ハティになっちゃった 作:生体部品3
前回のあらすじ
僕は記憶に情報を食わされているんだ!(もしかして:もずく)
ゲートを通って中層の底に出た僕の前に広がってるのは、行きにも見た地雷原*1だった。どうやら行きの時と配置は変わってないみたいだし、同じルートで出られそうで一安心。なにせ地雷の目的としては下層からの侵入の検知のためだから、ここで地雷に引っかかると確認のためにガーディナ兵が来るはずだからね。
ともあれ、引っかかると面倒なことになるので地雷の位置をしっかり確認しつつ底を進む。
中層の底にはところどころにビルが生えている。上を見上げるとある程度の高さまで伸びるごとにビルの側面から別のビルが枝分かれして生えるようにして上に上に伸びている。
大森林と呼ばれているエリアはここから上っていった先だし、そこがメインだと考えると、そこから下に伸びているこの辺りは根の部分にあたるんだろうか。以前、僕は炭素植物の根って地面の下に伸びてるらしいと聞いて下層の下に向かったわけだけど、種類によっては板根というやつが地面の上で伸びてることもあるんだってね。
そう考えるとこの辺りは大森林の根の部分とも言えるかもしれない。まぁそもそも基部になってるだけで何か働きに違いがあるわけじゃないからどこまでが根かな、みたいな分け方はできないんだけど。そんなことを思いながら大森林の根の間を抜けて足場を登って行った。
少し上がると下層への警戒線も越えて動きやすいところに出る。
ガーディナの生産力も無限じゃないから、戦力が置いてあるところは必然、下層や他コロニーとの境界、生産拠点があるところや主要な通路近辺、およびかつてそうだったところにその世代の戦力が置きっぱなしになっていて配置転換するほどの理由がない場合、が多くなるわけだ。
だから下層側の対異形戦線から、樹窟とか大橋みたいな大脊柱近くの縦の移動はガーディナ兵なら大脊柱沿いの施設を使うのが普通で、ちょっとだけしか離れていないこんなところを徒歩で登るニンフなんて普通居ない。ないものを探し続けるためのリソースはないってことだね。稀に何か忍び込んだり、誰か勝手に何か貯めこんだりしてないか巡回がくるかもしれない、くらいのはず。
そういえば感覚の違いも余裕があるうちに整理しておかないと。
同じものを見たり聞いたりして比較できてはいないから、完全に同じような感じ方かどうかはあまり正確ではない、単なる推測になるかもしれないけど、それでも今の僕の感覚器の感じ方が人間とニンフどちらかから見てどう見てもおかしかったらここまでの感じからしてわかるはずだからね。
比較対象 | 人間 | ニンフ |
聴覚 | 可聴域はたぶん大差なし | 可聴域はたぶん大差なし |
触覚 | 痛覚と温度感覚以外は大差なし | 痛覚と温度感覚は丈夫な分にぶい? |
視覚 | 可視光線の範囲の光学情報のみ | 光学情報 +そこから得られる距離や角度などの情報 可視光線の範囲はたぶん変わらない? |
嗅覚 | 化学物質の反応 | オートで行われる電子署名など特定層・プロトコルのやり取りのログ |
味覚 | 化学物質の反応 | センサーによる品質確認 |
痛覚 (例)拳銃弾一発を頭部に | これ致命傷ですよね???? | いいえ、重要部品がピンポイントで貫かれてなければ0.1修復剤くらいです |
電子機器との直接通信機能 | なし | あり |
防水性 | 呼吸できれば短期的には問題ない | 空冷仕様だが廃熱できれば短期的には問題ない |
耐熱性能 | 平熱36℃くらい 下は30℃切り始める前から死亡し始めて 上は42度ちょいで体組織変性して死亡する | さすがにナパームで焼かれるとかは別として、CPUは負荷により数十℃上下する |
各部位の交換性 | 部位によっては互換性が完全ではない非生体パーツだが置き換え可能 | 核になる重要部品以外は素体モジュールごとに各部位を交換可能 |
……人間君の耐久性低すぎ??小銃サイズの銃で大体どこ撃っても何発も持たないようなバイタルパートの広さで本当に銃持って同族と撃ち合ってたの?愛と信仰が足りてなくない?僕は戦闘型だから我慢できたけど通常型だったら我慢できなかったかもしれないとかそれくらい種族に性能差*2がある気がするし、何が君たちをそんなに争いに駆り立てるんだ。ニンフだってたまに相手が新兵だったら見逃すことだってある*3んだぞ。ニンフってもしかして平和を愛する種族なんじゃないか?と取り乱していると大森林の下の方にたどり着いた。
ここを登れば例の知識では一休みできるところに出るはず……あれ?しまった!あんなことを考えてる場合じゃなかった!そうだだいたい来た道を通って、上がりやすい方*4から上がってくるとガトリングが道を塞いでるから記憶の中の僕はそこで困ってたんじゃないか。
こっちのルートくらい骨組みたくさんで壁部分がないなら登りやすいしなにも仕掛けられてないのが見えやすいけど、ガトリングのある道の壁の裏側*5から上がってくるとするとだいぶ下に戻ったうえに中がどうなってるかわからないビルの内部か側面を登るか、一段が10m単位で一抱えじゃすまない太さのコンクリ柱の骨組みを登るか、一抱え以上ある太いパイプを登ることになる。どれもあまりやりやすいとは言えない。
たしかにここを一回登り切ってからガトリングを見つけたら、戻って回ってきても上層まで手持ちの物資がもつかどうかの確認からすることになってただろうな。どうしたものか……。どこかで補給ができればよかったんだけど。今なら少し戻るだけで済むとはいえ、結局代わりにどこに進むかが決まらないと物資が足りるか判断はできないし。
いや、そうか。この上の道のガトリングから離れた方の端の骨組みから上って、そのまま道を挟む壁になっている建物の端から反対側に周っていけば裏側に周るまでに途中で10mくらい崖登りするだけで済みそうだ。開けてる方に出るから見つかるのが怖いけど、大脊柱側からはちょうど迂回する建物が壁になって多少加速翅の光が出ても見えない、と思う。
それに過去にアルカンドの宣教師が下りたはずのルートの方に出るから、そのまま予定の道に合流できるはずだ。もしそこまで行ければガトリングの裏に出るのは難しくなさそうだし、タイミングが違うからいないかもしれないけど、補給といえばで思い出した行商の人がいないかちょっとそこまで見てみよう。
と骨組みを延々登ったりちょっと戻って登りなおしたりしていると開けたところに出た。
下にはこれまで登ってきた根が規則正しく並んでいて、その上に伸びる幹の部分と開けた空間が広がっている。そういえばこのあたりの木は建材用のセル固定化が解けている*6のも多いな。このあたりにそうなりやすくなる要因がないなら、使っているところじゃないからろくに整備もしてないのかな。そうなると思ったより巡回も頻度が低いのかもしれないね。
ふと、木とこの形で思い出したんだけど、炭素生物の木もこんな形をしていたらしいね。炭素生物は文字通り炭素を色んな反応で使うらしいけど、その一つとしてなんか炭素を含む特定の構造を緩やかに酸化させてできた二酸化炭素を排出すると同時にエネルギーを得る*7って言うのがあるって得た知識にあるよ。全身でそれを行うから、ニンフと違って巡らされた血管のどこがやられてもその先で血が足りなくなる*8わけだね。
ニンフにも体内のセルの状態を変える器官*9はあるし、そのうちの一つがセルからのエネルギー生成を行ってるけど、炭素生物はそういう風にこの役割はここって集約されてはいない役割があるってわけだね。おまけにさっきの気体変換も酸素や二酸化炭素の濃度が少し変わるだけでそれが死因になるらしい。
やっぱりちょっと心配になるレベルで死に易い生き物な気がするな。もしまだ生きてる炭素生物がいるなら*10同族と撃ち合ってないで*11もっと自分を大事にしてほしいところだ。
そんなことを考えながら骨組みを登って建物を迂回していくと、裏側が壁だけはげたようになっていて下層でそうしたのと同じように跳んで登りやすくなっていたのでそのまま上に登って進んで行くことにした。
状態が変わったりエネルギーになったりするだけでセルという物体がある(セルという単語のレベルは原子・分子のレベルの語の場合)のか、あるいは特定の謎物質と化合したものの総称がセルなのか(セルの単語レベルは有機物の語の場合)なのかで想定が変わって来そうですが、セルがあまりにも謎のスーパーSF物質すぎるのでつまり謎です。
もし中層大橋のあれが炭素系植物なら二酸化炭素どこから来てるんだろう。ガーディナの放火?ニンフに限らずセル生物は炭素生物と同じ気体交換システムを多分持たないと思うんですよね。植物には酸素も二酸化炭素も必要ですからね。