異世界ざまぁ配信局 作:@ななしの配信者さん
勇者のしっぽを掴むのに、俺はヤツの後をつけていた。
クレア謹製の隠蔽魔法は勇者ですらあばくことはできないらしく、俺は悠々と監視できている。
勇者の待機室は、他の人間とは別の個室で、明らかに待遇が違うとわかる豪華さだった。
その部屋の真ん中にあるソファに、勇者がドカリと座る。そうして彼は、側に控えている、明らかに偉い奴とわかる服装の男に質問を投げかけた。
「僕のパーティーメンバーになる人員の選定とやらは、順調に進んでいるのか?」
「つづかなく進んでおります」
「昨日見せられたような雑魚はごめんだぞ? あまりにも弱い仲間だと、箔がつかない。ましてや、老人に一歩も動かれず負けるなど、論外だ」
「えぇ、存じております。強大な力を持つ者に勝ち上がって貰い、それを勇者様がくだす。そしてその者の力を認め、パーティーメンバーに引き入れるという方針は、変わっておりません。ご安心ください」
おそらく、昨日のミダスとの試合のことだろう。目をかけていた相手があっさり下されたというのに、興味なさげなのが鼻につく。
そんなことを思っていると、勇者は鼻の下を伸ばしながら、欲望丸出しの妄想を述べ始めた。
「ならいいけどさあ。あと、できれば可愛い女の子がいいんだけど。最近話題になっている、クレール・ロマリアのクレアちゃんとかシローネちゃんとかさあ。そういう子は入れられないわけ?」
「……あいにく、この武闘大会には参加されておりませんゆえ」
「ちぇ。つまんないの。無理矢理でもいいからパーティーメンバーに加えられたらいいのに。そうしたら、僕の女として飼ってやるのにさ」
……仲間を馬鹿にされるような物言いは腹が立つな。こいつ、今ここでシメてやろうか?
内心湧き上がる憎悪を抑えていると、側に控えていた男が、気になることを言った。
「あのパーティーはダメですな」
「どうしてだよ?」
「どうにも動きが怪しいので。この武闘大会でもなにやらこそこそ動き回っているようですが、まぁ、なんとでもなるでしょう。所詮、薄汚いネズミのすることです。大したことはありません」
「そっかあ。仲間は無理かぁ。じゃあ、捕まえたら味見させてね」
「ご随意に」
このクソガキ……マジで殺してやろうかと思うけれど、今はその時じゃない。恥なら、ミダスが十分にかかせてくれる。
どうにか怒りを抑えていると、勇者が話を変えるように、側に立つ男へ切り出した。
「そういえば、例のモノは? できあがったのか?」
「はい。ここにあります」
側付きの男が取り出したのは、一目で膨大な魔力が込められているとわかるブローチだった。男がテーブルにブローチを置くと、勇者はそれを手に取り、しげしげと眺めた。
これは……ぱっと見で、二回戦、三回戦に当たったやつらが使っていたものよりも強力だとわかる。
どれくらい強いかと言えば、一般人が最上級魔物を倒せそうなくらいだ。ミダスと初遭遇した時に、相対していた邪竜が召喚した魔物が最上級魔物で、数百体はいたようなのだが、その数いればあのミダスを苦しめられるような魔物を、そこらの一般人が倒せると考えると、どれほどの物かわかるのではないだろうか?
この男は、こんな強力な道具を用意して、勇者になにをやらせるつもりなんだ?
一人思案していると、勇者はブローチを首にかけ、満足げに頷いた」
「このブローチと、僕の力があれば、誰にも負けないな。この武闘大会で華々しく優勝を飾り、その栄誉を持って、魔王討伐に赴く。その後は、優雅な隠遁生活をさせてもらうとするよ。もちろん、その手筈も整えてくれているのだろう?」
「えぇ。勇者様の御威光は、民の皆が感じることでしょう。それでこの先数十年は、この国も安泰。勇者様に送る女性も、こちらで見繕いますゆえ」
「はは。今から贅沢三昧の日々が楽しみだよ。今は勇者として持ち上げられるから気分はいいけど、なかなか動きづらくてしょうがないからね。王家の息がかかってない女性を気軽に抱けやしない」
「それは一仕事終えてからのお楽しみということで、ひとつ」
「わかってるよ。今日もさくっと優勝して、箔をつけてくるからさ。さっきのネズミでもなんでもいいけど、ご褒美はよろしくね?」
「お任せを」
俺はそっと勇者に近づき、ブローチに触れた。
ここでやれることは……もう情報集めくらいしかなさそうだな。
後はミダスに任せるしかない。
いくら隠蔽魔法がかけられているとはいえ、扉がひとりでに開いたら怪しまれる。
こいつらが外に出るまで、俺も動けない。
暇だからクレアの配信を見たいけれど、万が一バレると面倒だし、あまり音も出したくないし。
仕方がないので、俺は勇者の控え室で、下世話な話を聞き続けるしかなかった。
有力な情報を手に入れることができたけれど、相応に気分も悪くなったので、収穫としてはまぁまぁと言ったところ。
ひとまず、クレアには場所を移るように言った方がいいな。
大会が終わり次第捕まえる算段を企てていたようだから、一般席に紛れて、見つかりにくくしてもらわないと。
視聴者から文句は出るだろうけど、クレアの安全には変えられない。
勇者の控え室から解放された俺は、まっすぐにクレアの元に向かった。