何にでも乗れる騎操士くん(予定) 作:黒髪赤目の男の娘これが大好き
テレスターレが完成したので、僕らはモートルビートでの訓練の他は、普通に中等部の授業を受けたりするだけの日々になっている。
とはいえ僕は座学の成績も良い方で、予習もしている。なので、つい他のことを考えたり、よそ見してしまう。
それはエル君たちも同じようで、授業中に目に入ったエル君のノートは、明らかに授業の内容を記しているものではなかった。幻晶騎士の図とか見えたしね。
そんな調子で今日も授業を受け終えて、校舎から出る。今日はアディちゃんの提案で、訓練を休んでの散策だ。
「おう嬢ちゃん、今日はでっかい鎧は持ってこないのかい?」
立ち寄った露店の店主さんがアディちゃんに話しかけている。
「うん、このまま食べ歩きよ!というわけでケーキ四つ!」
「あいよっ、何をはさむね?」
「えーと………」
アディちゃんのテンションは高めだけど、空の方は陰鬱な灰色に覆われている。雨が降ったら、散策も中断になるな。
「ぐずぐずしてると降りそうだなぁ」
「でしょうね。でもなんというか、今日はできるだけアディに付き合ってあげないと、こちらの雲行きも怪しくなりそうで」
「………おう。まぁ降ったら降ったでそのときだな」
アディちゃんが戻ってくる。両手に紙に包まれた焼き立てのパンケーキが乗っていて、その匂いに僕も小腹がすいていることを自覚する。
それぞれにパンケーキを受け取って、僕らはライヒアラ学園街を歩き始めた。
学園街というだけあって、授業が終わると若い学生たちが思い思いに歩き回り始める。それを狙った露店が出ているのも恒例だ。そんな露店を巡っては美味しそうなものを食べ歩いていく。
僕らは訓練で体力がついている分、食べる量も増えている。キッド君とアディちゃんは食べた分成長もしているのだけど、エル君と僕の伸びはとても緩やかなまま。
あまり大きくなれなさそうだ、と何度か考えたけど、いくら何でも伸びなさすぎる。この身体、可愛さ特化なんだろうか………。
そんな疑問を抱きながらも食べ歩き、満腹になってきた僕らは騎操士学科の工房に立ち寄ってみた。
すると、そこにいたのはダーヴィド先輩たち鍛冶師の人だけではなかった。
「………何をやっているのですか?」
エル君が問いかけたその人は、なんとラウリさん。ここではエチェバルリア校長と呼ぶべきか。エル君のお祖父さんだ。
「んむ?見ての通りクッケレンじゃ。いやダーヴィド君はこれでなかなか、手ごわいの」
ラウリさんとダーヴィド先輩は、工房の軒先でチェスに似たボードゲームで対局している。
手ごわいとはいうものの、明らかにラウリさんの方が有利な盤面に見える。
「俺はむしろここからどう盛り返せばいいか、思い付きすらしねぇんだがよ………。もう少し手加減してもいいんじゃないか?」
「ほっほっほ、仮にも教育者として、先達が手を抜くのはいかんのう」
「
にっこりと笑うラウリさんと、ガックリきているダーヴィド先輩。
エル君はもう一度問いかける。
「いえ、ゲームはいいのですけど。なぜお祖父様がこちらにいらっしゃるのでしょう」
「んむ?ああ、少しエルとダーヴィド君に相談したいことがあってのう。呼び出しても良かったんじゃが、どうせこちらに集まると思っての」
エル君までガックリきたようだ。まあ確かに適当な考えな気もするけど、正直的を射た考えでもあると思う。実際こうして会えているのだし。
ラウリさんのほうはそのままダーヴィド先輩に王手を決めて、満足げに話し始めた。ダーヴィド先輩は暇つぶしの相手だったというわけだろう、先輩のため息が聞こえる。
「さて話というのはほかでもない。ダーヴィド君も悩んでおるようじゃったが………
僕らも適当に椅子を持ってきて座る。
「正直わしはもう少し、こう、大幅でも改良の範疇にとどまると思っておった。それにしては時間がかかると思っておったが、ふたを開ければ別物になっておるでのう」
「まごうことなき新型機ですから」
エル君が弾んだ調子で応じたけど、ラウリさんのほうは眉を下げている。
まあ、確かに学生たちが加える改良がそのまま新型機にまでなってしまった………というのは急な話だろう。そういえば、もともとは
「まったくもって、初手から新型機の完成に至るとは予想外じゃよ。ここまで作り上げた
からには、これは陛下にお見せするつもりなのかの?」
質問というよりは確認といった様子だ。けれど、エル君は首を振る。
「ほう?そのために頑張っていたのかと思っておったが………違ったかの?」
ラウリさんは目を丸くして、それから工房の中に置かれているテレスターレを振り返った。
テレスターレは布石、とエル君は言った。それはたぶん、テレスターレがエル君の思い描く“現時点での最高”に到達していないから。
「陛下にお見せするものは、また別に………あのお願いに意味があると認めてもらえるようなものを考えています。それに陛下は“最高”を所望されたのです。お受けしたからにはこちらも人事を尽くさないと」
「おめぇの人事はまだ尽くされてなかったのかよ!?」
ダーヴィド先輩のツッコミもある意味当たり前ではある。革新的アイデアを提案され、ここまで一丸となって作り上げたテレスターレよりもまだ先があるというのだからね。
「ええ、テレスターレはいわば土台………しっかりと踏み固めたのですから、上には立派な城を作らないと。それでこそ陛下の度肝を抜けるというわけです」
「その前にわしらの度肝がつぶれそうじゃよ」
「大体、坊主は本当のことしか言わねぇから怖ぇな…」
土台か。確かに、結晶筋肉の使い方による出力・強度アップや、二本の腕に縛られない武装を追加したりというのは今後出てきそうなアイデアと比べたら基礎に過ぎないだろう。
内心で一人頷いている僕とは裏腹に、エル君以外の皆は呆れた様子だ。
「エルがそう言うなら、そこはまぁよい。ともあれ新たな機体まで完成させたのじゃからのう、何かしら国への報告は必要じゃろう」
「それは勿論ですね。では結局、陛下にご報告を?」
ラウリさんは首を振る。
「陛下もお忙しい身じゃからのう。エルとの約束であれば陛下にしか判断できぬことであろうが、これだけならばそうではなかろうよ。これまでどおりの手順で連絡することになろうて」
「これまで通りとなると、
「うむ………それにしても新たな機体をまるまる持ち込むとなれば、ちと問題なんじゃがな」
「それって………学生が開発したことと、新型機まるごとの持ち込みに前例がないから、ということですか?エチェバルリア校長」
想像しやすい理由だったけど、あえて訊いてみる。
「レイ君、きみの言う通りじゃよ。このまま持ち込んだとて、どのような扱いになるかさっぱりでな………」
「扱いって………テレスターレは強いんだろ?これからたくさん作れば騎士だって楽になるし、街も安全になる。ここまで出来上がってれば、国の人も喜ぶんじゃねぇのか?」
「そうじゃな………レイ君、君は今の疑問に対しての考えも持っておるのかな?」
ラウリさんは、僕を試すような響きで問いかけてきた。さっきの発言、ちょっと出すぎたものだったかな。
「いちおう、あります。急に知らない技術の完成品を持ち込まれたら、普及させる前に解析しないといけないはずです。
「おおむね合っておる。新たな幻晶騎士の開発とは、本来は国家事業じゃ。まさか学園の設備で完全な新型が作られようなどとは、わしも想像だにせんかったよ。そもそも普通は機体を一新するような技術を、まとめて思いついたりはせんのじゃが………」
そう言って、ラウリさんはエル君、ダーヴィド先輩、僕というように視線を動かす。
エル君とダーヴィド先輩はその目線に耐え切れなかったか、視線をそらした。二人がけん引する形で作られたものね、テレスターレは。
「まあ、そういうことでな。このまま持ち込んだ後にどうなるか、さっぱり読めぬのだよ」
エル君とダーヴィド先輩は視線をそらしても仕方ないと思ったか、ラウリさんのほうを向き直って堂々とし始めた。
「やってしまったものは嘆いても仕方がありません。ここでは皆が幸せになれる、未来への一歩を模索すべきときです」
「まったくだな。技術を形にしないなんざ技術者の名折れ。その後のことはその時に考えりゃあいいことだ!」
「開き直りおったよ、こいつら………」
どこまで本気なんだ、と問うまでもない。エル君もダーヴィド先輩も本音を言っているのだとわかる。
「まぁそれに、鍛冶師としちゃあ新しい技が役に立つってぁ名誉なことよ。ついでに褒章も出るわけで懐にもありがてぇしな。ってわけで本来ならテレスターレ乗って国んとこまですっ飛んでくのが一番なんだろうけどよ、まぁ残念なことにもう一つ問題がありやがる」
「褒章とくると、問題は関わった人数とそれぞれの功績ですか、先輩」
「おうよ。これはちょいとばかし揉めるんじゃねぇか?」
何人関わったのか、誰にどんな功績があるのか。それを把握するのが難しいということだ。学生の立場のままで、なんなら新型機開発として始まったわけですらないがテレスターレ開発だ。
「………ちょっといいか?思いついたことがあるんだが」
いつから聞いていたのか、エドガー先輩が小さく手を上げて言った。
悩みを通り越してしまったか、上の空になりかけていたラウリさんが気を取り直し、エドガー先輩に頷く。
「うむ、意見があるならどのようなものでも構わん、言ってくれたまえ」
「では、失礼して。ひとまずの扱いはさておき、テレスターレはまだ未完成な部分もありますが、その性能は従来のものよりも高い。試作機製造に用いた技術を普及させれば、国内の安全に対する恩恵は大きいでしょう。つまり最終的に国に伝えるのは決まっている………と考えてもいいですね?」
「うむ、それは当然じゃな」
ラウリさんに限らず、これはみんな同意した。こんなものを学園だけに眠らせておく方が問題だと思う。
「………ならば………褒章も確かに問題ですが、テレスターレを渡すときのことも考えた方がいいですね。いえ、方法という意味でなくて、渡してそれで終わりとは思えません」
「普及させるまえに解析しなけりゃならん、ってやつか」
「そうだ、親方。今でこそ俺たちもなじんではいるが、テレスターレを形成する技術はそもそも相当に異様だ」
「確かにそうだ、そういやぁ全員一回は坊主の正気を疑ったな」
「そんなことしてたのですか………」
エドガー先輩はいったん話を止めて、場の全員が理解するのを待ってから続ける。
「………つまりテレスターレだけを渡しても意味はないんじゃないか?解析をして形を真似たとしても、これを形作る根本の発想という部分がちゃんと伝わるかどうかは疑問だ」
「………言われてみりゃあな。いや
なるほど、プレゼンをもう一度するわけだね。悪魔の囁きというのも、ダーヴィド先輩たちに与えた影響をみれば言いえて妙だと思う。
「皆様は僕のことを何だと思ってるのですか………?」
「さしずめ、悪魔の使いってとこか?黒色坊主の方も似たようなもんだろ」
「………泣きますよ?」
「そうかな………そうかも………」
エル君がダーヴィド先輩のことを上目遣いに睨んでいる一方、僕は言われるのも無理はないと思った。
エドガー先輩にはまだ案があるのか、視線を宙に向けて考えをまとめている様子。ラウリさんもそれを見て、続きを促した。
「解決案………というか、どこかで騎操士学科の鍛冶師たちが国機研に説明する必要があると思います。ならば新型機の開発者として、彼らをそのまま雇ってもらうというのも選択肢としてありえるのでは?」
なかなか思い切った意見だと感じた。褒章の配分で揉めるより、新技術に一足早く触れている鍛冶師たちを一括で雇ってしまえばいいというわけだ。
「そうきおったか………それはまた豪気な提案じゃのう」
「彼らには新型機を完成させたという実績があります。さらには既存の技術に対する知識も、言うまでもないでしょう。今後新型機の開発を進めるならば理想的な人材といえるのではないでしょうか」
ラウリさんはこの意見を聞いて、考え始めた。たぶんエドガー先輩の意見を採用する場合、ラウリさんは交渉の矢面に立つことになるのだろう。何せ校長なのだから。
「魅力的な案ではあるがのう、さてそううまくいくかどうか。わしらも精一杯頑張っては見るが………結局は国機研の判断次第じゃからのう」
言いながらもラウリさんは苦笑を浮かべている。
ラウリさんの中で方向性は定まったのか、何度か頷いている。
と、そこにキッド君が声を上げた。
「なぁ、ラウリじいちゃん。俺たちにいい提案があるんだけどよ」
「ほ、キッド?なんじゃろうか」
軽く驚いた顔で、ラウリさんが聞き返した。キッド君たちが提案をしてくるとは思わなかったのだろう。
「じいちゃんたちが交渉するのって、やっぱり難しいんだよな?だったらさ、ほかに交渉できる偉い味方をつけるってのはどうだ?」
「ほう?偉い味方………とは誰かあてがあるのかの?」
「セラーティ侯爵」
キッド君の言葉に、エル君もラウリさんも驚いている。他の人たちも似たようなものだ。
それにしても、セラーティ侯爵か。セラーティ侯爵は国内においても名が知られている貴族だ。キッド君とアディちゃんの父親で、同時にセラーティ先輩の父親でもある。血のつながりはあるとしても、キッド君がこうして言い出すからには、実際に交渉する当てがあるのだろうか。
「………! そうか、そうじゃのう………そういえばセラーティ侯爵といえば、確かあの場にもおった。ならば状況の説明もほかの人間よりはやりやすかろうし、とりなしを頼むのもありうるの。じゃが………よいのかの?」
ラウリさんの反応からするに、どうやらセラーティ侯爵は謁見の場にいたうちの一人らしい。あの場にはフレメヴィーラ陛下に付き従って二人の貴族がいたので、そのうちの一人だろう。つまり、国王に近い人間。なるほど、頼る相手としては申し分ない。
ラウリさんはキッド君たちに問いかけている。キッド君たちが庶子という立場であることが原因だろう。ここで頼るようなことができるのか、という話になる。
「前に、エル君が何かを為したなら教えてほしいって、言われてたの」
どういう流れかは想像に難くない。あの謁見でエル君が
とはいえ、悪辣なやり方でもないと思う。むしろ、結果的にはエル君たちの助けにすらなる。
エル君も頷いた。
「そうですか………二人がいいと言うのなら、僕も異存などありません。皆様は?」
そう問われて、ダーヴィド先輩やエドガー先輩たちはそれぞれに視線を合わせただけで頷いた。セラーティ侯爵の名はそこまでの説得力があるんだね。
「俺らも異存はねぇな」
「では、直接テレスターレを持ち込むのもまずいでしょうし、資料という形で侯爵に連絡を取るというのは?」
「そうじゃのう、その方法でよかろう。ではダーヴィド君には資料の作成を頼めるかの?キッド君、アディ君、その後は君たちの出番じゃ」
「任せてちょうだい!ばっちり渡してくるから!」
元気よく返事するアディちゃんと、横に立つキッド君。二人とも胸を張って立っていて、なんだか頼もしい。
ともあれ、問題の具体的な解決策が決まった。
場の空気が和やかになったことを感じながら、僕は一息ついた。
最近はあまり二次創作らしい変化をつけられていない、と感じています。これは全面的に、私の力不足。
今後も努力していきます。