異世界ざまぁ配信局   作:@ななしの配信者さん

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超強い剣士が老人に化けて武闘大会に出ていたら、相手は気づく? 気づかない? ざまぁ編10

『さぁ、ついに決勝戦までやって来ました! 相手は皆様ご存知、あの勇者です! 果たして、我らがご老人は勝てるのでしょうか!?』

 

 :画角悪くなっちゃったね

 :一体、ご老人の正体は誰なんだ

 :相手が急に強くなっても毎回軽くいなしてるの凄すぎるよな

 

『画角が悪くなってしまったのはごめんなさい。どうやら至近距離で撮影しているのがバレているとのことだったので、運営にお叱りをうけないよう、一般席に移動しました』

 

 :クレアちゃん探してるけど見つからない

 :まぁそりゃ舞台の側にいたら画角でバレちゃうもんな

 :いえーい、国の人、見てるー?

 

 決勝戦まで来ると、配信を見に来ている人の数も段違いだ。

 クレアはコメントをなんとかさばいているものの、全ては拾えていない。

 好き勝手に発言するコメントは、この戦いに注目する人の多さを示していた。

 人が多い分だけ、こちらの思う通りには進まなくなるのだろう。

 だが、俺たちのやることは変わらない。

 できることはやってきた。あとは、なるようになるだろう。

 

 配信を眺めていると、決勝の舞台に、ミダスと勇者が上がって来た。今までと違ってクレアは遠くにいるため、配信に直接声を乗せるのは不可能なようだが、会場のマイクが二人のやりとりをつまびらかにしていた。決勝戦くらいは、対戦者のやりとりも届けようということだろうか。

 

『まさかただのじいさんが、決勝に上がってくるなんてな。僕のパーティーメンバーはもっと華やかな人員がいいから、お前のようなやつはお呼びじゃないんだけど』

『はて。勇者殿は、儂に勝てる前提でいらっしゃると?』

『当たり前だろ。どんな仕掛けを使っているかはわからないが、よぼよぼのジジイに負けるわけがない。今に見てろ。その化けの皮を剥がして、不正を民衆の元にさらしてやる』

『ほっほっ。それはこちらのセリフですな。模擬戦で私に一度も土をつけられなかった勇者様?』

『……なんだと? お前、僕が知っている奴なのか?』

『それはもう、目の敵にされていましたとも。軽くいなせる相手に、負けようはずもない』

『誰だか知らないが、その余裕がいつまで続けられるかな? 今日は僕の本気を見せてやるよ』

『はて。そう言って膝を突き続けていたのはどなただったか——』

『——そこまで。両者共に、位置につくように』

 

 話の雲行きが怪しいと感じたか、審判が会話を遮って、二人の姿勢を正させた。

 老人姿を睨みつける勇者と、ないだ瞳で彼を見つめるミダス。両者が位置につくと、審判が宣言した。

 

『それでは、決勝戦をはじめます。戦闘続行不可能と見做された場合か、自主降参が入るまで、基本的に我々が戦闘を止めることはありません。怪我は試合前の状態に巻き戻りますが、万が一の場合があるので、致死に至りそうな攻撃を受けそうな場合は降参を推奨します。また、降参を表明している相手に意図的に攻撃した場合失格となりますので、ご注意ください』

 

 二人の間に静寂が訪れる。

 それを割くように、審判の声が響いた。

 

『準備はよろしいですね? お互い良い真剣勝負を。始めっ!』

 

 先に動いたのは勇者だった。

 先手必勝とばかりに、手に持つ剣で老体を引き裂かんと、激しく打ち付ける。

 だが、ミダスはそれを難なくいなしていた。

 

 明らかな力量の差が見て取れる攻防に、勇者の顔が曇る。

 先ほど挑発されていたのが効いたか、はたまた思わぬ手応えのなさに、焦りが生じたか。

 勇者は、ミダスからあかさまに距離を取り、体勢を立て直した。ミダスの方も、まだ老人ロールプレイをしているのか、一息には近づかなかった。その隙を好機とばかりに、勇者が首元に下がったブローチに手をかざす。

 

 一般人ですら、最上級の魔物を倒せるようになる、魔法の道具。

 まがりなりにも勇者と持ち上げれるものが使えば、どうなるか。

 その脅威をお披露目とせんとばかりに、勇者が宣った。

 

『次は本気でいくぞ! 誰だか知らないが、無様をさらすがいい!』

 

 そう意気込んで、一歩踏み出す勇者。

 最初に異変を感じ取ったのは、彼だったはずだ。

 

 その一歩は、今までと全く変わりがない。

 ミダスが二回戦で戦った騎士団長のような爆発的な踏み込みではなく、ただの接近。

 

 そんな丸腰同然の隙を晒して突っ込んで来た者を、ミダスが見逃すはずがなかった。

 

 勇者とすれ違うように、横を通るミダス。

 そうしていれ違った二人の様子は、対極的だった。

 

 ミダスは相変わらずの、飄々としたご老体。

 なんの変わりもなく、自然体で立っていた。

 

 一方の勇者は、丸裸。

 文字通り、鎧がずり落ち、パンツ一丁の丸腰だった。

 

 これには会場も困惑。

 コメント欄も、一瞬静まり返った。

 

 会場全員が隙を晒したその瞬間、勇者はミダスの足元に引き倒されていた。

 ミダスの足に敷かれ、勇者が苦しそうにうめく。

 

『げふっ……くそっ! どけよ! 重いんだよ!』

『なっ、乙女に向かって重いだと……!』

 

 何が起きたか、ほとんどの人間が把握していない。

 怒られている当の勇者ですら、困惑している。

 

『乙女……? それよりも、なぜブ……いや、僕の真の力が発揮されない!? お前、なにかしただろう!?』

『儂はなにもしとらんよ。むしろ、なにかしようとしたのはお前さんの方じゃろ。どうやら、不発に終わったらしいがの』

 

 そう。勇者の奥の手は、控え室にいる時に俺が無効化しておいた。

 素の実力ならば、ミダスが勇者に負ける道理はない。

 あまりにもあっけなく着いた決着に、配信のコメントは拍子抜けしていた。

 

 :今回の勇者弱すぎねぇ?

 :出オチ勇者だ

 :こんなやつに魔王討伐任せられるのかよ

 

 勇者の権威すらも地に落ちたのが、コメント欄から見て取れる。

 その落胆は、会場にも広がっていて。

 ざわざわとする民衆は、勇者の実力を嘆いていた。

 それを察知したか、勇者は虚勢を張るように、語気を強めた。

 

『こ、こんなの卑怯だ! なにか不正をしたんだろ! じゃないと、こんな老人が僕に勝てるわけがない!』

 

 その言葉を肯定するようにミダスが背筋を伸ばす。

 

『そうだな。もう隠す必要もないだろう。今代の勇者は、私に負けるような役立たずと証明されたからな。誰も貴様に期待しないだろう。その事実を、民衆に突きつける時だ。剣聖にすら届かない、凡愚であったという証をな』

 

 その瞬間、クレアがミダスの魔法を解いた。

 現れたのは、甘いマスクを持つ、男装の麗人もかくやと言った、女性だった。

 

 その顔に見覚えがない人間は、この世界には存在しないだろう。

 先日訃報があった、剣聖ミダス、その人なのだから。

 

 :えっ、なんで剣聖?

 :死んだんじゃなかったのか!?

 :そりゃ剣聖なら勇者よりも強いかもしれないけど、マジ?

 

 コメントが動揺し、会場がざわめく。

 民衆は大混乱の様相だったが、それ以上に、激しく反応した人物がいた。

 

『お前……死んだはずだろ!? なんで生きている!?』

『文句は、きちんと死に際を見届けなかった諜報員に言うんだな』

『くそが……! お前が生きていると、僕の人気が下がるんだよ! 女のくせに剣なんて持ちやがって! お前が活躍すると、僕に靡く女が減るんだよ!』

『相変わらず下衆な考えの勇者様だ。私がいようがいまいが、貴様に惹かれる女など、いるはずがなかろう。例えいたとしても、貴様ではなく、勇者という称号に興味があるだけに違いない。それも今日、剥がさせてもらったがな。こんなあっけなく下される勇者など、誰も頼りにしないだろう』

 

 そう。ミダスたっての希望で、勇者との決勝戦は、塩試合を演じることになった。

 どうやら彼女は、自身に粉をかけようとして、それが失敗したら目の敵にしてきた勇者がとてつもなく嫌いだったらしく、大恥をかかせてやりたいと要望があったのだ。

 

 その結果が、勇者の奥の手を俺が封じ、ミダスが実力でねじふせるという、どんな一回戦よりもつまらない試合だった。

 

 それを俺たちは承諾し、予定通りに現実と化した。

 

 勇者は戦果の箔付けにもならないが、これまで戦った歴戦の戦士たちが、ミダスの実力を証明している。

 

 決勝戦であるのに、前座のように処理された勇者は、顔を真っ赤にしながら叫んだ。

 

『審判! これは不正じゃないのか! 別人へのなりすましは違反だろ!』

 

 急に話を振られた審判は、我に帰ったように、裁定を下した。

 

『っ、ジン・ゴロー殿の不正が発覚したため、勝者は勇者レスキアとなります!』

 

 優勝者が決まる宣言であるのに、会場の誰も反応しない。

 それもそのはず。

 こんな無様な格好の優勝者など、誰も認めるはずがないからだ。

 

 それよりも、剣聖ミダスが生きていた。

 民衆は、そのことにかかりきりだった。

 コメント欄も、ミダスのことで持ちきりだ。

 

 :やっぱり偽物じゃねぇの?

 :絶対本物。偽物とかいうやつは今までの試合を見てない節穴

 :でも訃報出てたよね……どういうこと?

 

 誰も勇者の優勝など気にとめいない。

 民衆が気になっているのは、ミダスが本物なのかどうかだった。

 渦中の人であるミダスは、今までの鬱憤を晴らすよう、勇者に言葉を投げかける。

 

『仮初の勝利の味はどうだい? 勇者様』

『っく、このっ! お前っ、誰に口を聞いている! 僕はこの国の勇者だぞ!』

『勇ある者がこの様とは笑わせる。所詮、私を暗殺しようとした下賤な国の代表ということだな。勇者ビジネスという、狂った構造の顔にはお似合いだよ』

『っお前! どうしてそれを!』

『本当は、世界をおびやかす魔王なんていない。いるとすれば、こんな勇者で歯が立つわけがない。所詮、金稼ぎの道具であるのだから、顔さえ良ければいいということなのだろう』

『黙れ! デタラメなことをいうな!』

 

 :勇者ビジネスってなに?

 :魔王がいない?

 :顔が良ければ勇者になれるってこと?

 

 ミダスの爆弾発言に、コメント欄が阿鼻叫喚の様相を示す。

 それを知ってか知らずか、もうお開きとばかりに、ミダスは勇者から足をどけ、その場を立ち去ろうとした。

 が、舞台から降りた瞬間、何十もの攻撃魔法がミダスめがけて飛来した。

 

 ミダスに生きていられると困る輩が、本気で殺しに来たらしい。

 それをミダスは杖にもした剣一つで全て切り裂き、無事を貫いた。

 

 こんな展開になってしまえば、あとは撤退するのみだ。

 俺はクレアに合図を出し、撤退を伝える。

 

 配信上のクレアは、捲し立てるように締めの言葉を述べ、配信を終わらせた。

 

『さて。ここで、ドッキリの真のお題を発表します。死んだと報道されていた剣聖が、おじいちゃんに化けて武闘大会に出ていたら、見ている人は気づく? 気づかない? 結果は、誰も気づかない、でした。それでは、また次回の配信で会いましょう! さようなら!』

 

 その数拍後には、クレアの隠蔽魔法によって、ミダスの姿が完全にかき消えた。

 

 本当なら、王との謁見で正体を明かした方が効果的だったかもしれないが、なってしまったものは仕方がない。

 ミダスも、勇者のあまりのなさけなさに、我慢ができなかったのだろう。

 

 こうして俺たちの作戦は、今代勇者が役立たずであるという傷跡を残し、幕を閉じた。

 

 

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