異世界ざまぁ配信局 作:@ななしの配信者さん
殺気で窒息しそうなくらい重い空気が、審判の一声で破裂した。
まずは挨拶とばかりに、騎士団長によるハルバードの激しい一撃が、ミダスに向かって叩きつけられる。
『さぁ、始まりました! 先に動いたのは騎士団長! 強烈な一撃が地面をえぐる! 当たればひとたまりもないですね!』
全てを粉砕せんばかりの一撃を、ミダスは軽々避けた。
叩きつけられたハルバードが、すぐさまかちあげられるようにミダスへ向かっていく。
刃は下を向いたままだが、重量を活かした先端部分があたれば、大打撃に違いない。
下から掬い上げるような一撃の横っ面を、ミダスは蹴りで補助した杖の一閃でもって逸らす。
技を外した騎士団長の体制が崩れるかとおもいきや、彼は逸らされた勢いそのままに、ハンマーを振り回すかの如く、コマのようにハルバードをぶん回した。
それを何なくしゃがんで避けたミダスは、杖の先端で騎士団長の脛をどつく。
騎士団長は金属製の甲冑に包まれているはずなのに、たたらを踏んだ。
追撃されてはたまらないと、騎士団長の方から距離を取る。
間ができた内に、実況のクレアが捲し立てる。
『一瞬の攻防ー! 息をつく間もないほどの応報に、実況も追いつきません! 初撃を外した騎士団長が、返す刃でご老人を狙ったものの、まるで分かっていたかのように、攻撃の横っ面を叩かれました! そして普通ならバランスが崩れそうなところを、騎士団長はそのまま攻撃の起点としましたが、それも避けられ、隙を晒すことに! ご老人側は大きい動きをしていないのに、見応えのある勝負です! 最小限の動きで、最大限の効果! お互い距離を取りましたが、ここからどうなるか目が離せません!」
:騎士団長もめっちゃ強いはずなのに、子供をいなすみたいにあしらわれてるな
:これ、次も期待できそう
:最初から賭けておけばよかったなー
ミダス優勢の流れに、コメントが活気付く。
勢いがミダスの側にあると見たか、騎士団長は息をいれた。
「ふむ。油断なぞこれっぽちもしていなかったが、普通にやれば勝てると思っていた。しかし、どうやらあなたの実力を見誤っていたようだ」
「ほっほっ。して、どうするのじゃ?」
「こちらも負けるわけにはいかないのでな。限界以上を出させて貰うとしよう」
そう述べた騎士団長の雰囲気が変わった。
実際、まとう空気が、いや、魔力が変質している。
これは……甲冑になにか細工がされていたのか?
明らかに仕込まれていただろう強化魔法が起動しているが、審判は止める様子がない。
気がついていないのか、見逃しているのか、それともルールの範囲内なのか。
いずれにせよ、ミダスが一気に不利になった。
それを感じ取っているのかいないのか、杖を腰に佩くように構えた。
その様子は、日本の剣術で言うところの居合の構えのようだ。
ここで手助けしてもいいのだけど、今の状況に水を差すと、かえってミダスの邪魔になりかねなかった。
ここは、ミダスを信じて見に回るのが得策だろう。
ゆるりと力を抜いたようなミダスに向かって、爆発的な推進力で騎士団長が迫る。
瞬きする間もなく、ミダスの眼前へ。
遅れて、騎士団長の元いた場所が、爆発したように抉れた。
その瓦礫が飛び散る頃には、ハルバードがミダスを薙ぐように振り切られていた。
右にあったはずのハルバードの柄は、既に左にある。
ミダスの身体が横に裂かれる軌道だった。
――ハルバードに、先端がついていたならば。
一拍遅れて、カン、と甲高い音を立てながら、ハルバードの先端が地面に突き刺さる。
騎士団長は振り切られた柄をもったまま、呆けた顔をしていた。
一方ミダスは、先ほどより少し深い姿勢で、居合の構えをとり続けている。
俺は一連の出来事の仕組みを知っていたが、それでも驚いてしまった。
外野はそれ以上の衝撃だろう。
その気持ちを煽るように、クレアが実況を重ねる。
『これは一体、なにが起きたのでしょう! 騎士団長が目に見えぬほどのとてつもない勢いで突っ込み、ご老人の身体を薙ぎ払ったはずでした! それは、振り切られた姿勢からも分かります! しかし結果は、ハルバードの先端の消失! 直前にご老人がなんらかの構えを取っていましたが、一体何をしたのでしょう!? 皆目検討がつきません!』
:え、すご
:負けたと思ったら勝っていた
:あの杖ほんとにただの杖?
クレアも原理を知っているはずだが、盛り上げるためにあえて言わないのだろう。
それに、敵に見られているかもしれない配信でわざわざ種明かしするのは、自爆行為だ。
まぁ、視聴者の中に勘のいい奴がいるみたいだけど。
そう。
あれは俺が用意した支援のひとつ。仕込み杖だ。
あの杖の中には、伝説級魔物の素材で作られた剣が収められている。
杖に仕込んだ関係上、細身の剣になってしまったが、切れ味と硬度は抜群。
あんな芸当ができるのも納得なのだが……それはそれとして、本来はレイピアのような用途を想定していた。
それが、比較的脆いハルバードの芯の部分とはいえ、相手の得物を叩き切ることに使うなんて。
素材を考えればできなくはないだろうが、本来の使い方とはかけ離れている。
剣聖であるミダスだからできたことだろう。
俺も多少は剣を扱えるが、あんなのはできっこない。
それだけミダスが凄いということだ。
数百にも及ぶ最上級魔物の群れを捌き切ったのは伊達じゃない。
その実力差を感じ取ったのか、騎士団長は両手をあげた。
「降参だ。得物を失った以上、これ以上は戦えない」
その言葉を聞いて、ミダスは構えをといた。
そのまま対戦相手に背を向けたところで、慌てて審判が宣言した。
「勝者! ジン・ゴロー!」
一瞬しずまりかえった会場が、鳥の群れが飛び立つかのような歓声をおこした。
あっけに取られているのは視聴者も同じで、呆然としている彼らに、クレアは言葉を浴びせた。
『武器を失ったままでは勝てないと判断したのか、騎士団長が降参しました! 潔さも強者の証! 本物の戦闘なら食い下がっていたのでしょうが、これはあくまで闘技大会です! 泥試合を見せるくらいなら、おとなしく引き下がることを選んだのでしょう! 勇気ある判断と、白熱した試合に拍手を!』
:勝ったけど、本気を出させられた感じする
:相手が強かったんだろうな
:さすが、国の要なだけある
その後も口々に賞賛の声が上がり、コメントが収まるまで時間を要していたようだった。