配信が終わったことを指差し確認してから、即座にアーカイブを削除した私は、リビングでクッションに顔を埋めながらソファで丸まっている寧々ちゃんの元へ向かう。
「寧々ちゃん、配信終わらせてきたよ。……だいじょうぶ?」
「………………もう……むりぃ……」
声ちっさ……。よっぽど恥ずかしかったんだろうね。寧々ちゃんの声は消え入りそうな声って表現がぴったりなほどにカスッカスだった。
うーん、どうしたものか。こういう時って何を言えばいいのか分からないよね。あ。
「でも、ほら。私と寧々ちゃんでやってる朝のルーティンを話しちゃうよりはマシだったでしょ?」
「…………ぁっ!?―――――――――――――ッ!!」
あれ?逆効果?私が言った言葉に反応して寧々ちゃんがチラッと私の顔を見たかと思えば、一瞬で顔が真っ赤になる。そして、ぽてっとソファに転がったかと思えば、声にならない叫びを上げながら、ホットパンツから覗く細い白磁の美脚をバタバタと暴れさせる。あー、水族館で買ったイルカのクッションが寧々ちゃんに強く抱き締められて、今にも弾け飛びそうになっちゃってるよ。
あ、そうだ。今の様子、動画に撮って後でSNSで投げとこっと。…………後日、さっきの配信を元に作られた切り抜きにその動画が組み込まれたもの(パパの話とか私の名前とかは抜かれてたよ)が投稿されて、プチバズりしてしまった。結果、寧々ちゃんに頬を膨らませて涙目で睨まれちゃった。かわいかったです。
それから暫くして、ソファに伏せて動かなくなった寧々ちゃんにこう言った。
「夜ご飯つくったけど、食べる?」
「………………たべる」
ムクリと起き上がった寧々ちゃんと目が合う。心なしかケモ耳っぽいクセ毛がへんにゃりしてるように見える。……あ、もしかして。
「私の名前を配信で言ったこと気にしてるの?」
「…………」
少しの逡巡の後、こくりと小さく頷く寧々ちゃん。
いや、でもあれは、進行役である私のミスでもあるし、そもそも私は気にしてないしで、寧々ちゃんがへこむ要素ゼロなんだけどなー。でも、何のお咎めなしってのも、寧々ちゃんが気に病んじゃうだろうし……。
「じゃあ、こうしよっか。寧々ちゃんには一週間の家事と私専用の抱き枕を義務付けようと思います」
「……え……それご褒美……」
「? 何か言った?」
「な、何でもない……!」
うーん、しょんぼり寧々ちゃんは元から小さい声が更に小さくなっちゃうから、聞き取りづらいんだよね。私、結構耳に自信あるんだけどなー。まぁ、独り言っぽいし、気にするほどのことではないね。
「じゃあ、冷めちゃうしご飯食べよう?くよくよタイムは5分で十分、だよ?」
「……ふふ、そうだね。ありがとう、天音。……あと、分じゃなくて、秒でしょ」
微笑みを浮かべて口元に手を当てながら寧々ちゃんが言う。良かった……やっと、いつもの空気に戻ったぁ……。と思ったのも束の間。
「……あ、この肉じゃがおいしい……!」
「えへへー、いっぱい愛情籠めてますので!」
「ッ!?」
それは、食事中の他愛のない会話の筈だった。私の言葉で寧々ちゃんの顔が真っ赤になって、目を逸らす。え、何その反応……。というか、寧々ちゃんを見てると私も――。
「そ、その……ね、寧々ちゃん?そういう反応されちゃうと私も恥ずかしいと言いますか……。冗談……ではないし、本当のことなんだけど……って、そうじゃなくて……あぅ……」
「わ、分かってる……っ」
会話が全く続かないとても気まずい空気感。テレビもつけず、部屋に響く音は時計の針が時間を刻む音、箸が皿をつつく音の2つだけ。だと言うのに。
たまに私と寧々ちゃんの視線が交わる。恥ずかしそうに目線を逸らす仕草が、照れたようなその笑顔が、私の心を優しく搔き乱した。
「……ねー、寧々ちゃん」
「……どうしたの?」
ぴちょんぴちょんと、雫が水面に落ちる音を背景に私は背中を合わせるようにして座る寧々ちゃんに声を掛ける。ちらっと後ろを見たら、お湯に浸かないようにタオルで纏めた緑の髪が見えた。
「明日はさ……久しぶりにお出かけしよっか」
「……え?……別に、いいけど……いきなりどうしたの?」
「いっつも、私たちってインドアなひきこもりさんじゃん?だから、たまには息抜きも兼ねてお外でパーっと遊んじゃうの。カフェでお茶してり、お洋服を見たり、ゲームセンターでゲームしたり……はいつもと変わらないけど、それはそれで楽しそうだし」
「……いいと思う」
私は寧々ちゃんの背中に凭れ掛かるようにして、肩の上に頭を乗っけた。少し上を向くように顔を向けると、寧々ちゃんと目が合った。
「えへへー、明日が楽しみだね、寧々ちゃん!」
「……そうだね」
寧々ちゃんへと笑いながら私が言えば、仕方なさそうに口元だけ笑みを浮かべたら私と同じように私の肩へ凭れ掛かってくる。お互いの重さと温かさを感じながら目を瞑る。
そして、二人揃って息を吐いた。その吐息はお湯で高まった体温か、はたまた別の何かか、それは定かじゃないけれど、何処か熱を感じさせるものだった。
「寧々ちゃん、電気消すよ」
「……うん、おねがい」
寧々ちゃんに声を掛けてから、私は照明用のリモコンのスイッチを押して部屋の電気を消す。電気が消えたのを確認した私は、約束通り寧々ちゃんを抱き枕とするべく、背中を向けて横たわる寧々ちゃんの身体に手を回す。寧々ちゃんのお腹の前で手を組むと、寧々ちゃんがぴくりと身体を小さく震わせた。
「ふふ、寧々ちゃんあったかい」
「……もう、くすぐったいよ」
私は寧々ちゃんの背中に頬を押し付けてぐりぐりと動かす。それに対して、寧々ちゃんは恥ずかしそうにモゾモゾと身動ぎをした。
寧々ちゃんと何か雑談でもしようかな、なんて考えたけど普段から一緒にいすぎて話の種がないことに気付く。…………よし、寝よう。
「おやすみ、寧々ちゃん」
「……うん、おやすみ、天音」
私は、とくんとくんと一定の間隔で聞こえる子守唄に身を委ねて目を閉じた。
※注 二人は半同棲状態だけど付き合ってません
寧々のここがかわいい
Glory Steady Go!の最初の「準備できた?」
Glory Steady Go!の最後のドヤ顔と「いぇい」
はよ、アナボカモン(今から出る可能性はほぼゼロだと思ってる)
だから、星空のメロディ、箱庭のコラルのアナボフルどっちかでいい。お恵みを。