何にでも乗れる騎操士くん(予定) 作:黒髪赤目の男の娘これが大好き
ディクスゴード公爵が、固まっている。
僕らの反応が意外なものだったのだろうか。
「閣下が全権をお持ちならば、一つ確認したいことがございます」
エル君は公爵の様子を少し見てから、話を次に移した。
「………う、うむ、なんだ」
「新型機のご報告をした際に騎操士学科の生徒の扱いについて、一緒に申し入れたと思うのですが………」
公爵は気を取り直したのか、咳ばらいをしてからエル君に答えてくれる。
「ああ、聞いている。彼らを新型機開発の人員として雇用できないかと。それについては断言できぬが、開発が本格化すればおそらくは人手はいくらあっても足りぬこととなろう。むしろ彼らが断ったとしてもその位置についてもらうこととなるだろうな」
報酬問題で揉める可能性がほぼなくなったということだ。エル君が安心したように息を吐いた。
ディクスゴード公爵はまた目を瞬かせてから、言葉を選ぶように質問してくる。
「………エルネスティ、そしてレイよ。お前たちは、何のために来たのだ?」
この言葉に、僕らは顔を見合わせた。エル君もきょとんとした顔をしている。何のためって、新型機の発案者として説明をさせに呼んだんじゃ………?
「新型機の説明と、要望として出していました先輩たちの採用について確認にきました」
「発案者の一人として………ということだったので、目的はこれで果たせたのではないですか………?」
結局、僕らはそれぞれに公爵へ言葉を返す。
公爵は唸りながら悩みだしてしまった。気まずい時間がながれる。
何故公爵は悩んでいるのだろう?
公爵が固まったのは、新型機の全権を自身が持つという話のあとだった。
………全権を持つ?公爵はひょっとして、エル君が新型機の発案者として、何かしらの要求をしてくることを視野に入れていた?例えば、今後の計画にも関わりたいとか、追加の褒章の話とか………?
僕がそんな考えに至った時、公爵はやや下げていた顔を上げた。そして再び問いかけてくる。
「………お前たちは、どうするのだ?新型機を売り込み、学生たちを売り込み、それはいい。しかし肝心のお前がどうするかを聞いていないにもかかわらず、お前たちは満足しているように見える。お前が新型機の発案者なのだろう?その功績をもって、何か言うべきことがあるはずだ」
なるほど、やはりそういうことか。公爵はエル君自身の望むことも知りたかった、ということなのだろう。確かに、そういう話もしてしかるべきか。
エル君はというと、当たりまえといった調子で問いかけに答えた。
「僕ですか?どうするも何も、僕はまだ中等部の学生ですから、卒業するまで学園に通いますけど」
この答えに、ディクスゴード公爵ははっきりと面食らった表情をした。
「な………これだけのことをしでかしておいて、今更それか!?」
強い口調で訊いている。
「今更とおっしゃいますが………仮に僕まで国機研に行くことになりますと、僕は中等部中退という経歴になってしまいます。それでは両親を悲しませてしまいそうですし」
エル君としては本音に違いない。公爵は眉間に皺を寄せて、僕の方にも訊いてきた。
「まさか、お前も学園に通い続けるつもりか!?」
「あ、はい、通い続けたいと考えています。まだ幻晶騎士をまともに操縦したこともないですし」
実際、僕にとっては大事なことだ。独学はしているけど、やはりライヒアラという教育機関での正式な教育を受けたい。
「何………!?騎操士学科志望、ああ、そうであったな………褒章として学費を要求していたか………」
ディクスゴード公爵は僕の答えを聞いて少しクールダウンし、ため息をついた。
「………お前たちは自分が何をしたか、わかっているのか?」
「新型の幻晶騎士を、提案しただけですよ?」
「だけ………。簡単に言ってくれる………あまりにも当たり前で、説明するのもむなしいがあえて言ってやる。よいか?この国の成立以来、いや人が歴史を歩み始めて以来、“新しい幻晶騎士を提案した個人”などというものは一人として存在しないのだ!言うまでもないが、幻晶騎士の開発は数多の人間が関わる一大事業だ!新たな機体を提案する集団がいても個人で成し遂げられることでは、決してないのだ!」
「二人なのですけれど………」
エル君が訂正しているけど、実際のところはディクスゴード公爵の言葉が正しい。僕が学園に通い続けたい理由でもあるのだけど。
「二人だとしても前代未聞だ!陛下が魔力転換炉と引き換えに出した条件………あれは不可能と言い換えても間違いではない!それをしれっと持ち込んでくるような非常識の極みをやってのけながら、この期に及んで何を普通の子供みたいなことを言っておるか!」
公爵は半ば怒鳴りながら、立ち上がっている。完全にヒートアップしている様子を見て、僕は実際に十二歳の子供(中身はともかく)なのであると言うのをやめた。公爵はきっと、今までにない事態で心にダメージを受けているのだろう。
「いえ、テレスターレを持ち込む気はなくて、陛下へお見せするものは別にあります」
「えっ」
確かにそうなのだけど、何も今言わなくても。………いや、今言うべきなのか………?
公爵はエル君の冷静な声に、口調だけは押さえて聞き返している。
「………まだか、まだ何かやる気か、貴様」
表情も冷静を装っているけど、目が怖い。
「はい、もちろん。幻晶騎士を作ることが、僕の“趣味”ですから」
公爵はスンと静まりかえってしまった。力が抜けたように椅子に腰を下ろして、少ししてから呟く。
「………そうか」
これで会談は終わりかな、と僕は思った。
ディクスゴード公爵はまた少しの間、無言で考えこむ。それから、僕らに向かって言った。
「………新型機のことと、開発に貢献した人員についてのことはよい。エルネスティ、お前の部屋を用意させ、案内させる。外の騎士に聞け。レイの方はまだ残って欲しい」
「え」
「わかりました。それでは、失礼いたします」
エル君は立ち上がって、礼をする。
そのまま、部屋を出て行ってしまった。
「………え、っと。ディクスゴード公爵閣下、なぜ僕だけを残したのでしょう………?」
とりあえず、聞いてみる。公爵は怒るような様子を見せずに説明してくれる。
「改めて、新型機の開発経緯を聞きたい。先ほどまではエルネスティが主に説明していたが、お前の口からも聞いておきたいのだ」
何か、嫌に正直だ。疲れたのだろうか。
「あ、はい。では、まず開発の初めからお話ししますね」
「うむ」
ディクスゴード公爵はテーブルの上で腕を組んでいる。
「新型機のもとは、陸皇事変で損傷した訓練機のサロドレアであることはご理解いただけていると思います」
公爵が頷く。
「もともとは、エルネスティが陸皇事変の際に搭乗し、最終的に脚部の結晶筋肉の疲労断裂を起こした機体の損傷原因を、騎操士学科の鍛冶師のまとめ役であるダーヴィド・ヘプケン先輩がエルネスティ本人に聞こうとしたところから始まったのです」
「原因は」
「エルネスティが、魔導演算機の代わりに演算することで直接操縦をしたことが原因です。これによって、通常の操縦法よりも高い能力を発揮できたのですが、その状態で長時間戦闘をしたことで結晶筋肉が急速に疲労したのです。そのうえ、陸皇亀に対しての止めとして、機体の安全装置を無効化したうえで全魔力を使った法撃をしたため、機体の操縦席以外が分解する事態になりました」
「むぅ………」
「エルネスティの本気の操縦には、既存の幻晶騎士は耐えられなかったのです。ダーヴィド先輩はこれに頭を悩ませたのですが、ここで結晶筋肉の改良としてエルネスティが提案したのが、綱型結晶筋肉です」
「………では、大まかな構造はエルネスティの頭にすでにあったと?」
「はい、結晶筋肉を綱として縒るというところまでは。実際にどのように縒り合わせるかは、整備班の方でさまざまに試作したうえで決定されたものです」
「そうか。では、背面武装の方は?」
「綱型結晶筋肉と同時に提案されたものとなります。ダーヴィド先輩たち整備班が関心を持った結果、詳細にプレ………説明会が開かれることとなりました。この説明会で本格的に新型機開発が始まったことになります」
「その時点で、骨子となる改良案は確立していたと」
「はい。サロドレアを修復する際に、この新技術を組み込んでいった結果として、新型機と言えるような機体になったのです」
サロドレアの修復作業を始めて、出来上がったのは
ディクスゴード公爵はまた少し考えてから、問いかけてくる。
「………エルネスティの発想の源泉は何なのだ。お前に何か心当たりはないか」
公爵にとって重要なのはこれかな、と思い至った。もともと公爵のほうには、エル君一人が発案者だという正しい情報が伝わっていたはず。公爵は、エル君の正体を見定めたいのかもしれない。
………発想の源泉、か。僕とエル君にとってそれは明確なことなのだけど、それをそのまま説明しても理解を得られなさそうな気がする。
「発想の源泉、ですか。はっきりとはわかりません。僕自身の例をもとにした推測でよければ………」
僕は無難な意見を言うことにした。
「聞こう」
「エルネスティは幼いころから、幻晶騎士への憧れを持っていたそうです。実のところ、僕もエルネスティほどではありませんが、同じように興味を持って書物などで学んできました。体系的な、実際の運用に即した教育を受ける前から、です。こういう状況がゆえに、既存の概念に縛られない発想が出てきたのではないか、と………」
公爵は渋い顔をしている。納得した、という様子ではない。まあ、十二歳の子供が幻晶騎士に憧れて学んだ程度で、実現可能な改良まで思いついたというのは説得力には欠けるだろう。
「………参考にはなった」
「………いえ、ありきたりな推測ですみません」
「構わない。私が聞きたいことは以上だ。お前の部屋も用意させよう。外に騎士が待機している」
「分かりました。それでは、失礼いたします、ディクスゴード公爵」
立ち上がって一礼してから、会議室を退室する。公爵の言う通り、扉の外には騎士の人がいて、部屋へ案内してくれた。
ついて歩きながらも、僕はあれこれと考えにならない思考をしていた。