何にでも乗れる騎操士くん(予定) 作:黒髪赤目の男の娘これが大好き
グゥエールの剣が巨大魔獣の左の目玉に刺さる。
そのまま脳までも搔き回せればそれが一番良かったのだろうけど、そうはならないようだ。刺さっている剣が砕けた。グゥエールはそれを察して即座に手放すと、そのまま体操選手のような動きで巨大魔獣を跳び越した。僕はトランドオーケスに急ぐ。
「ヘルヴィ先輩!生きてますか!」
「ぎ、ギリギリよ………何が………あんた!」
返事があった。見たところ、完全に動作不能ではなさそう。
「カルザス!?何故ここに!」
ヘルヴィ先輩の無事を確認しに来たのだろう。アールカンバーのほうからもエドガー先輩の声が聞こえた。
「後退して下さい!少なくともトランドオーケスはもうダメです、アールカンバーが戦うにしても休ませなければ無理でしょ!」
「お前はどうする!」
「グゥエールを………エル君を援護します!」
「エル、だと?いや、馬鹿を言うな!奴には
「っ、ぐぅぅう………」
エドガー先輩の言葉は正しい。グゥエールは今のところ巨大魔獣を翻弄している。あの軽業のような動きとそれに反応する魔獣の戦いに、一人で残っても出来ることはない。でも、エル君を見捨てて逃げるなんて。
「うぅ………一緒に、撤退します」
僕は返事を絞り出す。状況判断として、これ以外にいいものがない。
「今はそうするしかない!行くぞ!」
僕は、アールカンバーの背中にしがみつくことしか出来なかった。
僕がしがみついたアールカンバーは、損傷の大きいトランドオーケスに肩を貸すように歩いて撤退していた。ところが、途中で別の
彼らはヤントゥネン騎士団の斥候部隊だと名乗った。それはつまり、援軍が来たということ。
間違いなく、僕が一人残るよりも当てになる援軍だ。彼らにグゥエールが、エル君が戦っていることを伝えられたのはいい。
「………」
僕は結局、エル君を置いて撤退してしまった。エル君を連れ戻すことも出来ず、ただついて行っただけ。僕の行動は考えなしだった。
「カルザス」
「………エドガー、先輩」
エドガー先輩が声をかけてきた。エドガー先輩のアールカンバーは損傷が小さかったので、応急修理して戦線に加わることになっている。
「お前も、来るか」
「っえ」
思いも寄らない言葉だった。
「僕が行って、何になります」
「お前の言葉が気になってな」
「言葉………」
「お前は、グゥエールを援護すると言っていただろう。あれは考えなしに言っていたのか?」
エドガー先輩の問いかけに、僕は今一度考える。確かに、そう。
「………あては、ありました」
僕一人では、魔力が足りないかもしれないけれど。
「以前、
「どんなものだ」
「僕の魔力量で放つ小規模版だと、地面に、縦向きで人二人分くらいの穴が空く魔法です」
上から地面に撃ち込んだ時のことだ。
「何?」
「貫徹力だけを追究して考えたんです」
「
考える。僕が構築した術式を
「魔導兵装………いや、腕あたりを制御できれば………」
「腕か………だが、
「はい。でも、
エル君がやっていたことだ。エル君は、
「やれるのか?」
「………試してみて、いいですか」
エドガー先輩は逡巡していたけれど、すぐに言った。
「………アールカンバーの操縦席の、
二人でアールカンバーの操縦席に登って、シートに座らせてもらう。
操縦席のメンテナンスハッチを開けたエドガー先輩が、僕に差し出す
「これが、制御術式………。ッ、うぅ」
頭が痛い、と思うのはただの気のせいだ。一見した複雑さに脳が拒否反応を示しただけ。流れを追って、個別の術式を見ていけば、そこにはやはり論理がある。その中に、目的の術式を見つけた。
僕が苦労して最適化した身体強化。アレは、膂力を全体的に増幅するものだった。それを、僕は自分の体の動きを理解し、力がいる動きの時と部位を選んで発動できるようにした。これは、エル君の考えを真似たものだ。僕は自分でも理解したいと思ったから、どこをどうすれば上手くいくのか、自分でも試行錯誤して組み上げていった。その術式と、腕を動かす術式は似たところがある。
「………ここが対象?なら、これは入力かな………あとは加減、僕が動かすなら………」
この術式は、操縦席からの入力で動かすためのもの。僕は右腕を動かすだけ。その右腕だけは自在に動かせなければならない。そのための術式を構築する。
「どうだ」
エドガー先輩の声。今からすることを伝えなきゃいけない。
「………み、右腕の………制御術式を、書、き換えて………いい、ですか………」
入れるべき術式を頭の中で構築しながら、どうにか返事をする。
「それは」
「みぎうで………せんぱいが、うごかせなく………」
「いい。やれ」
許可が出た。僕は術式を書き込み始める。
「………」
エドガー先輩が近くにいる気配。僕のことを見ている。愛機の腕が僕に掌握されるのだから、当然のこと。
「っ、はぁ………できた………動かします」
「右腕を動かすぞ!離れてくれ!………よし、やってくれ」
アールカンバーの眼球水晶は起動している。操縦席の
僕は意識を集中して、アールカンバーの右腕を上げさせた。
「………動いた、な」
「まだ、ぎこちない。もう少し時間をもらえませんか」
「補修が終わるまでに、少しでもよく動かせるようにしてくれ」
「はい」
僕が意識した動きとのずれはどこからきたのか。それを脳内で探し、確認し、修正する。何分たったのか、わからない。修正を何度か繰り返して、意識したとおりにアールカンバーの右腕が動くようになる。
「滑らかだ。剣は使えるのか」
「生身の鍛錬は積んでいますけど、右腕だけじゃダメだと思います。それよりも、もう動けますか」
「ああ、動ける。何をする」
「魔法を試し打ちします」
「わかった」
エドガー先輩はそう言うと、一度アールカンバーから降りた。
「狭いだろうが、シートの後ろに入ってくれ」
「はい」
戻ってきたエドガー先輩の言うとおりにシートの後ろに入る。
アールカンバーは仮拠点の外へ移動する。
「ここならいいだろう」
「わかりました。前方の上空に撃ちます」
今からやるのは、僕とリンクしたアールカンバーの右腕を“杖”に見立てて魔法を撃つことだ。
僕はアールカンバーの腕を空のほうに向けると、
「
「でも、魔法は撃てました。十秒あれば、相当に強力な魔法が撃てるはず」
「先ほど言っていた、貫徹力特化の魔法か。城壁ならどれくらい貫ける」
「………十メートルは、行けるかと」
「………ここまでやれたのだ。私はお前に賭ける」
「では………」
エドガー先輩は僕へ振り返ると、言った。
「そうだ。グゥエールを、エルネスティとディーを助けに行く」