異世界ざまぁ配信局 作:@ななしの配信者さん
二人の後についていくと、私とロイドを除いた残るメンバーの三人が出迎えてくれました。
不意の来訪者と、私そっくりの不審物。
最初に反応したのは、パーティーの回復役である僧侶のシローネでした。
彼女は私とも仲が良かったので、その喜び方は顕著です。
「クレアさん!? ご無事だったのですか!?」
「いや、だから石のままだから無事じゃないって……」
賢者様が野暮なツッコミを入れますが、誰も聞いていません。
二回目なので、コメントの反応も薄いです。
冷えそうになる空気の中、弓使いのダグラスが問いました。
「なにがなんだかわからねぇが、なんでクレアがここにいる? あのダンジョンはそんなひ弱そうな男一人で帰れるほどぬるくないだろ」
彼の意見はもっともですが、相手がよくありません。
侮られた賢者様がお怒りにならないか不安になっていると、ロイドが口を挟みました。
「ダグラス、失礼なことを言うモノじゃない。彼が、俺たちの探していた『冤罪の大賢者』、ユウヤ様だ。クレアを見つけてきてくれたところを見るに、本物だろう」
ロイドがそう説明するも、ダグラスは引き下がりませんでした。
「……って言ってもよ。俺たちはそこそこ名が通った冒険者だ。めちゃくちゃ有名ってわけではないが、姿を見たことのある奴は何人もいる。それに、クレアの姿だって動画に残ってる。そんな弱っちそうな男なら、そっくりの石像を作ったって言われた方がまだ信じられるね」
どうやらダグラスは賢者様のことを信じていないようです。しかも、わりと近いことを言っているのだから、彼の勘は侮れません。
さすが弓師と言ったところなのでしょうか。感覚が冴え渡っています。
しかし、賢者様はそれで落ちるほど甘くはありません。
かなり抜けていて、想定外のことに弱いと判明はしましたが、あらかじめ予想されていたことには対策してあります。
これもそのうちの一つでした。
「なら、鑑定で石像が本物かどうか確かめてみなよ。使える人くらいいるだろう?」
その役割は、いつもマチルダでした。
暗黙の了解と言わんばかりに、ダグラスが目配せします。
少し嫌そうな彼女は、気だるげに石像に近づいて、その細い目を、珍しく見張りました。
そして、ぺたぺたと石像を触り……手を握った時、事件は起きました。
バキッ。
嫌な音が響き、石像の手が取れてしまったではないですか。
「きゃああ! なにしてるんですか!」
シローネが悲鳴をあげると、マチルダはあっけらかんと言い放ちました。
「触診していたら壊れちゃったのよ。悪いとは思っているけれど、もろいのが悪いんだわ」
「……で? その石像は本物なのか? だとしたら、かなりまずいと思うのだが」
問うたダグラスに、マチルダは素知らぬ顔で返します。
「そうね。本人で間違いないわ。まぁ、こんな手じゃ元に戻しても復帰はできないでしょうけど」
「あなたがやったんでしょう!? 早く直してくださいよ!」
シローネが声を怒らせて迫ると、マチルダは渋々と言った様子で動き出しました。
「仕方ないわね……一応修復はするけど、戻った時にどういう影響があるかはわからないわ」
「仕方ないってなんですか! 事故だとしてもあなたのせいでしょう!」
これには視聴者さんもマチルダを訝しみます。
:本物だって分かったから、わざと折った説ない?
:てかなんで本物判定が出るんだ? クレアちゃんここにいるよな?
:マチルダってクレアのこと嫌いなのかな?
マチルダの行動もあって困惑する視聴者さんに、賢者様から事前に教えていただいた情報を伝えます。
「実は賢者様のスキルで、鑑定を欺くものがあるそうなのですよ。自分より低レベルの鑑定にしか効かないそうなのですが、マチルダくらいならおそらくいけると仰っていました。そして、彼女なら何か仕掛けるだろう、とも」
:マジかよ……あいつも結構レベル高いはずだが?
:あー、もしかして、クレアがこんなことしてる理由もマチルダにあるのか?
:なんか不穏な気配
マチルダとシローネが言い合ってるのを見て、収まらないと思ったのか、ロイドが無理矢理話を進めました。
「……それで、賢者様。クレアはいくらでお返しいただけるのでしょう?」
「別にタダでいいぞ。元々そっちのメンバーだし。本人の石像を返す分にはお金を取らない」
賢者様の言い方がひっかかったのか、ダグラスは深く話を掘り下げました。
「それだと、別のことで金を取りそうな言い方だな?」
「あぁ。石像から元に戻すアイテムは、俺のモノだから金を貰おうと思っている」
メンバーの目には、少しの落胆が垣間見えました。
賢者といえど、善良なわけではないのだ、と。
本来はそんなことせず快くお譲りしていただく方であるはずなのに、私のせいであらぬ疑いをかけられています。
それに心苦しくもなりますが、マチルダの本性をあばくには、こうするしかないとのことでした。
少し落ち込んでいる間にも、場は進行します。
「元に戻すアイテムとは、いったい何なのですか?」
問うたロイドに、賢者様はなんの気なしに答えました。
「あの大蛇の目を使う。身銭が欲しくて一個売ったけど、解呪用に残してあるから」
その瞬間――。
「あの魔物を倒されたのですか!?」
「ヴェノムチェイサーの目ですって!?」
――二つの声があがりました。
ロイドとマチルダです。
ロイドの驚きにかぶせるように、マチルダが声を上げました。
そんな彼女にダグラスが問いかけます。
「知っているのか?」
「知っているも何も、高位石化の解呪に必要なアイテムよ。けれど、それだけじゃない。万病の回復薬の材料にもなるアイテムで、国の金庫が空になるほどの価値があるわ」
説明を聞いたシローネが、明らかな落胆を見せます。
おそらく手が出せない金額になると思ったのでしょう。
「そんな……話には聞いたことがありますが、そんなに高価だなんて……」
一番落ち込んでいるのはシローネでしたが、ダグラスとロイドも落胆気味です。
唯一、マチルダだけが、違う目で賢者様を見つめていました。