ブロントさんがホロウで活躍するのは確定的に明らか 作:渡邊ユンカース
めちゃくちゃ長くなりなりましたがよろしくお願いいたします。
「……ようやくここまで来れた」
先日の激戦にて負傷したブロントは病院から抜け出し、キングベヒーモスとの再戦のためホロウへと赴いていた。当然、回復もし切れていない状態であり衣服の下には包帯やガーゼが巻かれている。
「これしか、集まらなかったな」
普段から使用している武器と防具はアキラたちに回収されてしまったため、道中で拾ったホロウレイダーが残した粗末な物と急造品の盾しかない。
こん棒と浸食が少ない自動車のドアを盾とし、小袋にはいくつかの手榴弾しかない。まさに自殺行為ともとれる。
「次は、いつになるかわからん。俺はやるぞ」
それでもこの好機を逃すまいとブロントは痛む体を引きずり、独りで歩みを進める。
「グガガガガ!」
「ちぃ!雑魚が!」
道中で二体の人型エーテリアスと遭遇する。普段通りに武器を構えて戦闘態勢に入る。
「皮装備に遅れをとるか!」
「ギギッ!」
襲ってくるエーテリアスに対して、急造品の盾で受け流してこん棒の一撃を与える。しかし所詮はこん棒、多少よろめくだけで有効打は与えられない。攻撃を受けたエーテリアスから蹴りを盾で防ぐが、万全の状態でないためブロントはよろめく。
その隙にもう一体のエーテリアスが真横から爪を突き立てようとする。
「ッ!?猪口才な!」
頬に攻撃を掠めながらも回避し、ブロントは足払いをかけてエーテリアスを転ばせる。そして盾をギロチンの刃のように振り下ろして強引に斬首する。
斬首されたエーテリアスは消滅するも、もう一体のエーテリアスは興奮状態で怒涛の攻撃を仕掛けてきた。
「何いきなり話かけて来てるわけ?同族意識か?」
「ギヤアアアア!!」
嘲笑を浮かべながら攻撃を捌くブロントだが、内心では焦りがあった。急造品の盾の耐久力は低い、いつ壊れてもおかしくはないのだ。
ブロントはこん棒を下段に構えて、グランドヴァイパーを打つ準備をする。
「うおおおお!!」
「ギャ!?」
見事にこん棒によるグランドヴァイパーはエーテリアスに命中して上空に吹き飛ばされる。しかしそれでは甘いと見込んだブロントはエーテリアスの着地点を計算する。
「俺はパンチで、余裕で100とか出せるぞ!」
「グギャアアアア!?」
着地点に着いたブロントは、こん棒ではなく拳でエーテリアスを殴り飛ばした。拳が当たった瞬間に、エーテリアスの体はひびが入った後に爆ぜた。
「ふぅ、ざっとこんなものか。っ!?」
体に激痛が走るブロントは膝をついて、痛みを耐える。普段なら何でもない戦闘ですら、今の状態では負担がかかってしまう。つまり限界なのだ。
「ま、まだだ……!俺にはあいつを倒す使命がある!」
気合と根性で痛みを耐えたブロントは、息を整えながら立つ。あと少しでキングベヒーモスの縄張り、入ってしまえば後戻りはできない。ブロントは覚悟を決めて足を進める。
自分が死ぬのは確実、だがそれでも爪痕を残してやろうという気概だけが動力源だった。
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「……おいィ?丁寧な出迎えだな」
「グルルル」
縄張りに入った瞬間、ブロントは身の毛がよだつほどの殺気を浴びる。殺気のもとを辿るとそこにはキングベヒーモスが待ち構えていた。
「お前も、俺がまたここに来るのを知っていたのか」
エーテリアスに思考があるのかはわからない。だがしかし、常軌を逸す存在であるキングベヒーモスはブロントの存在と目的を認知していた。
だからこそキングベヒーモスには慢心はない。油断も傲慢も食欲も消え失せている。ブロントの勝ち目は那由多のはざまへと消えていった。
「……ムカつく。だが嬉しいものだ」
堂々とたたずむキングベヒーモスに対して、苛立ちは覚えるものの内心では喜びが湧いていた。何故なら自分を強者と認めてくれたからこそここまでの態度を取れるのだと感じていたからだ。
「さあやろうか。お前と俺の、最後の戦いだ」
「グルル……!」
ブロントは武器を構え、キングベヒーモスは前傾姿勢を取ってお互いに膠着する。
永遠とも感じられるほどの体感時間、しかし実際には十秒も経っていない。緊迫感と殺気が混ざり合って奇妙な空間を生んでいた。
最初に動きを始めたのはキングベヒーモスだった。
「来いッ!」
「ガアアアア!!」
キングベヒーモスは前足による振り下ろしをブロントにする。ブロントはバックステップを踏んで回避して、こん棒で一撃を与える。キングベヒーモスの皮膚は厚く、攻撃は届いていない様子だった。
続けざまに前足による攻撃をブロントは回避をし続ける。今の盾の状態では数度受け流すだけで破損してしまうのは確実だったからだ。
「ガウ!!」
「ぐぬっ!?」
キングベヒーモスの嚙みつきを盾で防ごうとしたが、飴細工の如く牙は盾を粉砕する。よろめくブロントに向けて何度も噛みつこうと迫り、ブロントは防戦一方であった。
「そんなに喰いたきゃ喰え!」
怒涛の噛みつきに対して、ブロントは手榴弾の入った小袋を口目がけて投げ込む。牙が小袋を貫いた瞬間、数個の手榴弾は一斉に爆ぜる。口から黒煙が立ち込める中、キングベヒーモスは依然として健在だった。
「おいィ?仮にも内部からの攻撃だぞ……!」
「ガアアアア!!」
「うぐっ!?」
爆発に動じることなくキングベヒーモスは尻尾による一撃をブロントに向ける。尻尾による広範囲攻撃にブロントは避けることができずに被弾し、呆気なく吹き飛ばされた。
「が、ガハッ!?ゴホゴホッ!?」
「グルルルル!」
「ま、まだまだァ……!」
血反吐を吐きながらこん棒を杖に立ち上がるブロント、キングベヒーモスは油断することなく大技を繰り出すための準備をしていた。
再度、雷撃を喰らってしまえばこっちの負け。ブロントは満身創痍の体に喝を入れて駆けだした。
「させるかああああ!!」
ブロントは自身の武器をやり投げのように投擲して大技の準備を解こうとした。こん棒は勢いそのままキングベヒーモスの右目に刺さる。右目を失ったことで怯んだキングベヒーモスにブロントは飛びついた。
「このままお前に、張り付いてやる!!」
「グガアアアア!!」
張り付くことに勝算はない。もはや最後の最後まで抵抗してやるという意思の表れであった。
振り落とそうと体を揺らすキングベヒーモスに必死に食らいつくブロント、しかしキングベヒーモスの激しい抵抗によって振り落とされてしまう。
「く、くそが……!」
「グルルル……」
「俺は、俺はまだ!やられるわけには……!」
片膝をついて立ち上がろうとするブロントの前にキングベヒーモスの口が迫っていた。口内が鮮明に見えて吐息を感じるほどの距離だ。何かしてやろうとしても武器も策もない。一言で言うなら詰みである。
「すまない。みんな」
詰みを悟ったブロントはぽつりと謝る。
脳裏には家族やセスや朱鳶の姿が浮かび、十一年前の楽しかった日々が走馬灯として流れてきた。後悔や怒りこそはあれど、ここまでやれたのだから満足していた。
牙が迫り視界が暗転し、ブロントの人生は終わりを告げようとしていた。
―――――その時である。
「っ!?」
「グギャアアア!?」
耳をつんざくほどの爆発音が聞こえたと思うと、視界が明るくなった。キングベヒーモスは頭部に黒煙をたたせながら後ずさりをしている。
状況が呑み込めない中、後ろを振り向くとそこには馴染みの顔があった。
「まったく、いつもあなたは好き放題行動して」
「な、何故ここに……!?」
「けど善意を隠して他者のために助ける。だからこそ放ってはおけない」
「どうして来た!?朱鳶ッ!!」
そこには幼馴染の朱鳶がいた。思わぬ来訪者にブロントは目を見開いた。
かつかつと足音を立ててブロントに近づいたと思うと、朱鳶は首根っこを掴んでブロントを無理やり立たせた。
「立ちなさい。今、あなたがするべきことはあのエーテリアスを倒すことよ」
「ば、バカか!お前が首を突っ込んでいいわけるか!」
「いいに決まっているでしょ!!」
「ッ!?」
いつもとは違う迫力にブロントは気圧される。
「あなたの家族の仇は私の仇!それを理解しなさい!」
「い、意味がわからん!第一、お前はあいつに何かをされたわけでも――――」
「関係大ありよ!ともかく、今はあのエーテリアスを倒すことに集中して!」
「そうだが、俺は手ぶらだぞ」
「後ろを見て」
「なっ!?」
朱鳶の言う通りに振り向くと、大荷物を抱えたタルタルがいた。
「タルタル!お前まで!」
「ンナンナ!(水臭いよ!)」
「タルタルだけじゃないですよ、ブロントさん」
「やれやれ、お主のことは朱鳶からも聞かされていたが赤子のように目が離せぬな」
「セスに青衣!?」
そして以前交流した治安局のセスと青衣がおり、臨戦態勢を整えていた。
『どうやら間に合ったみたいだね』
「……お前は、えーと誰だっけ」
『おや、忘れたのかい?きみと戦ったホロウレイダーのプロキシさ』
「あっ、あの時のか!?けど何故に犯罪者が?」
「……私としても癪ですがこのプロキシがあなたの捜索を受け入れてくれたのです」
「朱鳶、お前は犯罪者と組むのはどちかというと大反対なはずだろ」
「あなたを助けるためよ。私はあなたを守るために持てる手段は何でも使うわ」
昔から知る朱鳶が自分のためにここまで尽くしてくれるとは思っていなかったのか呆気にとられるブロント。しかし何故か笑いが込み上げてきて、我慢できずに笑ってしまう。
「……どうして笑うのよ」
「ハハハハ!悪いな。お前がここまでしてくれるとは思わず、つい笑ってしまった」
「またバカにしているのですか」
「すまないな。俺は嬉しくて笑ったのだ」
「はい?」
「俺のために泣いて、必死になってくれる。そんなことが嬉しくてたまらない」
「……当たり前でしょ。さあ早く着替えなさい。仇、討つのでしょ?」
「そうだな。こいつは
ブロントは応急手当と武装を整えるために一度後方に下がる代わりに、治安局の三人による戦闘が行われる。
「グガアアアア!!」
「来ます!構えて!」
「了解!」
セスをタンクとして攻撃を受けている間に青衣が近接戦闘を行い、中距離から朱鳶がサプレッサーK22でエーテル弾丸を当てていく。
「高威力な攻撃は躱して、受けれる攻撃は受けてカウンターで!」
「いいぞセス坊。ブロントの教えができているぞ」
「この調子でいきます!」
「青衣先輩、尻尾による攻撃に気を付けてください!」
「わかっておる。仕草すら出さんが、タイミングさえ掴めれば苦ではない」
三人の息の合った連携はキングベヒーモスを翻弄していく。中々有効打は与えられてはいないが、確実にダメージを与えている。
キングベヒーモスは尻尾の攻撃を青衣に向けるが、青衣は上空に回避すると自身の体を回転させながら三節棍で攻撃を続ける。青衣の三節棍には電流が流れており、電流によるダメージはキングベヒーモスの肉体に効果的だった。
「グギャアアアアア!!」
「セス坊!」
「任せてください!」
キングベヒーモスは前足で青衣を踏みつぶそうとするも、セスが間に入って大盾で防ぐ。あまりの攻撃の重さに盾が多少地面にめり込むも、キングベヒーモスに隙が生まれる。ただちにセスは前足を警棒で薙ぎ払うと、警棒と大盾を合体させてひとつの大剣を作る。
「うおりゃああああ!!」
「ギャアアアアア!!」
「ナイスですセス君!」
大剣による横薙ぎはキングベヒーモスに有効的で、前足に大きな傷を残す。その傷に向けて朱鳶はサプレッサーK22をグレネードランチャーのように変形させてから攻撃する。
この連携のおかげでキングベヒーモスの前足は一本失うことになり、大きく怯んだ。
「よっしゃこれならいけます!」
「ッ!?危ないセス君!」
「しまった!」
キングベヒーモスの欠損を見て油断したセス、キングベヒーモスはお返しと言わんばかりに体躯を活かした体当たりを行う。セスは咄嗟に盾による防御を選ぶのだが、選択に失敗した。高重量かつ速度のある攻撃は大盾が無事でも使用者には耐えきれない。
もう後にも引けずに無理を承知で耐えようとしたセス、その大盾に後ろから両腕が添えられる。
「耐えるぞ」
「ッ!了解!」
両腕の正体はブロントであった。全身を鎧で包み、背中と腰には武器が装着されている。
ズドンと戦車がぶつかったような衝撃を二人は歯を食いしばって耐える。
「ぐうううう!!」
「ぬおおおおおおっ!!」
そのまま押し出そうとするキングベヒーモスに二人は必死の剣幕で踏ん張る。少しでも気が緩めばあえなく態勢を崩されてしまうほどだが二人は根性と気合で耐える。
「い、今だお前らァ!やれッ!」
「了解!」
「心得た!」
二人が耐えている間に朱鳶と青衣はキングベヒーモスを挟むように、両腹から高威力の攻撃を行う。両腹を攻撃されたことで嗚咽を漏らすキングベヒーモス、その隙にセスを踏み台にブロントは跳んだ。
「俺のパンチは!破壊力破壊力ばつ牛ン!!」
「グギャアアアア!?」
ブロントはキングベヒーモスの右目に刺さっていたこん棒目がけて渾身の一発を放つ。こん棒は目の奥へ深々と突き刺さり、キングベヒーモスは苦悶の唸り声をあげながら転げまわる。
「なかなか良い連携じゃない」
「ふん。なんだって俺は
「それなら最初からパーティ組んでやりなさいよ」
「どちかというと大反対」
「そこまでにしとけ。夫婦漫才は後でもできよう」
「誰が夫婦だ!」
「そ、そうですよ!」
『皆!あのエーテリアスから巨大なエーテル反応が!』
ブロントと朱鳶が口論をしようとするのを青衣が諫めていると、プロキシから報告が上がる。
よく見ると背中の角からバチバチと電流が走っており、ブロントの敗因となった電撃攻撃の準備がされている。
「えぇっ!?まさか大技を放つのでは!」
「ブロント、回避方法はわかるか?」
「……俺もまともに見れていないが、電撃の着弾地点が青くなる。そこは避けろ」
「ほう、ちなみに何秒後にとかはわかるか?」
「知らん。まあとにかく避けろ」
「あなたらしい解答ね……」
「来るぞ!今は回避に専念だ!」
四人は各自で散会して一度で数名がやられるリスクを減らすことにした。ブロントの助言通り、電撃が落ちる三秒前に地面が青く発光しだすので足元に注意を払いながら回避を行う。
「うわっ!?重装備な俺らには厳しいですね!」
「案ずるなセス。いざとなったらローリングで回避だ」
「うおっ!?それって効果あるんですか?」
「直撃以外なら無敵だ。まあ推奨はしない」
「結局、走り回るんですね!」
「してブロント、いつまで耐えればいい?」
「……俺のログにはなにもないな」
「素直にわからないって言いなさいよ!」
三分間も幾多の電撃が落ちたが、四人は直撃を躱すことに成功した。しかし常に走り回っていたせいで体力の消耗が激しく、また近くにいただけでも電撃の攻撃は受けるため負傷していた。
それはキングベヒーモスも同じことで、電撃のために体力を消耗したのか牙が剥き出しの口からは涎が垂れている。
「よし、今度は我らが攻撃に移れるな」
「そうだな。各自、まだやれるか?」
「俺はまだやれます!」
「私も戦えるけど残弾が三割程度よ」
「我もいけるが如何せん、あの電撃が体の機能を狂わせておる」
「……長時間の戦闘が不可能なのは確定的に明らか。即急に倒す」
攻守が入れ替わり、ブロントたちが攻勢に出る。セスの盾の消耗を考えて今度はブロントがタンクとして努めており、セスは大剣によるアタッカーになる。次々と大剣でできた傷目がけて朱鳶と青衣が攻撃を行い、三人に向けられた攻撃をブロントが受け流す。
一方で最後方ではタルタルが鉄球を投擲してキングベヒーモスの視界を潰そうとする。
「いいぞタルタル!お前のおかげで攻撃が逸れて受けやすい!」
「ンナンナンナ!(最後までサポートするよ!)」
「この調子ならいけます!」
「そうだな。この盤面なら――――」
ブロントたちの勝利が近づいていた頃、キングベヒーモスは突如として咆哮をあげて四人を怯ませる。この怯んだ瞬間を狙ってキングベヒーモスは体を回して尻尾による全方位攻撃を行った。
四人は各自で攻撃を防げたものの、衝突時の勢いを防げず吹き飛ばされてしまう。
「くっ、何ですかいきなり……!」
「な、何故だか嫌な予感がするッ!」
『エーテル濃度がキングベヒーモス周辺から上がっている!』
「何じゃと!?つまりあの電撃が!?」
『だけどさっきと様子が違うんだ』
キングベヒーモスは雷撃を溜めるのではなく、頭部に生えた角から赤い球を生成していた。球は禍々しいほどに赤黒く光、バチバチと音を立てて爆ぜている。
「……まさかここにきて新技だと!?」
「えっ!?つまり未知数の攻撃ってことですか!?」
「……そうなるな。どうくるかわからん」
「ならば先んじて攻撃をすれば!」
朱鳶が武器を変形させてキングベヒーモスに突撃しようとするのをブロントは前に出て制止する。
「ブロント、何か手があるのね」
「……俺があの攻撃を防ぐ」
「そんなの無茶よ!?どういう攻撃でどのくらいの威力なのかもわからないのよ!」
「きっとあの攻撃はあいつにとってもかなりの負担だ。この攻撃を防げれば勝算は上がる」
「お主、自分が失敗する気はないと断言できるのじゃな?」
「あぁ、命に代えてもお前たちを守る」
「何言っているんですか!?一人でも死ねば俺たちは失敗なんですよ!」
「未知の攻撃で数名犠牲になるか、一人が犠牲になるか考えろ!その役目は俺が適任だ!」
ブロントは
最初は捨て鉢に命を使っていたが、今は違う。護るべきもののために命を使うのだ。
「……わかった」
「朱鳶さん!?」
「けど条件があるわよ」
「何だ」
「絶対に生きて護って」
「……ふんっ。わがままだな」
「あなたに影響を受けたのかもね」
「さあ来るぞ。俺の後ろに隠れろ!」
ブロントは全員を守れるように後ろに隠す。そして剣を地面に突き刺すと、その柄に盾を嵌めて柱を作る。これにより少しでも防御力が上がる。
刻一刻とキングベヒーモスが大技を放とうと構えており、ブロントが構えた二十秒後に高濃度のエネルギー弾が放たれた。
高速かつ高威力なエネルギー弾は周りの地面を抉り取りながらブロントに迫り、ついに衝突した。
「ぐうううう!!」
凄まじいまでの衝撃波がブロントを襲う。後方に控えていた者たちですら余波に体を怯ませるほどだ。衝撃の次に襲うのは体当たりの時とは比べ物にならないほどの推進力だ。この攻撃を防ぐことができねば全員跡形もなく抉られてしまうのは明白だった。
ブロントは懸命に地面を踏みしめて耐える。ブロントの至る所の血管が浮き出て、血涙や止血箇所から出血が出ようが力は緩めない。ぶちぶちと筋繊維が千切れようが奥歯を噛み締めて耐える。
「俺は、絶対に!!」
強烈な攻撃に耐え忍びながら、思い浮かぶは後方に控える護るべき者たち。
矜持と人生を懸けた熾烈な耐久戦は奇跡を生んだ。
「護り切るんだあああああ!!」
想いを叫んだブロントの体が金色に光り輝く。その光は鎧から発光しており、ブロントたちを包み込むようにバリアが張られた。
「こ、これは一体!?」
『ブロントさんの体からすごいエーテル反応が!?』
「何じゃと!?」
黄金のバリアの閃光は禍々しく光るエネルギー弾よりも輝いており、次第にエネルギー弾の威力は衰えていく。そして最後には消滅する。
消滅したのを確認したブロントは黄金の鎧のまま片膝をついた。
「はぁはぁ、俺は耐えたぞ……」
「ブロント!」
「見たか、朱鳶。俺の頑張りを」
「えぇ、間近で見させてもらったわよ……!」
「見事だったぞ」
「流石ですねブロントさん」
「ンナ!(かっこいいタル~!)」
ブロントは息を整えた後に立ち上がり、剣の切っ先をキングベヒーモスに向ける。
「黄金の鉄の塊で出来ているナイトが遅れをとるはずは無い!行くぞ!」
ブロントの号令とともに各自は駆けだした。大技を二度も放ったキングベヒーモスは疲労困憊であったものの、依然として脅威である。一手でも誤れば即死圏内だ。
今度はセスがタンクとして努め、黄金に身を包んだブロントがアタッカーに代わる。鎧に呼応してなのか剣の切れ味も格段に上がっており、ハムを切るかのように傷を作っていく。
「ハハハハハ!今の俺は、お前より一億万倍も強いぞ!」
「グギャアアア!!」
「サプレッサーK22、全弾発射!!」
「暴れん坊には今すぐ仕置きがいるようだ……!」
ブロントが無数につけた傷に向けて朱鳶と青衣が高威力の技を放ち、隙を見てセスがキングベヒーモスの態勢を崩していく。まさに神業と言えるほどの連携だった。
「ッ!?尾が来るぞ!」
「見切った!」
「ガアアアアアアッ!?」
青衣が尻尾による攻撃を伝えるとすぐにブロントが尾を斬り落とした。自慢の尻尾を斬り落とされたことによる心理的ダメージと激痛がキングベヒーモスを襲う。
「俺は別に強さをアッピルなどしてはいない」
「中々の切れ味、その形態になってから変わったなお主」
「あぁ、これが我が家宝の真の姿か」
『エーテル濃度が上がったことで反応したんだ。解析ができないほどの逸品だ』
「さて、そろそろ締めに入るぞ!全員、引け!」
ブロントの指示通りに全員はキングベヒーモスから離れる。そして相対するのはブロントとキングベヒーモス、両者とも体力が尽きかける前なのだが闘志の炎は燃え続けている。
「キングベヒんもスよ。そろそろ決着をつけさせてもらう」
「グルルル……ッ!!」
「我が名はブロント・エルヴァーン!新エリー都を守護する
「グガアアアアア!」
ブロントが名乗りをあげた後に、双方は雄叫びをあげながら走り出した。まさに一騎打ち、これがお互いに最後の一撃になるのは明白だった。
「金色のグランドヴァイパー!!」
「グギャアアアアアアッ!?」
まさに一瞬の出来事だった。ブロントが得意とする下段から一気に斬り上げるグランドヴァイパーがキングベヒーモスの頸部を捉えて、そのまま撥ね飛ばしたのだ。斬り上げられた頭部は断末魔をあげながら地面に落ちて、そのまま消滅した。
後に残ったのはブロントだけであった。黄金の鎧は元の銀色へと変わっていく。
「……勝ったぞ」
「ッ!?ブロント!!」
死力を尽くしたブロントは糸が切れたように地面に倒れる。急いで朱鳶が駆け寄って上半身を起こす。
「見たか、朱鳶。俺は、やったんだぞ」
「えぇ、えぇ!見たわよ!最後まで、よく頑張ったわね!」
「は、ははは。存外、お前に褒められるのも……」
「あとでたくさん怒るわよ。だから、生きて帰るのよ!」
「そう、か。なら、少し寝る……」
「ブロント?起きなさいよブロント!」
ブロントの瞼が急激に重くなって意識が遠のく。もはや起き続ける余裕なぞ残されていないのだ。最後に見たのは大粒の涙をボロボロ零す朱鳶の顔だった。
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ブロントがキングベヒーモスを撃破して一か月が経過した。じきにキングベヒーモスは正式に特出個体として登録されることになり、生体や同種の存在がいるかどうか調査されることになった。
一方で治安局がホロウ内部に立ち入った件は遭難者捜索として処理されることになり、音沙汰もなく終わった。
「……」
車椅子に乗った男性が大地溝帯の辺縁に設けられた慰霊碑を見つめていた。この慰霊碑は旧都陥落の際に生じた死者を悼むためのもので、慰霊碑周辺にはお供え物が添えられている。
車椅子の男性は花束を慰霊碑に置き、死者に鎮魂を祈る。
「……今日は此処にいたのね」
車椅子の男に一人の髪をおろした女性が声をかける。
「まあな」
「私に言わないで来るなんて水臭いわ」
「そうかもな」
「私にも祈らせて」
「好きにしろ」
二人は凄惨な出来事で亡くなった死者に鎮魂と平和への願いを込める。二人は祈りを終えると、女性が男性の車椅子を押す。
「俺はベッドマンではないから自力で動けるんだが?」
「いいじゃない。まだ完治していないんだから」
「……ちょうど疲れていたところだ。俺に楽をさせてくれ」
「はいはい、そうね」
他愛ない雑談を繰り広げながら、二人はそのまま新エリー都へ帰路につく。
二人の左薬指には銀色に眩しく光る指輪がはめられていた。
くぅ~、疲れました。これにて本作は終わりです。
本作を完結するに至り、リアルで色々なことが起きて大変でしたが無事に完結できて良かったです。
十か月に渡る更新を読んでくださった読者の方々には感謝の気もちでいっぱいです。
今までのご愛読ありがとうございました。