鐘声と軟風   作:ダンまちファン

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感想・評価・誤字報告、ありがとうございます。
多少の描写ミスに関してはどうかお見逃しください。本当に重要なものなら多分見過ごさないと思うので


五話 都に吹く風

 

 

 

 

 師匠の特訓を終えて、英雄の都(オラリオ)に行けと言われた。

 

 もうここで出来る事はない。より質の良い『冒険』をするためにダンジョンに潜って鍛えてこいと蹴り出されたのである。

 

 師匠は用事があるから後で合流すると何処かへ行ったので、私とヘスティア様の二人でオラリオ行きである。

 

 楽しみだね〜! と笑うヘスティア様に同意する。楽しみだ……世界屈指の強者の集まる場所。どんな剣士がいるのだろうか? 彼女はすっかり戦闘狂(ウォーモンガー)になってしまった。

 

 

 

「いらっしゃいオラリオへ! 神様と女の子二人でここまで来たの? すごいじゃん大変だったでしょ?」

「別にそんな事はない、よ?」

 

 検問では青髪の女性が担当してくれた。彼女の質問を聞いてこれまでの旅を思い出す。実に飽きない道中だった……女だけと舐めて襲ってくる盗賊の多い事。いくらでも剣が触れて個人的には満足である。

 

「あー恩恵持ちかぁ……見せてもらってもいい?」

「はい」

「オッケーありがとう……レベル2ッ!?」

 

 神の眷族は身元の確認が必要という事で別室にて背中を見せる。レベル2……師匠の教育によると()()()()大半がレベル1でランクアップ出来ていない人がザラにいたらしい。変わったのは()()()()、美神の度が過ぎた悪戯が原因となった戦争遊戯(ウォー・ゲーム)がきっかけらしいけどどうでもいい。

 

「わぁ……あ、ごめんね? 驚いちゃって。外でランクアップなんてすごいなぁ。頑張ったでしょ?」

「そんなにすごくな……いや、頑張った」

 

 師匠のシゴキはキツかった。お前は直ぐに風に頼るし、武器をダメにする。扱いが悪いとゴスペられたなぁ……技と駆け引きを鍛えるとか言って動き方の練習ばかりさせられたけど今に思えばいい経験である。

 

 アイズは大人になったなぁと思いながら過去の記憶を思い返した。

 

「だよねぇ……レベル2だもんね?」

「そう、師匠のシゴキ(レベル2)

 

 一般的なレベル2の偉業と異常な訓練の思い出。

 いまいち噛み合わないまま彼らは偉業の苦労を噛み締めあった。

 

「私もレベル5だからなぁ……初めが一番辛いよね。懐かしいなぁ」

「レベル5ッ!?」

 

 師匠のシゴキ、4回分!? と変な事で驚いているアイズ。女性は自慢げに頷く。やはり噛み合っていなかった。

 

「だから強そうに見えたんだ……ねぇいつか戦っていい?」

「お〜好奇心旺盛だねぇ。いいよ、いつか機会があればやろっか」

 

 

 アイズからしてみれば師匠以来の強者の発見だ。その目はキラキラして剣に手を当てようとして空振る。未だ検問の途中で一時的に預けていることを忘れてしまっていた。青髪の女性はそんな様子を見ながら、第一級冒険者と戦いたいというなんて凄いなぁとやる気に感心する。

 

 いつか、剣を交える時が来るのなら。その時は全力でやろうと頷き合った。

 

 

「改めてようこそオラリオへ。私はあなた達を歓迎します! 困ったことがあったら頼ってね?」

「うん、私はアイズ。貴方の名前は?」

「うん? 言ってなかったっけ?」

 

 妙に話が合うものだから既に既知であると思っていた女性は、ごめんねーと謝りながら自己紹介をした。自分の名前を忘れないでねと心を込めて挨拶をする。

 

「私の名前はアーディ・ヴァルマ!! 【象神の詩(ヴィヤーサ)】って言われてるの。よろしくね!」

「うん、よろしく」

「何か困ったことがあったら手伝うから呼んでね!」

「うん」

 

 

 いい人だったと思うアイズに対して、アーディは面白い子だと記憶する。女神様みたいに綺麗な女の子……あの子がこれからどんなことをするのかこれからが楽しみだと祈りを込めて見送っていく。

 

 

 

「やっと着いたねーオラリオ!」

「わぁ……至る所に強そうな人。何アレ、ジャガ丸くん? 素敵な響き……」

 

 アイズからしてみたらそこはもう新世界だった。今まで見たことのないような人の数。騒がしい街並みで皆が思い思いに商売をやっている様子が面白くってキョロキョロと周りを見渡す。

 

 露店で売っているのは食品、衣類、日用品……掘り出し物だったり武器や宝石類まで売っている。少女の短い人生を振り返ってもここまで沢山のものが売られているのは見たことがない。

 

 何でもある町、オラリオ……と戦慄していると妙に鼻をくすぐるいい匂いが届いてきて自然とそちらに向かおうとしたところを手をヘスティアにつかまれた。

 

「それは後だよアイズ君。ボクらはまず挨拶に行かなくちゃ」

「? どこへ」

「ギルド。それよりもボクの神友(しんゆう)の元へ」

 

 冒険者になりに来たんだろう? と呆れるヘスティアは目的地を示すべく指を刺した。その先はここに向かう旅の間でも見えた高く聳え立つ塔、バベルを指差した。ヘスティアは自信ありと笑って宛先を言う。

 

「ヘファイストス・ファミリアへ。君なら気にいると思うぜ?」

 

 

 

 

 

 バベルの中に含まれる商業区域。ヘファイストス・ファミリアのテナントの奥の奥に存在する女神ヘファイストスの住む場所へと顔パスで案内してもらった二人。

 

「よく来たわねヘスティア」

「ヘファイストス〜! 会いたかったぜ」

 

 赤毛をした眼帯で片目を隠した女神は旧友との再会を祝い、ヘスティアもその言葉を喜んだ。

 

 

 女神ヘファイストス。

 

 世界に誇る一級品の武具を数多く製作している鍛治師(スミス)にとっての最高生産系ファミリア。探索系の多いオラリオで珍しい鍛治で収入を得ているファミリアの主神であり冒険者にとっては彼女の作る武器は握ることこそが憧れそのものである。

 

 流石にアイズも記憶していた。お前がこれから世話になる奴の名前くらい覚えろと師匠に言われた名前の一つである。とんだビッグネームに顔パスで会えてしまうヘスティアに凄い……とアイズは驚く。

 

「ヘラから聞いたわよ。大変だったらしいじゃない。で、その綺麗な子は? 紹介してくれるかしら」

「あぁ、この子はボクの唯一の眷族である……」

 

「アイズ・ヴァレンシュタインです。よろしくお願いします」

 

 

 話の矛先がこちらに向いたので失礼のないように挨拶をする。どうせなら私の武器を作ってくれないかなぁ……という邪な気持ちを隠した挨拶だが、女神は気にせず笑顔で返してくれた。

 

 

「こちらこそよろしくね。ヘスティアの眷族なのに礼儀がしっかりしてるじゃない」

 

「ボクの眷属だから礼儀がしっかりしているのは当然だろうっ!? なんて事言い出すんだい君は!」

 

「ううん、礼儀がしっかりしてるのは師匠のおかげ」

 

「アイズ君!?」

 

「ふふ、良い師匠に出会えたのね」

 

「はい」

 

 

 主神(ヘスティア)のおかげで直ぐに仲良くなれた。やっぱり神様はすごいと純粋に思うアイズの雰囲気にヘファイストスはあてられて笑みを溢す。ヘスティアの眷族、なかなか相性がいいみたいだと神友の出会いの強さに嬉しくなる。

 

 

「それで今日は何のようで来たの? 別にただ顔を見に来たってわけでも嬉しいけれど」

「そうだね〜本当にさっきオラリオに着いたばかりなんだ。だから住める場所にあてはないかなぁと聞きに来たというのが一つ」

「もう一つは?」

「アイズ君の武器さ」

 

 

 そう言われてアイズを見るヘファイストス。長旅を終えて直接やって来たから碌な防具もなく正しく駆け出しという風貌だ。ヘファイストスはヘスティアに言葉の続きを求めた。

 

 

「彼女の武器?」

 

「ああ、師匠君がね? 『お前の武器の粗さは完璧に矯正できなかった。せめていい武器を振って誤魔化せ』って言うからさぁ」

 

「……そんなこと言われて渡したい鍛治師はいないわよ。武器(こども)を雑に扱うって宣言してるじゃない。後、お金は? さっき来たばかりなら持ってるはずないわよね?」

 

 

 ヘファイストスは親友のおねだりに頭が痛くなった。確かに自分は彼女の願いならある程度は聞いてもいいかと思っているが……第一級武装(高級品)はどうなのだろうか。しかも使い方が粗いと言われて余計気分が悪くなる。

 

 ないだろうとは思うけれど、一応金銭について聞いてみる。さっきオラリオに来たばかりだ。まだここについて知らないんだろうなと思っていた。けれどヘスティアは友の予想に反して自信満々で頷いた。

 

 

「それなら大丈夫さ、師匠君が『ツケでいい。私が後から来た時に払う。というかその前にお前が払っておけ。億単位(そのていど)返せない指導はしてないだろう』って言ってたからね!」

 

「私はあなたの言う師匠を知らないのだけれど」

 

「それはね〜」

 

 

 師匠の名前を耳元で聞かされるヘファイストス。見るからに動揺して本当なの? と聞き返す様子を見て、やっぱり師匠はすごいんだと尊敬し直すアイズ。

 

 アイズは師匠の名前を知らない。昔、知りたいと言ったらお前に教える必要もなければ知る必要もないと不機嫌に返されたからだ。それよりも無駄口を叩くなと訓練を増やされたことを覚えている。

 

 けれど、いいのだ。私にとって師匠は師匠だ。それ以外の何者でもない。けれどそんな師匠が周りからも尊敬される人物ならば自分も嬉しくなってしまう。自分の師匠はすごいんだと自慢したくなった。

 

 

「……確かに、その人なら返せるわ。いいでしょう。椿の部屋を案内するわ。彼女から剣を貰いなさい」

 

「いいのかい!? ……って君が打ってくれないのかい?」

「後で私がちゃんとしたのを打つわ。けれど時間がかかるからまずは彼女の作品を貰いなさい」

「ありがとうございます」

 

「いいのよ。というか礼なら椿に言いなさい」

 

 

 私はまだ打っていないんだからと言って、自身の最も優秀な眷族である椿・コルブランドの工房に案内するヘファイストスに私たちは着いていく。椿さんは主神の言葉を不思議に思ったが、二言ほど話すと納得していた。

 

 お前があのヘラの虎の子かっ! とバシバシと背中を叩かれて銀鉄の指揮棒(タクト)という剣を貰った。これも先行投資というやつだと笑っている。彼女にお礼を言ってありがたく腰に付けた。

 

 

 その後、ヘファイストス様に物件を用意してもらった。駆け出しが住んでて、私に家賃も払える場所という構想概念(コンセプト)で出されたのは……古びた教会の地下室。あの子の弟子なら丁度いいらしい。ヘスティア様はボソリと呟いた。

 

「これが、都会に住んだら家が狭くなるってヤツだぁ」

「私はヘスティア様と一緒ならいい」

「アイズ君……!!」

 

 ボクはいい眷族()を持ったよ……泣く真似をするヘスティア様。拠点も武器も手に入れた。あとは少し落ち着いて行動しようと引っ越し荷物を下ろす二人。部屋の掃除をしてベッドを整え、うつ伏せに寝転んで恩恵を更新した。

 

「どうせダンジョンに行くんだろう? ギルドに行った後行くといい。その前に出来ることはやっておこうね」

 

 

 ─────────────────────

 

 アイズ・ヴァレンシュタイン

 

 level2

 

《基本アビリティ》

 力 E410

 耐久 D521

 器用 E416

 敏捷 C687

 魔力 G210

 

《発展アビリティ》

 耐異常I

 

《魔法》

【エアリアル】

 詠唱式:【目覚めよ(テンペスト)

 付与魔法

 ・風属性

※読めない文字が書かれている

 

《スキル》

 復讐姫(アヴェンジャー)

 ・任意発動

 ・怪物種に対して攻撃力高域強化

 ・竜族に対し攻撃力超域強化

 ・決意の丈により効果向上

 ・憎悪の丈により効果向上

 

 ─────────────────────

 

 

 新入りとしては充分。迷宮の楽園(アンダーリゾート)ならソロで行ける能力を持っている。魔法一つにスキル一つ。ベテランでも珍しい優れた能力構成に、どちらも破格。

 

 彼女は早速教会から飛び出してギルドでファミリアの登録をする。基本的な迷宮授業はどうしますか? という案内を師匠から教わったのでいいですと断り、アドバイザーはどなたかご希望はいますか? という質問に私が強くなれる人を希望しますと返す。

 

 私の担当になったアドバイザーはエイナさん。早速、今所有している知識把握のためテストをすることになったが見事満点を取りダンジョンに行く許可を得ることができた。師匠のスパルタはどこでも通用するのである。

 

 

「ここが、ダンジョン……」

 

 ダンジョンの中には軽装で入った。先ほど椿さんから貰った武器は明らかに身の丈に合わない。新入りがあんな上等なものを持っていたら非常に浮いてしまう。

 

 上層ならステータス的には余裕でクリアライン。異常事態(イレギュラー)怪物進呈(パスパレード)にも対処できるだろう。寧ろ、ばっちこい。困難は私をより強くしてくれるので望むところだ。

 

 

 

 斬る。ゴブリンやリザード、フロッグの類は一発で塵に還ってしまう。手応えがない。どんどん斬っていくうちに奥へと進んでしまい5階層までやってきた。

 

「……」

 

 ここまで来たのなら行ってしまおうか、6階層。

 

 6階層に踏み入れれば、新米殺しで有名なウォーシャドウが現れる。まさしく影のような黒い怪物が鉤爪を振り回して襲ってくるのだ。ここで体験するのと悪くないかもしれない。アイズはしばらく行くか行かないか悩んでいた。

 

 物足りないし……でも初めてだからどうするか。

 

 ダンジョンの雰囲気だけ感じて帰るのも悪くないかもしれない。ここまで上層のモンスターを壊滅させる勢いで狩り尽くした冒険者とは思えない心情である。雰囲気を感じるとはなんなのか。

 

 

 ──ッツツツツ!!!!! 

 

 

「!?」

 

 その時、声が聞こえた。別の階段から登ってくる上層には似合わない強者の雄叫びだ。まさしく怪物らしい怪物の唸り声に期待が高まる。ソイツを倒せばヘスティア様も褒めてくれるだろうか。

 

 やるじゃないかアイズ君と喜ぶヘスティア様の顔を思い浮かべて駆け出していく。声が聞こえた辺りに近づけばすぐに見えた。本来中層にいるべき怪物、ミノタウロスの暴れる姿だ。

 

 

 正気もなく、暴れて走るミノタウロスの先には冒険者がいる。吼える様子に怖気付いて腰を砕いてしまった後衛だ。肉厚な巨体に押し潰される瞬間を今か今かと待っていた。

 

 

「させないっ!」

「ヴゥア゛ア゛!?」

「行って!」

 

 

 殺させるわけには行かないと風を纏って剣で突っ込む。突然吹き荒れた暴風に動揺して猛牛は体制を崩して怯んでいた。

 後衛に叫んで逃げ出すように伝える。どうせ逃げないから風で押し出した。きっとここよりは平和な場所に送り出してくれるだろう。

 

「じゃあ……やろっか」

「ヴゥ……」

「ヴゥオオオッ!!」

「困った二体も……」

 

 時間を使ってしまったからだろうか。階段からはもう一体、やる気満々のミノタウロスがやってきてしまった。二体もいる。パーティで当たるべき怪物が二体もいる。そんなことをアイズは気にしない。

 

「武器が保ちそうにない」

 

 彼女が今持っているのはギルドに置いてあった支給品だ。どうせ壊すし、最初だからと獲物を適当に選んでしまった罰が当たった。けれど問題はない。これも訓練だ。いざとなったら復讐姫(スキル)使おうと反省して怪物二人に向き合った。

 

「ついてきて」

 

 二体を一度に相手にするなんていうのは不利だ。アイズは彼らを有利に相手にできる場所……行き止まりを探して走り出した。壁に傷をつければ後ろから奇襲されず彼らと戦える。

 

 狙い通り猛牛はやってきた。風を使って誘導する必要もない。目的に辿り着いた後は剣を振って肉体にダメージを与えていく。いっそタックルしてくれば吹き飛ばしてやるのに間合いをとって殺しにくるミノタウロスが憎い。冷静に向こうからの攻撃を躱わして、こちらからの攻撃を当てる。

 

 

 ミノタウロスと戦って思うのは意外に面倒くさいということだ。これまで訓練ばかりしていたせいで()()()()、しかも複数というのは経験がない。剣が壊れれば終わる場面という緊張も合わさってどうにも焦ってしまう。

 

 

 だから悪かったのだろう。そろそろ剣が持たなくなっていき、しょうがないから奥の手を切ろうというタイミングで

 

 

「──使って!」

 

 

 声が聞こえて、剣が降ってきた。

 

 その剣を取って振り回してみればわかる。これはとてもいい剣だ。野菜を斬るように怪物が斬れていく。すごい剣だぁといい手応えに浸り、助けてくれた冒険者に感謝を込めて剣を渡す。

 

「ありがとう」

 

 お礼を言っても何も返してこない。何か気分を害すことをしたのだろうか。

 

「あのありがとう! この剣すっごく斬れるね……名前はなんて言うの?」

「…………」

「あの?」

 

 話題を変えても何にも反応しない。ただ私を見て動かない。次第に顔を赤くして反応があったと喜んだら目の前で、

 

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!?!?!?」

 

 

 叫んで逃げてしまったから、本当にわからない。ミノタウロスを殺した姿が恐ろしかった? もしや師匠の威圧を継承してしまったのだろうか。……手元には置いて行かれたことを示す彼の名剣が残っている。

 

 呆然としてその場に立っていたが、耳障りな狼の笑い声がして拗ねて帰る。剣は後ろで見ていた妖精の人に渡す。

 

 私の初めての迷宮進行。奇妙な出会いと共に終わってしまったその瞬間を。

 

 

 私は一生、忘れないだろう。

 

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