何にでも乗れる騎操士くん(予定)   作:黒髪赤目の男の娘これが大好き

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エル君、暴走する

エル君の後を追う。

 

連れ戻さなければならない。あの、名も知らぬ二人の犠牲を無駄にしてはならない。

 

エル君は魔獣の方に向かっていない。おそらく敵前逃亡した、赤い幻晶騎士(シルエットナイト)の方へ向かっている。

 

大気圧縮推進(エアロスラスト)身体強化(フィジカルブースト)での踏み込みを併用してなお縮まらない距離だったけど、それは立ち止まった幻晶騎士(シルエットナイト)に追いついたことで埋まりだした。

 

幻晶騎士(シルエットナイト)は、魔力(マナ)で動く。その魔力は駆動器官を兼ねる結晶筋肉(クリスタルティシュー)に蓄えられているが、激しく動き続けたりすると魔力が減って、休憩の必要がある。魔力転換炉(エーテルリアクター)で魔力を生み出して、供給しなければならないからだ。

 

あの赤い機体も、そうなったのだろう。脇目も振らずに逃げたのだろうから。

 

エル君は膝をついた駐機姿勢の赤い機体、その胸部装甲を開けている。

 

「単刀直入にお聞きします。先輩はあの場から逃げ出したのですよね?」

 

あまりにも酷な問いだ。

 

赤い機体の中の先輩にそれはてきめんに効いてしまったのか、恐慌状態で叫ぶ声が聞こえる。

 

「………!くっ、あぁ、そ………クソ………そうだ!逃げて何が、何が悪い!あの場所で一人増えようが減ろうが、結果はまったく変わらない!だったらなぜ私が無駄死にしないといけないんだ、騎士の心得とて、命を捨てろとは言っていない!」

 

あれは言い訳だ。自分に対する。そうでないと心が壊れてしまうのだろう。いや、既に壊れているのかもしれない。あの二機が、あの二人が死んだ時に。

 

僕も赤い機体の足元についた。そして僕が聞き取ったエル君の言葉はとんでもないものだった。

 

「よかった」

 

「………なに?」

 

まさか。

 

「先輩からならば、僕も安心してグゥエールを借りられそうですから」

 

言い切るが否や、エル君は銃杖(ガンライクロッド)を抜き放って、赤い機体………グゥエールの中へと大気弾丸(エアバレット)を撃った。

 

エル君、グゥエールで魔獣と戦うつもりだ。

 

僕は跳び上がって、エル君に声をかける。

 

「エル君」

 

「ああ、レイ。危険のない所まで、ディートリヒ先輩を運べますか」

 

考える。今の状況で安全な場所といっても、それは僕らが飛び出してきた馬車くらいしか思い当たらない。人一人抱えて馬車に追いつくのは………。

 

「………ごめん、無理だ。それより、エル君も逃げるべきだよ」

 

「どうやって」

 

「グゥエールで。操縦、出来るんでしょ」

 

「まだわかりませんよ」

 

言いながらエル君はシートの後ろにある荷物を渡してくる。捨てろということだろう。そこにディートリヒ先輩を入れるつもりか。

 

果たしてその通りで、エル君はディートリヒ先輩をシートの後ろの空きスペースに詰め込んだ。そして、シートに座る。

 

「体格が違いすぎる。どうする」

 

「………ぶっつけ本番ですけれど、成功させるしかないですね」

 

そう言うとエル君は、シートの左右のコンソールを破壊してから、内側の銀線神経(シルバーナーヴ)を引き出した。銀線神経(シルバーナーヴ)は魔力伝達路であると同時に、制御の魔法術式も伝達する。

 

「直接術式を制御するつもり?」

 

「そうです」

 

両手に持った銃杖(ガンライクロッド)銀線神経(シルバーナーヴ)を巻き付けたエル君は、そのまま目を閉じる。今は銀線神経(シルバーナーヴ)を通して、機体の術式を把握しているところだろう。

 

「上にいるね」

 

いくらエル君が小さくても、二人は入れない。逃げるべきとは伝えたけど、逃げ出さないだろう。エル君はそういう目をしている。

 

「解析開始………一番根っこにあるのは………」

 

グゥエールの頭の上にいる僕に、エル君の呟く声が聞こえてくる。程なくして、グゥエールの指が動いた。魔力転換炉が唸りを上げ、グゥエールが立ち上がる。滑らかな動きではない。そのままぎこちない動作で歩き出し、その動きは一歩ごとに最適化されていく。

 

五分、また五分。グゥエールの動作確認がじっくりとされていく。外から見ている僕にさえ、グゥエールの腕が、胴体が、エル君の思うがままに動くようになっていくのがわかる。そして三十分ほどは経ったか。完全にエル君に掌握されたグゥエールは、恐ろしく滑らかな動きで走り出している。

 

「行きますよ、レイ」

 

グゥエールの頭に掴まる僕に、エル君の声が伝声管越しに聞こえる。

 

「魔獣を倒しに、って?」

 

「わかってるじゃないですか」

 

有無を言わさぬ、という雰囲気だ。もう、これは止められない。

 

なら、頭の上に僕が乗っていては邪魔だろう。グゥエールの動きは見違えた。しがみついていては僕も保たない。

 

「偵察するよ」

 

そう伝えると、僕はグゥエールを蹴ってから大気圧縮推進(エアロスラスト)で大きく上空に飛び上がる。すぐに巨大魔獣の方向はわかった。そのまま落下、大気衝撃吸収(エアサスオエンション)を何度かかけて勢いを殺すと、前方に立ち止まっていたグゥエールに方角を伝える。

 

グゥエールが滑らかに走り出す。僕も追いかけるが、すぐには追いつけないはず。それに、追いついた所で何ができるだろうか。

 

ただそれでも、エル君を置いて逃げるという選択肢は僕にはなかった。

 

 

 

 

エル君の操るグゥエールは、想定以上に速い。

 

ディートリヒ先輩が乗っていた時は大気圧縮推進(エアロスラスト)身体強化(フィジカルブースト)の跳躍移動でどうにか追いつけたけれど、今はもう引き離されている。ただ色が派手なので、見失っていない。それに、巨大魔獣との戦闘音も既に聞こえてきている。

 

グゥエールが巨大魔獣に突撃する直前、巨大魔獣はあの竜巻………竜巻ブレスを放った。狙いはヘルヴィ先輩のトランドオーケス。

 

………どうにか直撃は避けたようだけど、倒れ込んでいる。魔獣は追撃として突撃するつもりらしい。アールカンバーが雷の魔導兵装(シルエットアームズ)を撃つけど、牽制にもなっていない。

 

そこにグゥエールが飛びかかる。走り出した巨大魔獣はまだトランドオーケスを見ていたけど、接触する直前になって気がついたのか、顔をグゥエールに向けた。そしてその目に、グゥエールが手に持った剣が突き刺さった。

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