結城友奈は選ばれない   作:おーたまー

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第四話 運命

 合宿を終え、三体のバーテックスを倒した勇者たち。普段の訓練でも上達具合は目に見えて分かるように。その様子を見た監督役の安芸は、四人に休暇を言い渡す。精神の安定も、勇者にとって重要なことだと。

 

 ということで、乃木の屋敷での着せ替えに続いて、貸し切りの市民プールで涼み……と、順調にオフを満喫していく四人。あっという間にやってきた最終日は、低学年向けのオリエンテーションだ。

 

「さあさあ、海の向こうから怪獣が攻めてきたぞー!」

 

 そう唱え、児童らの注目を集める銀。

 四人が準備したオリエンテーションは、どうやら紙芝居。話の内容は、国土を奪いにやってきた怪獣を追い払う、という流れのようだ。しかし、残りの三人は一体どこに。

 

 と、ここで紙芝居の二枚目の絵はなんと白紙。それを指摘された銀は、続けて子供たちを扇動する。

 

「じゃあみんなで呼んでみよう! お姉さんに続いてー? せーの!」

「「「こくぼうかめーん!」」」

 

 その呼び声に応じ、教室にやってきた三人のヒーロー。

 登場に際するお決まりらしきセリフの後、国防の仕方を学ぶという体で、なぜか体操が始まる。

 

 国防体操。心身を鍛え、御国を支える国士を育む、まさに富国強兵の足掛かりとなる(?)儀式。

 

(よしよし、子供たちの瞳が使命感に輝いているわ。これぞ情操教育の神髄……ん?)

 

 右に右に回りながら、須美の顔が仮面の裏で怪訝な色を浮かべる。あの……教室の奥にいるマスクとサングラスをかけた女は一体誰なんだと。

 

 まさか子供たちの保護者のひとり? いやいや、授業参観だなんて聞いていない。しかし、オリエンテーションという体で愛国思想を植え付けるこの光景を部外者に見られてしまうと、少々……いやかなり不味い。銀と園子もそれに気づいたのか、冷や汗を浮かべ始めた。友奈だけが、状況をあまり理解していないようだったが。

 

「「「ふこくきょうへー!」」」

 

 子供たちの熱気は最高潮。だが、友奈除く三人は気が気でなく。

 

「そ、そういうことで、若人たち、これからも国防に励むように! さ、さらば!」

「さ、さらばー!」

「じゃあねー!」

「あ、じゃあアタシも退散……」

 

 セットと共に、そそくさと教室を出ていく四人。しかし、すでに廊下に立ち塞がっていたマスクの女。

 

「ちょっといいかしら。鷲尾須美さん、いや、国防仮面さん?」

「へ。わ、私……ですか?」

 

 この人、まさか誰が首謀者か一瞬で見抜いていたというの。そう、驚きとともにうろたえる須美。振り返ると銀と園子は少し離れた場所でこちらに敬礼した後、友奈の手を引っ張って一目散に逃げていった。

 

「は、薄情者……!」

「鷲尾須美さん。感動したわ。とても素敵なオリエンテーションね」

「え……? あ、ありがとうございます」

 

 三人の後ろ姿に恨めしげに目線をやりつつも、予想外の反応に困惑しながら、差し出された右手を握り返す須美。続けて女は須美に密着し、耳元で囁く。

 

「同士である貴方に、ちょっとした助言をしてあげる。次の襲来は遠足終わりの夕方。敵は“四体”よ」

「えっ……?」

 

 驚愕に漏れる声。瞬きの後、いつの間にか傍らの女は気配ごと、完全にその場から消失していた。

 無人の廊下にたった一人残された須美は、ただ立ち尽くすのみ。少しして反芻するのは、待ち受ける脅威の強大さだった。

 

 

 *

 

 

「それ、マジなのか?」

「ええ。御役目のことを知っている以上、大赦の関係者であることは間違いないわ。ただ、大赦でさえ予測の難しい襲来時期を時間帯まで正確に言えるなんてありえない。おまけに……バーテックスの数まで」

「それができるなら苦労はないよね~。安芸先生も言ってたし」

「うーん。何者なんだろうね、その人」

 

 黒板を消しながら話し合う四人。それぞれの顔には、疑念が浮かんでいる。

 

 バーテックスの襲来はいつだって突然だ。だからこそ勇者たちは普段から戦いに備えていなければならないし、だからこそ気が休まらない。世界の危機と隣り合わせの生活は、とても大変なのだ。

 

 だが、いつ、どんな規模でバーテックスがやってくるのか分かるのなら、勇者の負担は軽減できる。できるのなら、やらない理由なんてないはず。だから合理的に考えて、女の発言に信憑性はない。けれど御役目のことを知っているというのが、やはり気になる点だ。

 

「まあ、頭の片隅には入れておこうぜ。マジに来るんなら、気持ちの準備ができる分ありがたいしな」

「そうだね~。でもほんとだとしたら、四体同時なんてだいぶ思い切ったよね、バーテックスも」

「三回目の襲来から間があるのも、その準備の為なのかもしれないわね……」

「でも四体ってことは、一人ずつ相手にするしかないのかな?」

「そしたらアタシらはまだしも、須美はきついんじゃないのか? パワー的に」

「注意を引くことくらいはできるはず。その間に数的有利を作れれば……」

「うん。速攻で倒しちゃお!」

 

 四人は頷きあって、拳を合わせる。絶対に負けない、その決意の表れだった。

 

 そして、遠足当日。襲来のことが念頭にあった四人は体力の温存に努め、帰りのバスでは、静かに目を閉じてその時を待ち続け──

 

「夕日が沈んできた。来るとしたら、もう間もなくよ」

 

 帰路に立ち、四人は並んで歩きながら、神妙にスマホを取り出す。ドヴォルザークの家路、その音がふいに途切れ、空を舞う鳥は風を失う。襲来を告げる鈴の揺れが振幅を増し、四人を花弁の嵐が包む。

 

「──ほんとに来たね」

 

 変身を終え、友奈は三体のバーテックスを睨む。

 一体、硬い装甲を持つキャンサー・バーテックス。二体、鋭い針を備えるスコーピオン・バーテックス。そして三体、白い帯をゆらめかせるヴァルゴ・バーテックス。

 

「一体少ないみたいだな」

「どこかに隠れてるのかも。わっしー、探してきて。こっちは私たちが」

「んじゃ、アタシはあの硬そうなやつで」

「私はピンク色のゆらゆらしてる子かな」

「そしたら、私が尻尾お化けだね~!」

「分かった。健闘を祈るわ!」

 

 四人は地を蹴り、それぞれの獲物へと向かっていく。

 そして須美は、どこかにいるはずの四体目を探し始める。

 

「バーテックスは必ず大橋からやってくる。だとするなら……いた!」

 

 大橋のすぐそば。蒼白の、大きな口のような化け物。サジタリウス・バーテックス。

 

 こちらに気付いたその敵は、口の中に鋭い槍のようなものを生成し、こちらに発射してくる。須美はこれを翻して躱し、空中で身体をねじりながら反撃の一矢をお見舞いする。

 

 バーテックスの頬に着弾し、敵は衝撃によろめく。しかし、その一発で仕留められるほどバーテックスは甘くはない。再生能力をもつ以上、須美だけでは時間稼ぎにしかならないのだ。

 

「みんなの邪魔はさせない……いたちごっこなら、こっちが有利よ!」

 

 再び口を光らせるサジタリウスに、矢をつがえつつ須美は吠える。

 

 

 一方友奈はというと、ヴァルゴの爆撃に苦戦中。

 近接一辺倒の友奈からすれば、卵型のミサイルは避けるしかない。なんとか近付いても、白い帯が即座に反撃してくる。はっきり言って相性が悪い。攻めあぐねる友奈の顔が焦燥に歪む。

 

「須美ちゃん……みんな……!」

「そぉら、後ろ見ろ、デカブツ!」

 

 直後、銀の奇襲によりヴァルゴの下半身部位が両断され、土煙が樹海に爆散する。

 

「銀ちゃん! よーし!」

 

 友奈はすぐさま距離を詰め、ヴァルゴの仮面の目の前に飛び上がる。

 

「いくよーっ! 勇者ラ──────ッシュ!!!」

 

 技名そのまま、ひたすら殴る、殴る、殴りまくる。しかし、その一発一発は文字通り星を砕く破壊力。落下しながら全身に拳をねじ込まれたヴァルゴは、友奈が着地するころには鎮花の儀による敗走を余儀なくされていた。

 

 それを見届けた後、友奈は銀のもとに駆けていき、大きく手を振って声をかける。

 

「銀ちゃん、もう倒しちゃったの!」

「軽いもんよ。よおし、残りも片づけに行くぞ!」

「じゃあ私が須美ちゃん、銀ちゃんが園ちゃんの援護に!」

「合点!」

 

 再びそれぞれ逆方向に跳躍し、銀は即座に標的を見定める。

 スコーピオンの針に対し、園子は傘を展開し防ぎ続けている。

 

「て、手がしびれてきた~! ミノさんやっちゃって~!」

「うーし、今日はエビフライにすんぞ! ってうお!」

 

 蠍座は銀の殺気を感じたのか、即座に尻尾を振り回し二人を遠ざける。園子は寸前で後退し回避したが、斧で受け流し、空中に跳ね上げられた銀を一直線に毒針が突き刺しに迫る。

 

「へっ、それは判断ミスだったな、虫野郎!」

 

 音速で飛来する紫色の稲妻。乃木園子の投擲が、尻尾の軌道を大きく逸らす。園子の武器である槍は、刺すものであると同時に叩くものでもあり、当然、本来は投げるものでもあるのだ。

 

 そのまま銀は縦に回転しながら滑り台を滑るようにスコーピオンの尻尾を切り刻んでいき、その構造に合わせ曲線カーブで直角に飛び上がる。

 

「土、いや天に還んな、バーテックス!」

 

 落雷の如き一閃が樹海に煌めく。

 数秒の後、死後硬直の様にして動かなくなった蠍は、土煙となって神樹による追放に抗えず消えていった。

 

「おーい、二人ともー!」

「無事ー!?」

 

 大声で叫びながら、駆けてくる友奈と須美。

 銀は笑顔の園子と顔を見合せ、二人一緒に親指を立てる。

 

 文句無しの結末。四人はこの勝利がもたらす意味に気付くこともなく。歯車を失った世界は、因果を捻りながら形を探し始めるのだった。

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