異世界ざまぁ配信局 作:@ななしの配信者さん
開戦の号令がなされると共に、相手側から無数の魔法が放たれる。
ミダスは前回同様に腰に杖を佩き、そして、振り抜いた。
右手に杖の柄。左手には杖の芯。
振り抜かれた杖の柄からは、銀色に光る剣身がのびている。
仕込み杖だったことを観客に明かした形だ。
実力を明かすというのを、わかりやすく示したのだろう。
そして、肝心の魔法はというと。
『なんということでしょう! 老人の杖には剣が仕込まれていました! さらに、その剣圧か、はたまた魔法か。原理は不明ですが、対戦相手の魔法攻撃が分割され、消滅してしまいました! これには対戦相手も苦い表情です!』
:剣士なのに遠距離攻撃持っているのはずるいだろ
:俺は信じてた
:相手がめっちゃ焦ってるなぁ
いまはまだ相手の魔法に合わせて剣を振っているが、ミダスには明らかに余裕がある。
「ほれほれ、どうした。こちらはまだまだいけるぞ?」
「くっ……手を抜いてやってるのをいいことに調子に乗って……!」
「ならば本気とやらを出してみい。でないとこのまま押し切ってしまうぞ?」
言っている間にも、ミダスの剣を振る間隔が短くなっていく。
相手は魔法を唱えなきゃいけない性質上、手数が足りていない。
結局おいつかなくなり、魔法が身代わりになることで防がれていた見えない斬撃が、ついに対戦相手の眼前まで迫った。
防衛反応からか、対戦相手は避けるためにその場を動いてしまう。
『おーっと! 襲い来る猛攻に、ついに対戦相手が動いてしまいました! 事前の取り決め通りなら、ご老人の勝ち、ですが……おや?』
これで決着――。かとおもいきや。
「くそっ……こんなの聞いてないぞ!」
「動いた方が降参するという取り決めだったはずじゃが?」
「馬鹿が! そんなの守るわけないだろ! 相手を倒せば勝ちなんだよ! この武闘大会は最初からそういうルールだ!」
「往生際の悪いやつじゃのう。吠えたところでなにも変わらぬというのに」
「余裕ぶってるのも今のうちだ! 本気をみせてやる!」
そう言って、対戦相手は懐から黒い石を取り出した。
画面越しでも、切り札だとわかるような代物だ。
……これは目視で確認した方がいいな。
配信から顔をあげて、遠くに見える本人を見定める。
あれは……明らかに魔力がこもっているな。それも、市井には出回らないようなもの。
審判も止める様子がないので元々持ち込んだものかもしれないが、こめられている魔力の量が尋常じゃない。
あきらかに一個大隊を相手にするような魔法が放てる魔力量だ。
これはさすがのミダスでもやばいんじゃないか。
手助けを考えたその時、対戦相手がくずおれた。
今まで高らかに吠えていたのに、突然の沈黙。
よくみれば、相手の杖もばらばらになっている。
たくさんの観客がいるのに、しん、と静まり返る場内。
まるで時が止まったかのように、静寂がおとずれる。
静謐な水辺のようになった場に、ミダスが石をなげるような物言いをした。
「これはわしの勝ちかのう?」
水を向けられた審判が、一拍遅れ、慌てて勝敗を告げる。
「し、勝者、ジン・ゴロー!」
途端、わっと場内が沸いた。
起こった出来事に、ようやく理解が追いついたのだろう。
配信の方もコメントの嵐だ。
:なんだいまの。どうやって勝った?
:なにも見えなかった
:いままでのがパフォーマンスでしかなかったのが証明されたな
荒ぶるコメントを、クレアが締めにかかる。
『一瞬の出来事ー! これぞ実況泣かせというやつですね! 対戦相手が約束を守らず、ご老人が窮地に陥ったかとおもいきや、問答無用と言わんばかりに、決着しました! 明らかに何かしたとは思われますが、その何かがわかりません! 目にも留まらぬ速さで対戦相手を圧倒し、そのまま四回戦へ進出ー!』
:賭けててよかった
:もうこれ、わかる人はこっちに賭けるだろ
:ちょっと強すぎませんか
『もはやその実力が隠しきれていないのか、オッズも低くなり始めていますね。しかし、四回戦ともなれば、相手も強くなるはずです! 徐々にその実力があらわになっていきますが、果たして対戦相手は老人でないと気づくのでしょうか! 明日の試合に、期待が膨らみます!』
今回は一瞬ひやっとしたが、ミダスは難なく勝ち進んだ。
この調子なら俺が手を下すまでもなさそうだが、念には念をいれておかなければな。
今回の試合で使われた対戦相手の道具が今後も使われるようなら、対策は必須だ。
それに、対戦中にこぼした言葉も気にかかる。明らかに裏で糸を引いているものがいる。
それも、勇者パーティーと関わりがあるような。
これは、だいぶ大物が釣れそうだ。
今までも警戒はしていたが、一層気が抜けなくなった。
ひとつ気合いをいれて、会場の見回りにへと赴いた。