何にでも乗れる騎操士くん(予定)   作:黒髪赤目の男の娘これが大好き

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陸皇亀(ベヘモス)との決戦

アールカンバーが前進する。周囲にはヤントゥネン騎士団のカルダトア。

 

エル君が無事で、まだ戦っていることを僕は祈る。

 

アールカンバーの右腕とのリンクはつなげたままだ。エドガー先輩は実質的に右腕を失った状態のアールカンバーを、それでも淀みなく走らせている。

 

最初、僕は右腕の術式を切り離して削除し、そこに自分とのリンク術式を書き込もうとしていた。ところが、それを実行しようとする中で魔導演算機(マギウスエンジン)の演算領域には余白があるのを見つけた。だから、もとの右腕の術式はいったん接続を切るだけにとどめている。もし僕が右腕を制御できなくなったとき、余裕があれば接続を戻せるはず。これはエドガー先輩にも伝えてある。

 

前進を続けていると、巨大魔獣………陸皇亀(ベヘモス)と名がついているそれが見えてきた。その周りを高速で跳ね回りつつ戦うグゥエールも。

 

「エル君………!」

 

グゥエールは、こちらに気づいたらしく、瞬間的に立ち止まった。そしてすぐに動き出す。騎士団たちと陸皇亀(ベヘモス)を挟んで向こうへ回り込んだグゥエールへと、陸皇亀(ベヘモス)も向き直る。そしてグゥエールは、騎士団に背を向ける形になった陸皇亀(ベヘモス)、その脇をすり抜けてこっちへ向かってくる。

 

「この機を逃すな!全員、炎の槍(カルバリン)構え!」

 

フィリップ団長の号令がかかる。幻晶騎士は進軍をやめ、距離を取ったまま法撃体勢に入る。

 

炎の槍(カルバリン)だ。撃てるな」

 

「はい!」

 

僕はすぐさまアールカンバーの右腕を動かして、大きな徹甲炎槍(オーバード・ピアシングランス)を形成する。

 

グゥエールが走ってくる。速度は交戦する前と比べてもあまり落ちていない。損傷はかなり少なそうだ。

 

騎士団機の間を、後方へ抜けていった。

 

「全軍、法撃開始!」

 

フィリップ団長の号令に合わせて、発射。

 

騎士団のカルダトアたちも一斉に炎の槍(カルバリン)を放ち、大量の炎弾が陸皇亀(ベヘモス)へ向かっていく。

 

一斉射だけでは終わらない。カルダトアが炎の槍(カルバリン)を、僕は戦術級徹甲炎槍(オーバード・ピアシングランス)を撃ち込み続ける。

 

連続して上がる火柱が陸皇亀(ベヘモス)の姿を隠す。それでも法撃は続ける。この一斉攻撃で倒せるのなら、それに越したことはない。

 

しかし、陸皇亀(ベヘモス)はそんなに容易い相手じゃなかった。

 

陸皇亀(ベヘモス)を覆い隠す火柱の中から、竜巻が発生する。竜巻のブレスだ。それが火柱をも巻き込んでゆき、結果的に炎の竜巻となったブレスが僕らに向かって放たれる。

 

そのブレスは、僕らのもとへ到達するまでに減衰している。それでも、熱風と火をまき散らすそれに幻晶騎士(シルエットナイト)たちの一部は怯んで、法撃の数も減る。

 

そして、陸皇亀(ベヘモス)が炎の中からも突撃してきた。

 

動きは、遅くなっている。援軍到着までにグゥエールは、足を狙って攻撃していたのだろう。その上、陸皇亀(ベヘモス)の分厚い甲殻に赤熱した部位もある。一斉攻撃の効果はあった。

 

だからこそ、あいつは突撃してきた。手負いの獣程に恐ろしいものはない。

 

「回避するぞ!」

 

エドガー先輩は突撃を避けるために、アールカンバーを走らせる。騎士団のカルダトアも回避や迎撃に入っているけれど、迎撃は無理のはずだ。まだ陸皇亀(ベヘモス)の甲殻は強度を保っている。

 

突撃の進路から逃れられなかったカルダトアたちが、轢き潰されていく。

 

カルダトアを何機も踏み潰して、陸皇亀(ベヘモス)の勢いは落ちていく。

 

突撃から逃れたカルダトアたちと僕はまた法撃を開始する。陸皇亀(ベヘモス)は再び立ち止まった。

 

「二番、四番、八番中隊、“槌”用意、構え!」

 

そこにフィリップ団長が号令を発する。

 

槌。前進してくる前に説明があった、対大型魔獣用破城槌(ハードクラストバンカー)だ。

 

幻晶騎士(シルエットナイト)が四機がかりで巨大な金属の杭を持ち上げて、突撃する。巨大な質量を打ち付けることで魔獣を砕く武器だ。強力だけど、小回りは効かない。

 

援護が、もしくは隙を潰すことが必要かもしれない。

 

「エドガー先輩!アレを使います!」

 

「よし、右腕以外は任せろ!」

 

一度法撃をやめると、僕は銀線神経(シルバーナーヴ)の巻き付いた銃杖を握り直して意識を集中する。

 

アールカンバーの右腕、その先へ。

 

まず、空気魔法だ。腕の先端の少し先の空間を中心にした渦を発生させる。

 

次。右腕をゆっくり振り回す。エドガー先輩が他の機体を巻き込まないようにアールカンバーを移動させているのもあって、周りの空気や細かな粒子などが大量に渦に吸い込まれていき、渦の中で圧縮されていく。

 

空気を圧縮すると、熱が発生する。更に、この世界の空気にはエーテルも含まれている。魔力のもととなるエネルギーが。渦では空気と砂や土、エーテルが圧縮されていく。

 

その間にも破城槌を構えたカルダトア達はみるみるうちに陸皇亀へと近づいていき、そして陸皇亀(ベヘモス)の横腹へ突き立てた。大きな音と共にその部位の甲殻が砕けて、陸皇亀(ベヘモス)は苦しそうに咆哮する。

 

「よし!対大型魔獣用破城槌(ハードクラストバンカー)は通用するぞ!今だ続け!止めを刺すんだ!」

 

フィリップ団長が残り二つの破城槌部隊へと叫んでいる。彼らも突撃を始めていて、残りの破城槌部隊は反対側の横腹と頭を目掛けて肉薄していく。

 

法撃を形成している僕の方は大詰めだ。弓の弦を引くように渦で食い止められた竜巻、中には空気と土などの粒子とエーテルが圧縮され、赤熱した芯が形成されている。法撃準備よし、陸皇亀(ベヘモス)へ腕を向ける。

 

その時、陸皇亀(ベヘモス)の頭が下を向いた。口を開けている。

 

「ブレス!?」

 

次の瞬間地面に向けて放たれたブレスは衝撃波と高熱による爆発を起こした。頭に接近していた方の破城槌部隊が巻き込まれて破壊されていく。

 

そして、陸皇亀(ベヘモス)が、立った。後ろの足で立ち上がって、全体重を使った攻撃をするつもりだ。

 

「発射!」

 

撃つしかない。僕は立ち上がった陸皇亀(ベヘモス)の腹に向けて、渦を解放する。高圧の竜巻とその芯が高速で射出され、反動が来る。発射された竜巻はその中で更に空気とエーテルを吸い込んで行き、熱量とエネルギーを増して陸皇亀(ベヘモス)の腹に刺さった。

 

超高圧縮渦(コンプレッション・ヴォルテクス)。僕がそう名付けた法撃は、圧縮された空気の質量と運動エネルギーでほんの少しの間だけ、陸皇亀(ベヘモス)の落下と拮抗した。陸皇亀(ベヘモス)の横腹へ向かっていた破城槌部隊が、その下を駆け抜ける。同時に赤熱した芯は陸皇亀(ベヘモス)にぶつかって拡散していく竜巻から解放されて、陸皇亀(ベヘモス)の甲殻へ侵徹していく。

 

ユゴニオ弾性限界、というものがある。前世の僕の時代には知られていたそれは、固体に与えられた圧力が一定の限界値を突破している間、固体が流体として振る舞うようになって固さが下がるというもの。

 

正確には違うのかもしれないけれど、とにかく僕は前世の世界に存在した、先の現象を発生させる兵器をイメージソースとして魔法を構築した。僕自身が生身で使うには消費魔力との釣り合いが取れないものでしかなかったそれを、僕はアールカンバーの魔力貯蔵(マナプール)を使って撃った。

 

その代償は大きかった。アールカンバーの魔力(マナ)残量は大きく目減りして、陸皇亀(ベヘモス)はまた落ち始めている。

 

そして、落着した。陸皇亀(ベヘモス)の質量からくる巨大な衝撃波が僕らを襲い、動きが鈍ったアールカンバーは尻餅を付くように転ぶ。陸皇亀(ベヘモス)から遠ざかり始めていた破城槌部隊が、破城槌を投げ出すようにして吹き飛ばされる。

 

衝撃で揺らぐ幻像投影機(ホロモニター)越しに陸皇亀(ベヘモス)を見る。見えない。土煙が陸皇亀(ベヘモス)を覆っている。

 

それでも落着音の残響が響く中、陸皇亀(ベヘモス)は緩慢な動きで土煙からはい出てきた。破城槌が刺さった腹から血が流れ出ているうえ、甲殻にはヒビがあちこち走っている。それでもまだ、陸皇亀(ベヘモス)は生きている。

 

周囲の法撃できるカルダトアが炎の槍(カルバリン)を撃ちこみ始めたけど、確実に減った火線は陸皇亀(ベヘモス)にまばらに刺さるだけ。

 

エドガー先輩が、魔力を補充するために魔力転換炉(エーテルリアクター)をフル稼働させてもまだ立ち上がれていないアールカンバーの視界。その中に突然赤い幻晶騎士(シルエットナイト)、グゥエールが躍り出てくる。

 

グゥエールは騎士団の後方に入って魔力(マナ)残量を回復していたのか、高速で陸皇亀(ベヘモス)に接近して剣で斬りつけた。僕からもはっきりと、甲殻の破片が散るのが見える。

 

陸皇亀(ベヘモス)の甲殻は強度が下がってきている。陸皇亀(ベヘモス)が自分にかけている強化魔法、それの維持が出来なくなってきているのかもしれない。

 

「各隊、包囲を再構成!列を立て直せ!攻撃を再開する!」

 

フィリップ団長が激を飛ばしている。カルダトア達が隊列を組み直し始めた。

 

「エドガー先輩、立てますか!」

 

「ああ!だが先程の魔法を撃つ余裕はないぞ!」

 

「一発でも二発でも、撃てる魔法を撃ちます!いいですか!」

 

「それで助けになるのなら!」

 

ようやくアールカンバーが立ち上がった。法撃を再開しているカルダトアの隊列に混ざる。僕は戦術級徹甲炎槍(オーバード・ピアシングランス)を、カルダトアたちと同じようにグゥエールの動きを阻害しない照準で放つ。

 

グゥエールは陸皇亀(ベヘモス)の周りを駆け回り、甲殻のあちこちを削っていく。それを追おうとする陸皇亀(ベヘモス)に僕らは法撃を撃ちこみ、動きを阻害する。

 

このまま続ければ、奴もさすがに死ぬはず。

 

そう考えたのが、良くなかったのか。

 

目を見張るような動きで陸皇亀(ベヘモス)を斬りつけていたグゥエールが、突然体勢を崩した。

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