何にでも乗れる騎操士くん(予定)   作:黒髪赤目の男の娘これが大好き

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工房危機一髪

幻晶騎士(シルエットナイト)見学が、エル君のプレゼンに化けたあの日から、もう半月ほど経った。

 

学園の授業も再開した今、僕らは日中に授業を受け、放課後は騎操士学科の工房へ………という日々を過ごしている。

 

「エル君エル君!練習行きましょ!さぁ今日も頑張るわよー!」

 

アディちゃんは授業が終わるや否や、エル君に飛びついている。そう、僕らは幻晶騎士(シルエットナイト)の動かし方を学ぶために工房へ通っている。練習道具はエル君の新発明、幻晶甲冑(シルエットギア)だ。

 

当然、キッド君も一緒。四人でいつもの通り工房へ向かうと、なんだか今日は様子が違っていた。ここ半月は、壊れた幻晶騎士(シルエットナイト)に新機構を組み込みつつ再建する作業でにぎやかだったのだけど。

 

今日はみんな疲れているようで、ダーヴィド先輩すら疲れた様子で座っている。

 

「こんにちは、親方。どうして今日は皆さま、こんなにぐったりしてるのですか?」

 

エル君が訊いた。ダーヴィド先輩は遅めの動きで首を回して、エル君の方を見る。

 

「んぁ、銀色坊主か。いや………あれだ。綱型結晶筋肉(ストランドクリスタルティシュー)を作ってたんだがよ」

 

「こないだエルくんが言い出したやつよね?」

 

「おう。だがなぁ………まさか俺らも騎操士学科にきて糸巻き機を回すことになるたぁ思わなかったぜ。服飾学科のやつら、やるんなら本気でって容赦ったらありゃしねぇ」

 

どうやらダーヴィド先輩たち、餅は餅屋ということで服飾学科を頼ったらしい。鍛冶師が糸巻きか………なれない作業をすると疲れるよね。

 

「そりゃぁなんというかお疲れ様だなぁ、親方さん」

 

「ありがとよ。だがまぁその甲斐あったってとこだ。ほれ、こいつを見てみろ」

 

ダーヴィド先輩の顔には何か達成感のようなものが浮かんでいる。エル君に投げ渡された資料を横から覗いてみると、そこには数字の並んだ表が書いてあった。

 

察するに、結晶筋肉(クリスタルティシュー)の編み方をいろいろと試してデータを取ったのかな。

 

「服飾学科の生徒に結晶筋肉(クリスタルティシュー)を使っていろいろな編み方を見せてくれっつった時には、危うく医者を呼ばれかけたぜ」

 

「それは、親方も無茶をしますね」

 

言いながらもエル君は資料を読み込んでいる。僕も表を詳しく見るけど、想像以上の効果が出ている。一番数値の良かった編み方を従来の綱型でないものと比べると、最大出力は一.五倍、動かし続けたときの耐久性のほうはなんと十倍。

 

「こんなに………!」

 

「予想以上ですね。出力は二割増し、寿命はせいぜい倍だと思っていたのですけど」

 

「ハッ!言い出したのは確かにおめぇだが、俺らが何もしねぇと思われちゃ困るってもんだ。まあ実際に効果があったもんだからだんだん悪乗りじみたのは否定しねぇがよ。それとやってみて思ったんだが、使い方ひとつでかなり差が出るもんだな。こりゃあこれまで漫然と使ってた部分も、見直しゃまだまだ改善できるんじゃねえかと思えてきたぜ」

 

ダーヴィド先輩はそう言って満面の笑みを浮かべた。技術者の血が騒ぐ、って感じだったんだろうな。頼もしい。

 

「親方ぁ!腕の筋肉の張替え、終わりやしたぜ!」

 

そこに、別の方から大声でダーヴィド先輩を呼ぶ声が聞こえた。

 

「おう!今行く!………よし坊主ども、ちょうど綱型の試作を動かすってところだ。一緒に見ていけ」

 

「もちろん!ぜひ拝見させていただきます!」

 

皆で呼び声のほうに行くと、整備台に座った幻晶騎士(シルエットナイト)があった。右腕の外装は外されていて、骨格と結晶筋肉(クリスタルティシュー)がむき出しになっている。こうして見ると、人体がもとになっていることも分かりやすい。

 

「よぉし、おめぇら離れとけ!これから動作試験を始めるぞ!………おうし、いっちょ頼んだぜヘルヴィ!」

 

テストをするのはヘルヴィ先輩らしい。………改めて見るとこの人、案外肌の露出度が高い服装をしている。

 

「了解。それじゃあ始めるわよ!」

 

僕らも幻晶騎士(シルエットナイト)から離れる。ヘルヴィ先輩は幻晶騎士(シルエットナイト)に乗り込んで、胴体の前面装甲を閉じた。

 

内装がむき出しの右腕が、置かれていた大きな金属の塊を握る。あれで出力を確かめるのだろう。

 

合図の後にその右腕が上がる。軽々、といった感じだ。

 

「ほぉ………こいつぁすげぇな」

 

「へー、これってすごい力持ちなのよね?」

 

ダーヴィド先輩もアディちゃんも感心している。右腕はヘタる様子もなく金属塊を持ち上げ続けている。その腕から軋むような音。

 

「出力と耐久性の向上、うまくいきそうですね」

 

「おう、これで坊主が動かしても簡単にゃ死なねぇ機体が出来上がりそうじゃねぇか」

 

エル君とダーヴィド先輩が話しているけど、同時に軋むような音も大きくなってきている。………嫌な感じ。僕は腰の銃杖(ガンライクロッド)に手をやった。

 

「エル君、ダーヴィド先輩。これまずくないかな」

 

「確かに軋むような音がしますね」

 

「おめぇらにも聞こえるのか。ならこいつは空耳じゃねぇってことだな………なんだと?」

 

バァン!

 

大きな音を立てて右腕が壊れた。骨格を保護していた一次装甲が飛び散る。

 

「ッ!」

 

僕は銃杖(ガンライクロッド)を抜き放ちざまに、空気弾丸(エアバレット)を拡散させながら放った。エル君も素早く反応して、同じように飛び散った金属片を迎撃する。

 

金属片は空気弾丸(エアバレット)に当たって軌道を変える。とっさに見回したけど、誰かに当たるようなことはなかった。

 

「ッ、ひー、あ、危なかった………」

 

「………さすがに肝が冷えましたね」

 

もしかしたら陸皇亀(ベヘモス)の時以上に危機だったんじゃないか。そう思った。周りの皆は固まったまま。自分が生きているのか実感する前なのかもしれない。

 

少しして我に返ったダーヴィド先輩は、幻晶騎士(シルエットナイト)の壊れた右腕のほうに近づいて調べだした。

 

「………親方、ご見解を、どうぞ」

 

エル君が訊いているけど、大まかな原因は察しているんじゃないかと思う。たぶん増加した出力に骨格のどこかが耐え切れなかったんだろう。

 

「あー、こりゃあれだな。結晶筋肉(クリスタルティシュー)自体は無事だが根元の固定が吹っ飛んでやがる。筋肉の出力だけ上げすぎて、他のところが耐えられなかったってぇことだな。なるほど、いやぁこいつは参った参った」

 

引きつった顔で笑って見せるダーヴィド先輩だけど、すぐにエル君と二人してため息を吐いた。

 

「一筋縄じゃいかねぇ、っつうかこりゃ最低でも全身見直しだな」

 

周りの機材はところどころ壊れていて、離れていた他の鍛冶師の人たちも戻ってきてそれぞれにに嘆いている。けが人はいなさそうで、安心した。

 

しかしこれは、まだまだ実用化は先だろうね。今回は一番弱いところが壊れたんだと思うけど、結晶筋肉(クリスタルティシュー)の出力強化に合わせて全身の強度とかを色々再設計しないといけないだろう。先輩たち、大変だろうな。

 

「………では親方、こちらはお任せします。僕たちは訓練に向かいますね」

 

「まあしばらくは“あっち”のほうをいじっといてくれや。さて………おう、ぼさっとしてんじゃねぇ!固定の見直しから始めんぞ!」

 

ダーヴィド先輩は周りの鍛冶師の人たちに号令をかけて作業に戻っていった。

 

僕らはその邪魔にならないように離れる。本来の目的は別だからね。

 

そうして僕ら四人は、その目的のものがある場所………工房の別の一角に足を向けた。

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