何にでも乗れる騎操士くん(予定)   作:黒髪赤目の男の娘これが大好き

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幻晶甲冑(シルエットギア)

僕らが向かった工房の一角には、二メートル半ほどの身長の手足の長い鎧が並べられている。

 

これが幻晶甲冑(シルエットギア)。僕らが使う練習道具だ。

 

バトソン君や、ほかの中等部の鍛冶師見習いの人たちが整備してくれている。

 

エル君はこの幻晶甲冑(シルエットギア)を、幻晶騎士(シルエットナイト)に触れる前の訓練に使えるものとして作った。この訓練は騎操士向けのものであるほかに、鍛冶師などの幻晶騎士(シルエットナイト)整備に関わる訓練にも使えるものになった。なにせ、中身は幻晶騎士(シルエットナイト)を小型化、簡略化したものだ。

 

「では今日も訓練、張り切って頑張りましょー」

 

「おう!」

 

「うん!」

 

「よーし」

 

エル君にの号令に三人で応じる。実践訓練、やってると楽しいから気分も上がる。エル君もウッキウキだ。パワードスーツだって、ロボットみたいなものだしね。

 

パワードスーツなので、幻晶甲冑(シルエットギア)は入り込んでから着込む形で操作する。搭乗待機中の幻晶甲冑(シルエットギア)は両膝をついた姿勢で、前面の装甲を開けている。その内部スペースは僕らの体格に合わせて調整されたものだ。特にエル君と僕は小さいからね。

 

エル君は幻晶甲冑(シルエットギア)に抱き着いて頬ずりまでしている。そのうち愛称とか付け出しそうだ。

 

「好きなのはわかるけどよ、幻晶甲冑(そんなもん)可愛がってもどうしようもねーと思うぞ」

 

「そんなことはありません。愛情を込めただけ、よく動いてくれるのですよ」

 

エル君の目つきが怪しい。あれはメカを摂取してトリップしてる目かな。

 

「愛機の癖を把握すれば、もっとよく動かせる。そういうことだよ」

 

「そりゃぁ、そうかもしれねーけど」

 

キッド君は納得できてなさそうだ。まあエル君のアレは、ね。

 

「うぬぬ………エル君が幻晶甲冑(シルエットギア)ばっか愛でてるよう。レイ君までなんか染まってるし………ええい、キッド!さっさと乗り込む!訓練よ、訓練を始めるのよ!」

 

「え?お、おう………」

 

アディちゃんに急かされてキッド君が乗り込んでいる。エル君もいつもの愛でルーティンを終えて乗り込み始めた。

 

僕も乗り込む。まず後ろ向きに入り込んでから足を定位置に置いて、それから前面の装甲を閉じる。

 

腕の内側には、幻晶騎士(シルエットナイト)の操縦桿のような取っ手があって、これを握れば準備完了。僕は幻晶甲冑(シルエットギア)用の身体強化術式を、自分の魔術演算領域(マギウスサーキット)で構築する。これはもう慣れたものだ。幻晶騎士(シルエットナイト)の制御術式ほど複雑でもないし。

 

膝立ちの姿勢から、幻晶甲冑(シルエットギア)が立ち上がる。エル君やキッド君、アディちゃんも幻晶甲冑(シルエットギア)を立ち上がらせて、皆で工房の外へ歩いていく。ガシャガシャという歩行の音が響くけど、動かしている実感が得られて気分がいい。

 

工房の裏手には訓練場がある。そこに到着すると、他にも幻晶甲冑(シルエットギア)を動かしている人がいた。エドガー先輩だ。

 

「こんにちは、エドガー先輩。どうですか、使い心地は」

 

エル君が声をかける。

 

「ああ!エルネスティか………よっと!それ!………見ればわかるだろう」

 

確かにそうだなと思う。僕から見ても、エドガー先輩の幻晶甲冑(シルエットギア)の動きははぎこちない。まるで重い靴を履いているみたいに、掛け声に合わせて大げさな動きで歩いている。

 

「なるほど、とても楽しそうですね!」

 

「さすがに、その感想はどうかと思う………」

 

エル君からすると、幻晶甲冑(ロボット)を動かすために四苦八苦するのは楽しいことでしかないのだろう。いやその気持ちはちょっとわかるんだけども。

 

エドガー先輩はそのまま立ち止まって、腕を組んだ。

 

「なぁエルネスティ。前から思っていたんだがな。この幻晶甲冑(シルエットギア)というのは決して悪いものではない。俺も凄いものだとは思う………が、いくら何でも動かしづらすぎる!」

 

幻晶甲冑(シルエットギア)には魔導演算機(マギウスエンジン)がついていない。代わりに搭乗者自身が手足を動かしながら結晶筋肉(クリスタルティシュー)も制御する。

 

この結晶筋肉(クリスタルティシュー)制御の術式は身体強化(フィジカルブースト)の系統の術式だ。僕は自主的に学んできたからすんなりこなせたし、キッド君やアディちゃんもエル君から教わっていたから、幻晶甲冑(シルエットギア)を普通に動かせている。

 

でも、身体強化(フィジカルブースト)っていうのは上級魔法(ハイ・スペル)に分類されている魔法だ。実際、僕もエル君式の発想を取り入れる前は魔力消費や術式制御の関係で使いづらいと思っていたのだし。

 

エドガー先輩の騎操士としての実力は低くないはず。それは陸皇亀(ベヘモス)相手に、アールカンバーを大破させずに粘っていたことからもわかる。

 

そんなエドガー先輩ですら、幻晶甲冑(シルエットギア)を動かすとぎこちない動きになってしまうようだ。

 

「やはり必要な制御が複雑すぎる。幻晶騎士(シルエットナイト)を制御する魔法術式は、騎操士にとってはむしろ負荷が低いものだからな………これは、とてもじゃないが操縦訓練に使える代物じゃないぞ。実際に、皆もうあきらめてしまった」

 

訓練場の、僕らの周りにはぽつぽつと数人がいるだけ。エドガー先輩の言葉からすると、最初はもっとたくさんいたみたいだ。

 

「うーん、そうなのですよね。そこは少し見積もりが甘かったです」

 

エル君自身、グゥエールを直接制御で動かせてしまったんだ。そこで感覚が狂ったに違いない。

 

「そこは努力で補うとか!ね、ほら。私たちだってこんなに動かせているのよ」

 

アディちゃんも感覚が狂ってしまっている。彼女とキッド君も魔法に関しては、入学の前から授業の先を突っ走ってきたからね。

 

エドガー先輩は僕ら四人を見て溜息をついた。

 

「あまり無茶を言うな。一朝一夕でどうにかなるものじゃないだろう。まったく………とりあえずお前たちが何かおかしいのは十分に理解させてもらった。今さらそこはどうこう言わんが、せめてそれを普通の人間に求めるな」

 

エル君が唸る。

 

「んーむむむ………それでは残念なことに、これは使えないことになってしまいます」

 

魔導演算機(マギウスエンジン)が必要なのかもしれないね」

 

「そうだな。これは幻晶騎士(シルエットナイト)の小型版なのだろう?レイの言う通り魔導演算機(マギウスエンジン)があれば、制御の負担ははるかに軽減できるはずだ」

 

「やはり、それしかありませんか………そうすると製作費が上がってしまうのですが、背に腹は代えられませんね」

 

製作費がかかるというのは、単に魔導演算機(マギウスエンジン)が複雑というだけじゃない。

 

「小型化しないと積めないだろうけど、積んだ方が幻晶騎士(シルエットナイト)の訓練機としてはよさそうだよね………」

 

「僕も魔導演算機(マギウスエンジン)の詳しい構造までは知らないのですよね。小型化以前の問題です」

 

魔導演算機(マギウスエンジン)は大きいのだ。もともと幻晶騎士(シルエットナイト)という大きな機体に積むものだから。

 

「まずは学ばないと、か………」

 

解決には時間がかかるだろうね、これは。

 

「ふっ、情けないなエドガー!騎操士学科筆頭騎士ともあろう君が、そんなに簡単にあきらめるとはね!」

 

そこに別の声が聞こえてきた。ディートリヒ先輩だ。

 

「………ディー、珍しく随分とやる気を出しているんだな」

 

ディートリヒ先輩も幻晶甲冑(シルエットギア)を装着しているけど、その動きはエドガー先輩よりなめらかに見える。

 

「ふん、これくらいたやすい………あれ?何だこれやばい、やばいぞ止まらなアーッ!?」

 

何かゴリっとした音がして、ディートリヒ先輩の幻晶甲冑(シルエットギア)の上半身がぐいんとひねられた。

 

「ちょっ、ディートリヒ先輩!?えっこれ、ちょっと回りすぎてない!?医務室に」

 

その瞬間、ひねられた上半身がまたぐいんと正面向きに戻って、ディートリヒ先輩は何かのポーズを決めた。

 

「いっ、医務室はいけない!こ、これくらいなんでもない!!それにはまったくこれっぽっちも及ばないとも!」

 

「いや汗すごいですよ!?ちょっと、いったん甲冑を外してみた方が………!」

 

僕の言葉に耳を貸さず、ディートリヒ先輩は高笑いをしながら工房の方へ歩き去ってしまう。

 

「………あー、私が見ておこう」

 

「よ、よろしくお願いします………大丈夫なのかな………」

 

エドガー先輩が後を追っていった。すくなくとも歩けるということは、重症じゃないのかもしれないけど………。

 

ディートリヒ先輩、医務室に何のトラウマがあるんだろう………?

 

「………えーと、まぁ、大丈夫そうですし、僕たちも訓練を始めましょうか」

 

エル君たちはそのまま訓練を始めた。僕はディートリヒ先輩が心配だったけど、危なかったらエドガー先輩が医務室に連れて行ったりしてくれるだろうと考えることにする。

 

幻晶甲冑(シルエットギア)の動かし方は幻晶騎士(シルエットナイト)の、それも直接制御(フルコントロール)に近いもの。結晶筋肉(クリスタルティシュー)の動きを制御し、流す魔力(マナ)を感じ、術式を制御する。二人とも、もっと早く動けるはずですよ!」

 

「無茶言ってくれるぜ!」

 

エル君はキッド君とアディちゃんの二人を相手にした戦闘訓練をしている。キッド君とアディちゃんの連携は上手いけれど、幻晶甲冑(シルエットギア)の動き自体がエル君よりは遅い。だからか、これまでやってきた中でキッド君たちが勝てたことはない。

 

最初は僕も参加していたのだけど、上達がキッド君たちより早かった。三人で挑むとさすがのエル君もキツいというか、僕とエル君でキッド君たちを置きざりにしかけた。そこで、キッド君とアディちゃん対エル君、または僕という二対一の訓練か、僕とエル君、キッド君とアディちゃんが敵対する形の二対二の形での訓練をしている。

 

余った時の僕は、もっぱら幻晶甲冑(シルエットギア)で機動訓練をしている。

 

「せーのっ!」

 

まずは幻晶甲冑(シルエットギア)で大ジャンプ。

 

「ブーストっ!」

 

そのまま大気圧縮推進(エアロスラスト)で軌道を変える。

 

大気衝撃吸収(エアサスペンション)で着地。これは生身でもやっていた基本動作。

 

次は宙返りだ。前に脚力だけで跳んで、勢いのまま一回転して着地。目指すはエル君が乗ったグゥエールのようなアクロバティックな動きだ。

 

「よっ、ほっ、そいっ!」

 

猛ダッシュしたり、地上すれすれの大気圧縮推進(エアロスラスト)で滑るように移動したり。

 

地上で空中で、幻晶甲冑(シルエットギア)の運動能力を活かせるようにすること、それがこの機動訓練だ。

 

「ひゃっほーう!………あれ?」

 

楽しくなってきたところで、大きな衝突音が聞こえてきた。

 

エル君たちの方へ戻ってみると、キッド君とアディちゃんの幻晶甲冑(シルエットギア)がこんがらがるように倒れている。どうやらエル君が勝ったらしい。

 

「少し小ぶりとはいえ、やはり人型兵器は素晴らしい………。力とやる気がみなぎって仕方ありません!さぁ二人ともいつまでも寝てないで、続きを始めましょう!」

 

「エル君、抑えて抑えて。さすがに正面衝突したあとは少し休んだ方がいいと思う」

 

言いながら歩み寄って、キッド君たちの様子を見る。なにかげっそりした様子だけど、特に怪我とかはなさそうだ。

 

「ねぇ、魔法を習ってた時よりエル君が厳しくなってる気がしない?」

 

「気のせいじゃねーよ。幻晶甲冑(シルエットギア)とかが絡むとエルって手加減ねーな………レイも元気に跳ね回ってるし。………よし、もういっちょ行くか!」

 

「大丈夫そうだね。エル君は………」

 

「まだまだやれますよ!」

 

「さすがに元気だね」

 

僕が離れると、また戦闘訓練が始まった。僕は訓練を眺めにきていたバトソン君に声をかける。

 

「バトソン君、お疲れさま。幻晶甲冑(シルエットギア)は今日も快調だよ」

 

「ああ、うん………。訓練はいいけどさー、直すの俺なんだから、あまり盛大に壊すなよな………」

 

「戦闘訓練はどうしても壊れるよね………」

 

「いや、レイが跳ね回ってるのも見てて怖いんだけど」

 

「あー、うん。気を付けるね………」

 

バトソン君に言われて、僕は苦笑いしながら頭をかいた。

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