「皆さん、こんゆり~。来週で高校生になる予定の中学生作曲家『Lily』ですよー」
「こ、こんなぎぃ。中学生歌手の『nagi』、です……」
"こんゆり~"
"こんなぎ~"
"こんなぎ"
"こんゆりー!"
"この恥ずかしげなこんなぎが俺を狂わせる"
夜、私と寧々ちゃんは私のパソコンの前で1つのマイクを挟むようにして座り、某動画投稿サイトにて配信を始めた。私こと『Lily』はディスプレイの上に設置したWebカメラへ向けて手を振りながら挨拶をする。
私の挨拶に続くようにして寧々ちゃんこと『nagi』ちゃんが少し恥ずかしそうに小さく手を掲げてふりふりと揺らして挨拶をする。うーん、なんだかんだ一年半くらいは活動を続けているんだけど、どうも寧々ちゃんはこの挨拶にはなかなか慣れないらしい。
「今日は二人で雑談配信をしていきますよー」
"雑談たすかる"
"ゆりなぎの雑談からしか得られない栄養素がある"
基本的に、配信中は私が進行役を務めることが多い。たまに、寧々ちゃんが進行役に挑戦することもあるけど、まぁ稀だよね。
「そうだなー、今日はリスナーさんのみんなから質問とか募集してみようかな?コメント欄に質問とか投げてくれたら拾うよー」
"質問コーナーキター!"
"二人の将来の夢は何ですか?"
"高校に入ったら部活とかやるのか気になる"
"二人の私生活の話とか聞きたい"
「ふむふむ、将来の夢に高校の部活、私生活の話ね。順番に答えていこうかな。まずは将来の夢についてかー」
私は流れてきたコメントから目についたものをあげて、これから話す内容についてリスナーさんと寧々ちゃんに口に出して伝えてから少しの間考えてから話し始める。
「うーん……とはいっても、あまり自分自身のことってなると、パッとは思い付かないかな。候補をあげるなら、パパみたいにバイオリニストになるか、ママの翻訳家のお仕事を引き継ぐ、とか?」
「……Lilyはバイオリンも英語も得意だもんね」
"親御さん歓喜な良い夢やな"
"確かに、Lilyちゃんのバイオリンはいい……(語彙力)"
"Lilyちゃんもだけどnagiちゃんも英語得意よね、前に英語で寸劇してたし"
"そう言えば、Lilyちゃんパパって今日のニュースにでてたよね"
「あ、今日のお昼前のニュースでしょ?私もnagiちゃんと一緒に見たよー」
「うん……本当に凄いよね。ヨーロッパのオケのコンマスだなんて……」
"おフランスの大きな会場でコンサートしたんだっけ?"
"シャンゼリゼ劇場な。コンサートホールとしての規模は小さめなんだけど、100年以上の歴史ある大舞台やぞ"
"博識コメたすかる"
"なんでリスナーが当たり前のようにLilyちゃんのお父さんの話しとるんや……"
"コレって身バレ……?"
私と寧々ちゃんが私のパパの話を始めれば、釣られたようにリスナーさんも私のパパの話を始める。中には身バレとかを心配するコメントもあるけど、なんかもう今更なんだよね……。パパがテレビとか雑誌の取材で家族自慢ばっかりするものだから既に世間に認知されちゃってて……。ゴールデンタイムのお茶の間にデカデカと私の写真が出た時は変な声が出たよね。しかも何回も。毎回一ヶ月くらいパパはママに無視されてたけど懲りなかったんだよね。
寧々ちゃんも寧々ちゃんで、大舞台で歌を歌うことが夢だからか、顔出しとかある程度の身バレは覚悟の上らしい。実は顔を売るつもりでやってる面もあったりする。最初は二人とも顔は隠してたんだけどね。
まぁ、流石に女子中学生二人が顔出しで配信をやってるものだから、危ない目にあったりしないようにパパとママが色々と手を回してくれてるらしい。
「私のパパの話はどうでもいいから、nagiちゃんの夢を聞いちゃおっか。まぁ、私もリスナーさんももう知ってると思うんだけどね」
"パパ涙目"
"歌手さんよね"
"既に俺たちの歌姫定期"
"そうじゃないだろ、nagiちゃんは舞台の上で歌いたいんだろ"
「……わたしの夢は……大きなミュージカルの舞台の真ん中で、歌うこと」
「うん、nagiちゃんならなれるよ。私が保証する」
"俺たちも応援してやすぜ!"
私とリスナーさん達が口々に応援すれば、寧々ちゃんは嬉しそうに頬を緩める。そして、寧々ちゃんはマイクに向かって口を開く。
「……ありがとう。でも、最近は――」
おや、流れが変わったぞ?寧々ちゃんはリスナーさんにお礼を言ったかと思えば、私の顔を見つめてくる。それと同時に、デスクの下、リスナーさんには見えない場所で私の手の上に優しく包むようにして寧々ちゃんの手が置かれた。
「その舞台にはわたしだけじゃなくて、Lilyも一緒がいいな。って、そう思うんだ」
「うえっ……ぁっ……そ、そうなんだー……」
元から周りを警戒するネコみたいに鋭い目つきをしている寧々ちゃんなんだけど、それが数倍強くなった視線を向けられながらの言葉。ただ、それは私に対して何か悪感情を持ってのことじゃないと言うのは長年連れ添った私でなくても分かるくらいに強い意志を感じさせた。きっと、これは寧々ちゃんにとって絶対に譲れないユメなんだと、そう思わせるだけの力が言葉と態度に現れていた。
有無を言わせぬ迫力に押されて困惑している自分がいる。でも、それ以上に、私が寧々ちゃんに求められていると言う事実がとても嬉しくて。それよりも更に、寧々ちゃんの歌に果たして私の技術が通用するのかが不安で。色々な感情がごちゃ混ぜになって私の心を酷く揺れ動かす。だけど、とっくのとうに私の答えは決まっていて、変わらない。
「バイオリン頑張るから、いつかデュエットしようね」
「……うん。約束」
私が笑顔で答えると、寧々ちゃんの顔にあった緊張の色が消えて綻ぶようにして笑顔が浮かぶ。そして、お互いに見つめ合う。
「……ふふ」
「えへへー」
"てぇてぇ?"
"紛れもなくてぇてぇ"
"これはガチ"
"Lilyちゃんはともかく、nagiちゃんは絶対配信中なの忘れてるよね"
"我々は壁です"
「ちゃんとリスナーさんのことは忘れてませんからねー。壁とか悲しいことは言わないで下さい。ね、nagiちゃん?」
私がリスナーさんのコメントに対して返してから、寧々ちゃんの方を見ると、そこには顔がリンゴみたいに朱くなった寧々ちゃんの顔が。…………あれ?
「もしかして……忘れてた?」
「…………ッ!?ち、ちが……っ!」
"壁1号です。我ら4枚お囲い致す"
"2号です。よろしくお願いします"
"壁3号、寄り掛かって貰ってもいいですよ?"
"壁4号でございます、親指くらいの小さい穴が空いてますが気にしないで頂けたら幸いです"
"息が合いすぎてるし、4号はちゃっかり覗こうとするなw"
"草"
あ、壁が増えちゃった。寧々ちゃんは何かを言おうとして、口をぱくぱくと動かすけど空気は震えない。こんな状態でも、私と絡めている手は離さないのがかわいいよね。
「……そ、そう!こ、これは演技だから……勘違いしないで……っ!」
と、寧々ちゃんが苦し紛れの言葉を吐き出す。
"と、申されておりますが、判決は――"
寧々ちゃんの緊張しいが変なところで出ちゃったからこそのこの言葉だと言うのは分かってるんだけど、流石にちょっぴり傷ついちゃったから仕返しでもしようかなって。
「でも、こうしてみんなから見えないところではちゃんと手を繋いでいるんだよね」
「……ッ!?あ、あまっ……り、Lilyっ、なにしてるの……っ!?」
私が右手を机の上にトンと乗っけると、そこにはぴったりとくっつく寧々ちゃんの左手。一拍遅れてから気付いた寧々ちゃんがパッと手を放す。でも、既にカメラはその様子を写し出していて――
"判決:百合無罪!"
"キマシタワー!!"
"てぇてぇ……"
"ウッ(´・ω・`).;:…(´・ω...:.;::..(´・;::: .:.;: サラサラ.."
"nagiちゃん、滅茶苦茶指絡めてて草ァ!!"
――コメント欄は大いに盛り上がってしまった。凄い勢いで流れていくコメントに私はビックリしつつ、流し読みしながら寧々ちゃんにも意識を向ける。耳まで真っ赤になって俯きながらプルプルと震えている。あー、これは限界ですね……。
「……も、もう今日は終わり……っ!!おつなぎ――」
「あ、nagiちゃん。あと2つ質問残ってる。高校で入りたい部活と、私生活について」
案の定、戦略的逃走を選択した寧々ちゃんに、質問を投げる。真面目な寧々ちゃんなら、答えなかったら後で色々と考えちゃいそうな気がしたから。でも、私にとっても寧々ちゃんにとってもその選択は大きな間違いで。
「部活は帰宅部……!私生活は、天音と一緒の布団で寝てる……っ!…………あ」
「あ」
スゥ…。あー、本名はまぁバレてるし今更だよ。でも、
「き、今日はここまで、お、おつゆりー。あ、私も部活はやらない予定ですー」
物凄い速さで流れるコメント欄を無視しながら締めの挨拶をして、配信枠をソッと閉じる。よし、アーカイブは削除しよう。
一年半前の会話
天音「活動名POMEROじゃなくて良かったの?」
寧々「……うん、お揃いがいいから」
天音「お、おう(照)」
寧々のここがかわいい
にっこり調査隊のテーマ、却下のジト目
同じく、にっこり調査隊のテーマ、旅支度くらいさせろー。の、ぷんすこ
というか、にっこり調査隊自体、マジでワンダショ全員かわいいから好き