サッカーやろうよ!
大きなイナズママークがシンボルの校舎、雷門中学からチャイムが鳴り響く、それから少しして茶髪の少女が教室を飛び出して廊下を駆け出す。
「神風、廊下を走るなよ」
「は〜い」
途中ですれ違った教師から注意を受けるがあまり意に介していなかった。
「美兎!」
「守君!」
一つの教室を横切るとちょうど黄色いバンダナを巻いた少年が出てきて
「練習行くだろ!」
「当然!」
そして二人は古い古屋のような部室に到着し、勢いよくドアを開けて中に入った。
「「今日も練習」」よ(だ)ー‼︎」
しかし美兎と円堂以外の部員は漫画を読んでいたりゲームしていたりとまるでやる気を感じられなかった。
「「練習」」よ(だ)‼︎」
二人はもう一度声をかけるが部員たちのやる気は出ずに終わった。
まぁ、理由は…
「グラウンド、借りられたのかよ」
「「ウグッ」」
痛いところを…
「こ、これからラグビー部に交渉して…」
「だと思った」
「どうせまた笑いものになるだけでやんすよ」
「八人ぽっちならテニスコートでも充分だろって」
「グラウンドが空いてる日にやればいいんじゃねーの?」
「グラウンド空いたことないけど」
だめだこりゃ…
「俺たちはサッカー部なんだ‼︎」
たまりかねた守君が声を上げた。
「フットボールフロンティア!今年こそこれに出ようぜ!みんな‼︎」
「無理無理」
「部員八人じゃ試合に出られないでやんす」
言いたいことはわかるけど…
「お前らな!サッカーをやりたくて入部したんだろうが‼︎」
「守君!抑えて!抑えて!」
守君がグラウンドを借りられない以前にみんなのやる気のなさに怒ってしまった。
「サッカー部がサッカーやんなくて、どうすんだよ!!」
怒って行っちゃった…
「なに一人で熱くなっちゃってんだ?」
「頑張ってもしょうがないさ、もうすぐ廃部って噂もあるし、なぁ副会長?」
「「「「「廃部ぅ⁉︎」」」」」
染岡君の言葉にみんなが驚き、生徒会副会長である私に視線が集まった。
「神風!廃部って本当なのか⁉︎」
半田君…
まぁ、黙ってても仕方ないか…
「決まってはいないけど、議題にはあがってるよ」
「本当だったっすか…」
「私もサッカーは好きだし廃部は嫌だけど、生徒会の視点からみたらろくな活動実績もない弱小中の弱小部だからね、部費を割けないって話にもなるかな」
私の言葉にみんなが俯いてしまった。
だけど、みんなサッカーへの想いは変わらないってわかっただけ嬉しいかな。
「部の存続を決めるなら今年が勝負だから、みんなしっかり考えておいてね。なんなら守君みたいに河川敷で練習するって手もあるんだから」
「神風、もう帰るのか?」
「うん、知り合いのお見舞い、じゃあ明日ね」
私は部室を後にしようとしたがあることを思い出した。
「そういえば試験が近づいてきてるから、練習しないなら試験勉強しておきなさいよ」
「「「「「「グハッ‼︎」」」」」」
やっぱりみんな勉強してなかったか…
「あと、栗松君に関しては次にゲーム機を持ってきたら預かることになるからね」
「はいでやんす…」
校則違反は見逃しません。
その後私は商店街でお見舞いようのお花を買って病院に訪れ、豪炎寺夕香というネームプレートがある病室に入る。そこには一人の少女が眠っていた。
「来たよ、夕香ちゃん」
声をかけるが目覚める気配がない、あの日の事故以来このままだった。
私はお花を置くと近くの椅子に腰を下ろした。
「もうすぐフットボールフロンティアの時期が近づいてきたね。夕香ちゃんと会ったのもその時期だったし」
私は去年のフットボールフロンティアで試合を見ている時に迷子になっていた夕香ちゃんと出会い、それから木戸川の試合のたびに顔を合わせていた。
「私も出たいんだけど部員も足りないしみんなやる気ないしで困っちゃっててね、なにかきっかけでもあればいいんだけど…」
その時は夕香ちゃんにも見てて欲しいかな。
「おや、きてたんですね、神風さん」
そこに夕香ちゃんのお父さんがやってきた。
「先生、お久しぶりです」
「久しぶりだね、いつも娘のお見舞いに来てくれてありがとう」
「いえいえ、私も来たくて来てるんですから」
「それでも本当に感謝しているんだよ、あの日の事故でも、君の迅速な対応がなかったら娘がどうなっていたか…」
夕香ちゃんが事故にあったあの日、私たちはフットボールフロンティアの決勝を一緒に観るために待ち合わせをしていた、私は忘れ物を取りに一度家に戻ったため少し遅れて来たが、そこには…
「…」
「そういえば、君は雷門中だったね」
「はい、ですが、それがどうか?」
「実は息子が雷門に転入することになってね、会うことがあれば、仲良くしてやってほしい」
先生の息子さんってことは、あの豪炎寺修也君⁉︎
「そ、そうだったんですね」
「息子も、君にお礼をしたいと言っていたよ」
豪炎寺君か…
「なぁ美兎!今日スゲーシュート打つやつがいたんだ‼︎」
「ちょ、近い近い、あと泥だらけなんだけど!」
あの後家に帰って勉強をしていたところで守君が帰って来たようでドタドタと階段を駆け上がる音がしてすぐに私の部屋のドアが勢いよく開き守君が入ってきた。
私と守君は父親同士が兄弟、つまりは従兄弟で両親は私が中学に上がる直前に仕事の都合で海外へ、私は守君の両親に預けられ、今は一緒の家で暮らしている。
私は小さい頃からサッカーが好きでクラブにも所属していたため、守君とは意気投合、朝から晩まで一緒に練習していた。
「守!女の子の部屋にいきなり入らないの!それにこんな泥だらけになって!さっさと風呂入っちゃいなさい!」
「は、はい…」
「美兎ちゃん、守がごめんなさいね。後、夕飯ももうすぐできるわよ」
「手伝います」
「あら、助かるわ」
ちなみに守君は夕飯の後もすごいシュートを打った人の話をしようとしたけど宿題をまるでやっていなかったため、急遽勉強を教えることになった。
そういえば、廃部になりそうってこと、また言えなかったな…
そして翌日。
「神風さん、少しいいかしら?」
「夏未ちゃん、どうしたの?」
授業が終わってお昼休みになったところで生徒会長でクラスメイトの夏未ちゃんが話しかけてきた。
「大事な話があるから、一緒に校長室に来てくれる?」
「大事な話?」
「えぇ、サッカー部について、ね」
まさか、廃部に…
二人で校長室に来たところ、すでに冬海先生が来ていた。
「冬海先生、いらしてたんですね」
「円堂君も呼んでいます、もうじき来るでしょう」
少しして守君もやってきた。
「美兎、お前も来てたのか」
「まぁね、それで冬海先生、お話とはなんなんでしょうか?」
「えぇ、突然ですが一週間後に久しぶりの練習試合をすることになりました」
試合…
「試合!やれるんですか⁉︎」
試合という単語に守君が反応した。
「相手は、帝国学園です」
「「て、帝国…」」
あの40年間無敗の…
「日本一のチームがなんでうちに?最強のサッカー部との試合は嬉しいんですけど、今うちの部員は8人しかいません」
そうなんだよね…
「足りないなら、試合までに集めたらいかが?」
夏未ちゃん?
「集められなかった場合、もしくは試合に負けた場合、サッカー部は廃部、決定事項よ」
廃部⁉︎
「勝手に決めんなよ‼︎」
「そうだよ!その話はまだ議論の最中でしょ⁉︎」
「先ほど決まったの、あんな掘立小屋に回す予算なんてないわ。それに優秀な神風さんを、これ以上遊ばせるわけにはいかないもの」
「なに⁉︎」
「円堂君、夏未お嬢様は理事長より我が校の運営を任されているのだよ。彼女の言葉は理事長の言葉と同じだ」
「ぬぐぐぐぐ」
おのれ権力…
そして放課後、みんなに昼休みにあった話をしたところ…
「で、お前…」
「その試合、やるって言ったでやんすか?」
真っ青になっちゃった…
「やるさ!廃部になんてさせない‼︎きっちり11人揃えてやる‼︎」
「相手は帝国ですよ。無理、絶対無理」
「ボコボコにされて恥かくだけですよ」
「結局廃部ってことか…」
「この部室ともおさらばっすね…」
空気の澱みがすごいことになってる…
「お前らな!サッカーを愛する気持ちがあれば!不可能だって可能にできる‼︎」
あ、守君の闘志に火がついた。
「なにも始まってないのに、諦めちゃだめだ!諦めちゃだめなんだよ‼︎」
あれから守君は部員集めに奔走している。まぁ、結果は散々みたいだけど…
私はというと…
「ハァ…ハァ…」
守君が部員集めを始めたと同時に練習を始めた。最近は勉強時間を多く取っていたことで少し鈍っている。
帝国との試合で少しでも勝てる確率を上げないと…
私は三角コーンを不規則に立ててその間をドリブルして駆け抜ける、そしてゴール前まで抜けるとシュートを打ち込む、これを何度も繰り返した。
「やっぱり一人じゃこれくらいが限界か…」
せめて一人くらい相手がいればなぁ…
「中々やるな」
「え?」
声のする方を見ると白く逆立った髪をした人がいた。
「木戸川でもここまでできるやつはそういない」
「えっと、あなたは…」
うちの制服だけど、こんな人いたっけ…
「豪炎寺修也だ、妹がいつも世話になってるな」
「あ、あなたが夕香ちゃんの」
「夕香からよく聞いていた、サッカーのことをよく教えてくれる優しい人がいるってな」
「私も豪炎寺君のことは夕香ちゃんからよく聞いてたよ、すごく優しくてカッコいいお兄ちゃんなんだって」
「そ、そうか…」
本当に仲のいい兄妹なんだね。
「神風、ずっとお礼を言いたかったんだ」
「いいよお礼なんて、それに、元はと言えば私が約束の時間に遅れなければあんなことには…」
「それでも、神風の迅速な対応のおかげで夕香は一命を取り留めたんだ。ありがとう」
豪炎寺君…
「それじゃあ、見てほしい技があるんだけど…」
「見てほしい技?」
「うん」
そういうと私はゴール前に立って、ボールを足下に置く。
「行くよー」
「あぁ」
私はボールを上空に蹴り上げると飛び上がる。
「あれは!」
豪炎寺君がなんなのか気づいて驚愕した。
「ファイアトルネード‼︎」
炎を纏って回転し、ボールを蹴る。するとボールはゴールに向かって一直線に飛んでいく。しかし、軌道が大きくずれてゴールポストに当たり弾けた。
「また失敗か…」
「神風、今のは」
「うん、去年のフットボールフロンティアの予選が終わった後だったかな、夕香ちゃんに私のファイアトルネードをみたいってせがまれちゃってね、ここまではできるようになったんだけど、まだコントロールがうまくいかなくて」
「そうだったのか」
「よかったら、なにかアドバイスとかあったら欲しいかな」
豪炎寺君は少し考え込むそぶりを見せると再び私に向き直った。
「ボールを蹴る時に重心がずれていた、そこを修正すれば狙い通りに行くはずだ?」
「なるほどね、ありがと」
「妹の恩人なんだ、これくらいはさせてくれ」
私は再び練習に戻ろうとしたが、6時を回ろうとしていることに気がついた。
「もうこんな時間か、帰らないと」
「気をつけてな、それと、また、夕香に会ってやってくれ」
「うん、また行くよ」
それから数日後、ついに帝国学園との練習試合当日になった。