東方穢天落 月の失敗作は地球に落ちて摩多羅隠岐奈に拾われる   作:四国の探索人

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第11話 諏訪大戦

日差しが容赦なく照りつける昼下がり。

焼けつく石畳の中央に、八坂神奈子が腕を組んで立っていた。背には巨大な御柱。軍神としての風格を隠すこともなく、その存在が周囲の空気を揺らす。

 

その前に、静かに姿を現したのは――洩矢諏訪子と隠岐人。

 

村人たちがざわめきながらも距離をとり、成り行きを見守る。

 

神奈子が目を細めた。

 

「来たか、洩矢諏訪子……そして君は、先日の宴で見かけたな」

 

隠岐人が一歩前へ出て名乗る。

 

「摩多羅隠岐人。……旅の者です」

 

神奈子は少しだけ笑みを浮かべ、首を傾げた。

 

「そうそう、そんな名前だったね。すまないな。“強き神”の名なら覚えていたんだが」

 

その一言に、隠岐人は眉をひそめる。

 

「――師匠は、あなたなんかよりずっと強い!」

 

神奈子の目が静かに光る。

 

「強い?……私の力を見もせずに、ずいぶんと強気だな」

 

次の瞬間、神奈子が背後の御柱に手をかけた。

 

「では少し……見せてやろうか」

 

重々しい音と共に、神奈子が放った一本の御柱が、空気を裂いて諏訪子の横を掠めるように飛ぶ。

 

風が裂け、柱はしばし空中を漂ったのち――

ドォン!! と轟音を立てて地を抉る。

 

土煙が舞い上がり、村人たちの歓声と悲鳴が入り混じる。

 

「……今のはわざと外した。力の差を思い知ったのなら、今すぐ山へ帰るがいい」

 

神奈子の声は淡々としていた。威圧と余裕、それだけがあった。

 

だが――

 

諏訪子は微笑んでいた。

 

「へぇ、なかなかの威力じゃないかい。これは力押しだけじゃ分が悪そうだね」

 

神奈子は薄く笑みを浮かべながら首を振る。

 

「降参するなら今のうちだぞ。洩矢諏訪子」

 

その名を呼ばれた瞬間――

 

「冗談言わないでくれよ」

 

諏訪子の姿がふっと消える。

 

次の瞬間、神奈子の視界を裂いて飛んできたのは、鋭く煌めく――鉄の輪。

 

「私の技に叶うかな?」

 

神気をまとったチャクラムが風を巻き込み、八坂神奈子へと飛ぶ。

 

神と神の衝突――

“諏訪大戦”、ここに幕を開ける。

 

 「随分と浅い攻撃だな」

 

「それはどうかな?」

 

飛び過ぎたはずのチャクラムが、再び方向を変え、神奈子に向かって戻ってくる。

 

「戻る武器か……面倒だな」

 

神奈子はもう一度避ける――が、チャクラムはさらに速く、さらに鋭く軌道を修正し追い回す。

 

諏訪子「言っただろ? “避ければ避けるほど速くなる”。弾き返せば、その勢いで大技が跳ね返る。これは――“信仰の巡り”を模した技だよ」

 

神奈子は静かにチャクラムを見つめ、動きを止めた。

 

「ならば、止めて見せよう」

 

迫る刃をぎり、と片手で受け止める。

その神気の圧でチャクラムが震え、火花を散らした。

 

諏訪子「正面から受け止めるなんて……!」

 

神奈子はチャクラムを握ったまま、言葉を放つ。

 

「今度はこちらの番だ――雷雨雷電!!」

 

空が割れるように雷鳴が轟き、無数の稲妻が諏訪子に向かって放たれた。

 

だが、諏訪子は一歩も動かず、足元に手をかざした。

 

「来ると分かっていれば、対応もできるさ」

 

瞬間、彼女の周囲の大地が盛り上がり、まるで祠を模したような土のドームが形成される。

落雷はそのまま直撃したものの、土の質量と地脈の導きによって電流は拡散し、地へと吸い込まれていった。

 

神奈子は僅かに目を細める。

 

「防ぐか……ならば次」

 

踏み出そうとした神奈子の隣で、突如として岩が出現し、飛来する。反射的に拳で砕く。

 

「……直前まで気配がなかった。飛んできたのではなく、現れたのか」

 

言葉を終える間もなく、さらに二方向から別の岩が出現し、神奈子へと迫る。

再び対応して砕くも、その顔には明らかな驚きがあった。

 

そのやりとりを後方から見ていた諏訪子が呟く。

 

「……あの岩、“別空間”から出てきたか。そりゃ軍神でも反応が精一杯だろうね。隠岐人、面白い能力持ってるじゃないか」

 

だが神奈子も、ただの神ではない。すでに動きの中で攻撃パターンを分析していた。

 

「驚きはしたが、幸い1メートルほどは私から離れて現れるようだ。なら、反応する時間は残る」

 

その言葉通り、次々と現れる岩を完璧に砕き続ける神奈子。だがその時――

 

ひとつの影が飛来する。神奈子は岩だと判断し、拳を構える。

 

だが――

 

(……違う)

 

飛んできたのは煙玉だった。

 

「っ……!」

 

破裂と共に濃い煙が広がり、神奈子の視界を奪う。

 

その刹那、神奈子の背後にひとつの影が現れる。

隠岐人だ。自身の空間から飛び出し、妖力をまとった木剣を振り下ろす。

 

決まったか――そう思った瞬間。

 

「……そこか!」

 

神奈子はまるで背中に目があるかのように身を捻り、木剣を回避。

同時に隠岐人の服をがっしりと掴むと、空間から力づくで引きずり出す。

 

「なっ……なぜ気付――」

 

「つーかまーえた!」

 

神奈子は引き寄せた隠岐人をそのまま地面に叩きつける。

 

続けざま、拳を振り上げた。

 

「面白い能力ではあったが――私は軍神だ。そんな浅い攻撃、通じると思うなよ!」

 

拳が振り下ろされ、隠岐人は咄嗟に妖力を全身に巡らせて防御する。

だが神奈子の拳はその妖力すら突破し、鈍く重い衝撃が彼の身体を襲った。

 

「耐えるか。じゃあ、次は――」

 

神奈子が再び拳を構えたその時――

 

「今だッ!」

 

遠くから諏訪子の声が飛ぶ。

 

(何をするにしても、あの距離では……間に合わない)

 

神奈子は疑念を抱きながらも拳を振り下ろす。だが――その拳が届く寸前、視界が歪む。

 

(空間が……!?)

 

気づけば、自分の拳は隠岐人の体に届かず、“どこか別の場所”へと繋がれた空間に吸い込まれていた。

 

そして――

 

「がっ……!」

 

繋がれた先にいた諏訪子の元へ、神奈子の拳が突き出されるように現れる。

 

待ち構えていた白蛇がすかさずその腕に噛みついた!

 

神奈子「っ……!」

 

即座に拳を引き戻し、距離をとる。

 

神奈子「……毒か。なるほど、一撃目は囮だったか。まさかこの私に連携で毒を食らわせるとはな」

 

諏訪子は白蛇を抱きながらにやりと笑った。

 

「軍神相手に、正面から行っても勝てないからね。――こういうのも、“土着の知恵”ってやつさ」

 

隠岐人は立ち上がり、鼻先の血を拭いながら答える。

 

「これで少しは……均衡、取れましたかね」

 

神奈子は腕の痛みをこらえながらも、薄く笑う。

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