何にでも乗れる騎操士くん(予定)   作:黒髪赤目の男の娘これが大好き

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ライヒアラへ帰還

それから、僕らはライヒアラに帰ることになった。

 

今はもう馬車でヤントゥネンを出発して、街道を進んでいる。

 

護衛にヤントゥネン騎士団の幻晶騎士(シルエットナイト)がついている。たぶん、彼らは僕らを護衛した後、カンカネンで叙勲式に出席するのだと思う。

 

僕は、キッド君やアディちゃんたちと同じ馬車に乗っている。僕とエル君は屋根の上だ。

 

馬車の後ろには幻晶騎士(シルエットナイト)の残骸を積んだ荷車が続いていて、エル君はその荷車を眺めている。

 

もしかしたら、将来作りたいという自分の幻晶騎士(シルエットナイト)について考えているのかな。邪魔したくないし、僕も一人でいたい気分だったから、屋根の前のほうに座っている。

 

ひとり考えていると、誰かが屋根の上に上がってきた。

 

振り向いてみると、それはアディちゃんだ。アディちゃんがエル君の背中に抱きついている。

 

「………エル君、やっぱりまた………。ねぇ、約束して欲しいことがあるんだけど」

 

「なんでしょうか?」

 

「今度は一人で飛び出していかないで、私たちも連れて行ってよ」

 

「それは………」

 

エル君に話しかけるアディちゃんの声は、真剣だ。

 

「確かに、私たちじゃ役に立たないかもしれないわ。でも………」

 

「そんなことは………場合によるのではないでしょうか」

 

「どうかな、私、幻晶騎士(シルエットナイト)乗れないし。それでもせめてエル君が何をするかくらい、教えてよね!」

 

まったくだ。今回は僕が勝手についていったけど、あんなふうに飛び出していくのはやめてほしい。

 

「わかりました………できるだけ。本当に緊急の時とかは、無理かもしれないですけど」

 

「むぅ、なーんかその言い方ずるい!そりゃ、私たちがいたからって何かあるわけじゃないけど、絶対一人より四人のほうがいいんだから!」

 

「ふふ、そうですね。四人のほうが………うん?」

 

エル君の声の調子が変わる。あれは何か思いついたのかな。

 

「一人より四人………一本より四本………一本ずつだからもろひっへはにふるんれふは」

 

アディちゃん、エル君の独り言を妨害。ほっぺつまみだな、たぶん。

 

「人と話してる最中にぜんぜん関係ないこと考えるとか、しつれーよね、うん」

 

「うぅ、そうですね………失礼しました」

 

エル君の横からのぞき込むアディちゃんの笑顔の眩しいこと。僕からはとても微笑ましく見えてしまう。

 

「そうだ、いいこと思いついた!私たちにも幻晶騎士(シルエットナイト)の動かし方、教えてよ!」

 

「うわー、そうきましたか」

 

それは難しいだろうな、と僕は思った。エル君のやり方、あれはエル君にしかできないんじゃないだろうか。でも、エル君のことだから通常の操縦桿やペダルを使った操縦のやり方は知っていてもおかしくはない。

 

そうなると、僕はどうすべきなのだろうか。僕が幻晶騎士(シルエットナイト)を操縦するには、操縦席を僕の体格に合わせてもらうか、エル君のように銀線神経(シルバーナーヴ)リンクで操縦することになる。でもこのまま騎士科にいたとして、僕の体格で騎操士になれるのかな。

 

もしかしたら、僕はどこかでエル君やアディちゃん、キッド君と別の道に進まなければならないのかもしれない。

 

「お、いたいた。レイー」

 

「あっ」

 

キッド君に声をかけられて気が付いた。今の僕って、ふたりの時間を覗いてるように見えないか?………あんまりそういう方向の話になってなくてよかったのかもしれない。

 

「どうしたの、キッド君」

 

キッド君に答えながら馬車の中に戻る。今後のことを考えながら。

 

どうしよう、これから。

 

 

 

 

 

数日後。僕はエル君の家、エチェバルリア邸でテーブルを囲んでいた。エチェバルリア家とオルター家で集まるとのことだったので、僕は遠慮させてもらおうと思っていたのだけど。

 

「レイは僕についてきてくれたじゃないですか。あのときは僕も急に飛び出してしまいましたし………お詫びと言うと変かもしれませんけど、来ませんか」

 

とエル君が言ってくれたので、お邪魔させてもらうことにした。

 

エル君のお母さん、セレスティナさんとは初対面だったのだけど、僕のことを温かく迎えてくれた。今テーブルを囲んでいるのは僕ら子供四人のほかに、エル君のお父さんでライヒアラ教官のマティアスさんに、さらにエル君のお祖父さんでライヒアラの校長のラウリさん。それと、キッド君たちのお母さんであるイルマタルさんがいる。

 

「そろそろアディさんにも料理を教えないといけないかしら?」

 

「ふふ、そうね、あの子ったらキッドと一緒にやんちゃばかりなんだから」

 

母親の二人は親しげに話し込んでいる。それでもてきぱきと準備が進んでいくのだから、やはり母は偉大だ。和やかな雰囲気に、僕が育ったカンカネンの孤児院のことを思い出す。一人の寮生活も長いからなぁ。

 

やがて準備が整い、みんなで食事を始めた。僕もいただいている。テーブルの真ん中の煮込み料理(ポットロースト)から、特にいい匂いがしていたんだよね。

 

「んっ、美味しい………」

 

こんなに豪華な食事、いつぶりだろうか。いつもは必要な栄養と値段を考えながらの簡素な食事だったし、孤児院もそこまで豪華というわけじゃなかった。下手すると、前世ぶりかもしれない。

 

「ふふふ、ありがとう。レイくん」

 

「あ、いえ。こちらこそお招きいただきありがとうございます」

 

「いいのよ。エルと仲良くしてくれているんだもの」

 

「キッドとアディとも、仲良くしてくれてありがとう」

 

母親二人からのお礼に、僕は恐縮しきりだった。そもそもこの食事会、限りなく身内でのものと言っていいはずだし。

 

「………でも全員無事で、本当に安心したわ」

 

料理を平らげていくキッド君たちに視線をむけて、イルマタルさんはつぶやいて、それから顔に手を当てた。本当に、心底安心したのだろう。イルマタルさんはいわゆるシングルマザー。さぞかし心細かったに違いない。

 

「………本当ですね」

 

エル君が一度食べることを止めて、口を開く。

 

「ご心配をおかけしました。このとおり僕たちは特に怪我もありませんでしたし………わりと奇跡的に」

 

本当に奇跡的だ。エル君に至っては乗っていたグゥエールがほとんどバラバラになっていたのだから。

 

「いいのよ、無事に帰ってきさえしてくれれば。それに、こんなに料理をほおばる元気があるのですもの。本当に、全然大丈夫そうね」

 

「もみもんも!」

 

「ままめもめ!」

 

「いや、飲み込んでからしゃべりなよ………」

 

元気な返事だ。行儀は悪いけれど、イルマタルさんはそれを見て笑みを浮かべている。

 

キッド君たちはそのまま料理を食べ続けている。野外演習中は保存食中心だったから、なおのこと美味しく感じるのだろう。イルマタルさんも料理を二人にとりわけている。

 

一方で、セレスティナさんはエル君に話しかけた。

 

「大変なことになっていたと聞いたのだけれど、大丈夫そうね。エルは向こうでどんなことをしていたのかしら?」

 

「はい、ベヘモスと殴り合ってきました」

 

マティアスさんがせき込んだ。確かに、あんまりにもストレートすぎる会話だ。

 

「まあ、とても大きかったのでしょう?大丈夫?ちゃんと殴れたの?」

 

「先輩から幻晶騎士(シルエットナイト)を借りたので、大丈夫です。少し危ない場面もありましたけれど、ちゃんと殴り勝ってきました」

 

「あら、幻晶騎士(シルエットナイト)を貸してもらえたの?よかったわね、エル。でもあまり無茶をしては駄目よ。いつも貸してもらえるとは限らないのでしょう?」

 

「そうですね。その時は“いい先輩”がいて助かりました」

 

続く親子の会話に僕はちょっと引いた。セレスティナさんって見た目より豪胆なのかな、それともすこし天然なのか。そう思って見ていると、マティアスさんと目が合った。マティアスさんは常識人のようだ。苦労してますね、ととりあえず笑い返しておく。するとマティアスさん、僕からも目をそらした。

 

はて、と思いながらも僕は食事を続けることにした。あれもこれもおいしくて、食べすぎてしまいそうな気もする。

 

それから少し後。僕は家族の団欒に混ぜてもらったことで、幸せな気分になっていた。

 

エル君は食事会の後に、ラウリさんに呼ばれていた。食事中にあまり話していなかったし、きっと積もる話があるんだろうね。

 

そう思っていると、マティアスさんが話しかけてきた。

 

「レイ君、エルが迷惑をかけたな」

 

「いえ、僕も一緒に飛び出したようなものですし………」

 

マティアスさん、きっと僕がやったことも聞いているはずだ。

 

「それでも、エルを助けてくれたというじゃないか。レイ君を招きたいとエルが言ったときは少し驚いたよ。君、幻晶騎士(シルエットナイト)に同乗して戦術級魔法(オーバード・スペル)を放ったらしいじゃないか」

 

「エドガー先輩がいたからですよ。先輩が右腕を貸してくれましたから」

 

「右腕だけか?」

 

銀線神経(シルバーナーヴ)ごしに術式を動作させたんです。それで、右腕を杖に見立てて」

 

「それは………」

 

マティアスさんの言葉が詰まる。エル君は全身でやったはずだけど、聞いていないわけはないよね?

 

「………君は落ち着いているね。エルとも話が合うのかな」

 

「そうですね。それにエル君、すごい天才ですよね………僕、大いに参考にさせてもらっています。でなければ、今みたいに魔法を使えてませんでしたし」

 

「これからも、よろしく頼むよ。レイ君」

 

「はい。エル君と一緒に研鑽していきます」

 

マティアスさんは、そう答えた僕の頭を撫でてくれた。精神的には子供じゃないはずの僕でも、大きな手に撫でられて安心する感覚があるのだから面白い。精神は身体に引きずられる、なんて言うけれど。

 

僕は恵まれている。こんな風に友達の家に招いてもらえて、いい思いをさせてもらえているのだから。

 

そう考えながら、僕は少しの間マティアスさんに撫でられていた。

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