何にでも乗れる騎操士くん(予定) 作:黒髪赤目の男の娘これが大好き
例のバルトサールに遭遇してから何かトラブルがあったかといえば、意外なことに全然なかった。
僕はキッド君とアディちゃんと一緒に魔法を訓練するうちに授業の範囲を逸脱してしまったらしく、結局魔法の座学の時間は自主訓練の時間になっている。
僕は割と1人でいる時間も多くて、よく図書館に籠もっている。魔法の上達には実地訓練も必要だけど、根本的にはロジックだ。理解度を高めるには先例を自分なりに解釈するのが一番。
エチェバルリア式を参考に、
セラーティ先輩と遭遇した。先輩と僕がつけるセラーティの人といえば、ステファニア・セラーティ先輩だ。入学式の日に見たセラーティ先輩の印象は、バルトサールと比べたら雲泥の差がある。キッド君から聞いた所によると、バルトサールと違ってあまり邪険にしてこないらしい。
「熱心ね、あなた」
「ええ、セラーティ先輩。魔法は奥が深いですから、いつも勉強してます」
声をかけられたので、当たり障りのない返事を返す。
「キッドとアディとも仲良くしてくれてるのよね?感謝してるわ」
「そうですね。目に見えて魔法が上手かったので、教わりたかったんですけれど。友人として接してくれてるので僕が感謝したいくらいです」
「そうなのね。向上心があるのはいいことよ。ところであなた………入学式の日にいたわよね」
剣呑さのない雑談のような口調だ。なので僕も軽めに返す。
「ああ、覚えてましたか?席が空いてなかったので座ったら後から先輩が来ましたよね。会話がちょっと聞こえてました」
ついでにぶっちゃけておく。
「あら、正直ね」
「あれだけ近くにいれば聞こえますよ。盗み聞きたかった訳でもないですし」
「でもあなた、聞いてませんでしたとばかりに首を傾げていたわよね。あれを見て私………」
コレに関しては僕が悪いので、謝ることにする。
「確かに、誤魔化しちゃいました。ごめんなさ………」
「こうしたくなったの」
「え?」
責められるかと思ったら、頭を撫でられた。
「うふふ、良い触り心地。綺麗な黒髪、羨ましいわ」
「先輩の金髪も綺麗ですよ」
「あら、ありがとう。更に撫でてあげちゃうわ」
この感じ、覚えがある。
「さては先輩、アディちゃんの同類ですね?」
「正解。あなたやエル君みたいな、賢くて可愛い子は好きなのよ」
僕を撫でるアディちゃんとセラーティ先輩の雰囲気が似ている。これは血筋なのかな。
「そうですか。まぁ、好きに撫でていってください。勉強の邪魔しなければ怒らないので」
「いいのかしら?」
「どうぞ」
今は術式構築がしたい。この
無言で試行錯誤と参考書の解釈を続ける。セラーティ先輩に撫でられる感覚は脳から追い出す。
ところがそうも言ってられなくなった。
「いい匂い………」
「嗅がないでくださいよ、流石に恥ずかしいです」
「あら、嫌な匂いはしないけれど?」
「ここ図書館なんですよ。あなた貴族の淑女でしょ」
「………それもそうね。今度は別の場所で会いたいわ」
「嫌です。身の危険を感じるので」
「優しくするのに………。またね、レイ君」
「さようなら、先輩」
セラーティ先輩が去ったので、僕は改めて術式に取り組み始めた。
また別の日。僕はライヒアラ学園街の、ある工房に来ていた。
僕は今、先生にもらった杖を使っている。その先生は僕に、いずれはもっと自分に合った杖を買うのがいいと教えてくれていた。入学してからどうにかお金を貯めて買おうと思っていたのだけど、エチェバルリア君のライフル杖を見てちょっとした衝撃を受けたんだ。なるほど、特注なら使いやすいものを作ってもらえるのか、と。
それから僕は節約したり、ライヒアラ学園街の店で働かせてもらったりとお金を貯める生活を始めた。それでコツコツ貯めたお金を持って、エチェバルリア君とキッド君にアディちゃんが杖を特注で製作してもらった工房、テルモネン工房に行った。
僕が下手ながらも書いていった概念図は、前世で言うハンドガンを参考にしたもの。入
学してもう一年は経っているというのに身長が伸びていない上、身体強化もまだそこまで上手くない僕としては、長物は使いこなせないと思ってのことだった。
テルモネン工房は、入学の時にキッド君たちと一緒にいたドワーフのバトソン君、彼のお父さんが経営している工房だ。僕が持ち込んだ図を見たバトソン君のお父さんはすぐにライフル杖の類型だとわかったようで、僕のためにしっかりと実用性を考えた提案を加えた図を作ってくれた。
幸いお金は足りそうだったので、その日に制作をお願いして完成を待つことにした。
そして今日、受け取りに来たというわけだ。
「ほらよ、カルザス君。これが専用の杖だ」
そう言ってテルモネンさんが台に置いたのは、大き目のハンドガンと、鞘に収まったナイフ。
もともと僕が書いた概念図は、コンテンダーという銃を参考にしたものだった。その図では銃床のないただの銃のかたちをした杖だったけれど、テルモネンさんの提案で銃身の後ろの方に、柄頭に上下逆に回せる銃床がついたものが追加されている。
この柄を握り、補強されている銃身の方にナイフをつけて剣として扱うこともできる。
テルモネンさん曰く、これらは全てエチェバルリア君のライフル杖、
「おお………凄い………」
「感心してくれるのは嬉しいが、使ってみてくれや。合ってなかったら修正しなけりゃならんからな」
「あ、すみません。試させてもらいますね」
テルモネンさんに案内されて、工房の裏手の庭に行く。庭には試し切り用の的などが置いてある。
まず僕は片手で試すために銃床部分を回して、右手、次は左手と言う風に片手で構えてみる。狙いやすい。バランスもいい。これ、銃床の重さで前後の釣り合いが取れているんだな。
「撃ってみますね」
「おう」
次に銃床を戻して、肩付けして構えてみる。もともと構えやすかったのが更に安定する。的からかなり遠ざかってから
最後にサブグリップを持って先端にナイフを取り付ける。構えてみると、ちょうど短めの剣のようなサイズ感だ。普通の剣より軽いし、これなら接近戦もしやすいはず。
「えい」
手近な的に向けて振り抜き、当たる間際に空気魔法の
「完璧ですよ、テルモネンさん。とても使いやすいです」
「そうか、よかったぜ」
「エチェバルリア君って凄いこと考えますよね。それを形にできるテルモネンさんも凄いです」
「ありがとよ」
本心から称賛すると、テルモネンさんはやや照れくさそうにする。
僕は杖をホルスターに納めて、それからテルモネンさんにお礼を言ってから帰ることにした。たぶん、傍からはだいぶ浮かれて見えていたと思う。