何にでも乗れる騎操士くん(予定)   作:黒髪赤目の男の娘これが大好き

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公爵との会談

ディクスゴード公爵との会談は、和やかに始まった。

 

改めての自己紹介を終えて、雑談を交わす流れだったけど、ここまでは様子見だったに違いない。

 

「さて、エルネスティよ。そろそろ君たちが開発した新型機のことを聞こう」

 

その言葉に、エル君は僕を横目に見て頷くと、持ち込んでいた鞄を取り出した。その中には、テレスターレについてまとめられた資料が入っている。

 

カザドシュ砦に呼び出されてから、プレゼンテーション用に新しく作ったものだ。

 

「では、まずこちらの資料をお受け取りください。これからの説明を理解する助けになるかと思います」

 

僕はスッと立ち上がると、エル君から資料の束を受け取って公爵の方まで持っていく。

 

「失礼します、公爵。こちらが資料になります、どうぞ」

 

「あ、ああ。ありがとう」

 

公爵の前のティーカップの横へ資料を置いた。公爵は少し困惑した様子だ。僕は一礼してエル君の横に戻る。

 

「資料はお受け取りいただけましたね。では、さっそく新型機、テレスターレの概要から説明させていただきます」

 

そこから、エル君のプレゼンテーションが始まった。

 

「まず、テレスターレの根本となっている改良を。一つ目は、結晶筋肉そのものの使い方を変更することによる出力・耐久性の改善をしたもの。そして二つ目は、背部に追加した、魔導兵装を保持できる補助腕と、その制御、および照準用の術式を合わせたものです」

 

聞きながら、あの謁見の日を思い出す。結晶筋肉の耐久性改善は、もとはと言えばエル君の直接操縦で振り回しても耐えられるものを、という考えからだった。エル君が後により詳しく教えてくれたけど、結晶筋肉が一本でなく、複数を束ねる形にすれば強い結晶筋肉ができるのでは、というある意味では単純な発想だったらしい。

 

背面武装の方は、幻晶騎士があくまで人型で、すべての武装を二本の腕で扱っている現状を改良できないかという発想だ。

 

どちらも、フレメヴィーラの常識から外れた発想。エル君と僕は、フレメヴィーラとは違う価値観と文化を知っているという発想の源泉の違いを共有している。

 

何ら貢献できているとは言えないのに、僕も発案者ということにしたのはこれが理由なのだろう。さすがのエル君も、こうも急な話になれば頼る相手が欲しいということか。

 

………頼る相手、か。

 

「結晶筋肉の使い方の変更について、詳しく説明いたします。既存の幻晶騎士の結晶筋肉は、一本の太い結晶筋肉を人体のごとく、各部に張る形になっています。これを直接強化することも考えましたが、錬金術の方はあまり詳しくありません。そこで、結晶筋肉の張り方を変えられないかと考えました。一本より三本、四本、というように考えてから、結晶筋肉が繊維状であることに着目したのです」

 

「………」

 

「結晶筋肉を複数縒り合わせて、綱とする。こうすれば一本を直線的に張るより強度が高まるはずです。さらに編み込む形になるため、収縮距離の増加によって発揮できる出力の増大も望めないかと考えました。実際に造るにあたっては、騎操士学科の整備班の方々の協力を頂いています」

 

「………」

 

「結果として、このように全身に、騎操士学科の騎操鍛冶師たちにより新開発いたしました綱型結晶筋肉を用いることで、新型機は従来に比べて一.五倍近くの出力を得ており、また結晶筋肉そのものの耐久性においては十倍近いという結果も出ております。綱型結晶筋肉の試験結果は、お渡ししました資料の方にも記載してあります」

 

「………」

 

立て板に水といった調子だ。ディクスゴード公爵は小さく唸りを漏らしながらも、説明に合わせた資料を見ながら理解をしようとしている様子。

 

「ここまでの説明において、疑問はございませんでしょうか?」

 

エル君は一度説明を止めて、公爵に聞いた。公爵は息を眺めに吐いて、問いかけてきた。

 

「………エルネスティとレイの二人による共同発案という話であったが、レイの方はどのように関わっておるのか、聞こう」

 

目線は僕の方に向けられている。………さて、これはどう答えたものか。できれば事実だけで答えたい。

 

「お答えいたします、ディクスゴード公爵。公爵も陸皇事変の際、エルネスティの操縦していた紅の幻晶騎士が最終的に大破したことは聞き及んでおりますよね?」

 

「ああ、聞いておる」

 

「そうなった原因の一つは、エルネスティの直接操縦による高機動に幻晶騎士の結晶筋肉が耐え切れず、脚部の結晶筋肉が疲労断裂したことにあります。僕はそれを目撃した事で理解しており、新型機を作るにあたって改良すべき部位の一つとしてエルネスティと話しあいました」

 

「それだけか?」

 

「他にもあります。幻晶騎士は、二本の腕により剣や盾、魔導兵装を運用しておりますが、それ以外にも武装の運用法を追加できないかという考えを持っており、その点でもエルネスティと意見が一致しました。現実的に考えると、運用するための部位と制御術式の追加になるという考えの方もありました。こちら背面武装と名付けられているのですが、補助腕を制御して照準をつける際、幻像投影機に表示する照準の形状などについても意見を出しております」

 

現実的に考えて、言えるのはこれだけだ。

 

「………言葉の通り、共同の発案者というわけだな。では、実際の設計面においては関与していないと?」

 

「はい。概念までは関わっておりますが、実現するにあたってはエルネスティが具体化させ、騎操士学科の先輩方が実現させた形になります」

 

「そうか。今のところの質問は以上だ。続けたまえ」

 

「承知いたしました。それでは、背面武装について詳しくご説明いたします」

 

ディクスゴード公爵に続きを促されて、再びエル君の説明が始まる。

 

「背面武装とは、新型機の背部に追加された補助腕と、そこに装備した魔導兵装の制御、照準のための術式を合わせての総称です。補助腕は魔導兵装の保持に機能を絞った簡易的な腕でして、こちらに様々な魔導兵装を装備することができます。具体的な形状はお手元の資料をご覧ください」

 

ディクスゴード公爵は補助腕の図が描かれた資料に目を落としている。

 

「この補助腕は射撃体勢への切り替えと共に魔導兵装を前に向けて、騎操士は幻像投影機に表示された照準を法撃目標に合わせる形で狙いをつけます。補助腕と魔導兵装は、その動きに合わせて自動的に動くように術式を組んであります」

 

「………ほう」

 

「騎操士への負担はあまり増加しない構成としておりまして、試験として行われた模擬戦においても、近接戦闘をしかけながらの法撃などができることを確認しております。また、更に両手にも魔導兵装を装備することで、一機につき四本の魔導兵装を運用することも可能です」

 

感心していた様子で説明を聞いていたディクスゴード公爵だったけど、ここで首を傾げた。もしかして、テレスターレの問題点を見抜いたのかな。

 

「以上の二つが骨子となる改良なのですが、これによって問題点の方も発生しております」

 

エル君のほうも、ちょうどその説明に差し掛かったところだ。

 

「お手元の資料をご覧ください。前述の通り新型機は従来型に比べ高い筋力、豊富な装備運用能力を誇りますが、反面持久力にやや問題が残っております。綱型結晶筋肉じたいは高性能なものとなりましたが、魔力消費量も増えております。また背面武装も、法撃が容易になったことによって消費魔力の増加を招く形になりました」

 

公爵は頷いている。やはり、問題点を見抜いていたようだ。

 

「この問題への対策として、結晶筋肉を魔力の貯蔵にだけ使う利用法を発案いたしました。こちら錬金術学科の方々にご協力いただきまして、板状に成型した結晶筋肉を製作しました。こちらの板状結晶筋肉を外装と重ねた蓄魔力式装甲を、機体の運動性に影響を及ぼさない程度に装備。さらに、背部や腰部などの部位にも板状結晶筋肉を外装することで、稼働時間の低下を抑えております。これらを含めた最終的な稼働時間を既存の機体と比較した試験結果もそちらの資料に用意しております」

 

ディクスゴード公爵へのテレスターレのプレゼンは順調に進んでいる。

 

この後も使われている技術の詳細、機体のコスト面、動作試験の結果などなど、エル君が練り上げた内容にディクスゴード公爵は資料を読みながらも聞き入り、最終的にプレゼンが終わった時には三時間は経っていた。

 

すべてを話し切ったエル君が、満足げに冷めてしまった紅茶を飲んでいる一方でディクスゴード公爵は何度か頷き、小さく唸り、そして何かを言いかけたところで固まった。

 

目をやや見開いて、閉じ、息を吐く。そして、口を開いた。

 

「なるほど、新型機については、いくつか質問があるが………その前にエルネスティ、そしてレイよ。その扱いについてだがな」

 

明らかに雰囲気をとがらせて告げられた言葉。それに、僕は罪悪感を感じる。

 

テレスターレのコンセプトを具体化させたのはエル君で、テレスターレの扱いについて、訊かれるべきはエル君だけだ。

 

「“陛下より許しを得”、此度の新型機の評定から今後の運用まで、その全権を私が任されることとなった」

 

そう宣言するディクスゴード公爵は、国王の側近だ。そもそも公爵という爵位事態、最上位のもの。全権を任されることになったという言葉に嘘はないだろう。ディクスゴード公爵は国王の代理人だ。

 

「新型機に関するすべてを私が管理する。それは情報についても然りだ。これらは、私から陛下へお伝えすることになる」

 

………はて?

 

ディクスゴード公爵の雰囲気からして、これは真剣な言葉だ。なにがしかの意図もあってのものだろう。

 

ところが、その内容が当然のことしか言っていない。ディクスゴード公爵は国王の代理人としてテレスターレを評価し、運用の是非を含めた計画までを決定して国王に伝える。そういうことはしょせん学生にしかすぎないエル君という立場では難しいことだ。

 

その考えはエル君自身も同じだったようで、すぐに言葉を返した。

 

「よかった、では今後陛下に同じ説明をする必要はないのですね。あとはよろしくお願いいたします。それと、疑問があればなんなりとお尋ねください」

 

頷いたエル君は一礼する。

 

「僭越ながら、僕の方からもよろしくお願いいたします」

 

共同発案者ということになっているので、僕も続けてお願いしてから一礼する。

 

公爵は僕らの態度に、無表情なまま目だけを何度も瞬かせていた。

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