るので、Folsの特技背嚢を起動した。この特技背嚢の機能はロックサイトと連動させて、捕捉した敵対存在をオートで攻撃させる*13ことが多い自律強襲型ドローンなんだけど、これをマニュアルで窓辺に飛ばして隠れてるやつを釣ろうってわけだね。
このドローンの飛んでいく子機側はミサイルと同じで作れる弾薬扱いだから撃墜されても消耗としてはそこまで痛くはない。そもそも作って飛ばす時点でそこそこBPがかかるって点を見なければね。これBPのわりに威力はそんなに高くないから、オートだとニンフが相手でもなければ*14ないよりまし程度の火力にしかならないんだよね。でも、こういう時には便利だ。
と意気込んで飛ばしてみたはいいものの、他に隠れているやつはいなかったみたいだ。せっかく作ったんだし、もったいないから後ろから打たれないように向かい側とか付近のビルも確認したけど大丈夫そうだ。
そうして今度こそビルの屋上にのぼった僕はビルを飛び移るように飛んで目的の場所にたどり着いた。待ち伏せ型の異形*15とか、見えないような細かいやつ*16が流れてきてなくてよかったよ。見た感じロープの周辺に誰かいるわけでもなければいじられているわけでもない、靄で遠くの細いものは見えにくいとは思っていたけど、誰にも見つからなかったみたいだ。
そのままワイヤーロープに巻き上げ機を付けて上がって行く。ロープ伝いにぐんぐん上がり始めてから気が付いたんだけど、僕が高所恐怖症になってなくてよかったな。いや、それならそもそもここまで来れてなかったか。でも飲み込んでからアレルギーだとわかる、みたいな目はこれ以上ごめんだし、どうにか対策をとれないか考えないといけないな。
とか考えているうちに上端についたのでこちら側に固定してあったロープを解いて巻き上げにかけて回収した。背後のゲートを通れば中層の下部だ。僕はゲートを開けるとその先に歩を進めた。
これを書き始めたときにカット画単位では一番書きたかったところがこの、浸食にやられてハイライトの消えた目で悶えるハティちゃんになります。ハティちゃんが主人公じゃなかったら多分閑話で転がってました。それはそれとして鎧殻着てると加速翅と特技背嚢がつっかえるから床に仰向けで悶えるってできないのでこれ多分砂山でヤムチャしやがってしながら左手をもだもだ床タップしてますねこの子。
あと、1-1で確認した持ち物にワイヤーロープの巻き上げ機を追加しました。
というわけで下層突破RTAは注釈込の文字数として表示されてる文字数は7283文字でタイマーストップです。次回は中層になります。
なお別ゲーパロディの単話をドールズネスト原作で書きたいんですが、タグがそのためだけに増えるのも嫌なので別の短編として出す予定があるのと、ホドを出てナイトシティ(cyberpunk2077)に行く予定ができてしまったのでこちらの更新はしばらく間が空きます。