東方穢天落 月の失敗作は地球に落ちて摩多羅隠岐奈に拾われる   作:四国の探索人

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第13話 隠岐奈の指令

倒れ伏した隠岐人に、諏訪子が身をかがめて声をかけた。

 

「おーい、生きてる?」

 

その軽口を遮るように、神奈子が冷たく言い放つ。

 

「無駄だ。死んではいないが、全身の骨を砕いた。立ち上がることなどできまい。」

 

神木が再び振り上げられ、今度は頭を狙って突き立てられる。

砕かれたはずの肉体は死とともにみるみる再生し、隠岐人は再び立ち上がった。

 

「ありがとうございます……いや、感謝でいいのか。」

 

不思議そうに口元を歪める彼に、神奈子は鼻を鳴らす。

 

「謝ることはない。君が動けなかったのは、私の攻撃が確かに通じた証だからな。」

 

「おおっ! 本当に復活するんだね。いや~びっくりしたよ。」

諏訪子は手を叩いて感嘆の声をあげる。

 

「信仰を取り返せたようで、よかったですね。」

隠岐人が息を整えて言うと、諏訪子は少し照れたように笑った。

 

「感謝してるよ。私一人じゃどうにもならなかったろうからね。」

 

神奈子は腕を組み、力強くうなずいた。

 

「神たる私が、まさか半妖にここまでやられるとは。……うむ、負けたとはいえ、誇っていいぞ。」

 

その時、背後から澄んだ声が響いた。

 

「おや、命の灯火が消えたと思って様子を見に来たのだが……問題なさそうだな。」

 

振り返れば、そこに立っていたのは摩多羅隠岐奈。

姿を見た隠岐人は、思わず声を上げる。

 

「師匠、こんな所で……」

 

「やめろ、師匠などと。私はただお前を拾っただけだ。呼ぶなら……そうだな、もう隠岐奈でいいよ。」

 

神奈子の瞳が細められる。

 

「そちらが隠岐人の言っていた師か。摩多羅隠神……」

 

「いかにも、摩多羅隠岐奈だ。」

隠岐奈は口の端をつり上げた。

「どうだね、うちの子は?」

 

「神である私と、いい勝負をしていたぞ。最後は及ばなかったがな。……まあ、私が強すぎたな、ガハハハ!」

 

「ふむ……隠岐人、言っただろう? やばい時は私を呼べと。」

 

「……すいません。」

 

「まあ、お前はやり直しがきく。だからこそ余計に言いすぎるのはやめておくさ。」

 

叱責を終え、隠岐人が安堵の息をついたその時、諏訪子がぱっと顔を上げた。

 

「久しいねぇ、摩多羅神。」

 

「ん? 諏訪子か。久しいな。里乃と舞は元気にしているぞ。」

 

「あの二人の後はこの子を拾うとは……母性でも持て余してるのかい?」

 

「ち、違わい。私の手足として使ってやってるだけだ。」

 

「それにしては、隠岐人に何かあったのを心配して来たみたいだけど?」

 

「はー違う違う。これはな、あれだ……あれ。新しい指令という奴だ。」

 

 

隠岐奈は静かに隠岐人を見据えた。

その眼差しは慈愛にも似ていたが、同時に抗えぬ命令の力を帯びていた。

 

「摩多羅隠岐人――主として命ずる。この地に留まり、妖怪の調査をせよ。」

 

「……調査、ですか?」

隠岐人は思わず問い返す。

 

隠岐奈はうなずき、ゆるやかに語り出した。

 

「人は少し前まで、誰かにすがらなければ生きられぬ存在であった。だが今や鉄を鍛え、自らの力で道を切り開こうとしている。

私は思う……やがて妖怪全盛の時代は終わりを迎えるだろうと。その前に妖怪を調べ、話の分かる者を選び出し、楽園へと導くつもりだ。」

 

「楽園……?」と神奈子が眉を上げる。

 

「ああ。こちらの世界で力を失い、行き場をなくした者たちを集め、新たな世界を築くのだ。」

 

諏訪子が首をかしげ、口を尖らせる。

「へぇ、それって隠岐奈の得になるのかい?」

 

「得かどうかではない。」

隠岐奈の声がわずかに低くなる。

「神、妖怪、人間……今は微妙な均衡で成り立っている。だが、その一角が崩れれば、残る二つもまた崩壊する。それを防ぐための“楽園”だ。」

 

「ふーん。私は当分関係なさそうだけどね。」

神奈子は肩をすくめる。

 

「……だろうな。今は軍神・八坂神奈子の名は、日の本に広く響いている。だが戦のない時代になれば、信仰と共に忘れ去られる。そうなれば神は死ぬ。」

 

「……そうならぬよう、立ち回るさ。」

神奈子の声に、かすかな苛立ちが混じった。

 

「私たちがいらなくなる時代、ねぇ。」

諏訪子は地を見つめ、指先で土をすくった。

「人間が自分で何もかも解決できるようになれば、いずれ来るかもだけど……まだまだ先だろうね。」

 

隠岐奈は最後にもう一度、隠岐人を見据えた。

 

「隠岐人。そういうことだ。消えゆこうとしている妖怪たちを――お前が調査してこい。」

 

その声には抗えぬ重みがあった。

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