鐘声と軟風 作:ダンまちファン
読んでいただいてありがとうございます。
皆様の感想・誤字訂正・評価に大変救われています。とてもありがたいものです。
ここからはのんびりと更新していくつもりですので、そのつもりでお願いします。そのうちベルの過去編も出せたらいいなぁ
ガネーシャ・ファミリアのホームに男が一人と神が一柱、一緒に足を運んだ。男の名前はラウルであり赤髪細目の神はロキ。すなわちロキ・ファミリアである。
「ん〜ありがとなラウル。えぇエスコートやったで。いやぁ随分女の扱い上手いんやなぁ?」
「は、はぁ……ありがとうございます」
ラウルはロキの言葉にどう反応していいかわからずとにかく礼を言って終わらせた。ロキは、悪戯好きの主神はその在り方が実に嫌らしく……もっと端的に言えばおっさん臭いので、女としての感想を言われても困ると思っている。
「で、ついでで悪いんやけど。もうちょい付き合ってくれや。遅くなるかもやけど待っとって欲しい」
ロキはガネーシャの悪趣味なホームを見ながらそうラウルに告げた。頼んだで〜と言いながら宴に向かうロキをしょうがないなとラウルは見送った。
中では多くの神々が談笑し、宴を楽しんでいる。ガネーシャ・ファミリアの開いた宴は実に金がかかっていて料理も豪勢なら調度品も凝っている。会場に流れている音楽も実に心を弾ませるものだ。
やりおると思いながらロキは会場を見渡した。
「はぁ……神々多すぎっ! 盛況やわぁ。にしてもドチビがおるって聞いてきたのに見当たらん。ガセか?」
神々というのは基本的に絶世の美男美女なのだ。彼らがこうして集まって話し合っている姿は実に美しく、もし
オラリオに長く住む人にとっては神がこれだけ集まっている状況にゾッとするかもしれないが。
「そこにいるのはロキじゃないか?」
「あら、久しぶりね?」
ロキは探し神を目で探していると二柱の神に挨拶をされた。そちらの方に目を向けてみれば、いたのは穏やかな笑みをしたデメテルとディオニュソスのペアである。
デメテルは豊満な女性的な体つきをした穏やかな淑女であり、ディオニュソスの方は貴族のような風貌の似合う上品と優雅さを兼ね備えた紳士である。
こらまたお似合いの二人やなぁと思いながらロキは嬉しそうに二人に笑みを返した。
「おーディオニュソスにデメテルやないの! 元気そうやなぁ」
「そちらも元気そうで何よりだよロキ。ファミリアの様子は……って聞く意味もないね。君たちの様子を耳にしない日はないよ」
「そっちも良さそうやな。……このワインうまっ!? 極上やなぁ」
流石はガネーシャやでとロキは、下で怪物祭をつつがなく行うための根回しをしている象の仮面を身につけた珍妙な男神ガネーシャを見る。
モンスターを地上に連れてきて見せ物にするなんて祭りだ。そらどこからも協力がないと成り立たんのにようやっとると思いながらワインで口を濡らした。
「ロキ、そのワインは私のファミリアで収穫したぶどうを使っているの」
「やるなぁ極上やで。……すまんお二人さん、うちもういくわ」
酒好きのロキも唸らせる収穫物とは流石の豊穣の神である。舌に残る酒の味に満足しながら、ロキのその目は目的の神を捉えた。
ロキは二人に軽く立ち去る挨拶をして、階段を勢いよく降りる。そこでは銀髪の美神と黒髪の炉神が会話をしている。
「おーい、フレイヤー! ドチビー!」
「……あぁロキ・ファミリア。君達の活躍を楽しみにしているよ」
ロキを見送るディオニュソスはデメテルに見守られながら、そう呟いた。
胸がデカいだけの貧乏ドチビとロキが揶揄えば、なら君には誇れるものがないじゃないかと言い返すヘスティア。二柱は取っ組み合いながらいがみ合い、しばらくするとお互いに矛を収めて向き合った。
「……君はっ! どうしてボクと相性が悪いと知っておきながら突っかかってくるんだっ!」
「そりゃ反応がおもろいからやろ。しかも今なら新参で零細で格下っ! 最高やでドチビ!」
ロキはその服装見たらわかるわ、ドレスすらまともに用意できとらんやんけとせせら笑った。ロキの笑い顔は実にムカつくもので、ヘスティアをイラつかせるには充分だった。けれど言い返せることもないと、そばに置かれた料理を頬張って気分を落ち着かせる。
ロキはそんなヘスティアから目を離し、隣にいた美神フレイヤに向かって嫌そうな顔を向ける。フレイヤはそんな顔をされても一切気にせず澄ました顔でワインを楽しむ。
「……にしてもフレイヤぁ? ようお前顔出せたなぁ。恥とかないんか、いい加減にせんと眷族泣くぞ」
うちがそれやと自虐しながらこの場にいることを糾弾するロキにフレイヤは笑った。余裕のある態度が余計に腹が立つとロキは心を落ち着けるのに手間取った。
「あらそんなもの私にはないわ。それに私のために眷族たちが泣いてくれるのなら本望よ」
「ほんまコイツ……」
「……なぁロキ? なんで君はフレイヤと仲悪そうなんだい? 別にそんな険悪でもないだろう……バルドルでもないんだし」
二柱の険悪な様子が、ヘスティアは不思議だった。ヘスティアの知っている彼女らは互いに既知でありそれなりに仲も良かったはずだ。そしてこのオラリオという都市でのトップ2……もしかしてそれでか? と首を傾げる。
ロキはそんなヘスティアを見て、マジかこいつという目を向ける。
「…………ドチビ。お前、ほんまにオラリオの情勢知らんのやな。うちからは言わん。誰かに聞け。どうせ喜んで話してくれるわ。人でなしの神やからな!」
ロキはもうこの話はしたくないとばかりに強引に打ち切った。フレイヤはその様子を見て実に楽しそうである。前に会った時よりも感情豊かなフレイヤに対してもヘスティアは気になった。
「それにフレイヤも何か前会った時よりも……雰囲気が柔らかいというか。少女らしくないかい? そういう君はボクは好きだぜ」
「あら、そう見えるの? ……嬉しいわ。それはきっと【
「ケッ」
フレイヤはより楽しそうに笑い、ロキは不機嫌になる。ヘスティアの疑問は解消されるどころか深まるばかりである。何がこの二人を変えたのだろうか。神は基本的に不動だ。だから、下界の何かがこの二人をいい方向に変えてくれたなら、それはいいことだなと感心した。
ロキは気に食わないという顔を隠して真剣な様子で情報をフレイヤに伝える。
「まぁいいわ。お前らに忠告や。前の遠征でフィン達が新種のモンスター見つけたみたいやからな。なんや芋虫みたいな奴で物理は効きが悪いし武装溶かしてくるとか言うとった」
「特にフレイヤんとこは前衛多いやろ。注意しとき」
親切なロキというのは天界の彼女を知っている存在なら不気味に思うだろうが、フレイヤはその情報の価値をしっかりと知り丁寧にロキにお礼を言った。
「ありがとうロキ。このお礼は必ず」
「ハッ……【
「なんか君たち仲良くなってないかい?」
ギクシャクした様子なのに仲のいいやりとり……本当にこの二神には何があったんだとヘスティアはツッコむ。新参者の彼女はこの会話の蚊帳の外であった。
ロキとフレイヤが集まっていれば自ずと目がいってしまう。彼女らのやりとりには周りも大変注目していた。その注目はヘスティアにも向いているのだが気付かない。格は高いのに穏やかでのんびり屋。それがヘスティアだった。
「オラリオの頂点が二人も集まってたら目立つわね」
そんな彼女らの元に一人の女神が会話に入っていった。赤い髪に赤眼、ロキとフレイヤに負けない格を持つ存在であるヘファイストスだ。
「ヘファイストス!」
ロキはヘファイストスが来ると同時に去っていった。まだ用事が残っているらしい。ヘスティアは別に追う必要も無いためその背中を見送った。
ヘスティアは神友の登場に喜ぶ。ヘファイストスも彼女と数日ぶりの再会を喜んだ。
「ヘスティア、元気そうね」
「君こそ! いやぁありがとうね、アイズ君と元気でやれてるよ」
「それは何より……あら、フレイヤ?」
「私もそろそろ失礼するわ」
「気になることは全部知れたし、やることが残っていたの」
フレイヤはそう言って立ち去っていく。ヘスティアの眷族なのねと呟いて、迎えの眷族に一言二言告げながら、まだ始まったばかりの宴から姿を消した。
ヘファイストスは彼女からの依頼の状況を伝える。
「それでヘスティア、貴方に頼まれていたものが出来たわよ」
「へぇ……ってもうかい!?」
完成したという話はヘスティアにとっても驚くものだった。ヘファイストスも忙しいだろうからもう少しかかるだろうと思っていたところに出来たと言われたのだ。ヘファイストスはその反応に満足そうに答える。
「えぇ。初めての武器、すぐいるでしょうから早速拵えたの」
「わぁ! ありがとうヘファイストス! やっぱり持つべきは仕事のできるいい女神だねっ!」
「ふふん! 褒めても何も出ないわよ!」
ヘファイストスは神友からの裏表ない賛美に心をよくして別室へと誘う。早速、依頼の品を紹介しましょうと急かすヘファイストスを可愛らしいなと思いながらヘスティアはついていった。
取り出されたのはヘスティアより少し小さいくらいの箱。立派にしまわれた依頼の品に言葉を失った。
「それでこれが契約書。このちょっと大きい箱が例のもの」
「わぁ……大きい。ボクに持って帰れるかなぁコレ?」
「それは……なんとかしなさい。後、材料に使ったのは結構な量のミスリルと貴方の
ヘファイストスは自分の作った作品を丁寧に取り出す。漆黒の長剣。彼女が作った神造の剣。ヘスティアの眷族が握らなければ刃は何も斬れないなまくらに早変わりする曲者。
その剣は思いに答える武器。
それを振ることになるだろう精霊のような彼女のために用意した、どんな障害も排除する武器。
ヘスティアが眷族に贈る、困難を乗り越えるためのちょっとした手助け。
「名付けて【ヘスティア・ソード】。貴方の眷族専用の武器ね」
怪物祭当日。
通りを見れば人々は滅多に見ることのできないモンスターに興奮して盛り上がっていた。祭りを楽しんでいる様子は微笑ましく、子供も大人も夢中なのは喜ばしい。
人が人として生きれる場所が、この世界には少なすぎることをベルは知っていた。
「ねぇロキ? 私との会合に彼を連れてくるのは反則じゃない? 嫌がらせ? 嫌がらせよね?」
「そんなん知らん。どうせまた懲りずに悪巧み続けとるんやろ? うちらこの後デートなんやぁ。羨ましい?」
フレイヤは通りを眺めるベルを見てロキを睨みつける。ベルは笑って誤魔化して、二人の護衛の仕事を続けた。
ロキは実に楽しそうにフレイヤを揶揄った。お前からすれば死ぬほど羨ましいだろうと自慢する。そのためにこうしてベルを連れてきたのだから。その通り、羨ましいフレイヤは悔しさに口を歪めた。
「くっ」
「ははは」
優越感に浸るロキを喜ばせるためにより悔しそうに見せるフレイヤ。勝手に喜んで、本題を忘れてくれたらなぁという小癪な企みである。残念なことにロキは引っ掛からず、追求を続けた。
「それで、今度は何考えとるん? 吐け」
「別に大層なことは考えてないわ。また、気になる子を見つけただけ」
「いつものか。今回狙うとる子供はどんな奴や」
ロキはフレイヤを呼び出して、何をするのか追求するためにここに呼んだ。
ロキはフレイヤが何かやましい事をしていると既に断定している。ただでさえ暴れると面倒な美神の派閥。首根っこ抑えられるなら抑えておきたいのだ、フィンのために。懸命に働く勇者のために。
今回はこちらに迷惑をかけそうにない子供探しみたいなので、ロキは少し安心して気を抜いた。フレイヤは探している子供のことをこんこんと語る。
「そうね……風のような子だったわ」
「本当に綺麗でね。どこまでもその足で一人で行ってしまえそうな自由な子」
「だからこそいつか一人で突っ走ってしまうかもしれない子」
うっとりとしながら語るフレイヤはロキも見惚れてしまうほど、実に美しい。
「可愛いらしいのよ。純粋で、無垢で、願いがある。そんな……」
その時、護衛に注力するベルは道を通る想い人を見つけた。綺麗な金の髪を持つ彼女は人通りをするりと進んで見えなくなった。その後ろ姿をじっと見つめて、護衛の仕事を一瞬でも放棄したベルは
「ごめんなさい、急用を思い出したわ」
「また会いましょうロキ。ベルも」
惚けている間に、じゃあねと言ってフレイヤは去っていく。唐突に席を立った彼女をロキは止めることができず、なんやアイツと置いてきぼりにされる。
「なんやアイツ……勘定もこっち持ちやないか!?」
「こうして二人で食べ歩きゆうのも楽しいもんやなぁ」
「はい、ロキ様」
折角の怪物祭ということでロキとベルは二人で催しを楽しんでいる。美味しそうな匂いに惹かれて出店の食事を買えば、二人で食べて感想を言い合ったり。
ベルもロキのお気に入りの一人だ。ベルのエスコートは実に完璧で丁寧だ、女らしく扱ってもらえるという体験は珍しいロキは少し調子が狂ってしまった。
一頻り遊んだ後、ロキはベルに語りかけた。
「なぁ、ベル坊。お前はようやっとる」
「ロキ様」
「でもな、お前の成長速度に自分自身すら追いつけてないような気がしてた。それでもと自分を律して目標を目指す姿は昔の
ベルの成長速度はずば抜けている。人も神も魅了する【
休む間がない。ただ救うために動くその生き方に彼は後悔することはないだろうが、見るものは心配でしかなかった。ベルは成長速度は凄いが、才能はない。心も只人のものだ。生まれながらの強者ではない。誰よりも先人に憧れる子供のような白さを持っているから、だからこそ恩恵と相性がいい。
けれど白いからこそ一歩間違えれば戻らないものだろうとロキは彼をそのように見ていた。
彼は英雄を目指している。
彼らに託された英雄を目指しているし、世界が望んでいる英雄になろうとしている。
「最近は少しだけスッキリしたみたいやな。怪しい雰囲気が消えとる」
けれど突き詰めれば突き詰めるほど、ひりついていた雰囲気は最近なくなっていた。柔らかなベル・クラネルの良さが帰ってきた。
よかったわと安心して笑うロキを見てベルは嬉しくなった。あぁこの人は確かにボクの家族なんだなと実感できた。
第一級の優れた耳に、女性の困った声が聞こえた。ベルはそちらに首を向ければギルドの役員が顔を見合わせている。おそらく、知り合いだろうその人にベルは話しかける。
「どうしよう……」
「……? エイナ、さん?」
「!? クラネル氏!」
ベルの顔を見てギルドの受付嬢は問題は解決したと喜んだ。
「脱走?」
「えぇ。怪物の数が足りなくて」
「ですけどアーディや【
この怪物祭に並々ならぬ情熱を燃やしているガネーシャだ。警備には抜かりなくレベル5を運用しているはず。ないとは思うが闇派閥の残党などがこの場を荒らして台無しにするなんて可能性を見逃すはずはない。
きっと今もどこかでポンコツな妖精が優れた能力を振り翳して暴漢や不審者を取り締まっているだろう。
けれど、彼女たちの話を深く聞けば事態は深刻なようだ。当然存在した厳重な警備を抜けて犯行が行われていたらしい。その場所にはレベル4までいたらしい。数体のモンスターが逃げ出している。
きな臭い。ベルの勘は今すぐ動けと訴えていた。
「もしよろしければクラネル氏にも協力をお願いしたいのですが」
「えぇ。ロキ様、ボクは少し探ってみますね」
「おう、頼む」
「全く……きな臭いことしとるんちゃうやろな、フレイヤ」
「こんなに弱い花をぶつけて何をしたいんでしょうか?」
「えーわかんなーい」
「ティオナ、真面目に考えなさいよ」
「レフィーヤが考えてわからない問題を私が考えてわかるわけないじゃーん!」
怪物の闘争を見ていた彼女たちはベルと同じくきな臭い雰囲気を感じて会場を抜け出した。
そこで街を荒らしていたのは、派手な色をしている花の怪物。
妖精としての矜持が汚らしい花を許せず、レフィーヤは容赦なく魔法を詠唱して狩ったのだが……弱すぎた。
せいぜいレベル3。相性が良くてレベル4。たった数体の花がオラリオを荒らすにはあまりに残念な戦力だ。
まるで隠していたものが運悪く抜け出してしまったような化け物ども。束の間に終わってしまった平和といつも異常事態に巻き込まれる時に起こる胸騒ぎにうんざりする。
「ベル……」
レフィーヤは胸に手を当てて目を瞑り、相方の無事を案じる。どうしてこの世はこんなに物騒なのか。レフィーヤは魔法を詠唱して残りを処理した。
一方そのころ
「この剣、凄い。最高…!」
「わぁ、綺麗ね。ダンスを踊るように片付けちゃったわ」
「でもこのままじゃつまらない…オッタル?」
「御意。……娘よ。次も女神の真意に答えて見せろ」