第一話 預言者
「……間違いありません。結界外の星屑の増殖が確認できます。そして中でもこのひと際大きな個体……間違いなく結合中です」
モニターを見つめつつ、そう語る専門家と思しき若い男性神官。白髪の年長者はうめくように尋ねる。
「結合シーケンス進行度はどうだ?」
「65%ほどです。過去のデータから照合した結果、完成まで半年ほど、開界はその二日後と推測されます」
「だが、バーテックス足りえるものはその一体だけなのだろう? 今の勇者システムならば、三人で十分対処できる。わざわざ外部の候補者を使うまでもないと思うが──結論は変わらんか、“預言者”」
薄暗い和室の中、揺らめく蠟燭とモニターの光に照らされぼうっと映る仮面。
預言者と呼ばれた彼女は微動だにせぬまま、老獪さを思わせる白髪の神官を仮面越しに見据える。
「はい」
「なぜだ」
「既に説明しています」
「結合中の個体が観測域外にもいるという話か? だがいずれにしても、部外者を使うのは初陣のデータを見てからでも遅くはないだろうが」
これに対し預言者は仮面を下げ、闇に両眼を輝かせて告げた。
「神樹様が、そう言っているのです」
──────────
神世紀二九八年 四月二十五日
「「「おーえす! おーえす! おーえす!」」」
人類の敵、バーテックス。相対するは人類の盾、勇者。
鷲尾須美、乃木園子、三ノ輪銀の三人は、乃木園子の槍先を傘のように開き、アクエリアス・バーテックスの水圧レーザーを受け止めている。
そう。極彩色の根の結界、樹海において、少女達の初陣はすでに始まっていた。
バーテックスの周囲に広がる焼け焦げた根は、天の呪いによる世界へのダメージの証。長引けば長引くほど世界は崩れていき、やがてバーテックスそのものが世界の核ともいえる神樹に到達したその瞬間、人類の敗北は確定する。
「いまだッ、いけえッ!」
水圧レーザーが止んだところで、三ノ輪銀は乃木園子と同時に飛び上がりつつ、顔を上げて叫んだ。
その視線の先に、輝く桃色の流星。いや、言うなれば流花だろうか。
「勇者ぁぁああああああ、キーーーーーーック!!!」
花びらの嵐に包まれて、突き抜ける一筋の閃光。アクエリアス・バーテックスの水球ドームの片方は貫通ののち、崩壊。樹海の大地に、轟音を立てて大波が流れていく。
「うんとこしょーーーーー!」
「うおおおおおおおおおおおおおっ!」
槍からぶん投げられた三ノ輪銀が、続いてもう片方の水球を大斧で両断する。彼女は着地後、流水を滝のように浴びながら、両手の斧を投擲し、それらは残った中心の本体に突き刺さる。
「そこよ──結城さん!」
「勇者ぁぁぁああああああ、パーーーーーーンチ!!!」
斧に砕かれ、ひび割れた本体に、会心の一撃が突き刺さる。
瞬く間に広がっていく亀裂。打ち砕かれた巨体は、やがて穏やかな光の礫となって天へと還っていく──
──樹海化の終了後、その戦闘映像を確認しつつ、神官は口を開く。
「やはり、四人は過剰ではなかったのかね。神樹様の消耗もある。君を信じないわけではないんだがね……」
「……嘘つき。大人が私たちを信じたことなど、一度もなかったくせに」
預言者は神官に聞こえぬようそう小声で呟いて、モニターに映る桃色の勇者の笑顔を、静かに見つめていた……