鐘声と軟風   作:ダンまちファン

7 / 10

みなさんの一読、感想、誤字報告、評価が励みになります。
ダンまちとソード・オラトリア組み合わせて再構成するとかいう馬鹿な真似した作者にとって反応は自分を見直す鏡です。とてもありがたいものです。
誤字報告にもとても感謝しています。作者は誤字多すぎて笑いながら続き書いてます。変換ソフトが悪いんだぁ…



七話 娘

 

 

 遠征が中途半端に終わり、損害も特に出なかったので暫くファミリアは暇になった。各々が遠征で獲得した素材を売りに行ったり、武器を見に行ったり、地上の情報の更新に努めたりしている。

 

 ボクは彼らとは別れて、一人で散歩をしていた。

 

 ダンジョンはいるだけで気が削がれる。歩いているだけで精神が擦り減っていくのだ。どこから湧いてくるかわからないモンスター、ボク達を殺しにやってくるイレギュラー。それらは気にすれば気にするほど疲れていく。

 

 常在戦場の覚悟で一日を過ごすというのは冒険者にとって大切だがそれだけではいけない。休む時は休まないといざという時に頑張れない。

 

 そのためこうしてリハビリを行い体を慣らす。平和に浸って心を休めて次の戦いに備えるのだ。そうやって歩いていると、

 

 

「ベルさん?」

 

 

 シルさんに捕まった。

 

 

 シルさん。薄鈍色の髪と瞳を持つ可憐という言葉が似合う少女だ。普段は『豊穣の女主人』というオラリオでもトップクラスに美味しいお店で働いている従業員なのだが……それ以外でもボクは彼女と関わりがある。

 

 

 彼女()()とは長い付き合いだ。思えばオラリオに来てからずっと世話になっている気がする。あの頃から容姿は一つも変わらない。

 

 彼女とは沢山のものを見て笑い合い、辛い時には支えられた。

 

 彼女には沢山のものを頂き、長い間、面倒を見てもらった。

 

 

 実はフィンさん達よりも世話になっているかも……? なんていうのが彼女である。彼女の灰の髪を見ると薄らとだけ母を思い出す。そうやって彼女を通して誰かを見ていると私を見ろと怒ってくるのは彼女本人には言えないが可愛らしい。

 

 変なことを考えていたのがバレたのか、物言いたげな目をしてボクに尋ねてきた。

 

「何考えてるんですかベルさん……それよりも探していたんです。実はヘグニさんについて何ですけどね?」

「ヘグニが?」

 

 

 彼女からヘグニのことを聞くなんて珍しいなとベルは思った。ヘグニ・ラグニールは結構静かなプライベートを過ごしているからである。

 

 

「彼、昨日帰ってきてから何か様子がおかしいんです。……何か知っていますか?」

「さあ? わからない」

 

 確かにヘグニも彼女にはお世話になっている。確かに彼とは昨日話をしたが……何か悩むようなことがあったのだろうか。結局、こっちが吐き出すだけ吐き出して終わった相談だった。悩みがあるなら向こうも言ってくれて水臭いなと思う。

 

 

「……本当にわからないみたい。なら見逃して差し上げます」

 

 

 シルさんはボクの悩んでいる姿と出した言葉から嘘はないという結論出して追求を諦める。明らかに納得していない様子だが引き際を弁えているあたりこの人は本当に人付き合いが上手い。

 

 

「ところでシルさん」

「何ですかベルさん」

 

 そんな空気を変えるために少し確認を取ってみる。話題は今日の夜の予定のこと……

 

「今日の夜、遠征の打ち上げで『豊穣の女主人』に行くと思うんですけど」

 

 

 残念な結果に終わった遠征。その鬱憤晴らしを兼ねた宴会である。美味しい料理とお酒で不満を忘れ、今度の遠征も頑張ろーというわけである。ロキ・ファミリアの酒飲みは派手だ。予約は確実にされていると思う。

 

 

「はい予約されてますね」

「もしよければ一緒に行きませんか? 予定があるなら断ってくれて構わないんですけど」

 

 

 予約されているのならこの後予定は特にないし、一緒に行きたかった。シルさんとは暫く顔を合わせていなかったのもあって、もう少し話をしたかった。ボクのちょっとだけ言いたくなった我儘である。反応が悪ければ別のところで暇を潰そう。

 

 

 

「…………本当にそういう所」

 

 

 

 彼女の言った言葉はボクの耳には届かなかった。第一級にも聞こえない声で顔を背けて不満そうな態度を示すからタイミング悪かったかなぁ……と不安に思う。けれどダメなら言葉で聞きたいから一応聞き返す。

 

 

 

「え? 何ですか?」

 

「いーえ何にも言っていません! 予定はあるけれどヘルンにでもさせます。彼女も喜んでやってくれるでしょう!」

 

 

 

 驚くことに、ボクの予想に反して一緒に遊んでくれるらしい。彼女はふんぞり返って他の人に自分の仕事の手伝いをさせますと自信満々に言い放った。流石にそこまで迷惑はかけなられない。彼女が無理しているのならそれは止めないといけない。師匠も「女に恥をかかせるな、流れを掴め」と言っていた気がする。

 

 

 

「えぇ!? 断ってくれていいんですよ!?」

「はい。私が行きたいと思ったから行くんです」

 

 

 能動的なサボりですね? なんて可愛らしくシルさんは微笑んだ。ボクの手を引いて走っていく。その様子は実に楽しそうで、ボクの心配は余計なお世話みたいだから。ボクも彼女に遠慮させないように思いっきり楽しむことにした。

 

 

 

「そう言えば地上では何かありましたか?」

 

 

 シルさんに聞きたいのは下界のことだ。迷宮の中にいるととにかく情報の周りが遅い。リヴィラの町でも情報は集めたけれど、この世界屈指の情報通である彼女にも聞いて確認しておきたかった。実に贅沢なダブルチェックだ。

 

 

「あぁ……そちらは遠征で世情に疎いんでしたっけ。……今度こっちが遠征する時、ベルさん着いて行ってあげてくれませんか?」

 

 やっぱり色々知っていたようでこちらが先ほどまで遠征に行っていたのも知っていた。彼女は自分が世話になっている派閥も時折遠征に行くんだよなぁ……と思い出してボクに遠征に同行してあげて欲しいとお願いしてきた。

 

「別にいいですよ」

「やった!」

 

 

 別にボクは構わなかった。いつかフィンさんに確認は取らなきゃいけないけれど、彼らと共に戦えることはこっちにとっても勉強になる。あちらも指揮とかサポートならいくらでも欲しいと思うからそこまで嫌そうな顔はしないだろう。一部に死ぬほど嫌われているから絶対なんて言えないが。

 

 シルさんはボクの返事に喜んで、世情については話し出した。

 

「ところで世情……特にないですねぇ。そろそろ『神の宴』と『怪物祭』あるくらいですか。私も上から見下ろすのは飽きたし……でも!」

 

 

 彼女の言っていることはボクも知っていること。今みんなが大忙しで順番整えている祭りのことだ。ボクは特に関係ないので手は出さないけれど。シルさんはそれ以外に興味の対象を見つけたようで興奮して続きを話す。

 

 

「綺麗な魂を見つけたんですよ! 金色の髪で風のように澄んでいて!」

 

 どきりとした。シルさんが言った言葉には意中の人が当てはまった。まさか一緒なわけはないよなと動揺する心を隠そうとする。こういう時、フィンさんに色々習っていて良かったと思う。

 

「…………」

「ベルさん?」

 

 シルさんはボクの姿に疑いの目を向けた。何もかも見透かしてしまいそうなグレーの瞳。ちょっと動揺して声が震えたけれど言い返さないと不味いかもしれないなんて思いながら返事をする。

 

 

「い、いえ!? 何でもないですよ!?」

「ふーん。変なベルさん」

 

 ちょっと誤魔化しに失敗したかもしれないけれど、優しいシルさんは誤魔化されてくれた。安心するボクに対して彼女はジッとボクの顔を見ていた。

 

 

 

 

 

 怪物祭の準備中とはいえ賑やかな通りを歩いていく。彼女はきょろきょろと周りを見渡した後一つのものに目が行きそれを手に取って見せてきた。

 

 

「『怪物祭』は同じファミリアの人と回るでしょうし今日は私にこれを買ってください」

「これは指輪……?」

 

 花のモチーフが可愛らしい銀の指輪である。同じく可愛らしい彼女には似合っていると思うけれど何か理由でもあるのだろうか? 

 

「はい。青春(イズン)を思い出させて可愛いなぁと思って」

 

 なるほどと理解する。彼女は指輪よりも首輪とか髪飾りの方が好むから友達を思い出させる品というなら納得である。

 

「でも逢瀬(デート)の代わりにプレゼントなんて」

「ベルさん」

 

 ボクはそれを買うことを躊躇った。買うことは別に構わないけれど、ボクが彼女と会うことの引き換えとして物を買って我慢してもらうというのは気が引けた。それなら別に約束して何処かに行った方いい。そう言う前に彼女は人差し指でボクの唇を塞いだ。

 

「思い出なんて幾らあってもいいんです。私と貴方は違う時を生きていますが、今はこうして同じ時を歩いている。私はもうそれだけで嬉しいんです」

 

 彼女は目を逸らさない。いつもの彼女とは違う妖しい女の顔を覗かせてきてどきりとした。彼女はボクとこうして話せるだけで嬉しいと言葉を紡ぐ。

 

「私は貴方を応援しています。この下界で一番、誰よりも。その気持ちだけは否定させません。ベルさん、頑張って。貴方が世界を救う瞬間を特等席で見てやるんです」

 

 唇から手を離して今度は祈るように手を胸に当てるシルさん。その姿は真剣で、ボクの手や口で割り込めんでいいものではなかった。

 

 そう言って後、左手の中指に嵌めた指輪を見せつけて笑うシルさんに草原に咲く野花のような自然な美しさを感じた。シルは素敵な人だと改めて思うことになった。

 

 

 

「おーうベル坊!」

 

「来たかよベル!」

 

「ベル!」

 

 

 彼女と遊ぶ時間は時間を忘れさせていたようで、【豊穣の女主人】に着くころにはみんな集合して飲んでいた。シルさんはするりと裏方に潜って迷惑をかけた人に誤っている。ボクは珍しく団長に絡まれた。

 

 

「重役出勤じゃないか【英雄の架け橋(テセウス)】? もう君は団長(ボク)すら舐めるようになっちゃったのかい?」

「そんなこと言わないで下さい【勇者(ブレイバー)】。後でお酒注ぐから許して欲しいです」

「ああ、いいだろう。君から注いでもらった酒はいつもよりも美味しいだろうからね」

 

 別にいつも世話になっているからお酒くらい注ぐのに。団長は注いでもらった酒を美味しそうに飲んでまわりの特にリヴェリアさん達に見せつけた。何がいいんだろうか、まだボクにはわからない。

 

「ベル、ついでだ。私にも注げ」

「お主らだけズルいぞ。儂にも注げ」

「抜け駆けするやーん! 主神命令、ウチにも注げー!」

 

 あれよあれよと求められてお酒を注いで回ることになる。気を効かせてロキが「それ以外は認めん! 先達特権や」と言えば、ティオナがぶーだれて、ベートが「老害特権じゃねぇか」と返してぶっ潰されていた。流石に酒の席でも言ってもいいことと悪いことがある。ベルは巻き込まれないように少し席をずらした。

 

 因みに、さらっとシルさんもボクに注いでもらっている。それなら私も入りますからねーなんて、強かな人である。

 

 

 

「おい、笑い話といえばベルっ! 俺は見たぞ!」

「はいっ!?」

「お前が剣渡して、女から逃げた瞬間(とき)だ」

 

 

 

 酒もいい感じに楽しんだところで突如、ベートが話題として出したのはボクとしては隠しておきたい彼女との出逢いについでだ。名前も知らずお礼も受け止めずに逃げてしまった……後悔することばかりだなぁと酒のおかげでポヤポヤする頭で反省する。

 

 

「あの天下の【英雄の架け橋(テセウス)】が情けない声をあげて逃げて行ったのは何だぁ? 俺、お前のあんな声久しぶりに聞いだぞ!」

「あぁ……」

「へぇ……」

 

 

 みんなはボクの抜けているところが珍しいのか、からかいの種にしてきた。確かにみんなの前ではそこそこ真面目に見せているけれどボクなんてそんなものだから、その扱いはやめて欲しい。

 レフィーヤは訝しげな目でこちらを見て、シルさんは怪しい目で楽しそうに口元で弧を描いている。そんな目で見ないで欲しい。

 

 

 一頻り笑った後、普段の【凶狼(ヴァナルガンド)】では絶対に見せないしんみりした様子でボクにぽつぽつと伝えてくる。その言葉に込められた気持ちはとにかく重たく、周りも自然と静かになって彼の言葉を聞き行っていた。

 

「なぁベル……忘れるな。俺はお前に期待してんだ。失望させてくれんなよ」

 

「俺はお前を見て雑魚でも吠えられるって知ったんだよ。事実、お前は俺を超えてフィンに迫る勢いだ」

 

 

 ベートは本当にそう思っているだろう。雑魚でも吠えて居場所を守れることもあるとボクを通して信じてる。彼とは相棒(バディ)だしよく組んで困難と立ち向かってきた。普段は感じなかったけれど、酒のおかげで改めて背負い直す彼の期待が重かった。

 

 

「なぁベル……お前は俺の、俺たちの希望なんだ。忘れてくれんなよ。黒竜を倒すお前の未来に俺らは全部を賭けてるんだ……止まるんじゃねぇぞ?」

「うん」

 

 

 茶化すことは出来ない、酔いが醒めて真面目に返す。ベートはその様子に満足したようでジョッキを掲げて机に足を掛けて立った。

 

 

「しんみりさせたなぁ! 飲め飲めっ! 俺とベルと団長の奢りだっ!」

「おい馬鹿狼っ! 団長を巻き込んでんじゃねぇぞ!!」

「いいよティオネ。元々そのつもりだった。むしろ二人も出してくれるなんてラッキーだ」

 

 

 また、宴会の騒がしい空気が広がっていく。けれどボクはもう酔えなかった。これまでの人生……英雄になるという夢を通す生き様を思い返すことになったからだ。

 

 

 これまで真剣に走ってきた。一度止まってしまえば辿り着けなくなると目標に向かって足を動かしてきた。そんな人生を繰り返すうちにボクはこれからあるかどうかという恋に気付いた。

 

 

 けれどボクは本当にこの恋を追いかけていいんだろうか? これまでの道を捨てるつもりはない。けれど、もし追いかけることによって彼らの期待に添えなくなるのならば……ボクは恋を捨てるのか? 

 

 ボクはこれまでで一番苦い酒を飲み込んだ。残念なことにいくら飲んでも酔ってくれない。耐異常が仕事をし過ぎだ。

 





ベートがある程度立ち直っているので団長やってた頃の面倒見の良さがある。
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