何にでも乗れる騎操士くん(予定) 作:黒髪赤目の男の娘これが大好き
“稼働時間”という欠点が判明してから、テレスターレは動作試験が続けられている。
模擬戦の、それも勝負が決まるか否かというタイミングで発覚したというのがかなり問題視されたらしい。
他にも問題点がないのか確かめるために、試験項目がたくさん設定されたのはまだしも、実行するために同じ仕様の機体を四機も増やしたのだから驚きだ。
整備班の人たちはとんでもない激務に襲われているらしい。
僕は動作試験の様子を見に行ったけど、なんと結晶筋肉の動作試験ということでボディビルディングのようなポーズを取ったりしていた。
そんな風に、高等部の先輩たちが忙しくしている一方で、僕らはもっぱら幻晶甲冑のほうを弄っている。
基本的に、設計はエル君、製作はバトソン君………といった感じだ。
今もテルモネン工房にお邪魔している。
「僕だって、そんなにいつも暇というわけではないのですよ」
例のごとく、アディちゃんに後ろから抱き着かれているエル君が言った。
「本当にそうかなぁ?だったらこれはどういうことなの?」
これ、とはエル君の前にある、青色の幻晶甲冑………のまわりに並べられたたくさんの装備のことだろう。
「そうだそうだ、暇じゃないぞ。色々試したいものが山ほどあるんだ」
テレスターレの作業に関わることが減った、という点では暇といっていいのかもしれない。実際のところ、エル君からすると楽しくなってきたところだろう。今度は幻晶甲冑、というわけだ。
「暇なのに、そうやってずっとバト君とばかり遊んで!なんだか訓練もキッドかときどきレイくん相手かになってるし、あんまり遊びにも行かないし、つまんない」
僕は装備のアイデア出しに関わったり、キッド君とアディちゃんと訓練したりの日々だけど、アディちゃんからするとエル君に放置されている状況。おもしろくない、という感情が言葉の意味以上ににじみ出ている。
アディちゃんにとって、ああいう風に抱き着いてああだこうだと話すのは必要なことだろう。僕は二人から目を離して、幻晶甲冑を見る。
「そりゃどーでもいいけど、またいろいろ作ったなぁ。んで、こいつは何なんだ?」
キッド君が、青い幻晶甲冑の腕を開いて新装備を取り付けているバトソン君に言った。
この幻晶甲冑、十機ほど生産されたのに、扱いづらすぎて僕らの他にエドガー先輩やディートリヒ先輩くらいしか使わなくなってしまっている。とくに、結晶筋肉を綱型に変更したタイプはエドガー先輩たちすらあきらめているらしい。僕も最初は、さらに増強された出力が怖かったし。それに扱えるようになっても、魔力消費は大きいのだ。
「ワイヤーアンカーだよ。エルから聞いてない?」
「あー、レイと二人して剣を折ったときのやつか」
そう、組み込まれているのは“暇”を利用してエル君が設計したワイヤーアンカーだ。
「そういえば、いつまでも“幻晶甲冑”のままというのも寂しいですし、そろそろちゃんとした名称をつけましょうか………。そう、“ジュゲムジュゲムゴコウノスリキレカイジャリスイギョノスイギョウマツ”とかどうでしょう!」
「なんでジュゲム?」
何か変なことを言いだした。ジョークにしてもセンスが独特すぎる。
「なっっがいわ!もっとわかりやすいのにしろ!」
「では略して“モートルビート”と」
「さては最初から決めてたね、エル君?」
「んじゃ“モートルビート”ね………ま、改めてよろしく、か?」
キッド君は自分が使っている幻晶甲冑に声をかけてから固まった。そして頭を振る。
はて?
「さて名前も決まったところで、新装備の完成披露と参りましょう。アディもいつまでもむくれてないで、一緒に手伝ってください。ね?」
エル君はアディちゃんをなだめると、エル君用の青いモートルビートに乗り込む。
テルモネン工房の庭にモートルビートを歩かせて、そして壁の上の方へと腕を構える。
「では見ていてください………ワイヤーアンカー、射出!」
楽しげな掛け声とともに、腕からワイヤーが射出された。先端には矢じりの形をしたアンカーがついていて、それが工房の屋根の上まで飛んでいく。
屋根の上でアンカーは向きを変えて、屋根に突きささる。
エル君に聞いたのだけど、あのアンカーは大気圧縮推進で飛ぶらしい。だからこそ、あんなふうに射出してから方向を変えられるんだろう。しかもアンカーには結晶筋肉が内蔵されていて、それがひっかけるための変形機構と、大気圧縮推進の発動媒体になっている。
こうして考えると、結晶筋肉というものはとても便利なものだ。
エル君はワイヤーを何度か引っ張って固定を確認すると、次の段階への宣言をする。
「刺さったら次は………出発!」
モートルビートの腕の巻き上げ機構が発動する。カラカラと歯車がかみ合う音とともにモートルビートが飛び上がり、壁を蹴りながら工房の上へと上がっていった。
「いいね、うまくいってる」
僕は呟く。ワイヤーアンカーというものは創作ではありがちだけど、意外と現実にはああも便利なものはない。前世ではそうだった。
それが、こうして実際に動作するのを見ると感慨深い。幻晶甲冑、可能性の塊だ。
「すごい、ギア………じゃない、モートルビート、一瞬で屋根の上まで上がっちゃったよ」
アディちゃんも見上げながら驚いている。
「おー、今度は上手くいったな、エル!」
「今まで何度も途中で落っこちましたからね!さぁでは次に行きましょう!」
「あ、失敗はしてたんだね………えっと、“アレ”を持ってくればいいの?」
「だね」
エル君が飛び降りている間に、僕らは工房の中に戻る。キッド君はモートルビートに乗り込んでからついてきた。
キッド君たちがそれぞれ装備を取りに行く一方、僕は暗めの緑色のモートルビートに乗り込む。これは僕用に調整されている機体だ。
「アディちゃん、重くない?」
起動を終えて、アディちゃんに声をかける。キッド君は大型のクロスボウをモートルビートに持たせ、アディちゃんは大き目の箱を何個も載せた荷車を引っ張っている。
「大丈夫よ」
とのことなので、いちおう様子を見ながらついて行く。特に無理する様子もなく、庭に運び出した。
「なあ、この弩やったらでかい………つうか攻城兵器じゃねぇのか、これ?」
「ええ、間違いではありません。どちらかというと
クロスボウの大きさに疑問を呈したキッド君に、エル君が答えた。というのも、キッド君が運んできたクロスボウはモートルビートと比べても大きく見えるものだからだ。
「どうしてこんなでかいもん持って………あー、なるほどな。幻晶甲冑を台座の代わりにして攻城用大型弩砲を動かそうってのか」
「それもありますが………アディ?“
キッド君が荷車の上の箱を見る。
「簡単に説明しますと、これは弓の弦の部分とその巻き上げ機構に綱型結晶筋肉を使用した
「なるほどねぇ。それで弾倉ってのは?」
「中には矢が並べてあって、弓の巻き上げに連動して一発ずつ矢を装填する仕組みになっています。これ以上は口で説明するより実際に動かしたほうが早いでしょうね」
エル君はそのまま弾倉をはめ込む部分を示し、そこにキッド君が弾倉をはめこんだ。ガチャ、と固定される音。
固定を確認してから、キッド君は弩に指示を出す。ひとりでに弓が引かれ、連動して弾倉から矢が装填される。
それからキッド君は、的となる丸太に弩を向けた。丸太の後ろには厚い土壁も用意されている。
そして、発射。結晶筋肉への指示で発射される仕様なので、引き金を引いたりする動作はない。
放たれた大きな矢は、狙い通り丸太に当たり………破砕しながら、土壁に突き刺さった。
「いやこれ街中でぶっ放していいもんじゃないだろ」
「試射用に後ろに分厚い土壁用意してるから、大丈夫だ。それこそ戦術級魔法でも撃ちこまない限り貫けやしないさ」
ドン引きしているキッド君に、バトソン君が心配ないと答える。
それを聞きながら、僕はうずうずしていた。自分の番、まだかな。