異世界ざまぁ配信局 作:@ななしの配信者さん
「さて。今回の作戦成功を祝して」
「かんぱーい」
皆でグラスを打ち付け合い、祝杯をあげる。
俺たちはもうお尋ね者同然だから、パーティーハウスではなく、ミダスと出会った森の中で、だけど。
「いやあ。こうして大々的にミダスさんの生存を報告できると、気分がいいですね!」
クレアが意気揚々と述べると、ミダスは一つ頷いた。
「やはり死人扱いされたままでは居心地が悪いからな。いけ好かない勇者の鼻もあかせたし、満足だ」
「まぁ、賢者様が最初に、老人の、それもおじいちゃんの変装をさせようって言ったのには、びっくりしましたけどね」
「あぁ。まさか異性の変装をさせられるとは思っていなかった。その……変じゃなかったか?」
「ちゃんと役にはまってましたけど、やっぱり素のミダスさんの方がいいですね。賢者様も、仕方なかったとはいえ、乙女にあんな格好させるもんじゃないですよ?」
クレアが文句をぶつけてきたので、応戦する。
「でも誰も気が付かなかっただろ? 途中でバレたら何がなんでも止められるだろうから、あれで正解だ」
「理屈と感情は違うんですよ? その辺りちゃんとしないと、女の子に嫌われちゃいますからね?」
「わかった。クレアには嫌われたくないから気をつけるよ」
俺が納得の言葉を返すと、クレアは小さくつぶやいた。
「もうっ……そういうところですよ」
「何か言った?」
「なんでもないです!」
まぁ、俺の耳はちゃんとクレアの声を聞き咎めていたんだけどな。これを言ったら怒られるから、内緒だ。
「でもまぁ、こうしてミダスの無事も知らしめたことで、国民は国に対して疑いを持っている。今が攻めどきだ」
俺が話題を変えると、皆の顔をが引き締まる。
それを皮切りに、ダグラスが口を開いた。
「ってぇと、次はいよいよ本丸か?」
「あぁ。勇者と魔王の構造に茶々をいれる配信もしたから、後は手筈通りに進めるだけさ。今頃、勇者ビジネスというワードが一人歩きしているに違いない。ここに、本命をぶちこむ」
「つまり、魔王の正体に迫るってことだな」
「うん。直接魔王城に赴いて、その正体を明かす。その後は……正直どうしようか迷っている。ぶっちゃけ、俺のわがままみたいなもんだからさ。時々思うんだ。真実を明かすことだけが、正義なのかって」
「そうか……まぁ、俺はダンナの味方でいたいと思ってるからよ。困った時は頼ってくれや」
「うん……ありがとう」
なんたがしんみりした空気になっていると、ミダスがぽつりとつぶやいた。
「私は、このパーティーの新入りだ。詳しいことはそこまで知らないし、貴殿たちの仲も掴みきれていない。けれど、国につかえてきた騎士としても、賢者様におこなわれた仕打ちについては、国が恥ずべきところは沢山あると思っている。その恨みがどれほどの物か推しはかれる物ではないことも、わかっている。だけど。それでも。元騎士としては、民に危害を加えるのだけは、よして欲しいと思うのだ。これは私のわがままでしかないとわかっているのだが、多くの人間に恨まれるようなことをしてしまえば、皆の心にある賢者様の居場所が、本当になくなってしまう。賢者様には、民に愛されたままでいて欲しいのだ」
呟かれた、ミダスの独白。
民に嫌われるようなことはして欲しくないという思い。
正直な話、俺には彼女の言っていることがよくわからなかった。
「民に愛されるって……俺は嫌われてるもんだと思ってたけど。パンすら売ってもらえない疫病神で、関わったら死刑になる人間だぞ。愛されているわけがないじゃないか」
ミダスの言葉を否定すると、様子を見守っていたシローネが静かに口を開いた。
「そうでもありませんよ」
「え?」
「スマホなどの便利な道具が世に広まってから、賢者様の評価が見直されたんです。最初は、便利な道具を広めてくれたからという下心ありきだったと思うのですが、寝物語で語られるようになってからは、賢者様は悲劇の人という認識になっています。彼の……あなたのような人を生み出さないように、清く正しく生きましょうという教えの象徴になっていますから、この国の民は、あなたに好印象を抱いています。それは、コメントからも感じ取れるのではないでしょうか?」
……たしかに、最近はイタズラ小僧みたいな扱いをされることが増えてきたけれど、わりと好意的なコメントが多く寄せられている。
それはクレアたち有名パーティーの仲間だと思われているからだと考えていたが、まさかそんな裏があったとは。
でも、だからと言って、この国に対する俺の恨みが無くなるわけじゃない。
親しくしていた者が皆殺されて、ダンジョンの奥深くに追いやられた。
それは許せることじゃないけれど……でも、今この国に生きている人間に何かされたかといえば、何もされていない。むしろ、助けてもらっていることの方が多い。
その代表例が、クレアたちこのパーティーだ。
俺は、彼女らが望まないことはしたくない。
今は俺の都合に巻き込んでいるけれど、もし、本当はしたくないことだったら……。
「……正直、わからないんだ。俺も、なにがしたいのか。勇者ビジネスという狂った構造に騙されていた被害者だってわかって、復讐したくて皆を巻き込んだけれど……今話していて、それがいいことなのかも、わからなくなってきた。本当は、国民をびっくりさせるようなことはやめた方がいいんじゃないかとすら思えてくるんだよな……」
俺が弱音を吐くと、今まで食べ物をむさぼっていたロイドが、口の中の物を飲み込みながら言った。
「へふにいいとおもふよ」
「……お前は。この真面目な時くらい、食べるのをやめらんねぇのか」
呆れたダグラスに突っ込まれたロイドは、口の中の物を全て飲み込んで、ほおを描きながら、言い直した。
「ごめんごめん。でも、僕は別にいいと思うんだ」
「なにがだよ」
ダグラスに水を向けられたロイドは、続きを述べた。
「僕たちを、ひいては国民をまきこむことについてさ」
「でも、迷惑なんじゃ……」
俺が弱音を吐くと、ロイドは否定しなかった。
「そうかもね」
「ほら、やっぱり……」
「でも、僕たちは誰もやめようなんて言ってないじゃないか」
……たしかに。皆、文句も言わずに手伝ってくれている。
「本当はやりたくないけど、流れでやらざるを得ないとか……?」
「この中に、そんな理由で手伝っているやつがいると思うかい?」
皆の顔を見渡すと、真剣な目をしていた。
はじめに口を開いたのはクレアだった。
「私は、賢者様に救っていただかなければ、あのダンジョンで命を落としていました。命の恩人の力になれるなら、是が非でも手伝いたい。その思いで、私は協力しています」
次はシローネが。
「私も、あのままでは望まぬ殿方と結婚させられていたに違いありません。それを阻止してくれたあなたには、全てを捧げてもいいと思っています。それは、以前にもお話ししたはずですよ」
シローネの雰囲気が妖しくなったところを、ダグラスが咳払いでにごした。
「っぅ"うん。まぁこいつらがどう思ってるかは知らねぇが、俺だってパーティーメンバーを守ってくれたことに対しては感謝してるんだぜ。俺は意外とここを気に入ってるんだ。それはダンナにもわかるだろ?」
それに続くようにロイドが言う。
「そうだよ。僕は、このメンバーでいられることが幸せなんだ。僕はこのパーティーが好きで、そのパーティーを何度も助けてくれた賢者様も、立派な仲間だと思っている。だから、仲間を助けるのに嫌な気持ちを持つなんてあり得ないんだ。……っとあぁ、好きっていっても、恋愛的な意味じゃないから勘違いしないでくれよ。パーティー内恋愛は自由だけど、僕は特にそう言う思いは抱いてないから。巻き込まないでくれよ」
「それに関しては俺もだな。こんなじゃじゃ馬娘どもは、俺たちじゃ扱いきれねぇ」
ダグラスとロイドのからかいに、クレアとシローネが乗る。
わちゃわちゃと騒がしくなってきた中、蚊帳の外になりかけていたミダスがこちらの瞳を覗き込むように言った。
「私も、死にかけていたところを救ってもらった身だ。この剣は国に捧げていた物だが、今は貴方に捧げよう。私は、貴方のためにどんな困難にでも身を投じる所存だ」
ミダスの献身に、思わず気圧されてしまう。
「困ったな。俺はそんな大した人間じゃないんだけど」
「謙遜は、時に罵倒にもとられてしまうことがある。私たちは皆、貴方を支えたいと思っている。であれば、ここにいる物たちの動機を疑うべくもないと思うが?」
ミダスの目は、俺の心の奥底まで覗いてくるような、そんな鋭さがあった。
その目に貫かれて、俺の腹がきまる。
「……うん、そうだな。多くの言葉に晒されて、皆が支えてくれていることを見失っていたみたいだ。俺は、君らが思うのと同じように、ここにいる皆を守りたい。そのためにも、やれることは最後までやろうと思うよ」
俺が腹を括ってミダスに言葉を返すと、今までダグラスたちと言い合っていたクレアが、間に入った。
「あーっ! 何一番いいところを持っていってるんですか、ミダスさん! ずるいですよ!」
「……いや。そなたが勝手に話から外れただけであってな……」
「言い訳は無用です! くすぐり攻撃をくらいなさい!」
「っふ、やめないか! いかに剣士といえど、脇腹までは鍛えられないんだ!」
「問答無用です! くらいなさい!」
騒がしくするクレアたちを見ていると、この場だけは守りたいと思えてくる。
俺の居場所は、今はここにある。
ならば、彼らの居場所を全力で守ろう。
俺の名誉を守ってくれようとしている、彼らの居場所を。