何にでも乗れる騎操士くん(予定)   作:黒髪赤目の男の娘これが大好き

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公爵からの使い

窓の外が白く光る。

 

これは来るな、と考えるや否や、教室に大音量の雷鳴が響き渡った。

 

ライヒアラ学園街は今、大嵐に襲われている。昼間だというのに教室は薄暗く、また雨音と大小の雷鳴で、授業を行っている教官の声もやや聞き取りにくい。幸い内容は板書にもまとめられているので、それを書きとっておけば内容は理解できる。なので皆、板書を取ることに必死だ。

 

そんな調子で午前の授業は終わり、いつものごとく四人で食堂へ行こうとしたとき。

 

教室に人が入ってきた。あれは………マティアスさんだ。エル君のお父さんで、ライヒアラの高等部で戦闘技能教官をしている人。中等部に来ることはそうないはず。

 

黒板の片づけをしていた教官に何か耳打ちして、頷きあってから僕らの方に歩いてくる。

 

「とう………エチェバルリア教官、どうされたのですか?」

 

マティアスさんが中等部に来る用事というと、やはりエル君関連だろう。

 

「理由は後で説明する。エル、今すぐ一緒に来てほしい」

 

果たしてその通りで、しかも急を要する事態のようだ。

 

エル君は首を傾げて、それから振り返り、僕ら三人を見る。

 

マティアスさんもそれに続いて僕らを見て、言った。

 

「ああ、すまないな。レイ君、キッド君、アディ君、しばらくエルは借りてゆくよ」

 

エル君に対して急用と考えると、テレスターレ関連じゃないかと僕は思う。

 

エル君に目線を合わせて、僕は頷いた。

 

そのまま二人は僕らに小さく会釈して、教室を出て行った。

 

「マティアスのおっちゃん、どうしたんだ?珍しいよな………」

 

「なんだか、嫌な予感がするわね」

 

「気にはなるけど、とりあえず食堂に行こうか。この雨じゃ食堂、いつも以上に混むよ」

 

話はあとでも聞けるだろう。僕は二人を促し、昼食に向かった。

 

 

 

ところが、予想していなかったことが起きた。

 

昼食を終えて、午後の授業に戻ろうとしていた時に、マティアスさんが僕のことまで呼びに来たのだ。

 

「レイ君。君も今すぐ来てくれないか」

 

「え?」

 

「この場では話せないが、とにかく来てほしい」

 

マティアスさんは焦りを滲ませながら食堂に入ってきて、僕に話しかけてきた。

 

エル君はともかく、僕までというのは腑に落ちない。

 

「レイくんまで?」

 

「おいおい、何なんだよ………」

 

「これは、行かないとだね。キッド君、アディちゃん。また後で」

 

有無を言わさぬ状況だろう。僕はそう判断し、マティアスさんについて歩き出した。

 

廊下を歩くうちに行先はわかってきた。おそらく、高等部の工房だ。

 

「テレスターレ………新型機についての話ですね、教官」

 

先を行くマティアスさんに問いかけると、肯定が返ってくる。

 

「………そうだ。それ以上は着いてからにしてくれ」

 

「わかりました」

 

そのまま工房へとたどり着くと、見慣れぬ集団の姿があった。

 

本格的な戦闘用の全身鎧に、何かの紋章が刻まれたマント。そんな人々が二十人はいる。

 

どこかの騎士団だろう。だが、どこの?

 

考えつつもマティアスさんについて騎士団の前のほうへ行けば、そこにはダーヴィド先輩やエドガー先輩たち、そしてエル君がいる。

 

先頭に立っている騎士の人がマティアスさんを見て、そして僕に向かって話し出した。

 

「我々は、朱兎騎士団の騎士だ。ディクスゴード公爵閣下より命を受け、この場にいる」

 

周囲の人の反応は薄い。たぶん、あとから来た僕に対してだけの名乗りだろう。

 

ディクスゴード公爵というと、謁見の場にいた貴族の一人だ。これはラウリさんに聞いたこと。

 

「君に質問がある。君はこの新型幻晶騎士に使われている技術の発案者の一人だということだが。本当かね」

 

続く騎士の人の言葉に、僕は疑問を感じる。テレスターレの開発において、僕は発案者といえるほどの貢献をしていないはずだ。怯んでいるふりをしながらもエル君をちらりと見てみると、彼はいつになく真剣な顔をしている。

 

これはどう答えるべきか。エル君が戸惑っていないということは、もしかするとあえて僕が呼び出されるように仕向けたのかもしれない。何か心配事があるのか。

 

「………はい。まず、僕はレイ・カルザスといいます。友人のエルネスティ・エチェバルリアと、新型幻晶騎士の技術についてアイデアを出し合いました。最終的にまとめ上げたのはエルネスティ・エチェバルリアの方です」

 

こう答えれば語弊は少ないだろう。どこを改良すべきなのか、と話し合った覚えはある。具体的な設計ではエル君の独壇場だったけれど。

 

「………よろしい。これから我々は、新型幻晶騎士に関わった生徒と共に、カザドシュ砦へと新型幻晶騎士を輸送する。ディクスゴード閣下が新型幻晶騎士に興味を持っておられるのだ。君には発案者の一人としてついてきてもらいたい」

 

訝しげな様子も交じる目線を僕に向けながら、騎士の人が言う。

 

もらいたい、とは言うが拒否はできないだろう。しかし、ここまで急な話になるとは驚いた。何故、そして誰が僕が呼ばれるように仕向けたのだろう。

 

「………わかりました。同行します」

 

返事は決まっていた。騎士の人は頷き、配下の騎士の方に向き直って号令する。

 

それ以外の周囲の人たちは、すでに移動の準備を始めている。テレスターレにも行軍の準備として、近接武装や背面武装が装備されている。

 

僕はエル君や、テレスターレに乗らない生徒たちと共に馬車移動だ。

 

準備が進んでいくのを横目に、僕はエル君と端の方へ行く。周囲に聞かれないように見回してから、小声で話しかけた。

 

「これは、わざと?」

 

エル君は頷いた。やはり、エル君がわざと僕も呼ばれるよう仕向けたらしい。

 

「厄介ごとになるかもしれない、と思って」

 

「………だね」

 

ディクスゴード公爵直々にテレスターレを見たいから、と言うだけならともかく、この嵐の中強行軍でやってきて、そして強行軍で連れて帰ろうというのは尋常じゃない。下手すると、権力闘争とかそういう方面で厄介な事態にもなりかねない。

 

さしものエル君も一人では不安だったのかもしれない。僕だったら、発想を共有できる相手の一人や二人は欲しい状況だ。

 

「………モートルビート、持っていけないかな」

 

僕はふと思いついて、言ってみる。

 

「載せられるかもしれませんけど、なぜ?」

 

「一日や二日で済みそうにないと思わない?それに、移動中に魔獣に襲われる可能性もある」

 

「確かに、長くなる可能性はありますね………。暇になったとき、鍛錬を兼ねて動かせたらいいかもしれませんね」

 

「決まりだね。とりあえず、頼んでみようか」

 

「ええ」

 

二人でダーヴィド先輩たちのところへ歩く。

 

「ダーヴィド先輩」「親方」

 

二人で同時に声をかける形になった。

 

「あん?坊主ども、どうした」

 

「幻晶甲冑を馬車に積むことは、可能でしょうか」

 

エル君が切り出す。ダーヴィド先輩とより親しいのはエル君だから、この方がいいだろう。

 

「出来はするだろうが………。おめぇらの二機分か?」

 

エル君が僕に目配せする。

 

「そうですね、できれば二機。万が一の自衛用にもなりますし、幻晶甲冑も発想としては新しいもののはず。ディクスゴード公爵に見せることも考慮に入れられないかと」

 

エル君が頷いた。理由(口実)としてはこれでよかったみたいだ。

 

「………積めて一機だろうよ。どれを積んでいくか、決めてこい」

 

ダーヴィド先輩は条件付きで了承してくれた。

 

「わかりました。行きますよ、レイ」

 

「うん」

 

僕らは幻晶甲冑が置いてある一角へと向かった。

 

エル君の青い機体と、僕の暗緑色の機体。両方とも腕にはワイヤーアンカーが内蔵されている。僕のものはそれに加えて、接地面積を減らした靴と滑走用の車輪がついた仕様になっている。

 

それと追加がもう一つ。テレスターレの外装式板状結晶筋肉の発想を元に、背中に少しだけ板状結晶筋肉を装着している。あまり量は多くないけれど、魔力貯蔵ができるのだ。………もっとも、今のところは装着者自身が乗り込んだ状態で、魔力転換炉の代わりをして蓄えなければならないんだけど。

 

「エル君のと僕の。どっちを積もうか」

 

エル君は苦渋の色を浮かべて唸る。

 

「んむむむ………悩ましいです。できれば両方とも持っていきたい………」

 

「たぶん、馬車が足りなくなるね。まあ、発案者のエル君のがいいんじゃないかな」

 

「いいんですか!?なら………あ」

 

「なに?」

 

何か思いついたらしい。

 

「レイのモートルビートなら、僕も乗れますよね」

 

「そうだね。体格が変わらないし」

 

というよりは、僕ら二人のモートルビートが子供サイズだ。モートルビートは大人の装着も考慮に入れたもので、僕らやキッド君とアディちゃんのものは内部を調整して装着できるようにしてある。

 

「レイのモートルビートはローラーダッシュ仕様なので、披露できる動きも多いはず。レイのを持っていきましょう」

 

「もう一つあるね?」

 

理由が。

 

「ローラーダッシュとワイヤーアンカー、絶対楽しいじゃないですか」

 

「やっぱりね。まあ、披露できる動きが多いっていうのも一理あるし、エル君がいいなら僕のを積もうか」

 

「ええ!」

 

エル君が頷く。僕は暗緑色のモートルビートの装甲を開けて乗り込んだ。

 

「装備も最低限になるね」

 

「実戦用の剣と、モートルビート用の銃杖を持っていきましょう。最低限の対応力は得られるはず」

 

「そうだね」

 

モートルビート、起動。装備をまとめて置いてある棚に歩いていき、実戦用の金属剣と、銃杖を手に取る。背中に剣をマウントして、銃杖は太ももの装甲にあるラックに。

 

それから二人で、入口の方に向かう。工房の前まで馬車が寄せられて、積み込みの最中だ。

 

「戻ってきたか。黒色坊主の方を積むんだな?」

 

ダーヴィド先輩が僕らを見て言った。珍しがるような様子だ。

 

「こっちの方がギミックが多いので!」

 

「そうかよ。まあいい、あれに積み込みだ」

 

荷馬車の方へと指示される。僕は荷馬車の後ろの方にある入口から幌の下に入る。膝立ちの形になって馬車内で移動して、ダーヴィド先輩が指示する通りの場所で降りた。

 

「一機でも狭くなるな………」

 

ダーヴィド先輩は少し唸ったけど、そのまま他の積み込み作業を監督しに行った。

 

僕らは作業の邪魔にならないよう、また端の方に寄る。

 

「………キッド君たちのこと、置いてきちゃったな」

 

また後で、と言ってきてしまった。

 

「そうですね。まあ急なことですし、仕方がありません」

 

「プレゼンすることになりそうだけど、今度は僕も参加したほうがいいね」

 

「共同発案者ということにしてしまいましたからね。覚えてもらいますよ」

 

「うん」

 

僕は工房の外の方に意識を向ける。

 

雷鳴は相変わらずだけど、雨は少し弱まってきているように感じた。

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