結城友奈は選ばれない   作:おーたまー

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第七話 二人の須美

 新装備を受け取ったその日の夜。

 自部屋にて、鷲尾須美は少々迷いつつ、教師安芸に電話をかける。

 

『安芸です。どうしたの、鷲尾さん』

「その、新装備についての説明は後日訓練がてら行うとのことでしたが、気になることが」

『話してみて』

 

 安芸に促され、須美は語る。

 

「実は少し前に、夢を見ました。不気味な夢です。神樹様と、上空を照らす太陽、そこから放たれる三つの流星。それら全てが突然ただの石ころになって……神樹様も、太陽も、すべて、嵐に飲み込まれて消えてしまう……」

 

 安芸はこれを静かに聞き、少し考えこんでまた答える。

 

『……鷲尾さん。おそらくそれは神託。貴方には勇者だけでなく、神の声を聴く巫女の素養もあったということだと思う。ただ……もしそうだとするなら、その内容は……』

 

 神託。それは、神樹から人類に対する警告のような役割を果たすものが多い。土地神の集合体たる神樹は、明確な言語ではなく、風景等のイメージでもって巫女にこれを伝える。それを大赦が解釈し、来る脅威に備えるのだ。

 ただ、須美の感受性の高さゆえか、今回は具体性が強い。神託の通りなら、この世界は未曽有の危機に瀕する可能性があるのだと、安芸は身構える。

 

「詳しいことはわかりません。でも、これが次の襲来の激しさを示すものなら、いつ樹海化が始まっても、万全の状態にしておきたくて。だから、新装備の使い方を……簡単にでいいです、教えていただきたくて」

『……いいわ。よく聞いてね』

 

 そうして、安芸は語る。

 新装備に搭載されている満開ゲージ。これを如何に使うかが鍵であると。

 精霊によるバリア。切り札である満開。その両方を選ぶことは出来ない。バリアを消費した時点で満開は使用できなくなる。ただし、満開ゲージの消費量によって、高い効果を発揮する一撃を繰り出すこともできる。

 精霊バリアに頼らず、致命傷を如何に回避するか。これが、新装備の真価を決める……と。

 

『それで……ああごめんなさい。大赦から連絡が入って。一度電話を切るわ』

「ああ、わかりまし……」

 

 忙しなく切れる通話。直後、グループチャットからメッセージが。

 

 “なあ、NARUKOのさ、現在地分かる地図あるじゃん。そこに知らない名前があるんだけど”

 

 送信元は、三ノ輪銀。怪訝に思いマップを開くと、少し離れた場所に()()()()の文字が。

 

「!?」

 

 須美は目を見開き、画面をまばたきして凝視する。東郷美森と友奈は同じ場所におり、どうやら東郷美森は、結城友奈の家に向かっているらしい。固唾を飲んでそれを見守り、とうとう家に辿り着いたと思ったら、二人の表示が消え、今度はまた離れた場所に二人同時に移動した。場所は……瀬戸大橋記念公園、英霊の碑の近くだ。

 

「どういうこと……?」

 

 そう呟いて間もなく、NARUKOのグループに「安芸」という名前のアカウントが参加し、即座にグループ通話を開始。須美はそれに参加し、スマホを耳に近づける。

 

『突然ごめんなさい。三人とも、今は家?』

「『『はい』』」

『悪いんだけど、瀬戸大橋記念公園に変身して向かってくれる? 実は、さっき樹海化が起きてたみたいなの』

『ええ!? でもアタシら、戦ってないっすよ!?』

『あなたたち三人だけ、樹海化適応が解除されていたの。状況を聞きたいから、目的地に着いても通話は切らないで。とにかく今は急いで』

 

 急かされるまま変身し、三人は自宅を飛び出していく。夜風を切りながら、街頭に照らされる街を踏み越え、猛スピードで瀬戸大橋記念公園へと疾走する。

 スピーカーにしたスマホを握りしめる勇者たちに向け、安芸は話を続ける。

 

『貴方達、神樹館で不審者と会ったんでしょう。そこで、前回の襲来の敵の数を聞かされた。その人は大赦の中で預言者と呼ばれていて、貴方達にしたようにバーテックスの数、種類さえも言い当ててきた。けれど、私たちが預言者だと思っていた人は、郊外の住宅に軟禁されていた。誰も本当の彼女の素顔を見ていないの』

『その人が、今回のごたごたの黒幕ってことすか?』

『恐らくね。軟禁されていた大赦の神官は、香香之宮(かがのみや)という由緒正しい名家の令嬢。その家系は、勇者システムの開発に大きな功績を残してきた。その目的は、きっと──』

 

 そこで三人は同時に着地し、展望台に佇む、仮面を被った少女を見る。

 その両手には白装束を着せられ、ぐったりと首を垂らして瞼を閉じる──結城友奈。

 

「友奈!」

「ゆーゆ!」

「貴方、結城さんに何をしたの!?」

 

 目前の少女は慈しむように友奈をそっとその場に降ろし、ゆっくりと仮面を外してこちらを見る。

 その顔を見て、銀と園子は須美の方を向き、また前を見て、唖然とする。

 何を隠そう、その場には、鷲尾須美が二人いたのだ。黒い髪、透き通る碧眼、雪のように白い肌。瓜二つという言葉すら偽りに思えるほどの、まさに鏡写しの状態だった。

 

「あ……ああ……う……」

 

 直後、二人目の須美は顔を覆い、苦しみ始める。滝のような汗を滲ませ、息も絶え絶えに見据えるのは、三ノ輪銀。

 

「銀……ああ……銀……」

 

 須美の顔をした少女は、何か喪ったものに手を伸ばすように銀に近付いていく。銀は何が何だか分からないが、その鬼気迫る表情に何かを感じ、歩み寄っていく。

 しかし突然、目前の少女は動きを止め、くすくすと笑い始める。

 

「人格が分離した……そっか……三ノ輪銀。それだけ大事だったのね」

 

 顔を上げた、須美に似た少女の片目が緋色に染まる。表情は最早鷲尾須美のそれではない。姿形が同じだけの、まったくの別人であるのだと、そこにいる全てが理解した。

 須美はその矛盾に耐えきれず、噴き出したマグマのように声を荒げる。

 

「説明して! なにもかも、結城さんのことも!」

「説明したら、友奈ちゃんを私にくれる?」

「あげるわけないでしょ!?」

「わざわざ教えてあげる理由ないもん」

「貴方は東郷美森という名前で登録されている端末を持っている! 東郷美森は、私の最初の名前! その姿も、私! だったら、私には教える義務がある! だって貴方は、私じゃ、ない!」

 

 これにオッドアイの少女は考え込んで、あっさりと頷く。

 

「まあ、いいや。やるべきことは済んでるし。何から話そうかなあ」

 

 あっけらかんとした態度に、三人は懐疑心を隠そうともしない。そんな様子を気にも留めず、少女は語る。

 

「私が預言者だってことは知ってるかな。でもなんで、預言なんて出来たと思う? それは、そもそも何が起こるか分かってたから。何度も何度も世界を変えて、大体これが起きるってのは、予想できるようになってたの」

「世界を変えるってどういうことだよ」

 

 銀は恐る恐る尋ねる。預言者は首をかしげて、にっこりと笑って続ける。

 

「ああ、ちょっと表現が違ったかな。別の世界に行けるんだよね。私。ていっても、似てる世界っていうか、可能性っていうか。だって私ね、神様だから」

「神? じゃあなんで、わっしーそっくりなの?」

「ああ、それは鷲尾須美の身体が必要だったからだよ。全身を散華した友奈ちゃんを手に入れるためにね」

『やっぱりそういうことだったのね』

 

 そこで、須美のスマホから安芸の声が届く。須美はスマホを手に持ち、預言者へと向ける。

 

『香香之宮は、満開システムに執着していた。それは、散華そのものを目的としていたから』

「うん……私っていうか、私の家系の人たちは人間を神様にしたがってたからね。少女の肉体と魂の楔そのものを、ぶつ切りに人身供物とすることで人間を神に近づけていく……手段と目的が、大赦と私達では逆だったんだ」

 

 そこで、どこからともなく、軋むような音が響いてくる。どこからそれが聞こえてくるのか。それを探しているうち、巨大なガラスが一気に破損するような高音が大気を震わせ、三人が顔を見上げると、空に()()が入っていた。

 

「ようやく時間か。長かったなあ。でも間に合ってよかった」

 

 そう言って、預言者は友奈を両手に抱え上げる。

 振り向いたところで、蒼銀の弾丸が少女の耳を掠めた。預言者が肩越しに背後を見やると、須美の構える銃口から煙が漂っている。

 

「……やっぱり、こうなるかあ」

 

 再度向き直り、預言者は友奈を宙に浮かせ、スマホを取り出して画面をタップ。変身した彼女の首には勾玉が。左手には鉄の鏡。右手には、鉄の剣が握られていた。

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