結城友奈は選ばれない   作:おーたまー

3 / 11
第三話 明日に繋ぐ力

 春に神樹館に転校してきて、もう夏になろうとしている。勇者として戦いはじめて、バーテックスを二体も倒して、でも、ちょっとだけ怪我をして。

 

 お母さんとお父さんはそんな私を心配そうに見て、それでも変わらず応援してくれている。

 勇者は大変だよね。でも、頑張ろうねって。

 

 正直、怪我をした瞬間のことを思い出して、少しだけ怖くなることもあるけれど。でも、私は勇者だから。いっぱい強くなって、みんなを守らないと。

 

「いってくるね」

 

 ドアノブに手をかけて、二人に笑いかける。今日から大赦の合宿だ。

 須美ちゃんにも迷惑かけちゃったし。もっともっと、がんばる。

 

 

 *

 

 

「あなたたちに足りないものはなんだと思う?」

 

 快晴の下、砂浜に座る四人の勇者達に問いかける担任教師安芸。

 

「パワー!」

「違います」

 

 ありゃ、と苦笑する銀。続いて園子が手を上げる。

 

「はーい。シンクロ率~」

「変な言い方して。要するに連携、ですよね」

 

 呆れ声で言う須美に無言でうなずいて、安芸は続ける。

 

「あなたたちは持っている武器が違う。それは各々に役割があるからよ。全員の力を四ではなく十にする。それを可能にするのが連携」

「ほうほう。連携係数は2.5」

「れんけー、けいすう……?」

 

 首を傾げる友奈とおちゃらける園子。その様子を見て、須美は大丈夫かしら、と天を見上げた。

 

 

 ──間もなくして始まった訓練内容は、友奈と銀の二人を、浜から崖沿いに駐車したバスに送り届けること。ただし道中、設置された複数の砲台から無数のボールが次々と発射され、これに一度でも当たってしまえば、スタート地点からやり直しとなる。

 

 そしてこのボールがかなり痛い。

 速度を出すためしっかり空気が入れられており、一日が終われば、四人の全身は痣だらけで。

 

「はあ~……大変だあこりゃ……」

 

 絆創膏を貼った頬をさすりながら、銀は湯船につかりながらため息をつく。

 

「でもこの合宿終わったら、私達もっと強くなれる気がするな」

「ゆーゆは前向きだねえ。でも、個人の技術も上げられるいい訓練だよね」

「……」

 

 須美は友奈をちらりと見て、少し考えて、また俯いた。

 

「? どうしたの、須美ちゃん」

「えっ……ああいや、怪我、もういいのかなって」

「おいおい、いつの話してるんだよ……」

 

 呆れる銀に対し、須美は口をもごもごさせて結局何も言わなかった。

 

 友奈と園子は顔を見合わせて、これに園子は眉を下げて笑う。その後友奈はまばたきして、いかがわしい手つきで銀に迫られている須美を見つめていた。

 

 

 その夜。

 静まる寝室で、須美はゆっくり瞼を開く。少しだけ溜息をついて寝返りをうつと、友奈がばっちり目を開けてこちらを見ていた。

 

「!? ゆ、結城さん起きてたの」

「えへへ。なんか寝れなくて……えーと……」

 

 沈黙。

 田舎の夜はうるさいくらいに無音で、だからこそ苦しい。こすれる布団の音、わずかな息遣いが、早くこの空気をどうにかしろと二人を責め立てる。

 

「……結城さん……勇者、辛くない?」

「え?」

 

 先手を打たれるとは思わず、目を丸くする友奈。それはそれとして、質問もなんだか複雑で。

 

「うーん。でもみんながいるし、楽しいよ。それに、私がやらないと、きっと他の誰かがやらなきゃいけなくなることだと思うから」

「そっか」

 

 須美は頷いて、また天井を見る。

 ……再び訪れた静寂。

 

「「あの。あ」」

 

 顔を見合わせて、笑って、友奈が譲る。

 須美は少し考えて、ため息交じりに呟く。

 

「私って馬鹿だなあ」

「えっ、えっ、どゆことどゆこと」

「いや。結城さんは仲間なのに、なんか、変に対抗意識向けてたの」

「え。そうなの」

「ほら。結城さんって、大赦の外から勇者になったでしょ。私もそうだったの。でも、私は養子になって、結城さんはそのまま。だからほら、外様に対する譜代というか、そんな気持ちがね」

「う、うーん」

「でも。今日の訓練で、私が矢を外して、結城さんやみんなに迷惑をかけて……それで、はっとした。私がみんなを守らないといけない。私の役割は、結城さんやみんなに出来ないことをすることだって」

「……うん」

「だから、ごめんなさい。結城さん」

「ううん。話してくれてありがとう。あ、じゃあお詫びといってはなんだけど、名前で呼んで!」

 

 ここで、ピクリと動いた二つの布団。

 直後、掛布団を吹っ飛ばして、飛びついてくる二人の刺客。

 

「うおい、抜け駆けはナシだろ友奈」

「そうだそうだ~」

「二人とも聞いてたの!? う~……もう!」

 

 そうやって、四人でもみくちゃになった後、ようやく静かになった寝室で、須美は友奈にそっと囁く。

 

「結城さん……いつかは、ちゃんと名前で呼ぶから……だから……もうちょっとだけ、待っててくれる?」

「うん。約束!」

 

 

 

 その後、無事訓練を完了した四人。三連休のハードスケジュールを乗り越えた勇者たちは、それぞれの成長を噛み締めたのだった。

 

 

 また少し間をおいて襲来するバーテックス。冠する名はカプリコーン。

 上空に飛び上がったこの敵は、高速回転と共に急下降し、三ノ輪銀を急襲する──

 

「根性ぉおおおおおおお!」

 

 大斧を傘にして、掘削攻撃を耐える銀。だがどうみても身動きはもう取れない。このまま放置すれば、間違いなく彼女は得物ごと砕かれてしまうだろう。

 

「二人とも、私、銀ちゃんのサポートに行く!」

「でも……」

 

 須美は心配そうに友奈を、そして銀を見る。しかし、バーテックスから少し離れた足元まで浸食は広がりつつある。

 

「上の敵まで私の攻撃は届かない。だから……!」

 

 友奈の瞳が、強く訴えている。私を、信じて欲しいと。

 

「よし、やろう、わっしー!」

「……分かった!」

 

 園子は槍を振り上げ、霊力で構成された足場を空中に積み上げる。須美は矢のチャージを貯めつつ、それを踏んでは、弾むように跳躍して高度を稼いでいく。

 

「おまたせ銀ちゃん、片方貸して!」

「重いぞ! どっちも!」

 

 一方、銀の下に駆け付けた友奈。

 銀は片手の斧を手放し、友奈はそれを突き上げて衝撃に歯を食いしばる。

 

「とどけぇええええええええええええ!!!」

 

 直後、放たれた一矢。

 蒼い閃光は見事バーテックスの身体にクレーターを作る。園子は動きを止めたその僅かな隙を見逃さない。

 

「とつげきぃいいいいいいいいいいい!!!」

 

 気迫と共に自らが弾丸となり、槍を構えた突撃は放物線を描きながら敵を貫く。

 バランスを崩した巨体は一気に樹海の根に堕ちていき、解放された二人の遊撃手が反撃の狼煙を上げる。

 

「百倍、いや!!!」

「千倍にしてお返しするよ!!!」

「釣りはとっとけえええええええええええ!!!」

 

 砕く、捌く、潰す、引き裂く。瞬く度に崩れ行く。

 無断の斬撃、幾千の乱打が天の尖兵の身体から体積を奪い尽くす。

 そして──

 

「始まった……」

 

 樹海に埋め尽くされる、眩い光の集積。

 激しい生命の奪い合い、その終幕を示す夜明けの如き希望の煌めき。

 

「鎮花の儀……」

 

 その景色は、勇者たちに、確かな明日の未来を思わせる美しさだった。

 

 

 *

 

 

 

「カプリコーン一体。預言通りということか」

「そうなりますね」

「もう一度聞くが……結城友奈は、本当に必要だったのかね? 見ただろう。戦闘映像を。瞬間火力は三ノ輪銀だけで事足りている。持て余しているだろう、神樹様の御力を。そうは思わないのか?」

「私を疑うということは、神樹様を疑うということ……そうでしょう、神官殿。私は未来を知っている。そして未来を創るのは現在であり、過去であり、そして、それを識る預言者……」

「……まあ、いいだろう。預言は当たっている。当たっている限りは、君の意向に従おうではないか。だが……ふん。絶対などというものがあるのなら、人類は敗北しなかったはずだがね」

 

 和室を出ていく束帯。それを尻目に、預言者と呼ばれた女はくすくすと笑う。

 

「ふうん。中々鋭いですね……」

 

 彼女はそう呟いて、音もなく仮面を脱ぎ捨てた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。