異世界ざまぁ配信局 作:@ななしの配信者さん
「皆お疲れ様。とりあえず一日目は無事こなせたな」
カンッとグラスのうち付け合う音が響く。
クレア、シローネ、ダグラス、ロイドと共に、クレール・ロマリアのセーフハウスで、ささやかな祝杯をあげる。
まだ全て終わった訳ではないが、モチベーションの維持も大事だろうという判断だ。
それと、情報共有の場も兼ねている。
本当はミダスも参加予定だったが、ずっと腰を曲げながら戦っていたのが思っていたよりもしんどかったらしく、隣の部屋で寝ている。
本人から聞くべきことは聞いているし、後でまとまった情報も渡すので、今はゆっくり休んで貰おうという判断だ。
なにより、ミダスには明日も奮闘して貰わねばならない。ここで無理に参加させて、明日に響いたら本末転倒だしな。
本人の調子を整えるのが一番だ。
情報交換が目的なので、食事もそこそこに、クレアが切り出した。
「配信の視聴者も結構集まってきたので、おおむね順調です。明日にはさらに人が増えるでしょう」
「老人の正体に気がついてそうな視聴者はいたか?」
配信を見ていたとはいえ、全部を追えていたわけではない。配信していた本人に問うた方が確実だろうと思って話を振ったが、クレアは首を振った。
「いいえ、まったく。やはり訃報が流れているのが大きいかと思いますね。明かした時の衝撃は、こちらの予想している以上になるかと」
クレアの推測に、ダグラスが口を挟んだ。
「まぁ、最後まで勝ち抜けばの話だがな。途中で負けるとインパクトは薄れちまう。一番は、勇者にも勝って、大々的に正体を明かすことだろ。んで、その障害になりそうな要因は排除できそうなのか、ダンナ」
ダグラスから話を振られたので、今日得た情報を共有することにした。
「あぁ。ダグラスは強化魔法をかけられている人間がいると、途中の集まりで報告してくれたけれど、そっちは本命じゃなかったみたいだ」
「というと?」
「そいつらは賭けのストッパーでしかなくて、どうしても勝たせたい人間には、膨大な魔力がこもった石が配布されていた。そして、ミダスが二回戦、三回戦で戦ったのはその手合いだ。対戦相手の決め方も、勝ち残った人間同士で対戦カードを組む方式だから、ますます怪しい」
ダグラスが俺の言葉を咀嚼して、推論を述べる。
「……つまり、その小細工が通じなかったことで、明日はより激しい妨害が入る可能性があるってことか」
「重要なのは、別に相手はこちらの思惑に気がついているわけではないってことだ。せいぜい、変な催し物をやっているくらいの認識だろう。だが、いかんせん目立ちすぎた嫌いはある。最終戦が勇者だとして、そこまでに対策を打たねばならないと思っている」
「当然、策はあるのですよね?」
静かに杯を傾けていたシローネが、柔らかく問うてくる。そこには、俺なら当然できるだろうという信頼が乗っているように見えた。
「あぁ。会場を見回りして、やつらの拠点も割り出した。あとは、そこに赴いて仕掛けの道具を無効化するだけだ」
「まっは。ほれはふふにやははいほうはひひんひゃないか」
「……口の中の物を飲み込んでから喋ってくれないか、ロイド」
あいかわらずこいつは食いしん坊だ。
皆を労わる会とはいえ、こいつひとりで全部食っちまうんじゃないかという勢いで食べている。昼間もあんなに買い食いしていたというのに。
「ごめんごめん。で、僕はすぐに動かない方がいいと思うんだ」
「なんでだ?」
「一度動くと警戒されるだろ。僕らの本命は勇者だ。準優勝でもミダスの正体は明かせるけれど、勇者は実はこんなにも弱い、というのをつきつけてこそ、この作戦に意味が生まれるだろ?」
口の中の物を飲み込んだロイドは、至って真面目な顔で語り出した。先ほどとのギャップが凄まじいが、言っていることは納得できる物だった。
それは俺以外も同じなようで、ダグラスも頷いて言葉を被せた。
「そうだな。途中でダンナが動くと警戒されて、かえって本命が遠ざかるかもしれん。ミダスには苦労をかけるが、本命の完全な無効化を優先した方がいいだろう」
……となると。
「なら、俺は明日一日、勇者の動向をさぐる方針でいいか?」
皆に問いかけると、ダグラスが先陣を切って答えた。
「異論はない。俺の方は、他の選手に怪しい動きがないか監視しておく」
スタッフとして紛れ込んでいるシローネが、あとに続く。
「なら私は、選手の出入りの報告を密にしておきますね」
「僕は観客の様子をみながら、変な動きをしてる奴がいないか探ってみるよ」
「それで私は、変わらず実況、と」
一人だけ変わらない仕事に、クレアはすこしげんなりしている様子だ。
ミダスはもちろんのこと、クレアの手腕によっても作戦の成否が決まるといっても過言ではない。
心労が減るわけではないだろうが、労っておいた方がいいだろう。
「重労働でごめんな。でも、クレアのおかげで民意が動かせそうだし、助かってるよ。俺も見てるけど、配信かなり面白かったし」
「あぁ……文句を言いたかったわけではないんです。ごめんなさい。たまにアンチコメントが紛れるので、気が滅入ってしまって」
「クレアは優しいんだな。気にするなとは言えないけど、俺たちや、ほとんどの視聴者は味方だ。敵より味方に目を向けた方が、気が楽になるかもな」
「……そうですね。もうちょっと気楽に取り組んでみます。ありがとうございます」
見えないところでクレアが疲れていたようだし、ミダスや他の仲間の様子にも気を配った方がよさそうだな。
作戦は大事だが、俺にとっての一番は受け入れてくれた仲間達だ。
この作戦は、その仲間達が俺のためにとやってくれていること。
失敗してもいいとは思っていないが、仲間を犠牲にしてまでやりたいとは思えない。
少し前の俺だったら、何を利用してでも国に復讐しようと思っていたのかもしれないが、今は違う。
俺のためにと手伝ってくれる仲間を守りたい。
そんな思いを胸に秘めながら皆の顔を見渡すと、不思議そうに笑いかけてくれた。
この穏やかな時間を守るためなら、なんだってしたい。
そんな風に思えてならなかった。