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2020年4月20日13:15
ミコライウ前線司令部
市街地に残された一軒のコンクリート造りの家。その無機質な建物にはウクライナ軍が機材を持ち込み、即席の司令部と化していた。
「大佐。前線部隊から報告。大規模なロシア軍の越境です。」
「ふむ。そうか。」
前線の指揮所とは思えないほど場違いな、高級感あふれる革張りの椅子。その上でウクライナ軍大佐のソルニャーク・マニョラーは悠然と足を組み、背もたれに深く身を預けていた。
「いかが致しますか。」
「前線の部隊に攻撃させれば良いだろう?」
「しかし大佐。現在、前線の部隊は疲弊しており、ドローンの在庫も少なくなっています。」
実際、前線の部隊はドローンやドローン用の爆弾すら足りない状況が続いており、まともな大規模防衛戦を行う余裕はほとんど残っていない。
しかし、マニョラーはそんなことはお構い無しに部隊の攻撃を命じる。
「銃の弾薬はあるのだろう?それで防衛すればよいではないか。」
「ですが敵は戦車を中心とした部隊であります。そこにドローンの支援無しに突っ込むとなると多大なる犠牲を払い、継戦能力が低下してしまいます。」
「所詮、兵士は駒に過ぎないであろう?どうせ失った分は首都から武器と一緒に届くだろう。」
マニョラーの発言に部下達は静かな怒りを滲ませる。
そんな時だった。ミコイラウ市内に警報音が鳴り響く。
「何事だ!」
マニョラーは立ち上がり、少し怯える仕草を見せる。
彼の不安が募るなか、1人の将校が扉を蹴破らんとする勢いで入ってくる。
「失礼致します!第201高射ミサイル旅団が海上からのミサイルを探知!ミコイラウに向けて飛翔中です!」
「な、何だと!海軍はどうなっているのだ!」
「現在、敵艦隊撃滅に向かっているとの連絡が。」
同時刻ごろ南部海軍基地に所在する第30水上艦艇師団が出港していたが敵艦隊を撃滅するには心もとない戦力だった。
外ではS-300Vが発射した
「今すぐに私を避難させろ!今すぐにだ!」
「大佐!お待ちください!今、車を手配しています!」
「早くせんか!このままではミサイルが来てしまうぞ!」
その時だった。突然、頭上から世界が落ちてくる。けたたましい警報音は轟音にかき消され、天井が、壁が、まるで液体のようになだれ込んでくる。視界は瓦礫と黒煙で塞がれ、自分の呼吸音さえも周囲の破壊音に呑み込まれていく。
「……。クソッ……。」
マニョラーは無線機を取ろうと手を伸ばすが、瓦礫によって千切れ飛んだ足からの多量出血が止まらずついに意識を手放した。
結果、ミコライウ前線司令部の司令官、マニョラーを含む9割が戦死し、ミコライウ前線司令部が管轄する一帯の指揮系統は一気に混乱。部隊の有効的な防衛作戦は困難を極める事態になった。
ミコライウ前線司令部への攻撃は、ウクライナ軍の指揮系統に深刻な混乱をもたらした。
その頃、越境したロシア軍の車列は幾度ものウクライナ軍のドローン攻撃を掻い潜り、ミコライウまで到着。
2S19を主軸とした砲兵部隊による猛烈な火力支援の下、T-72B3が中心の機甲部隊とBMP-2に守られた歩兵部隊が一斉におぞましいエンジン音を上げながらミコライウへ攻勢を開始。防衛の要である第123独立領土防衛旅団を中心としたウクライナ軍は各所で激しい抵抗を試みるが、混乱した指揮系統は十分に機能せず、戦線は徐々に押し込まれていく。
市街地の一部はロシア軍の占領を許し、前線は危うい均衡を保ちながらも、確実に西へと押し下げられていた。
しかしロシア軍はウクライナ軍の激しい抵抗によりクルバキノ空軍基地を占領するには至らず、両者睨み合いが続いた。
さらに黒海ではロシア海軍黒海艦隊が依然として隊形を維持したまま航行を続けていた。しかしまだウクライナ軍は黒海艦隊の真の目的を暴けていなかった。
その答えは黒海を静かに進む艦隊とロシア軍司令部だけが知っていた。