異世界ざまぁ配信局   作:@ななしの配信者さん

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有名商人に、ホンモノとニセモノを交えて鑑定を頼んだら、見抜ける? 見抜けない? 準備編2

「なんでこれがこれっぽっちの値段なんだ! どう考えてもおかしいだろう!」

「こちらは正当な評価をしたまでです」

「グレイシャルウルフの毛皮だぞ! こんなに安いわけないだろうが!」

 

 店先でそんなやり取りをしている二人の男。

 一人は恰幅のよいおじさんで、もう一人は粗野な感じを受ける冒険者スタイルの青年。

 さしずめ、おじさんの方が商人で、買取で足元を見られたと、青年が文句を言っている場面だろうか。

 

 ちらりと、青年が持って来た毛皮を盗み見る。

 グレイシャルウルフと言い張っていたが、俺の鑑定ではシルバーウルフと結果が出た。

 そもそも、そのグレイシャルウルフとやらは、どれくらいの魔物なのだろう。

 いまの価値観がわからない俺は、詳しそうなクレアに問いかけた。

 

「なぁ、グレイシャルウルフってどれくらい強いんだ?」

「区分で言うと、上級魔物ですかね。実質的に、上から二番目とされている区分の魔物です」

 

 クレアが教えてくれるけど、いまいち強さが掴めない。俺がよく戦っていた相手と比較すれば、わかりやすいんじゃないだろうか。

 

「上から二番目っていうと、どれくらいだ? 俺が住んでいたところの魔物はどの辺にあたる?」

「最下級、下級、中級、上級、最上級のよく使われる五つの区分に加え、伝承上にしか存在しないとされる伝説級の魔物がいます。伝説級は滅多に遭遇しないので、区分としてカウントされることは少ないです。上級魔物は実質的に上から二番目となるので、わりと強いとされる魔物になりますね。ちなみに、賢者様の住まわれていたダンジョンの奥にいた魔物は、ほとんどが伝説級でした。伝説級からはもう区分がないので、強さの指標にはなりにくいですが、どの魔物も表に出て来たら大パニックになるのは必至です」

 

 ってなると、そのグレイシャルウルフとやらは、俺にとってはあんまり強い魔物ではないんだな。

 

「ついでに聞いておきたいんだが、シルバーウルフはどの区分にあたるんだ?」

「シルバーウルフは下級魔物ですね。グレイシャルウルフとは毛皮の質がよく似ていて、間違われることが多い魔物ですが……もしかして、賢者様。あれはシルバーウルフの毛皮なんですか?」

「あぁ。俺の鑑定結果ではそう出たな。商人のおじさんは正当な評価をしているはずだが、なんでこじれている?」

「冒険者なら、自分が何を狩ったかくらいはわかるはずですけどね。騙すつもりで強気な態度に出ているか、あるいは……」

 

 クレアが続きを口にする前に、粗野な冒険者風の男が剣を抜いた。

 こんなところで剣を抜くなんて、あからさまに事件だ。

 たとえ商人側に備えがあるのだとしても、見過ごせない。

 

 俺は争う二人の方に近づきながら、見えない構造物で青年の剣を弾き飛ばした。

 

「それはシルバーウルフの毛皮だろう? それなのに、脅して押し通ろうとするなんて、あまりお店の人を困らせるものじゃない」

「誰だお前はっ! 関係ないやつはすっこんでろ!」

「いいや、関係あるね。俺もこの店に売りたいものがあったから、先に来てたあんたが話をこじらせると困るんだ。なぁ、一体この毛皮、どこで手に入れた? シルバーウルフの毛皮だと分かって売るつもりだったなら、警邏に突き出さなきゃいけなくなるんだが」

 

 警邏の話を持ち出すと、青年は一気に威勢を失った。

 

「お、俺はただ、依頼を受けただけだ。グレイシャルウルフの毛皮をこの店に売って来て欲しいって。シルバーウルフの毛皮だなんて知らなかったんだよ!」

 

 男の目を覗き込んで、視線を合わせる。

 ……ふむ。どうやら本当みたいだ。

 

 神様チートのひとつ、真実の目。

 主に鑑定の用途として使っているが、人が嘘をついているかどうかもわかる優れもの。

 

 これのおかげで、騙されることなく生活できていた。

 まぁ、結局はダンジョンに引き篭もることになったけど。

 

 彼が言ったことが本当だと言うことは、つまり、この商人をはめようとしている奴がいることになる。

 

「依頼人は誰なんだ?」

「……わからねぇ。ギルドを通した依頼じゃなくて、その辺歩いてたら突然フードを被ったやつに声かけられてよ。怪しいとは思ったが、内容は簡単だったし、なにより依頼料が破格だった」

 

 これも本当。

 だけど……。

 

「そんな依頼の仕方でどうやって依頼料を受け取るつもりだったんだ?」

「こっちが聞きてぇよ。でも、ごまかしても分かるから、しっかり売ってこいって念を押されたんだ。売れなかったら報酬はないとも言われたから、こっちも必死だったんだよ」

 

 これも本当、か。

 ならば……。

 

「すぐにでも警邏に言って、捕まえて貰った方がいい」

「ふざけんな! 俺はただ依頼を受けただけだ! 悪いことはしてねぇ!」

 

 剣を抜いておいて何を言っているんだと思わなくもないが、ここまで短絡的なやつでなければ、こんな依頼も受けないのだろう。

 興奮気味に突っかかってくる青年に、冷や水をぶっかけてやる。

 

「そうか。死にたいなら好きにしろ」

「し、死ぬ? なんでそうなるんだよ!?」

「依頼料の受取方法を決めてないってことは、どこかでお前の様子を見ているんだろう。そして、失敗したことも露呈している。加えて、かっとなって斬りかかろうとするほど、あんたは気が短い。そんなやつを口止めしない理由がないだろう?」

「そ、そんな……どうすりゃいいんだよ!」

 

 思考停止して、狼狽えるだけの青年。

 ……仕方ない。ここは一肌脱ぐとしよう。

 俺は青年に近づいて、耳元で囁いた。

 

「もう一度剣を取り、こちらに向けろ」

 

 なにがなんだか分かっていないようだったが、青年は言われた通りに、落ちていた剣を手に取った。

 そして、俺は間髪入れずに彼の腕を捻り上げ、無力化したあと、野次馬に声をかける。

 

「誰か警邏を呼んでくれ!」

「話が違うじゃねぇか!」

 

 興奮して暴れようとする青年を押さえつけ、再び耳元で囁く。

 

「警邏に捕まれば、勾留されている間は命が保障される。死にたくなければ大人しくしていろ」

 

 そこまで言うと、暴れる青年はようやく大人しくなった。

 ……まったく。馬鹿の相手は疲れるな。

 

 しばらくして、警邏がやってくると、軽い事情聴取をされたあとに、青年を連れて行った。

 

 残ったのは、買い出しに来た俺たちと、商人のおじさんだけ。

 イベントごとが終わったからか、野次馬も散っていった。

 そろそろ帰ろうと踵を返すと、背中に声がかかった。

 

「ご迷惑をおかけしました。買取を待たれているとのことでしたが……」

「あぁ、それな……別に俺たちは――」

 

 方便だったと言い切る前に、おじさんが言葉を重ねて来た。

 

「見たところ、なにもお持ちでない様子。もしや、そちらのお嬢さん方が商品だったりしますかな?」

 

 こちらを品定めするような目をした商人のおじさん。これが下卑た商人なら、彼女らがいくらで売れるか真面目に算段していたことだろう。

 だが、これは冒険者としての実力を値踏みした目だ。

 明らかな挑発で、こちらの出方を伺っている気がする。

 しかし、挑発の仕方がまずかった。

 

 クレアはいつのまにか商人の背後に回り、背中に暗器を当てている。

 あまりの手際の良さに、周囲の人間は誰も気が付いていない。

 

「あまりふざけたことを言っていると、痛い目をみますよ?」

「これはこれは……」

 

 冷や汗をかきながらも、あわてずにいる商人のおじさん。

 

 ふむ……これは何か事情があって、こちらを試したと見るべきだろう。

 

 ならば、こちらもひとつ仕掛けるか。

 

「待て、クレア。そのおじさんも、別に本気で言っているわけじゃない。おおかた、俺たちの実力を見るのにわざと怒らせるようなことを言ったんだろう。さっきの件に仲介してくるくらいだから、いきなり殺すようなことはしないと踏んで」

「……なぜそのような事を?」

 

 不機嫌そうにおじさんへ詰め寄るクレアを放置して、黙ったままのおじさんに、アイテムボックスの能力から取り出した大蛇の目を差し出す。

 

「これを売りたいんだが、いくらになる?」

 

 黙って受け取ったおじさんは、しばらく眺めると、目を見開いて首を振った。

 

「……悪いお人だ。こんなものを買い取れるほど儲かっている商人はいないだろう。前に同じような物の持ち込みがあった時は明らかに偽物だったが、これは偽物と判断できる材料がない。つまり、本物の可能性がとても高いのだ。一体どこで手に入れたのやら」

 

 慄くおじさんに、さらにいじわるをしてやる。

 

「そうは言うけど、この程度の魔物の素材なら、いくつか売ったぞ。ひとつ金貨100枚くらいでな」

 

 言った途端、おじさんの目つきが変わった。

 

「失礼ながら、どこで売ったかお聞きしても? 商売人の風上にもおけない恥知らずの名前を知っておきたいので」

 

 買い叩かれているのは分かってたけど、とりあえず即金が欲しかったからな。

 しばらく過ごせればいいやと思って、あまり気にせず売ったけど、そんなにまずかっただろうか。

 

「えーと……どこだっけかな……たしか、ギルドが近くにあって、かなりでかい店だった気がする。立地良くて店がでかければ、そこそこの値段で買い取ってくれるかなって。たしか名前は……」

「――ゴルディン商会ですね」

 

 言葉を繋いだのは、今まで話していたおじさんではなく、ずっと静観していたシローネだった。

 それも、なんだか憎々しげな響きのある声だ。

 

「ゴルディン、商会……」

「やはりあやつか……ふざけた真似をしおって……」

 

 固唾を飲んだクレアだけにとどまらず、商人のおじさんまで様子がおかしくなった。

 ただならぬ様子に、こちらが戸惑ってしまう。

 

「な、なんだ? そんなにやばいところなのか?」

「……表でする話ではありませんので、どうぞ中へ」

 

 おじさんの背中に促されるまま、中へと入っていく女子二人。

 怪しさ満点だった商人のおじさんの話を聞かないという選択肢がなくなるくらい、きな臭い話なのだろう。

 

 置いて行かれた俺は、慌てて三人の後をついて行った。

 

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