ブロントさんがホロウで活躍するのは確定的に明らか 作:渡邊ユンカース
悲しいですね。
「……なんだここ」
気づけばブロントはとある街中に立っていた。先程までいたホロウ内部とは状況が大きく変わり、燃え盛る街に散乱する車や建物の瓦礫。最近まで活気づいていたであろう形跡が見られる。
一見して訳のわからないところに飛ばされて困惑していたブロントであったが、次第にこの状況を理解することができた。
「ここは、旧エリー都か」
そう、ここは旧エリー都であり、ブロントの故郷であった。
体の操作は効くようで周辺の散策を始める。
「懐かしいな。今は荒れ果てているが確かに俺の近所だ」
記憶を頼りに進んで行くと家族と行ったファミレス、朱鳶と弟と一緒に遊んだゲームセンター、よく遊びに行った公園がある。もっとも見る影がないほど崩壊し続けている。
「……俺の家」
呆然と見上げた先には小さいながらも古風な建物がある。かつて幼少期を過ごした思い出の家が今となっては豪華で燃え盛り、窓のいたるところは割れている。
「なんだ。俺は死んだのか」
状況を理解できないほどブロントは馬鹿ではない。キングベヒーモスとの戦闘で命を落とし、これが今際の際に見る走馬灯か何かなのだろうと直感した。
哀愁に浸りながら地べたに座り、火災で崩壊する我が家を傍観する。
「タルタルは無事に逃げたか。まあ今の俺に確かめる手段もないのだが」
ブロントはホロウに置き去りにしたタルタルを思う。ボンプは生物ではないためホロウ内部でも長時間の稼働ができ、キャロットも持たせたので帰還はできるだろう。
「こんな形で里帰りができるとは思わなかったが、今は理解しておこう。不満ではあるが」
ブロントはため息を吐いて未練をたれる。
従来の目的はキングベヒーモスを倒して家族の仇討ちをして、その後なんとか旧エリー都に帰ることだった。しかし今となっては叶わぬ夢、もうブロントは死んでしまったのだから。
「ふん、こうなるのなら朱鳶を揶揄ってから行けばよかった」
ふと幼馴染である朱鳶を思い出した。
きっと朱鳶は勝手に独りで行ったことに怒るだろう。きっと止めるてくるか、同伴を申し出てくるだろうと安易に想像がつく。
「アイツは俺よりも生きるのが上手い。確定的に明らかだから心配はない」
内心、ブロントは朱鳶の能力を高く評価していた。若くして次期署長も夢ではないほどの実力を持ち、職務にも誠実にこなす姿はブロントには無いものだった。
「正直嫌だが、何十年後に朱鳶が来たら拳骨のひとつやふたつは覚悟するか。もっとも天国直行便で会わないかもしれんが」
珍しく自嘲するようにブロントは軽口を叩く。
これまでの人生を思い返せばブロントは人に賞賛されることはあれど、自分の思うがままに生きてきた。他者のために尽力することはあれど、あくまで利己的なものに繋がっていた。
それは利他的に行動する朱鳶と異なっている。
「にしても――――」
そんなこんなで黄昏ているブロントであったが、ある違和感に気づいた。
「どうして最後まで朱鳶を想っている?」
瞬間、周りが眩く発光を始めてブロントは光に飲み込まれていった。
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「……俺、は」
目を覚ませばそこは見慣れぬ一室だった。口には酸素マスクが付けられていて、首はギブスで固定されている。目を動かして視線を移すと腕にはチューブが伸びており、頭上には心電図の音が一定に聞こえた。
「病院、なのか」
ブロントの理解は追いつけなかった。あの時、ブロントは確かにホロウにいた。誰も同伴せずに行ったため救助隊が来る可能性は薄い。しかし何故ここにいる。
思考を巡らせていると、ドアがガラガラと開いた。
「ブ、ブロント」
「……よぉ、朱鳶」
そこには最後に想っていた朱鳶の姿があった。
目覚めたブロントを見て、朱鳶は手にしていた荷物を放り出して駆け寄った。そして見下ろすように朱鳶は見つめる。
「どうして、どうしてあなたは!!」
「あまり大きな声を出すな。バカうるさい」
「どっちが馬鹿なんですか!!」
「ッ!?お前、泣いているのか」
「当たり前でしょうッ!!」
ボロボロと大粒の涙を流しながら朱鳶はギッと睨んでいる。普段の凛々しくも穏やかな朱鳶とはかけ離れた姿にブロントは驚いていた。
「いつも大口ばかり叩いておどけているくせに、肝心なところは全く言わない!」
「お、おいやめろ馬鹿」
「私も事情は重々承知だけど、独りで抱えてばかり!!」
「お、落ち着け」
「しまいには独りで解決しようと死にかけてあなたが一番の大馬鹿!!」
「ちょとsYレならん」
「謙虚な騎士を演じないで!私を、私たちを頼りなさい!!」
「っ」
非常に痛い所を突かれまくって何もいえずに顔を限界までしかめるブロントだが、何も言わずに黙って叫びを受け止めることにした。
朱鳶の本心から出た声を無下にするほどブロントはふざけた男ではないのだ。
「私に、思い出を、大事な人を失わせないでよ……!!」
「朱鳶……」
「も、もう入ってもいいかな?」
「ご、ごめんね二人とも」
「ぬっ、お前らは」
別の来訪者にブロントは驚いた。何故ならそこにレンタルビデオ屋のrandom playの店主であるアキラとリンがいたからだ。
この奇妙な組み合わせに疑問符を浮かべるブロントであったが、状況を理解してもらおうとアキラたちが説明を始める。
「ブロントさん。直近でどこまで覚えているの?」
「キングベヒーモスと戦って、無数の雷撃を喰らって意識を失ったところだ」
「そっか。ならそこから説明しようか。」
「あの後、食べられそうになっていたところを偶々居合わせた善良なホロウレイダーが助けてくれたんだよ」
「ホロウレイダーが俺を?待て待て、意味がわからんぞ」
「まあ驚くのも無理はないか。実は僕たち、プロキシなんだ」
「……はぁ!?」
驚愕の事実を知って仰天するブロント。無理もない、先日ビデオを借りに行って顔見知りになった店主たちがプロキシだったのだ。
「それもかなり腕の立つ方でね!」
「リン、あまりそういうのは言わなくていいよ」
「お、おいィ?こいつら違法でプロキシ業をしている確定的に明らかな犯罪者だぞ。朱鳶、捕まえなくていいのか?」
「……私も未だに悩んでいます。しかし命を救っていただいたのは二度目、この場で恩を仇で返すことはできません」
「……朱鳶が甘んじているゥ!?天変地異が起きるぞ!?」
「誰のせいだと?」
「やめてください。今されると死んでしまいます」
拳を握りしめて青筋をピクつかせている朱鳶にブロントは弱気になっていた。
「あはは、そんなこんなでホロウレイダーと僕たちによって助かったってことさ」
「ならまずはお礼を言わないとな。助けてくれてありがとう」
「当然のことをしたまでだよ!ねっ、お兄ちゃん!」
「そうだね。道端で食べられかけている人を放っておけるほど非道じゃないよ」
「……ちなみにいくら払えばいい?」
「うーん、ざっと百万ディニー!」
「こらリン!まあお金はいらないよ、善意でしたまでだから」
見返りを求めずに当たり前のことをしたまでだと言いきる兄妹にブロントは感心した。頼んでもいない人命救助なのだから弱みや多額の負債を負わせてくることも少なくない。諸事情があって非公認のホロウナビゲーターとして活躍しているだけで、根は善良なのだろう。
「そうだ。俺のボンプ、タルタルは脱出できたか?」
「道中で保護したよ。今はカスタムショップで休んでいるよ」
「ふっ、安心した」
「にしてもどうして独りでホロウ内部に?ホロウ調査員のあなたなら危険性は理解できたはずだ」
「それは……」
「ブロント、話しましょう」
「朱鳶」
「お二人がここまでしてくださったのです。身元はどうあれ話した方がいいわ」
「わかった。では話すとしよう」
ブロントはキングベヒーモスに独りで挑んだ経緯をゆっくり話し始めた。
ブロントはかつて旧エリー都に住んでいて、両親と弟と姉のいる五人家族だった。しかし用事でブロントが新エリー都に行っている時に旧都陥落が起きてしまった。
周りが非難する中でブロントは軍の封鎖網を突破して旧エリー都に侵入、そこで凄惨な現場を目撃しながらも運よく家に着くことができた。家はエーテリアスの襲撃により火災が起きていたが、家宝である鎧と武器を身に纏って家族を捜した。
そして避難所となっていた学校に訪れるも、破壊の限りを尽くされていてブロントの家族が遺体として存在した。どれも五体満足ではなく欠損していて、無残な光景に心を打ちひしがれてしまった。
身に着けた装備で辛くも旧エリー都から脱出することができたブロントだったが、心ここにあらずといった姿で日々を過ごしていた。するとその避難所の生き残りが巨大な姿で角と背びれを持ったエーテリアスが襲撃したと証言し、そのエーテリアスを復讐するために今まで生きてきた。
以上のことを三人にブロントは伝える。表情こそはいつもと変わらぬ仏頂面だが、声色に感情の起伏が見られた。
「そんなことが……」
「けどブロントさんが独りでやることはないと思う」
「元々、強敵なのは知っていた」
「なら!」
「キングベヒーモスは普段のエーテリアスなど比較にもならないほど強い。犠牲者は俺だけで十分だ」
「ブロント」
「何だ朱鳶――――」
理由を吐露したブロントに朱鳶は襟を掴んでからビンタを喰らわせる。頬を叩かれた音は朱鳶の悲痛な叫びの表れだった。
「だったらなおさら!私を頼りなさいよ!!」
「ふざけるな!これは俺の私的な戦いで、お前を巻きこむ意味はないィ!」
「いつも面倒ごとは押し付けるくせにそういうことは抱え込むのはありえないの!」
「ならお前は俺のために死ねるのか!?」
「ふ、二人とも落ち着いて……」
「死ぬことはできない。だけど――――」
「あなたのために命を賭けてもいい!!」
「ッ!?」
ほぼ愛の告白といっても言いほどに朱鳶は本音を言う。これには流石のブロントも絶句した。
「わ、わぁ!とても熱いねお兄ちゃん!」
「リン、そういうのは黙っているべきだ」
「……ふっ、お前はやっぱり変わっているな」
「えぇ、変わり者のあなたに言われるほどですもの。きっと私も変わっているのでしょう」
嘘偽りない告白にブロントはうっすら笑みを浮かべる。肉親以外でブロントのために行動ができる者がここにいたとは予想外だったのだ。
ブロントは泣き腫れた目をした朱鳶の頭を撫でる。
「お前はやっぱり、本当に良い奴だ」
「あなたに言われなくても、知っているわよ」
「ありがとうな」
ブロントは満足したように笑うと、グッと朱鳶の顔を自分の顔に近づけて――――
キスをした。
「な、ななな!?」
「これはっ」
「わわわわ、何をするんですか!?」
「ははははっ!!驚いたか!」
「当たり前じゃない!こ、こういうのはムードとかぁ……」
二メートルぐらい飛び退いて赤面した状態でモジモジする朱鳶をよそに、ブロントはケラケラ笑う。いたずらが成功した子供のようにだ。
「そうだな。
「ッ~!!絶対、絶対ですからね!」
「そうだな。お前は良い奴だ。一生、そのままでいてくれ」
こうしてブロントと朱鳶はお互いの想いを理解した。ブロントにとって隣で支え合ってくれる柱が身近にいたことに幸福と歓喜に満ちながら面会時間まで昔話に花を咲かせた。
アキラとリンは自分たちは二人のお邪魔虫だと察して静かに部屋から去った。
その翌日、ブロントは誰にも言わず病院から脱走して姿をくらませた。
時系列として正史よりも早めにアキラとリンが非公認のホロウナビゲーターであることが朱鳶にバレています。
にしても善良なホロウレイダーとは誰なんですかね?(すっとぼけ)