異世界ざまぁ配信局 作:@ななしの配信者さん
『場を繋ぐために実況を続けていましたが、ようやく本命の第二戦が始まります! 皆さん準備はいいですか? ご老人に扮した剣士さんの活躍を、しかと見届けましょう!』
:え? 大会公式のおもしろ実況お姉さんじゃなかったの?
:そういえばそんな企画もあったな。実況が良すぎて忘れてた
:アングルが特等席だから、下手な観戦席より迫力あるんだよな
『もー! この配信の趣旨を忘れないでくださいよ! ご老人が超強かったら、周りの人はどういう反応をするかが本題なんですからね!?』
:それも気になるけど、実況がいい味出してて、本命が負けた後もやって欲しい
:公式中継よりこっちのがいい
:超高難易度ダンジョン潜れるくらい強い人の実況だからおもろい
場を繋ぐためだったとはいえ、クレアの実況がコンテンツとして良すぎたせいか、本来の目的を忘れられている節があるな。
これはもう、クレアがどうにかできる域を超えているかもしれない。
しかしクレアは、物怖じせず流れを修正しにいった。
『いいですか? ご老人剣士が強いと知っているのは、皆さんだけです。つまり、賭けていれば大儲けできる可能性があるんですよ! 優勝予想が当たれば、一気に大金持ち! そうと決まれば、俄然応援するしかありませんよね!?』
:もう今回の試合の賭け締め切られてるしなあ
:派手な勝ち方したら次は賭けてもいいな
:優勝予想まだ間に合うから、入れてこようかな
なるほど。賭けに参加させて、応援させる理由を作るのか。
たしかにそれなら盛り上がるが……ミダスの負担が増えるのは間違いないな。
本人は配信を見ていないから、預かり知らぬところで期待がのしかかっているだけだが、負けた時の責任が重くなる。
ミダスに賭けられた金額が増えることで、運営へのダメージも大きくなりそうだけども、その分、向こうも必死で妨害してくるはず。
自然と、ミダスに負担がかかるわけだが……そこはミダスの実力を信じるしかないな。
ここに来て神頼みのようになるのは心苦しいけれど、俺にできることは妨害を和らげることだけだ。
今回も妨害が行われるかもしれないが、どの程度仕掛けてくるかわからないので、見極めるために一旦は様子見。
手助けできない以上、ミダスには厳しい戦いになるだろう。
そんなことを考えているうちに、ステージにミダスがあがった。
相手はこの国の騎士団長。
二回戦から入賞候補と当たるのは、運が良いのか悪いのか。
『さて、ステージに両名が揃いましたね。相手はこの国の守護者たる、騎士団長。一回戦では、長いリーチでもって、相手を一方的に押し込みました。騎士団長の名は、伊達じゃない! 間違いなく、入賞候補の一人と言っていいでしょう!』
:おいおい、二回戦でこんな強い相手かよ
:さっきご老人に賭けてきたけど、やらかしたかも
:敗戦濃厚
『対するは、我らが仕掛け人たるご老人。一回戦は余力を残したまま勝ったので、実力の底は見えません。果たして、秘めた実力は騎士団長に通じるのか!?』
:もっと実況見たいから勝ってくれないと困る
:俺はクレアちゃんを信じて有り金を全部賭けたから、ほんと頼む
:これで勝ったら次のオッズ狂いそうだな
『……実況にあるまじきひいきと言われそうですが、元々企画の場つなぎとして実況しているだけなので、本音で言います! 今回はご老人が勝ちます! むしろ、優勝しますから!』
:またまた。優勝は言いすぎでしょ
:そんな大口叩いて大丈夫?
:クレアちゃんはご老人の正体を知っているはずだから、よほどのビッグネームなのかもよ
クレアがいい感じに視聴者を煽っている。
絶えず実況をしてくれていたおかげか、人数もかなり増えた。
外から見たら下克上とも言えるこの試合に勝てばとても盛り上がるだろうが、負ければそこで企画が終了し、計画も頓挫するというリスクがある。
だからこそ、幸運か不運か判断しにくいというわけだ。
そんな事情を知る由もない対戦相手の騎士団長が、ミダスに話しかけた。
「……多少、武に心得のあるお方のようだが、私もこの国の顔の一面であるのでな。おいそれと負けるわけにはいかないんだ。だから、手加減はできんぞ」
「ほっほっ。元より手加減なぞして貰うつもりはなかったが、油断くらいはして欲しかったものじゃな」
「あなたの佇まいを見て油断するような輩は、一回戦で間引かれているだろうよ」
甲冑に身を包んだ筋骨隆々の騎士団長が、ご老人を全力で狩りに来る。
外聞が悪そうなものの、今は武闘大会の最中だ。
むしろ慢心していないことを称賛されるだろう。
こちらとしては、とてもやりにくい相手だ。
それを悟ったのか、老人に扮しているミダスは、本音をこぼすようにぼやいた。
「これはちいとばかし、骨が折れそうじゃな」
「その歳で骨を折ったら、治りも遅い。棄権するなら今のうちであるぞ」
「冗談を抜かせ、小童」
一触即発の空気。
審判も場に飲まれ、ごくりと喉を鳴らす。
一拍遅れて、今気がついたと言わんばかりに、彼は試合の前口上を述べた。
「せ、戦闘続行不可能と見做された場合か、自主降参が入るまで、基本的に我々が戦闘を止めることはありません。怪我は試合前の状態に巻き戻りますが、万が一の場合があるので、致死に至りそうな攻撃を受けそうな場合は降参を推奨します。また、降参を表明している相手に意図的に攻撃した場合失格となりますので、ご注意ください」
いよいよ始まるとあってか、高まっていた緊張感が、さらに張り詰める。
それを爆発させるかのように、続けて審判の一声が降り注いだ。
「それでは、準備はよろしいですね? お互い良い真剣勝負を。始めっ!」