結城友奈は選ばれない   作:おーたまー

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第二話 へだたり

「それにしても、六年なってから転校なんて大変だったよな」

「御役目だからね。ちょっとびっくりしたけど」

 

 大橋市内のイネスにて、ジェラートを食べる四人。

 初陣を終え、軽い打ち上げを行っている。

 中でも宇治金時を選んだ鷲尾須美は、両手で紙越しにコーンを握り締めながら、目の前で微笑む赤髪の少女を訝しげに見つめる。

 

 鷲尾須美。その名は、生来持ち合わせていたものではない。

 高い勇者適正を見込まれた彼女は勇者となるべく、大赦内においても格式ある名家、鷲尾家の養子となった。

 

 勇者とは表立って誉を示すものでは無い。バーテックス、天の神といった脅威を秘匿し、安定した治世を実現する──その為には、勇者という存在は広く一般に知られてはならない。

 故に鷲尾須美は養子となった。その必要があった。なのだが……

 

 そう考え込む彼女の宇治金時に、こっそり齧り付く乃木園子。

 

「……乃木さん、何やってるの」

「え、と、溶けちゃいそうだったから〜。しょうがないなあ、私のあげるね。わっしー、あーん」

「あ、あーん……」

「あはは。仲良しだね、二人とも」

「……」

 

 

 その翌日。

 

「安芸先生、お尋ねしたいことが」

 

 朝のホームルーム後、教室から廊下に出た担任教師安芸を呼び止める。安芸は勇者四人のクラスの担任であると同時に、勇者を見守る監督役でもあった。

 

「どうしたの?」

「結城さんのことです」

 

 昨晩見ていた、ノートPCに書き込んだ四人目の勇者、結城友奈のプロファイルを思い出す。

 

 出身は讃州市。御役目にあたり大橋市に引越し、神樹館小学校に転入。好きな物はうどん。空手の心得アリ。一般的な家庭で生まれ育っており、これといって特筆すべき点はない。

 

 だからこそ不可解。

 勇者の条件は、大赦との繋がりの有無だ。

 これでは、須美が養子に入るという手続きが全くの茶番になる。

 

「貴方の言いたいことは分かるわ。あの子を勇者にするかどうかは、大赦の中でも意見が分かれて、最終的な決定が遅れたの」

「それで養子縁組の手続きが省略されたと?」

「ええ。でもこれで結城家は一般家庭では居られなくなった。有力家からのプレッシャーは相当なものだし……東郷家の負担を考えれば、貴方が養子になったことは無駄ではないのよ」

「そう……でしょうか……」

 

 難しい顔を浮かべつつそう答える安芸に対し、須美は未だ釈然としない様子だった。

 今の両親に不満があるわけではない。むしろ自分には勿体ないくらい優しく、素敵な夫婦だと須美も思っている。ただ、齢十二にして勇者になるべく家を出た覚悟は、並外れたものではなかった。

 この感情を結城友奈に向けることが道理にそぐわないことは、彼女も自分で理解しているつもりだった。けれど、簡単に割り切るには、彼女は少し実直すぎたのかもしれない。

 

 

「結城さん、なんであんな無茶をしたの!」

 

 大橋市内の病院の病室にて、須美は申し訳なさそうに笑う友奈に対し、二人の横で静かに憤る。

 

 第二戦目、迎え撃った個体はライブラ。

 竜巻を纏い、鎌鼬と風圧で勇者を圧倒したこのバーテックスに対し、結城友奈はあろうことか特攻を仕掛けた。

 

 左右の高質量の鐘の様なものを振り回すことで突風を放つライブラ。遠心力を利用している為、半回転ごとにラグが発生する。その隙間に彼女は足甲で根を蹴り出し、ライブラの中心部に潜り込もうとしたのだ。

 

 しかし、結局風の壁を突破することは出来ず、彼女は鐘に押し付けられた。その後、鐘に密着した友奈による至近距離からの鉄拳により鐘は破損し、バランスを崩したところを残りの三人で猛追し撃破──といった流れで、その日の戦いは終わった。

 

 鎌鼬で多少皮膚を裂かれただけの三人に比べ、友奈のダメージはやはり大きく。後の診断で肋骨に複数の骨折が見つかり、転校して早々、彼女は数日学校を休まなければならなくなった。

 

「ごめんね。侵食が目に入った時、なんとかしなくちゃって、いてもたってもいられなくなって」

「だからって……!」

「まあまあそこまでにしとけよ須美。おかげで勝てたんだしさ」

「まだ二回目だったもんね。次はもっとうまくやれるさ〜」

「……わかった。お大事にね。結城さん」

「うん……ごめんね。須美ちゃん」

 

 須美は目を合わせられないまま、病室を去る。

 彼女は悔しかったのだ。

 

 友奈が飛び出す寸前、須美は全く同じことを考えて、同じように攻撃に転じようとした。でも、須美の武装は弓矢であって、他のメンバーに比べてリスクはない。だから、あの場で真っ先に行動するべきなのは自分だったと、須美は思っている。

 

 あの風圧の中、矢が敵まで届いたかは分からない。それでも、試す価値はあったはずだと。

 

 とにかくもう、あんな真似はさせない。させちゃいけない。

 だって、あの子は正式な勇者じゃない。本当は勇者にならなかったはずの子なんだから。そう、彼女は胸の内で静かに呟く。

 

「うん。次こそは、きっと……」

「ん? なんか言ったか須美?」

「ううん。なんでも」

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