何にでも乗れる騎操士くん(予定) 作:黒髪赤目の男の娘これが大好き
「やれやれ、クソミミズめ、厄介なことをしてくれやがって」
ダーヴィド先輩がしかめっ面でぼやいている。
それも当然だ。馬車はかなりの数が残骸になってしまい、同時に馬も犠牲になってしまっている。
「全員が移動するだけの馬車は確保できそうか?」
「無理だな、とても応急修理で直る状態じゃねぇ。頑張っても半分が動けば御の字よ。そもそも俺たちは
騎士の一人がダーヴィド先輩に質問するけど、やはり状況は良くないようだ。
その騎士の人は腕を組んで考えこんだ後に、方針を示す。
「仕方ない、負傷者の搬送を優先するぞ。動ける馬車は怪我人を乗せて先にカザドシュ砦へ向かってくれ。車体は無事だが馬がいない?幻晶騎士で牽け。ここから少し街道を進んでそれたところに村がある。我々はいったんそこに向かうぞ。代わりの足が調達できればいいんだがな………」
というわけで、僕らは徒歩移動になった。ダーヴィド先輩はうっ憤晴らしか、忌々し気に
僕はモートルビートに乗り込んだままの移動だ。小ぶりにはなっているけど、雨の中で徒歩移動するとなるとなかなかつらい。
モートルビートを装着しているのだから、と僕は多めに荷物を持っている。護衛は幻晶騎士がしてくれているので、その方がいいと考えた。
「到着する前からこんな大事か、幸先がわるいね………」
「切り抜けられたことをよしとするしかないですね」
話しながらも、僕らは街道を進んでいった。
近くの村までの道中でも、何度か魔獣の襲撃があった。とはいえそれは散発的なもので、テレスターレやカルダトアたちの前では大した脅威でもなかった。
けれど、その村でも移動手段となる馬車などは確保できず、結局はカザドシュ砦からの迎えを出してもらうことになった。
村から砦への道中も、散発的な襲撃以外の問題は起きなかったが、それでも当初の予定からは三日は遅れて、ようやくカザドシュ砦にたどり着いた。
フレメヴィーラにおける砦とは、つまり幻晶騎士の運用拠点でもある。砦に設けられた工房にテレスターレが運び込まれ、ダーヴィド先輩の指揮で整備が始まった。
僕が乗ってきたモートルビートも、手が空いている鍛冶師の先輩が整備してくれている。損傷はほぼないので、結晶筋肉や装甲のチェックくらいで済んでいるようだ。
「補助腕はさっそく役に立ったみたいだね」
そんな光景を横目に、僕はエル君に話しかける。
「そうですね!テレスターレ五機で固まっての四連装攻撃、さぞかし迫力のある光景だったでしょう………!」
エル君の言うように、幻晶騎士たちが返ってくる前の集中法撃らしき音はテレスターレによるものだったようだ。エドガー先輩たちに聞いたので間違いない。
「騎士団の人たちの反応もよさそうだ」
テレスターレの整備が進んでいくところを眺めている人はかなりいる。騎士や砦の鍛冶師の人たちのようで、おそらく共闘していた騎士から伝わったのだろう。
「それも嬉しくはありますけど………フフッ」
エル君の声も弾んでいる。まあ、その理由は明らかだろう。
工房とは、同時に格納庫でもある。騎士団を一つ抱えるカザドシュ砦なので、この格納庫にはたくさんのカルダトアが並んでいる。テレスターレは一角を間借りしている状態だ。
「ああ、やっぱり格納庫って素晴らしい………幻晶騎士がいっぱいあってさらに素晴らしい………!」
何やら鼻歌を歌いながら歩いている。
「確かに、見てるとなんだか“アガる”ね」
実際に目の前にあるのだから当たり前なのだけど、何というか………実在感がある。
「僕も、早く幻晶騎士に乗りたいな………」
「乗れますよ!モートルビートを使いこなせるなら、直接操縦も夢ではないはず!」
「だといいんだけど。やっぱり直接操縦はできた方がいいかな」
そう簡単にできるものではないとしても、と考えながら言った僕を見ながら、エル君は指を一本立てる。
「たとえば、幻晶騎士用の銃杖のようなものがあったとしたら………?」
銃杖があったら………?僕は自然と、アールカンバーに同乗して陸皇亀と戦った時のことを思い出す。あの時は腕を杖に見立てたけど。
「………術式を組めれば、魔導兵装に縛られずに戦術級魔法を使える………?」
杖として構築されたものを使うのであれば、負担は減るのではないだろうか。
「そうです!」
「そこまで行くと、誰にでもとはいかなそうだ。エル君の幻晶騎士が出来たら、武器はそれかな?」
「対応力という視点で見たら理想じゃないですか?」
「確かに。そうなると、剣と銃杖の機能を兼ねられたら最強かな」
「複合武器ですね!」
複合武器と言えば、ガーンデーヴァとかがそうじゃないだろうか。あれは剣に装着する形で強化できる。
「キッド君たちの銃杖とか、発想としては近そうだ」
「まさに。幻晶甲冑用としても銃杖が使えるのなら、幻晶騎士にもということです」
「ああ、そういう流れか。先に試作品として、幻晶甲冑用に小型の複合武器を作ってみるのもいいんじゃかな」
「アリですね」
格納庫を練り歩きながら話し込んでいると、そこに騎士の一人がやってきた。
何か微笑ましいものを見たような、朗らかな笑顔。
「公爵閣下が君のことを呼んでいるよ。一緒に来てもらえるかな」
その瞬間、エル君の表情が変わる。何というか、自信はあるけど面倒だ………といった顔。
そして僕はというと、謁見の時のようにうろたえないための心構えを決めようとしている。
ディクスゴード公爵へとテレスターレの説明をするのが、エル君(と、共同発案者ということになっている僕)が呼ばれた一番の目的だ。だから、行かないというわけにはいかない。
僕らは呼びに来てくれた騎士の後に続いて、砦を案内されて行った。
カザドシュ砦は石造りの重厚な砦で、廊下は薄暗い。
先導してくれている騎士の人が掲げている灯りからの光が、僕らの影を揺らめかせている。
僕らは無言で、足音と鎧の音だけが響き渡っている。
そうして歩いていると、やがて重厚な扉が見えた。その扉はただ重厚なだけでなく装飾も施されていて、無骨一辺倒の周囲の石壁とは違った雰囲気がある。
加えて言うと、その扉には“上級作戦会議室”と書かれてもいる。ここが目的地のようだ。
騎士の人がその扉をノックすると、中からかすかに声が聞こえた。許可する声だったようで、騎士の人は静かに扉を開けて、僕ら二人に中へ入るよう促す。
部屋の中は立派なもので、絨毯も足音を消してしまうような、柔らかなものだ。真ん中にテーブルがあって、その向こう側に男性が一人座っている。
髪や髭は白いけれど姿勢はしっかりしていて、まだ若さを失いきってはいないように見える。確かに謁見のときにもいた人だ。彼がディクスゴード公爵か。
公爵は僕らに席を勧めてくれた。エル君、僕と順番に簡単な挨拶をし、一礼して椅子に座らせてもらう。
すると給仕の人がやってきて、僕らの前にソーサーとティーカップを置いてから紅茶を注いでくれる。高級な茶葉なのか、かぐわしい香りが漂い始めた。
ディクスゴード公爵の表情は真剣なものだ。公爵からすると、エル君は得体が知れない存在なのかもしれない。
果たしてどう出てくるのか、と考えながら僕は唾を飲み込んだ。