ブロントさんがホロウで活躍するのは確定的に明らか 作:渡邊ユンカース
それと葉瞬光可愛いですね。
「……決着の日が来たか」
草木も眠る早朝、新エリー都にて一人の男が装備で膨れあがったリュックサックと徹底した整備をした武器を持ち家から出る。
その男の名はブロント、彼はまだ人気のない道路をずんずんと進んでいく。その瞳には覚悟の炎が宿っていて、表情も凛々しい。その後ろにはボンプのタルタルが追従している。
「ンナンナ(本当に、行くんだね)」
「あぁ、この日のために万全で完璧な準備していた」
「……ンナ、ンナナナ(そうだね、待ちわびていたんだもんね)」
「あぁ、これで人生の目的を果たす」
ブロントは今までの人生でとある目的を立てていた。目的を達成するためにブロントはホロウ調査員になり、多額の金をアウトローに積んできた。用意は十年以上前から行われていたのだ。
タルタルはボンプでありながらも、その所作からは緊張と恐怖が見え隠れしている。ブロントは一瞥してから声をかける。
「これは強制でもない。俺の悲願を達成するためだ」
「ンナ(わかってるよ)」
「お前には無関係。だから関わらずに家で寝ていろ」
「ンナ!ンナナナナ!(嫌だ!だって僕は相棒なんだよ!)」
珍しくタルタルを気遣っているブロント、しかしタルタルは同行を願い出ている。ボンプながらにブロントが目的を達成するまでお供をする覚悟があった。覚悟を感じ取ったブロントはホロウに入るまで何も言わなかった。何を言ってもタルタルはついてくるとわかっていたからだ。
ホロウに入るまでの道中、ブロントは懐から一枚の写真を取り出して見つめる。
「絶対に仇はとる」
写真にはブロントに似た両親と三人の子供の姿があった。ムスッと仏頂面で視線をそらしている少年こそ、幼き日のブロントであった。ブロントの家族はもういない。それこそ家族は十年以上前に亡くなっている。
ブロントにとっての目的、それは復讐だった。相手の姿は見たこともないが、現場や目撃情報で断片的に知っている。
「待っていろよ、キングベヒんもス」
ブロントは復讐の業火を燃え上がらせ、まだ見ぬ対象に憎悪の念を向ける。一方でタルタルは常軌を逸した姿を見せるブロントに不安を抱いていた。
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「せい!ふんぬっ!!」
「ギャアアアア!!」
ブロントはホロウに足を踏み入れて捜索を始める。なるべく戦闘は避けたかったのだが、軍がエーテリアスの制圧を徹底して行っていない地域のため続々とエーテリアスが集まって来た。
怨敵に出会うまでは体力を温存しておきたかったブロントたちだが、出会ってしまったものは仕方がないと割り切って戦闘を行う。
「俺のォ、邪魔をするンじゃない!」
「グゲッ!?」
「ガババ!?」
ブロントは鬼神のように剣と盾を振るってエーテリアスを撃破する。荒々しく戦闘をしているのだが、疲労している様子はない。いや、正しくは疲労を感じていないとも言えた。
一通り戦闘を行った後、ブロントは剣を収める。
「ふんっ、雑魚が。俺の行く手を阻むからだ」
「
「アホか。一ミリミクロンも怪我などしてない」
「ンナナ?《本当?》」
「あぁ、一流のナイトは無意味な嘘はつかない。タルタル、まだいけるか」
「
「仕方あるまい。小休止を挟んで休憩だ」
ホロウによる浸食がさほど進んでいない建物を見つけたブロントはそこで休むことにした。リュックサックを降ろしてブロントたちは息を整える。一応、エーテリアスが強襲する可能性も考慮して武器は携えたままだ。
タルタルは小休止の間に自身のボールの個数を確認するついでに、ブロントに話しかける。
「|ナナナンンナ?《どうしてブロントはそのエーテリアスに拘るの?》」
「……なんだ、知りたいのか」
「
「別にお前には関係ない。これは俺だけの問題だ。お前は勝手についてきただけ」
「ンナァ、ンナナナ《そっか、変なことを聞いてごめんなさい》」
「……まあ俺個人の復讐とだけ言っておこう」
「
タルタルが言葉を紡ぎかけた瞬間、どこからか大きな雄叫びが聞こえてきた。今まで戦ってきたエーテリアスとは大きく異なった鳴き声、ただちにブロントたちは武器を携えて室内の一角に身を潜める。
「
「あぁ、ようやくお出ましか」
ドシンドシンと地面が揺れて、次第に地響きと揺れが大きくなってくる。巨大な何かが、こちらに来る。復讐に囚われて憎悪を身に纏っていたブロントでさえ冷や汗を流す。
ちらりとブロントが窓辺から外を覗くと、そこには体長が優に十メートルを超すであろうエーテリアスが存在した。
「
「実物を見るのは初めてだが、おぞましい姿だ……!!」
そのエーテリアスは明らかに異形だった。狼と熊を掛け合わせた様子であり四足歩行をしている。極めつけは頭部に生えた二本の大きな角と背中にある背びれだった。
涎を垂らしながら周辺を踏み荒らす姿はまさしくその地の王である。
「|ン、ンナナナ!ナナナ!《あ、あれと戦うのは無茶だよ!応援を呼ぼう!》」
「断る。アイツこそ俺の目的、俺の仇敵だ」
「
「なんだお前。もしかして俺が死ぬのを恐れているのか」
「ンナナ!《当たり前だよ!》」
「ふっ、まさかボンプ如きに心配されるとは、俺も焼きがまわったものだ」
「
必死になってブロントに退却を提案するタルタル。ブロントはそんなタルタルを見て、ふと微笑が零れる。
「お前、絶対生きろよ」
「
言葉の真意を問おうとしたタルタル、しかしそれはできなかった。何故ならブロントがタルタルの腹部を殴ったからだ。
「
薄れゆく意識の中、タルタルが見たのは満足そうに微笑むブロントの姿だった。
「よし、俺の人生にケリをつける」
ブロントはタルタルを建物が崩壊しない場所まで運んだ。その後、自身の剣と盾を身構えてできるだけタルタルから離れたところまで移動する。
一方でキングベヒーモスは居合わせたエーテリアスを捕食していた。共食いという異様な光景にブロントは足がすくみそうになる。
「規格外も規格外。だが俺の相手に不足はないィ……!」
捕食に夢中なキングベヒーモスの背後からブロントは忍び寄り、そして崩壊した建物を使って上空から奇襲した。磨きに磨かれた剣はキングベヒーモスの背中に深く刺さる。
「グオオオオオオッ!!」
「ぐっ!!」
突如として感じる痛みから敵を理解したキングベヒーモスは巨躯を揺さぶって、ブロントを振り落とそうとする。ブロントは必死に剣を握って対抗するが、呆気なく振り落とされてしまう。
「なんてパワーだ……ッ!?」
「グルルルルッ!!」
キングベヒーモスは自身を急襲した相手と相対する。小さな生物が至高の時間ともいえる捕食を邪魔したのだ。もはや生きて帰すという考えなどない。もっともエーテリアスに思考できるのかはわからない。
「さあ、やり合おうか!我が怨敵!!」
「グオオオオッ!!」
空気が揺れて鼓膜が破れそうになるほどの咆哮をするキングベヒーモス、ブロントは気を普段の何倍も引き締めて身構える。
先手を取ったのはキングベヒーモスだった。巨大な手には一メートル以上の爪があり、その爪でブロントを切り刻もうとした。対してブロントは盾で受けるのは困難と察し、回避に専念する。
「一度でも当たれば終わり!無法すぎんだろ!」
爪による連撃を回避することに成功したブロントは剣によるカウンターを放つ。踏み込みも甘く、上半身のみの力で振るわれた一撃はキングベヒーモスの手に当たりはしたが有効打にはなっていない。続けざまに盾による殴打や剣の刺突も行うが大したダメージにはなっていない。
「グオオオオ!!」
「ちっ、生半可な技じゃ逆効果か!?」
激昂したキングベヒーモスは大地を揺るがすほどの咆哮をブロントに放つ。重装備のブロントでさえ容易く吹き飛ばされて地面に転がる。
「……み、耳鳴りがする。だが鼓膜は無事か」
咆哮を受ける直前、ブロントは両耳を手で塞いだ。そのおかげで聴覚は失わずに済んだのだ。態勢を立て直そうとするブロントにキングベヒーモスは間髪入れずに尻尾を振るう。
「マズい!!」
鞭のように鋭く、そして重量のある一撃はブロントを弾き飛ばす。盾で受けきったとはいえブロントの左腕にダメージを与える。ピシリと左腕の骨に亀裂が入る。
再度キングベヒーモスは地面に伏した状態のブロントに突撃する。
「い、一発受けただけでこれか……!?」
「グゴオオオオ!!」
「さっきみたいに隙は見せん!」
すぐさまブロントは一度剣を手放して懐を探る。そして円柱状の何かを取り出して口でピンを開けてから放り投げる。その二秒後、眩い閃光が一体を照らす。
頑丈な巨躯のキングベヒーモスでも視覚に対する攻撃は防げなかった。
「グルルルッ!?」
「軍からくすねた閃光手榴弾はどうだ!」
怯んだキングベヒーモスの懐に入り込んだブロントは地面を踏みしめて、有効打を放つ準備をする。
「どんなに硬くても腹は柔らかいよなァ!!破壊力ばつ牛ンの技でなら!」
「グオオオオオ!?」
ブロントは渾身の力を込めたグランドヴァイパーを解き放つ。ようやくキングベヒーモスから流血した。
懐に入り続けられるのはマズいと察したキングベヒーモスは、巨躯とは思えないほど身軽な動きで後退する。
「どうだ。このグラットンソードの錆にしてやろう」
「グルルルル!!」
キングベヒーモスはブロントの認識を改めた。もはや食事の邪魔をした害虫ではなく、敵として認識したのだ。キングベヒーモスは身を屈めて何かを行うつもりだ。異質な気配を感じ取ったブロントがすぐに攻勢にまわる。
「何かはわからんが死ねぇ!」
突進するブロントに対してキングベヒーモスは頬を緩める。その瞬間、ブロントの足元が青色に発光する。
「これは――――」
ブロントが足元に意識を向けた瞬間、上空から一本の雷撃が降ってきた。予想外の攻撃を避けられるはずもなく、ブロントは直撃してしまう。
「がはっ!?」
続けざまに二本、三本と雷撃がブロントを襲う。一点に集中した強力な攻撃はブロントの体力を削っていく。
青白い電撃がブロントの体中に走って血管が、血液が、臓器が焼かれていく。一人の人間が耐えられる量と威力ではない。十秒間にも及ぶ集中攻撃に、ブロントの体は焼け焦げていた。
「ば、バカな……」
致命傷を負ったブロントだったが、それでも倒れることはなかった。最後の気力を振り絞って立ち続けていた。
「盾は、騎士は絶対に、倒れない……!」
白目を剥いてもはや絶命状態のブロントを見てキングベヒーモスは嘲笑する。まさに壊れかけたおもちゃをどのように壊そうか考える悪童そのものだ。
「グオオオッ!!」
最後は強力な爪で粉々に引き裂いてしまおうとキングベヒーモスは腕を振り下ろす。
「――――すまない。みんな」
死が迫る直前にブロントは小さく呟く。
言葉には懺悔と後悔と悲哀が込められており、走馬灯には懐かしの旧エリー都の日々が映っていた。
ぶっちゃけブロントがタルタルを殴るシーンはドラゴンボールでベジータがトランクスを殴るシーンをオマージュしました。
あそこは名シーンです。