鐘声と軟風   作:ダンまちファン

3 / 10

感想・評価・誤字修正、非常にありがたいです。
かっこいいベルと活躍するアイズを見せたかったので感想とても嬉しいです


第三話 ダンジョンで出会いを感じるのは間違っているのだろうか

 

 殆ど無傷で異常事態(イレギュラー)を突破したけれどここから先はやめておいた方がいいとフィンの親指が痙攣したので、一旦地上へと戻ることにした。派閥を支えてきた賢人の頼みの綱である。その力をよく知っている三首領及び幹部は納得した。

 

 それでも派閥の中には行ってみてもいいんじゃないかという意見も残っていた。特に先ほど活躍できず体力を持て余していた前衛である。期待の若手達は先ほどのベルの一撃に当てられてやる気になってしまった。結構なことであるがこうなると理詰めの説得は面倒臭い。

 

 だから、ついでにベルにも聞いてみた。「ボク()行ってみてもいい」と返してきたので全員は余計にダメだと感じて帰ることにする。

 

 真似したら死ぬと恐れられるベルが「ボクたちは」ではなく「ボクは」を使った。幸運さんの面目躍如である。実際に彼の冒険に付き合った家族(ロキ・ファミリア)は知っている。こういう時は本当に碌な事が起きないという事をだ。

 何度も何度も巻き込まれている妖精貴(レフィーヤ)は顔面を蒼白にして帰ろうと言い出した。凶狼(ベート)ですらげんなりした態度を隠せずに帰ろうと言っている。どんだけだよ……とあまり関わりのない団員は引いた。

 

「あーもう悔しい! せっかく50階層まで来れたのにな〜」

「いい加減にしなさい。ティオナ、団長の判断に従わないつもり?」

「そうは言ってないじゃーん。けどあの芋虫気持ち悪かったぁ……」

 

 そう言って悔しがるティオナの気持ちは全員が同じだ。大切断(アマゾン)、その二つ名の通り切断を得意とする彼女が最も苦手とする敵は正直二度と会いたくないだろう。硬いのならいいのだ。壊れるまで切ればいいのだから。

 

「でも……団長。確かに新種を深追いするのはやめましたが」

「ああ、ベル。君の言いたいことはわかる。……()()()()()()()が奥にあるということだろう? 奥にはアレがさっきの比にならないくらい群れていてベルの吹き飛ばした女性姿の怪物も複数体存在するかもしれない。それは」

「最悪だな。階層主+αを想定して動かなければならん。……しかしカドモスの泉の泉水は貴重な治癒薬の材料だ」

「つまり儂らは貴重な資源を人質に取られているということか。面倒じゃわい」

 

 首脳陣は帰り道を通りながら、ありえるかもしれない想像を話し合う。さっきの判断の意図を聞き、考察を繰り返して現状を知る。

 ここはダンジョンの真奥であり、盗み聞きするものは誰もいない。機密であろうが気にならなかった。それよりもそれは、牽制であった。

 

 血気盛んな若手に対する説明である。はるばる地下までやってきていきなり、撤退と言われてもちゃんと首を縦に振れるものはいないし撤退の根拠も現状はプロの勘なんてあやふやなものである。だからこそ、ここで一つ丁寧に納得してもらうため討論を明け透けに行っているのである。

 

 事実、それを聞いてなるほどと納得した眷属達がちらほらといる。本能的なものも周りの雰囲気に流されて少しずつ熱が冷めていっていた。しかし、現状の厄介さも知り再度進行の意義も胸に刻む。作戦通り、と彼らは笑い合う。

 

「にしても、何の成果もなしかぁ」

「落ち込まないでください、ティオナさん」

「……ふっふーん! コレを見なさいティオナ」

「うぇ〜変な色の魔石。どうやって取ったの?」

「手を突っ込んで直接引き摺り出してやったのよ。団長〜! これってお手柄ですよね〜!」

「ティオネ、後で話がある」

 

 それはそれとしてお手柄だと褒めるフィン。褒められて衝動的に抱きつこうとするティオナである。ある意味いつもの光景に団員は呆れて関わらないようにした。恋するアマゾネスは恐ろしいのである。

 

 

 彼らは順調に階層を登り、都へと帰っていく。徒労ではあったものの、新種の発見と対策に当てられるというのならまぁいいだろう。

 

 岩石の通路を進んでいく一団。下層、中層と段々進んでいく度に怪物(モンスター)も弱くなっていくため、彼らは上に登っていっているという実感を噛み締めた。上の方が楽と言ってもここはダンジョンであり、神経をすり減らしていく。だからこそ上に辿り着く実感は気の緩みに繋がり、事故に繋がったのだろうか。

 

 迷宮の楽園(アンダー・リゾート)を抜けた先、迷宮屈指の綺麗な光景に癒された後だからだろうか17階層で問題が起こる。

 

『ヴォオオオオオオッ!!!!!!』

 

 進行先の通路にいたのは推定レベル2の実力を誇る牛頭人型のモンスター、ミノタウロスだ。強い戦闘能力を感じさせる発達した筋肉に相対した相手を恐れさせる人を越えた巨躯は先ほどの咆哮も相まって迫力がある。

 

 けれど、問題はない。

 

 ここにいるのは都市最強で、誰一人として中層のモンスターを倒せない雑魚ではない。本来ならレベル2のパーティで当たる相手、その群れを第一級の率いる派閥が捌くという状況。

 

 ハッキリ言って負ける筈なかった。戦闘ではなく殲滅戦である。ロキ・ファミリアは喜んで目の前の怪物の相手をした。

 

 特に喜んだのは前衛である。いいところは無し、手持ち無沙汰で帰ってきた鬱憤をそこそこ固くて手応えのある獲物が晴らさせてくれるというのだ。第一級であるベートやティオネ、ティオナすら混じって駆逐していく。剣を振れば切れる、蹴りを喰らわせば中身が吹っ飛ぶというのは芋虫どもの戦いから久しく味わっていないものであり、暴力の味を味わった。

 

 中層最強がバッタバッタとやられていく。多くの冒険者が見れば可笑しくて笑ってしまう殺戮劇がそこにある。

 

 彼らの活躍により群れの半数が即座に灰へと還っていった。けれど、ミノタウロスの群れはやけに多くしつこく向かってきていた。やがて戦力差を感じて恐れを抱いたのだろうか。後ろの方にいた数十匹のミノタウロスが我先にと強者から背を向けて逃げ出した。

 

「なっ!?」

「テメェら、モンスターだろうが!」

 

「不味いっ! 上には上層の冒険者達が!」

「今すぐ追います。フィンさん!」

「私も行きます、ベル!」

 

 本能で動くモンスターの撤退という通常ではあり得ない光景。それが少数とはいえ群れで逃げ出すという事態はさしものロキ・ファミリアでも考えつかない事態であった。

 

 先ほども言った通り、道化の眷属(ロキ・ファミリア)にとってはミノタウロスなど小物である。が、それは最強派閥(ロキ・ファミリア)にとっての現実であり、事実として逃げた彼らは中層最強と謳われるモンスターである。

 

 一心不乱に階段を駆け上がり、恐慌ゆえの凶暴さで突っ込んでいく猛牛たち。それは未熟な冒険者からしたらどれだけ恐ろしいことだろうか。

 

 目が正気とも思えない色に染まり、涎を撒き散らしながら叫び声と共に赤銅色の肌の怪物である。しかも攻撃は碌に通らず、速さと並外れている。上層の冒険者に悪夢が襲い掛かろうとしていた。

 

 

 当然、その事を思い当たらないフィンではない。ファミリアに即座に形振り構わない殲滅命令を出す。ベルはその指示の前には駆け出していた。レフィーヤも引き摺られるように駆け出していく。

 

 恐怖に染まったミノタウロスをロキ・ファミリアは殲滅していく。しかしダンジョンは広大で何処に逃げたかは詳しくわからない。事の深刻さを理解せず必死ではなく確実に潰していく眷属達。それでは取り逃がしが出てしまい、上層で二手に分かれるベルとレフィーヤ。

 

 地下、5階層まで逃げていくミノタウロス。5階層はダンジョンに入ったばかりの新人ですら来れてしまう領域だ。こんな場所に、三体と逃げ出したというのはあまりに酷い。一体はレフィーヤが追っている。二体は今、ベルが追っている。

 

 兎の如く走るその足が、遂に辿り着いて見たものは。

 

 

 金髪の可憐な剣士を追い込む、二体の猛牛の姿であった。

 

 

 遠くから広い視野で見えている。上層、基本的には低ランクの冒険者の狩場。彼女が例外である可能性は低い。装備もそれなりで中層までは保たない程度、分析した結果は新入りだ。オラリオの殆どの人間はレベル1である。低階層でもパーティを組まなければ安全ではない。危ないと声に出しそうになったが……容姿に見惚れてしまう。自分でも驚いて声が出なかった。美神ですらそんなこと、なかったのに。

 

 彼女の動きから目が離せない。

 

 

 ──剣を振る。風のように軽く、突風のように鋭い一撃は決して駆け出しのものとは思えない。

 

 武器自体は平凡、ならコレは強力な属性の付与魔術(エンチャント)か。とベルは即座に分析した。魔力の流れが心地いい。

 

 ──けれど格上、それも二体と戦う経験は足りていないようで少しずつ追い込まれていく。攻撃は強いが防御は不十分。上手くいなそうとも負担は積み重なっていく。

 

 高火力な風に耐えられるわけない剣じゃない。ならば、

 

 

「──使って!」

 

 自然と剣を差し出した。名前はブルドガング。ミノタウロスを殺すために使用するには惜しい第二級冒険者武装だ。何でと言いたい気持ちがある。剣を差し出すくらいなら自分で斬ればいいだろう。というか何秒見てるんだ? 見殺しにするつもりか、初心者を。

 

 ベルは自分が信じられない程、不合理な動き方をしていた。こんなのは師匠(マスター)の考え方でもないし、フィンさんの考え方でもないだろう。けれど……浮き足立つその心は何だ? 

 

「──ありがとう」

 

 

 ちらりと見て、お礼を言われただけだというのに胸が熱くなった。何なんだろうこの気持ちは。

 

 ──するりと剣が滑る(おと)がした。袈裟斬りの後、返しでもう一体も斬れてしまう。上級冒険者の鬼門が形無しだ。切れ味に驚いたのか、金髪の彼女も驚いている。

 

 驚く姿すら可愛らしい。何なんだろう彼女は、ボクをどうしたいんだろうか? 愛くるしくて、可愛らしくて、キュートでラブリーで、美しくて可憐で、精霊のように清くて、妖精のように素敵だ。

 

 女神に勝る美貌を見て、ベルはおかしくなっていた。英雄願望の奴隷を恋に落とす、下界屈指の偉業? である。

 

 

「あのありがとう! この剣すっごく斬れるね……名前はなんて言うの?」

「…………」

「あの?」

 

 金髪の彼女は貸してもらった剣について礼を述べて使い心地に感動していた。これまで使っていた剣は鈍だったのか……師匠の剣の真似事が出来たのは初めてと無表情なりにはしゃいでいる。

 興奮のあまり剣を持った手でベルの手を掴んで振り回し始めた。非常に危ない。そんな状況に陥っているのに何も動かず何も為さぬ目の前の英雄を不審がり顔を覗き込む。覗き込まれたベルはまた顔の良さに見惚れてしまう。その顔が近くに寄ってくることで正気に戻った。

 

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!?!?!?」

 

 

 助けた側が顔を真っ赤にして叫び出す。意味のわからない状況にビクッと震える彼女も愛おしい。ベルはその無駄に洗練された逃亡術でオラリオへと飛び出した。そこに残ったのは彼の剣と共に残された少女と突然の大声に何事かとやってきたレフィーヤである。

 

 

 逃げ出していった、本当に懐かしい在りし日のベルを見てレフィーヤは、

 

「何ですかコレ」

 

 と呟いた。あまりに残念な光景と何故か脳内の乙女警報が注意を発して鳴り響く。追いついたベート・ローガもその様子を見て愉快そうに笑っていた。

 

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