何にでも乗れる騎操士くん(予定) 作:黒髪赤目の男の娘これが大好き
カンカネンの通りは賑やかなものだ。
それもいつも以上に。
吟遊詩人があちこちで歌っているし、出店もたくさん出ている。人ごみの中で流されないように目的地に向かうのは至難の業だ。
「………うへぇ」
僕はラウリさんの袖を持ってついて行きながら、声を漏らした。
今カンカネンにいるのは、ラウリさんとエル君に呼ばれたからだ。聞けば、エル君は国王陛下じきじきに呼び出しされたらしい。なんとラウリさん、国王陛下の古い学友で、相談役までやっていたそうだ。そして今回、
何故そこに僕が一緒にいるのか、と言うと、まだ確証は持てていない。昨日マティアスさんと話した後もエチェバルリア邸で過ごしていたのだけれど、そこにラウリさんがやってきて、明日自分と少し出かけてほしいと言われた。
僕と話してみたいのかな、でもそれなら何で明日に出かけるんだろう?そう思って理由を聞いてみると、どうも重要な用があるらしい。
断れる感じではなかったので承諾した。
そして今朝、約束の時間にエチェバルリア邸に行ってみると、そこにはラウリさんの他にエル君もいた。
三人で馬車に乗り込んで、ライヒアラからカンカネンに向かう途中に国王陛下からの呼び出しであることを聞かされたんだ。
これはつまり、僕も呼ばれたのだということは理解できる。あのときエル君と一緒に飛び出して、
「レイ君、大丈夫かね」
「はい、人ごみに辟易しただけです。カンカネンじたいが久々ですけれど、それにしてもここまで賑わっているのは初めてかもしれません」
「レイってカンカネン出身なんでしたっけ。師団級魔獣が討伐されたというのはそれほどのことなんですね」
「師団級、だからのう。師団に満たないヤントゥネン守護騎士団が討伐できたこと自体が偉業と言えるのだよ」
それに大きく貢献したエル君は、当然捨て置けないのだろう。
僕らはカンカネン中心部に位置する王城、シュレベール城に向かっている。正確にはその裏門だ。
途中でラウリさんは、エル君と僕に露店で食べ物を買ってくれた。
それを食べきるころ、僕らはようやく裏門の方に着いた。このあたりはそこまで人がいなかったので、出迎えの兵士の人もすぐに僕らを見つけられたようだ。そのまま会議室のような部屋に案内され、そこで待つように言われた。
「………」
「エルや、緊張しておるのか?」
「もちろんです。陛下に拝謁する機会があるなど、想像もしていませんでしたから」
「エルならばそれくらい平然としておるかと思ったがのう」
「それはなんだか、ひどいお言葉です。お祖父様。レイはどうです?」
「………えっ?あ、うん………どうしよう………」
「静かにしておると思うたが………」
「僕以上に緊張してるじゃないですか………」
僕は体の震えを自覚しつつ答える。情けない話、今になって緊張感がこみ上げてきた。ここに来るまで国王陛下に謁見、と言われても現実味がなかったからだ。
「………これ、僕も国王陛下に会うんですよね?」
「そのとおりだが………」
「普段着で来てしまいましたけど………」
正式な礼服なんて持っていないけど。
「たしかに謁見だが、表沙汰にならぬものだよ。服装でとやかく言われはしないから安心しなさい」
「はい………」
僕は緊張を少しでも抑えるために、胸に手を当てて深呼吸する。
そうしていると兵士の人が、僕らに国王陛下が来ることを伝えに来た。
姿勢を正す。
会議室の扉が開いて、人が入ってきた。
先頭はフレメヴィーラ国王の、アンブロシウス・タハヴォ・フレメヴィーラ陛下だ。壮年の男性だけど、歩き方はしっかりしているし、雰囲気も威風堂々としたもの。その後ろには貴族らしき男性が二人続いている。
陛下はラウリさんの方をちらりと見て、口を開いた。
「ご苦労、待たせたようだ。久しいな、ラウリ」
「お久しぶりにございます、陛下。陛下こそ、お忙しいというのに時間を割いていただきありがとうございます」
「よい。この場は儂の好奇心から出たようなものでもあるしな。して、そちらがくだんの紅の騎士である………か?」
フレメヴィーラ陛下はエル君に目線をやって、少し驚いた様子だった。と言っても眉をぴくりとさせただけで、すぐに面白がるような顔に変わったけど。
「ほう、報告書から勝手に男子と思うておったが、まさか女子であったか」
「いいえ陛下、僕はこう見えてもれっきとした男子にございます。申し遅れました、お初にお目にかかります。ラウリ・エチェバルリアが孫でエルネスティと申します。本日は陛下への拝謁の誉れにあずかり、恐悦至極に存じます」
「ほう、齢十二の子供と聞いていたが、随分と堂に入ったものではないか。むやみに堅苦しくしても話しにくかろう、この場は楽にするがよい」
「はい、ではお言葉に甘えまして」
エル君はこんな場でも堂々としたものだ。僕は緊張が抜けないし、続いて自己紹介するかどうかさえ判断できていないというのに。………情けない。
そのままフレメヴィーラ陛下とエル君は話を続けている。
陛下はエル君に、陸皇事変でのエル君の活躍は聞いているが表立って賞するわけにはいかない、さりとて
そして陛下はどこか裏のありそうな笑顔で、何が欲しいか。功績に見合うものであれば与えるとエル君に訊いた。
エル君は少しの間黙って考えていたけど、やがて答えた。
「では、陛下にお願いいたします。僕が今一番欲しているものは知識………“
そして、場の空気が凍り付いた。
ラウリさんは顔を引きつらせているし、陛下の後ろの二人は茫然としている。
僕はなんとかその理由を考えた。僕が図書館で読んだ数々の幻晶騎士の本、そのどれにも
そうなるとこれは、フレメヴィーラ陛下の判断で教えられるものですらないのかもしれない。
そうしてこの場になんとか追いつくと、陛下の背後の貴族の片方が声を発した。怒った声。
「なっ………貴様、自分が何を言っているのか、わかっ………」
「静かにせよ」
その言葉は、いっそう威厳を強めたフレメヴィーラ陛下の言葉に止められた。
そして、なぜそんなものを欲しがるのかとエル君に訊く。
さすがのエル君も言葉に詰まる様子があったけれど、それでも自分の幻晶騎士を欲していたこと、今は自分だけの
陛下は硬い表情で、再びエル君に問いかけた。
「………つまり、その理由は?」
「趣味にございます」
僕はもう意識を手放したくなった。それをどうにか堪えていると、陛下はやがて笑い出した。
「なんと!ふはっ、なんと馬鹿馬鹿しい!言うに事欠いて趣味と申したか!はははっ、これは愉快な!国家の秘事ぞ、それを趣味で聞くと!そのほうまことに十二の子供か?くははっ、これは傑作よの、おぬしのような面白き者には久々に出会うたわ!」
貴族のふたりがまたも茫然としているけど、ラウリさんは安心したようなため息をはいている。ひょっとして、陛下は本気で面白がっている?
「よかろう、その願い聞き入れた!」
「なっ………陛下、いけませぬ!このような得体の知れぬ子供に教えてよいものではないですぞ!」
「得体なら知れておる、わが友の孫ぞ。とはいえ、その方の疑念も当然よな。………のうエルネスティよ」
そしてエル君の願いは聞き入れられた。条件付きで。
「確かにその願いは聞き入れよう。しかしな、あれは本来、門外不出の秘よ。
続いて陛下がエル君に伝えた具体的な条件とは、実際に
「拝命いたします。必ずや、陛下の御目にかなう
エル君はしっかりと、それに答えた。
「くくく………愉しみにしておるぞ。………さて、次はお主よな」
フレメヴィーラ陛下の顔が、僕のほうに向いた。
「え、あっ、えと………失礼いたします」
そうことわってから、僕は自分の顔を両側からバシンと強くはたいた。
「た、大変申し遅れてしまい、申し訳ございません。僕はレイ・カルザスと申します」
「おぬしも男子か?」
「はい、僕も男子です。………失礼を承知でお聞きしたいのですが、僕はなぜこの場で陛下への拝謁を賜っているのでしょう………?」
「ふはっ、そうであったな。儂も急遽ラウリに連れてくるよう言った故、説明がなかったか」
「はい………」
僕としてはそう答えるしかない。何を言われるにしても、理由がわからなければ答えられないからだ。
「では説明するとしよう。………おぬしは陸皇事変にて、エドガー・C・ブランシュの
「はい、そうであります」
「では、そのために
「はい」
「そうか………」
陛下はそこで言葉を止めた。間が僕にはつらい。
「おぬしの放った法撃の中に、見たことのないものがあったと聞いた。それが
「はい、あれは僕が考案した魔法を、アールカンバー………エドガー先輩の
「そうか、すべてまことか。………であるならば、おぬしにも褒章を与えたいとわしは思う。そこでおぬしにも訊こう。何が欲しい?」
「ひ………」
そういう理由か。僕は頭が真っ白になった。こうなることなんて端から想定していなかった。
自分の体が震えだすのがわかる。この状況は僕の許容範囲を超えている。
深呼吸。一回、二回、三回。考える。何を要求すべきか?
「………この先の、僕の学費と………僕の出身の孤児院への支援。これは、僕の功績に釣り合うものでしょうか?」
僕は答えた。
「ふむ………おぬしは控えめよの。お主の出身は、シュミット孤児院だったか。その孤児院はすでに、王国からの支援がされておるぞ」
「あっ………」
「それはよかろう、この先のおぬしの学費と言うたな。おぬしは何を志している?」
「それは、エルネスティ君と………友人と同じ、騎操士を志しています。僕が騎操士になれるのなら、ですが」
「そうか………よかろう、その願い聞き入れた。励めよ、レイ・カルザス」
「………全身全霊で、励みます」
僕の答えにフレメヴィーラ陛下は頷いて、下がってよいと僕らに言った。
そうして、謁見は終わった。