ブロントさんがホロウで活躍するのは確定的に明らか 作:渡邊ユンカース
この作品は十話程度で完結する予定です。
それと感想と評価とお気に入り登録をしていただけたら作者のモチベが上がって更新頻度が上がります(乞食)
「ほう、俺に訓練をつけてほしいと」
『えぇ、そんなところね』
新エリー都にて、ブロントは幼馴染である朱鳶と電話をしていた。朱鴛は言わずと知れた都市秩序部捜査課のエース、ブロントはホロウ調査員だ。そのため両者の機関同士の関わりは薄いのだ。
しかし今回は朱鳶の方から共同訓練の誘いを依頼しており、私的な誘いと捉えることもできる。
自室にてブロントはプロテインを齧りながら言う。
「しかし俺が訓練を?ン、面倒だから拒否するゥ」
『そういうと思ったわ。だけどあなたにしか頼めないの』
「何ィ?どういうことだ」
『あなたの戦闘スタイルは盾を主体としたものよね』
「それがどうした。まさか機動部隊にやれというのか」
『最後まで話を聞いて。実は私と同じ課にあなたと同じ戦い方をする局員がいるの』
「ほう、それで俺が指南しろと」
『そういうことね』
なるほど、とブロントは納得した。確かに機動部隊に求められるのは盾による制圧及び鎮圧、ブロントの戦い方とは合っていない。おおよそ訓練プログラムがその人物に適していないのだろう。
ブロントは無言になって考えこみ、その答えを朱鳶に告げる。
「いいだろう。やってやる」
『助かるわ。ありがとう』
「まあルーキーに手取り足取り教えるのも悪くはない」
『……確かに彼はルーキーと言えばそうね』
「ただし見返りがある」
『何かしら?』
「俺がホロウ内部でやらかした時には隠蔽しろ」
『何ですって!?』
常識外れの見返りに朱鳶は驚かざるをえなかった。朱鳶は正義と高潔を胸に秘めた人物、不正や違反を正す立場の立場である。それを破れと言わんばかりの内容に朱鳶は苛立ちを覚える。
『あのね、私は治安局員よ。どうして不正に手を染めないといけないの』
「いいだろう。先端の先っぽだけだ」
『どうせ承諾したらろくなことにならないのは目に見えるわよ。それ以外にして』
「ちっ、頭が固い頑固者め」
『……ギリギリ違反はしていないから見逃してあげたけど、今度から逮捕してあげる』
「おいィ!?それは反則だろ!」
『どっちが悪いのよ』
「むぅ、ならお前を一日好きにできる権利とか」
『な、なななんていう要求するの!?』
ブロントから代案として出された内容に、朱鳶は顔を赤らめて明らかに混乱した様子だった。世間的に見れば当たり前の反応だ。
「別にいいだろ。金銭が発生するわけでもない」
『そういうことじゃなくて!』
「だったらなんだ。悪いが俺も無償でやるほど善人ではにぃ」
『くぅ……!』
淡々と告げるブロントに朱鳶は迷っていた。
ブロントは戦闘経験豊かな調査員、その技術を教えてもらえれば都市秩序部捜査課の戦力は上がる。しかし見返りが一人の人権を無視した内容でかつ、傍若無人のブロントからの要求なんて見当もつかない。
一分間考え込んだ後、朱鳶は答えを出す。
『わ、わかったわよ!それでいいわ……!』
「そうか。交渉成立だ」
『ただし!へ、変なことはしないで!』
「それは訓練か?それともお前に対してか?」
『どっちもよ!』
かくしてブロントによる戦闘訓練の予定が決まった。
通話後、ブロントはいつも通りに筋トレに努めていた。しかし朱鳶は机に顔を突っ伏しながら混乱した様子で頭を掻いており、家に帰ってからはインターネットで衣服のカタログを読み漁っていた。なお朱鳶の履歴には下着一覧が多数載っていた。
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「遅いわね」
訓練当日、朱鳶は苛立ちを覚えていた。
模擬実戦をするためにHIAキャリアセンターのVRの中に入ったのだが、いまだにブロントは来ない。メールを確認しても既読すらつかないのだ。
「まあ十五分ぐらい待ちましょうよ。こちらからの頼みでしたし」
「そうだぞ朱鳶。きちんと約束したのだから来るだろう」
朱鳶の近くで二人の人物が彼女を諫めていた。一人はネコのシリオンで大きな盾と警棒を持っており、もう一人は長い棒を持った知能機械人の少女だった。
「だとしても約束時間を守らないなんて言語道断です。もう社会人なのに自覚がない!」
「まあ確かにそうですけど……」
「おい、来たぞ」
「遅いわよ!」
そうこうしているうちにブロントがやってきた。当の本人は遅刻したことに悪びれることはなく、のうのうとした足取りだった。
「遅刻よ。何してたの」
「は?小腹が減ったからハンバーガーを食べていた」
「直前で?」
「あぁ」
「おかしいでしょ!普通なら約束重視よ!」
「腹が減ってはスタミナ値に影響があるだろ」
「知らないわよ!だいたいあなたはいつも遅刻して!」
いつもの説教モードに入る朱鳶だったが、横から知能機械人の少女が割って入る。
「そこまでにしておけ朱鳶」
「誰だお前ら」
「申し遅れたな。我は青衣、朱鳶と同じ特務捜査班の者だ」
「ほう、知能機械人にしては古風な話し方をするな。さては忍者だろ」
「残念だが忍者にルーツはない。朱鳶の幼馴染というのが気になってついてきた」
「自分はセス・ローウェルです!階級は巡査であります!」
「一見してその武器を見るに、俺がセスに訓練をするのか」
「なのでよろしくお願いします!」
「いい返事だ。俺の貴重な時間分、バキゴキ鍛えてやる」
ブロントは元気ハツラツに答えるセスに好感を覚えた。何事にもやる気があって素直そうな若者だからである。
こうしてブロントによるセスの訓練が始まった。お互いに距離を取り、武器を構える。
「まずはお手並み拝見だ。ルーキー、遠慮なしに全力を出してこい」
「いきます!」
セスはブロントに言われた通りに全力を出して突進する。盾を突き出しての突進は相手の態勢を崩すためのものであり、大柄で盾持ちのブロントにも有効だ。
しかしブロントも同じ戦法を使う訳で、容易く捌ききることができる。
「ぬるィ!」
「なっ!?」
「ほう、突きでセス坊を止めるか。なんたる筋力」
「おらァ!!」
「ぐわっ!?」
ブロントはセスの盾による突進を突きで止めて、停止したセスに向けてブロントは自身の盾で殴る。盾同士がぶつかり火花が散って甲高い金属音が響く。ブロントによる殴打は助走をほぼつけていないはずなのに、いとも簡単にセスは吹き飛ばされた。
「お前は全力を出していいが、俺は半分も出していないぞ」
「まだまだ!」
先程と同じく盾による突進を行うセス、同様に突きで止まらぬよう回避を意識した突進だった。しかし盾持ちとして回避は愚策だった。
「よしっ!」
「右に躱しましたね」
「バカがァ!」
「ぐあっ!?」
「突きの後に横薙ぎ、それも短い腕の振りで吹き飛ばすとは」
「昔から力自慢でしたからね」
「そうは言っても並外れた筋力、これは目を見張るな」
感嘆が上がる朱鳶と青衣をよそに、ブロントは怒髪天の様子でセスを睨みつける。
「……おいィ、セス。どうして回避した」
「それは攻撃されたから」
「アホのバカが!タンクなら攻撃は受けてこそだ!」
「なっ!?それだと俺が吹き飛ばされます!」
「そうならんように耐えろ!」
「だけど!」
「ならどうしてお前は盾を持つ!」
「ッ!?」
ブロントからの問いにセスは硬直する。確かにシリオン特有の機敏な動きができるなら警棒を両手に握れば良いのだ。盾持ちの真意を問いただされたセスは自身の盾をジッと見つめる。
「自分が、負傷しにくいように」
「否ッ!自己保身のための盾なんて捨ててしまえ!」
「ならブロントさんはどうして持つんですか!」
「――――皆を
「ッ!?」
セスはハッとした様子で、ブロントは盾持ちとしての真意を聞く。
「俺が相手の攻撃を受ければ隙が生まれる。さすれば俺のカウンターやパーティーの攻撃のチャンスになる」
「だけど避ける時もあるんじゃ?」
「それは攻撃を受けきれるか見極めてからだ。今のお前みたいに易々と避けん」
「そしたら自分の命を削ってまで
「そうだ。人の倍以上に苦痛を伴うが、名誉と信頼も伴う。それが名誉職タンクだ」
ブロントはタンクであることに名誉を感じている。自分を犠牲にしてでも味方が敵を倒してくれれば万事解決と思っており、いわばブロントは自己中心的な利他主義者なのだ。
故に体に刻まれた傷や装備の修復箇所は名誉の勲章として誇りに思っている。
タンクとしての神髄を聞いたセスは今までの行動を振り返って、決意を新たにする。
「ブロントさん、ありがとうございます。おかげで俺、気づけました」
「ほう、言ってみろ」
「俺、絶対に仲間を
「口で言うのは簡単だぞ」
「えぇ。だから今ここで、それを証明してみせます!」
「いいだろう。八割の力を出すからやってみろ」
「いきます!」
「来い!」
先程と同様に盾を構えて突進するセス、それに対して盾で一度攻撃を耐えてから反撃に出ようとするブロント。
しかし盾と盾がぶつかる手前、バシュンという射出音を立てて盾だけが飛び出してきた。
「何ィ!?」
「今だ!」
「ぐうっ!?」
なんとセスは自身の盾に備わっていたパージ機能を使って盾を飛ばしたのだ。予期せぬ攻撃をブロントは盾で受けきるも、セスはシリオン特有の脚力で己の盾を跳びこえて警棒でブロントの頭部を殴打する。
流石のブロントも怯んでしまい、セスの連撃を防ぐのに手一杯だった。
「お、面白い攻撃だ。だが盾を放したな!」
「いや、放してなんていない!」
「ぬおっ!?」
セスに一太刀浴びせようと剣で斬り上げるブロントだったが、セスの軽快な動きで躱されてしまう。セスはその勢いのまま盾を回収して警棒と盾を合体させた。
すると盾と警棒はひとつの大剣と化し、セスはブロントに向けて渾身の一撃を放つ。
「これが俺の全力だああああ!」
「タンクとして、耐えきる!」
大きな火花が散り、バギャンと金属特有の重厚な音が辺りに響き渡る。
「ぬぅン……!!」
「なっ、後ずさりもないなんて!?」
セスの渾身の一撃をブロントは見事耐えきってみせた。だがブロントの表情は歯を食いしばっており、跡ができるほど大地を強く踏みしめていた。
「なかなか素晴らしく良い攻撃だ」
「あ、ありがとうございます」
「だがしかし!」
「うわっ!?」
ブロントはその場で前蹴りをしてセスをよろめかす。セスが態勢を立て直そうとするも、その隙をブロントが見逃すわけもない。
ブロントは剣を下方に構えて力を込め始めた。
「見せてやる。俺の渾身の技をッ!」
「あの構えは!?」
「これは、少々マズいのではないか?」
それはブロントが一番得意とする攻撃技でカウンター兼コンボ技として重宝している大技。
「グランドヴァイパー!!」
「ぐあああああ!?」
グラットンソードによるド派手な斬り上げ攻撃は強固な装甲を持つエーテリアスに対して有効だ。あくまで訓練なので力は抑えてはいるものの、現実で行えば大怪我必須である。
咄嗟に盾で攻撃を防いだセスだったが、衝撃を完全に殺しきることはできずに空中に打ち上げられた。
「そしてこれで最後だ!」
「おおっ、鎧を着けているのに跳んだぞ!」
「……まさに筋肉に物を言わせた戦いね」
「メガトンパンチ!!」
「ぐはっ!?」
ブロントは両手に武器、そして鎧をまとった状態なのに大きく跳躍した。そしてとどめの一発と言わんばかりに剣を持った手でセスの腹部を殴りつける。
セスは腹部によるダメージを受けながら重力に導かれて、勢いよく墜落した。
「勝負あり。ブロントの勝ちじゃ」
「つい燃えて熱くなってしまった」
「熱くなってしまったじゃないわよ!セス君の上半身が半分埋まっているわ!」
「それはそう。反省はしているが後悔はしていない」
「バカ!」
飛んできた朱鳶に拳骨を落とされてうずくまるブロント、その頭には大きなたんこぶができて煙が上がっていた。
一方でカブを収穫するように青衣がセスを引っこ抜いた。セスの目は渦を巻いていて、明らかに気絶しているようだった。
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「ブロントさん、本日はありがとうございました!」
「礼が言えるのは大変俺の気分が良い。ジュースを奢ってやろう」
訓練が終わり、HIAキャリアセンター内のテーブルに四人は集まっていた。
VRの世界で外傷を負った肉体は現実世界に反映しないため、激闘を繰り広げた二人の体は無傷だった。なお心理的外傷は反映されるのだが、今回はお互い大丈夫なようだ。
それでもつい熱くなってしまったブロントに、現実世界でも制裁として朱鳶が拳骨を落とした。そのためブロントには赤く腫れたたんこぶができている。
「今回の戦いで色々なことが学べましたし、自分の未熟さも覚えました」
「自分の未熟さを知ればそれを改善できる。それが成長だ」
「はい!」
「にしてもブロント、お主の筋力は凄まじいな。どういう肉体をしているのだ」
「ほう、俺の肉体が気になるか。いいだろう、露出の趣味はないが後で見せてやる」
「せ、先輩とブロント!そういうことはハレンチです!」
「どうした朱鳶。やましいことはないぞ」
「我は知能機械人、故に安心せい」
「公序良俗に反します!」
紅潮させながら反論する朱鳶に青衣はニヤリと顔をにやつかせる。
「朱鳶よ、独り占めしたい気持ちはわかるぞ」
「言いません!」
「けど幼馴染なら幼少期に見たことぐらいあるだろう」
「今と昔は違います!お互い大人です!」
「ほら先輩たち、あまり公共の場でそういう話はよくないですよ」
こうして都市秩序部捜査課とホロウ調査協会による合同訓練(個人間)は幕を閉じた。
ブロントはその後、セスをいたく気に入り一緒にジムや訓練をする仲になった。美男子同士の関係ということで別の界隈が盛り上がっていたが、その火消しに何故か朱鳶が取り掛かっていた。公務に支障をきたすという名目で朱鳶は尽力していたが、その裏にある思惑を青衣は感じて愉悦しながらお茶を飲んでいた。
セスみたいな後輩キャラがいたらブロントさんも気に入るでしょう。ブロントさん、ああ見えて面倒見が良さそうですし(偏見)