ブロントさんがホロウで活躍するのは確定的に明らか   作:渡邊ユンカース

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顎の手術をするために夏季休暇が消し飛びましたので補填を求めます。
皆様の閲覧と評価と感想がこの作品の励みとなっておりますので、何卒よろしくお願い申し上げます。(露骨なコメ稼ぎ)


ブロントさんがビデオ屋に行くのは確定的に明らか

「ふうっ、中々に良い朝だ」

 

 邪兎屋との戦闘を終えて一週間が経過した。その間、ブロントは傷の療養をしながら、自分の戦闘スタイルの見直しやタルタルの戦闘指導に努めていた。

 なぜなら戦闘したホロウレイダーに善性が備わっていたからこそブロントたちは生きのびることができたのであり、これが根からの悪党ならそうはなっていない。失敗を次の成功に繋げる、その研鑽こそホロウ調査員には必要不可欠なのだ。

 

「さて、行くか」

 

 身支度を終えたブロントは街へと繰り出そうとする。今回ばかりは日頃から持っている武器は所持しておらず、カジュアルな服装だ。外出前に自身のボンプであるタルタルが何をするのか聞いてきた。

 

「ンナンナ?(どこ行くの?)」

「流石の俺とて休養が必要だ。今日はお前も好きにしておけ」

「ンナ!(わかった!)」

 

 そう言ってブロントはルミナススクエアを目指してバスに乗った。

 意外とブロントは好立地なところに住んでいるため、十分ほどでルミナススクエアに到着した。バスから降車して歩みを進めた先には大きな映画館があった。

 

「さて、ポップコーンを買う前にチケットを買わねば」

 

 ブロントは日頃から映画を楽しむ側の人間ではない。しかしながら好きな映画はあり、その映画がリバイバル上映されるのでここまで足を運んだのだ。

 

「あれ、どこだ」

 

 チケットを購入するために電子端末を操作するブロント、いくら指を動かしても本日上映されるスケジュールにその映画が入っていないのだ。試行錯誤して五分が経過し、苛立ちを覚えながら店員に聞く。

 

「あのゥ、すみません。騎士オブミュージアムはどこにありますか」

「その映画でしたら先日で終わりましたよ」

「な、何だと!?」

 

 店員の答えに動揺を隠せずにいるブロント、要するにブロントは上映日を勘違いしていたのだ。それも最終日に見れば良いと想定していたため、後日観ることもできない。見積もりが甘かった。

 

「他の映画館でもやっていないのか!?」

「いやー、そもそもリバイバル上映をしているところってうちだけなんですよ」

「くっ、まったくもって完全敗北だ……!」

「微妙に言葉の使い方おかしくないですか……?」

「ぬぅ、そうなら仕方がない。邪魔をしたな」

 

 店員に礼を言いながらブロントは映画館を出る。自身の失態に肩をすくめて意気消沈の様子のブロント、この後はどうしようかと考えることもなくトボトボ歩いていた。

 

「あら、ブロントじゃない」

 

 すると後ろから馴染みのある声が聞こえた。ブロントが振り向くと、その先には制服姿の朱鳶がいた。

 

「なんだお前か」

「なんだとは何よ。てか、そんな浮かない顔して何かあったの?」

「あぁ、簡単な話だ。俺の好きな映画を観ることができなかっただけだ」

「意外と問題が小さいわね」

「小さいだとォ?俺の人生で一本指に入る映画なんだが?」

「それって一番好きってことよね。普通に言いなさい」

「俺がわかっていればいい」

「……言葉って誰かに伝えるためにあるのだけど」

「まあこうなってしまったら仕方がない。俺は帰る」

 

 幼馴染の朱鳶と会話をして多少気が晴れたのか、ブロントは踵を返して岐路につこうとする。流石の朱鳶も哀れに思ったのか、ブロントを引き留める。

 

「ちょっと!」

「なんだ?要件は手短に言え」

「騎士オブミュージアムが観たかったのよね」

「そうだが」

「その映画、私が知っているビデオ屋にあったわよ」

「本当か!?」

 

 ブロントは目を煌めかせて顔を朱鳶に近づける。端正な顔立ちで宝石のように美しい瞳と髪を持つブロントに、男性に対して極度の反応を見せる朱鳶ですら赤面して硬直してしまう。

 

「なあ!それは!どこにある!」

「わ、わっ。か、顔が近いですって……!」

「この興奮はしばらくおさまる事を知らない!」

「だから近いって!!」

「ぬおっ!?」

 

 キャパオーバーになった朱鳶はブロントの腕を掴み、そのまま背負い投げをする。ゴツンと背中を強打したブロントは苦痛に苦しみ悶え、朱鳶としても自身がやってしまった愚行に悶えていた。傍から見れば容疑者を取り押さえる警察そのものだ。

 

「お、お前がしたことは火を見るより確定的に明らか……!」

「ご、ごめんなさい!すぐに手を放すわ!」

「マジでかなぐり捨てンぞ……?」

「そもそもあなたが顔を近づけるから!」

「勝ったと思うなよ・・・」

「変に対抗心を燃やさないで!」

 

 痛そうに腰を抑えながら立ち上がるブロントと、久しぶりにやってしまったと顔に手を当てる朱鳶だった。

 

「ったく、それでどこにあるんだ」

「六分街にあるけど、ちょうどいいわね。私が案内します」

「ほう、堅物なお前もサボりを覚えたか。ジュースを奢ってやろう」

「サボりではないわ。パトロールを兼ねての行動です」

 

 顔を近づけたとはいえ無抵抗なブロントを取り押さえてしまった朱鳶は罪悪感を覚えていた。そのため、せめてもの罪滅ぼしとして名乗り出たのだ。

 

「いいだろう。なら案内を頼む」

「わかったわ。けど電車だと緊急時に困るからパトカーに乗るわよ」

「素晴らしいな。税金の私的運用だ」

「変な物言いね!とにかくそこで待っていて」

「わかった」

 

 パトカーを持ってくるために朱鳶は警察署に向かう。ブロントが近くのベンチに座って待っていると、一台のパトカーが目の前に止まった。

 

「待たせたわね。乗って」

「……まるで俺が逮捕されたみたいだな。抵抗感がある」

「長居したくないので早く乗って。そうじゃないと本当に何かしらの罪で捕まえるわよ」

「今は持っていないとはいえ、俺はホロウ調査員だから武器携帯は許されているぞ」

「公務執行妨害や名誉棄損があるけどどれがいい?」

「さあ早く案内を頼む」

 

 自分が劣勢と見るや否や態度を変えて乗車するブロント、朱鳶は長年の関係からブロントに対する対処法を理解していた。意外なことにこの技能は職務においても応用が効いた。

 パトカーに乗った二人は六分街を目指して進む。

 

「なあ朱鳶」

「はい?」

「俺にも運転させてくれ」

「ダメに決まっているでしょ。どうしてもなりたいのなら警察官になりなさい」

「一応、ホロウ調査員も公共機関だから許されないか?」

「その理論で言うなら警察官が消防車に乗って火災現場に行くようなものでは?」

「……お前、消防車の梯子を使って人命救助しただろ」

「例えが悪かったです。忘れてください」

「そうか。にしても新エリー都もあの時より活気づいたな」

「えぇ、そうね。旧エリー都が陥落したことで人が集まったからね」

「……もう十年か」

 

 ブロントは車窓から移り変わる景色を眺める。その瞳には普段の様子とは似つかぬ哀愁が込められていた。

 

「……慰霊碑、今度行きましょう」

「あぁ、そろそろ家族に会わないとな」

「そうね。きっとご家族も会いたがっているわ」

「ふん、俺の活躍をじっくり聞かせてあげんとな」

「過度に盛り過ぎるとお姉さんから言われますよ」

「知ったことか」

 

 元々ブロントは旧都の住人で、小規模といえど名家の長男だ。両親と姉と弟がいて、ブロントが独りで留守番をしている際にホロウ災害が発生してしまった。ホロウによる浸食が進む中、家宝であった甲冑と武器を装備して命からがら脱出することに成功したのだ。

 まだ少年だったブロントは幼馴染である朱鳶一家の厚意によって高校まで居候し、卒業後はホロウ調査員になるべく自立した過去がある。

 

「着いたわよ」

「送迎ご苦労。意外とかかったな」

「まあこのぐらいでしょうね」

「サイレン鳴らして行けば早く着いたな」

「横暴がすぎるわ」

 

 そうこうしているうちに六分街に着いた二人はパトカーを安全なところに停車させて降りる。ここ六分街は居住するのに適した施設や店舗があるため人気が高い地域で、住民の民度も良いため治安も良い。

 

「どれ、あとは俺一人で行けるが」

「いいえ。私も店主さんに会いたいので」

「仕事中だろ」

「知っているかしら。制服姿の警官がお店に入ることで万引きと強盗防止に繋がるのです」

「コンビニや飯屋ならともかくビデオ屋だから適応されないのだろ」

「ご、ごほん!とにかく、行きますよ」

「まあ俺には関係ないか」

 

 てくてくと歩くこと五分、お目当てのビデオ屋らしき店舗が見えてきた。店名はRandom Play、店は小規模ながらも雰囲気を感じさせる外観だった。

 朱鳶がドアノブに手をかけて押すと、ドアベルの心地の良い鈴音が店主たちに来訪者を知らせる。

 

「お邪魔します」

「いらっしゃいませ。おや、珍しいお客さんだ」

「朱鳶さんだ!」

「久しぶりですねアキラくんとリンちゃん」

 

 朱鳶とこの店で働くアキラとリンは知り合いで、和やかな雰囲気が店内に溢れる。流石のブロントも空気を呼んだのか、外で待機していた。

 

「朱鳶が出ているCMカッコよかったよ!」

「あ、あはは。照れますね……!」

「うんうん!特に決め台詞とか映画みたいだったよ!」

「確かにあれはよかったね。ところで何かビデオでも借りていきますか?」

「いいえ、私ではなく友達がですね」

「友達?」

「おう、失礼するぞ」

「わっ!?」

「ッ!?」

 

 朱鳶の催促によって登場するブロント、しかしその顔を見たリンとアキラの表情が凍りついた。

 

「突然すまないな。ビデオを借りたいのだが」

「……か、構いませんよ。まず借りる際にカードを作ってもらうので記入をお願いします」

「そうか。では頼む」

「わかりました。では、こちらの書類に諸々の記入を」

 

 ブロントはアキラから渡された書類に必要事項を記入していく。その際にブロントは、リンがスタッフルームにボンプを連れて引っこんでいくのを目撃した。どうしてボンプをしまうのか疑問に思ったブロントだったが、そんなことを気に留めずに記入を進める。

 書き終わった書類をアキラに渡すと、一分足らずで会員カードが完成した。

 

「こちらがブロントさんの会員カードになります。入会金は朱鳶さんの紹介ということで無料です」

「それは助かる。ちなみに騎士オブミュージアムはあるか?」

「ありますよ。確かこちらに」

 

 アキラはブロントが所望するビデオを商品棚から見つけて渡す。パッケージやタイトルをブロントは確認し、満足気に口角を上げる。

 

「これだ」

「それは良かったです。一週間レンタルでよろしいでしょうか」

「それで頼む」

「にしてもこの作品は懐かしいわね。子供の頃に一緒に観に行ったわね」

「そうだな。確かポップコーン以外に俺が買おうとしたのを止めてきたな」

「帰りの交通費もつぎ込もうとしたからでしょ」

「そうだったか」

「朱鳶さんとブロントさんは長い付き合いなのかい?」

「そうだな。腐れ縁だ」

「ったく、そんなこと言っているから他人から距離を置かれるんですよ」

「俺に興味を持つ人間の方が俺を理解している」

 

 ブロントに対して朱鳶が取り繕わない態度で接しており、アキラは親友以上で恋人未満の関係であることを見抜いた。しかし当の二人はそれに気づいてはいない。

 

「こちらが商品になります。一週間以内にお返しください」

「感謝する。にしてもアキラと言ったか」

「はい?」

「お前の声、どこかで聞いたことがあるような……」

「っ!?」

 

 気づかれたか、とアキラは動揺する。なぜなら先日、ブロントと戦闘した際にいたボンプの正体がアキラだったのだ。スタッフルームではモニター越しで緊張した様子のリンが見守っていた。

 

「そ、そうですかね」

「うーむ……」

「……」

「思い出した!」

「っ!?」

 

 アキラは正体がバレて詰んだと感じた。相手はホロウ調査員と治安局、どちらも優秀で戦闘技術にも秀でているため逃亡は難しい。万事休すの状況だった。

 

「お前、ジュースのCMに出ていなかったか?」

「……へっ?」

「ほら、商品名を叫ぶ掛け声があっただろ」

「残念だけど出ていないし、テレビ出演は一回もないので」

「そうか。俺の聞き間違いか」

 

 勝手なブロントの思い込みに安堵するアキラとリン、カマをかけにきたのかと考えたのだがブロントの様子からして本心から思ったそうだ。

 

「好きな物も借りれたし、俺は帰るぞ」

「そうね。アキラくん、今度は私も借りに来ますね」

「いつでも待ってます。そのビデオ、カップルに人気があるので、ぜひ二人で見てください」

「……ふ、二人!?アキラくん、言い方に語弊がありますよ!!」

 

 店から出ようとする二人に向けてアキラが肝を冷やされた仕返しと言わんばかりに冗談を言う。朱鳶は顔を紅潮させて弁解しようとするのだが、ブロントは気にも止めていない様子だった。

 

「そうだな。たまには二人で見るのも悪くない」

「ブロント!?」

「まずは俺独りで観てからだ。その後でいいか」

「……流れ的に最初から一緒に見ると思うんだけどな」

「家に男女でビデオ鑑賞はハレンチですよ!」

「おいィ?俺は意味が理解できずにわからないでいる」

 

 アキラは疑問符を頭上に浮かべるブロントを見て、ブロントは朱鳶に恋愛感情を抱いていないか気づいていないのだと察した。二人が恋人になるにはまだまだ時間がかかるようだ。

 




ボンプの操作はアキラがしている設定です。
ちなみに朱鳶は十二歳ぐらいで、親の都合で旧都から引っ越したため家族が無事という独自設定です。
それと本作の時系列はジェーンと出会った章よりも後です。
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