東方穢天落 月の失敗作は地球に落ちて摩多羅隠岐奈に拾われる   作:四国の探索人

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第16話 さよなら友達

外回りから帰ってきた一苗に、諏訪子が駆け寄った。

「おかえり、一苗。妖怪に目をつけられていたから追い返しておいたよ」

 

一苗は目を瞬かせる。

「身に覚えがありませんが……妖怪ですか?」

 

諏訪子は頷き、赤い髪とスカーフが印象的な少女の姿を説明した。

「赤い髪にスカーフをした飛頭蛮の妖怪だったよ」

 

その言葉に、一苗と隠岐人が同時に顔を上げる。

「赤い髪にスカーフ……」

「それって……」

 

一苗は首を振った。

「赤蛮奇さんは首があったのを私が確認しています。他に特徴は?」

 

「自分は妖怪じゃないって、必死に言い張ってたね」

 

一苗の眉間にしわが寄る。

「妖怪なのに自覚がない……?」

 

そのやり取りを聞いていた神奈子が口を挟んだ。

「それ、その子が妖怪化したんじゃないか? 人間も時として、条件が揃えば妖怪になる」

 

諏訪子は首をかしげる。

「そんな都合よくなるかな? 一苗が村の子に会いに行ったのはつい昨日だよ」

 

神奈子は一苗を見つめる。

「一苗はその子に昨日、奇跡の力を使ったんだろう?」

 

「はい。治りませんでしたが……」

 

「なら、その子が気に病んで人間としての道を諦めたとしたら、説明がつく」

 

一苗の額を一筋の汗が伝う。

「もし、そうだとしたら……」

 

諏訪子が頭を抱えた。

「あちゃー、ちょっと脅してしまったから森に逃げ込んでるかもしれないね」

 

一苗の表情が険しくなる。

「諏訪子様の馬鹿! 私、探してきます!」

 

神奈子が腕を広げて制した。

「待て一苗、今からでは暗くなる。夜の時間だ」

 

一苗はきっと神奈子を睨む。

「夜になるから行かないとダメなんですよ! それとも神奈子様が行ってくれるんですか!」

 

神奈子は口を閉じたあと、低い声で言う。

「……産まれながらの妖怪は仕方ないが、人間から妖怪になった存在は災いをもたらしやすい」

 

隠岐人が口を挟む。

「妖怪を人間に戻すことは出来ないんですか?」

 

諏訪子が首を横に振る。

「逆はよく聞く話だけどね」

 

神奈子も同意するようにうなずいた。

「私が知っている限りでは、妖怪が人間になった事例はない」

 

諏訪子は一苗の肩に手を置いた。

「まー落ち着きなよ。妖怪一人だけなら、こっそり村に置いててあげるから」

 

神奈子も少し目を細める。

「まあ、あの子は元々村の子だしな」

 

隠岐人が前に出た。

「赤蛮奇の家なら昨日行ったので、すぐ迎えに行けます。いなければ森で探します」

 

諏訪子がうなずく。

「よろしく」

 

隠岐人は空間を裂き、赤蛮奇の家へ向かった。

しかし、予想通り誰もいない。

 

「やはり森か……」

 

知らない森の道を歩きながら、彼は独り言をつぶやく。

「焚き火の一つでもあれば……いや、逆に襲われるか。どこを探せばいい」

 

彼は目を閉じ、静かに念じた。

(霊魂よ。周囲に広がりて、村の子の痕跡を探し給え)

 

淡い光の粒が四方に散っていく。しばしして、一つの反応が返った。子どもと狼女が共にいる気配――。

 

「洞窟……隠されているが、微かに焚き火の匂いもする」

 

隠岐人は慎重に洞窟へ進み、奥に進む。

そこには、赤蛮奇と今泉影狼がいた。

 

洞窟の奥。焚き火の明かりに照らされた赤蛮奇の髪が、炎のように赤く揺れていた。

その前に立つ影狼は、突然現れた隠岐人を睨みつける。

 

「人間……」影狼が低く唸る。「赤蛮奇、下がって」

 

(夜中にここまで来る人間、ただ者じゃない。強いに決まってる。だけど――やらなきゃ)

影狼は爪を尖らせ、隠岐人に飛びかかろうとした。

 

「止めて影狼! 知り合いだよ!」

赤蛮奇の声が洞窟に響く。

 

「え……?」影狼が動きを止める。

 

隠岐人は赤蛮奇の姿を見つめ、静かに息をついた。

「やはり……話せるようになっていたんですね」

 

赤蛮奇は少し俯き、頷いた。

「そう。目が覚めたら妖怪になっていて……でも、気づいたら声が出てた」

 

「幸い、貴方が妖怪だと知っているのは一苗さんと、二人の神、そして私だけです」隠岐人はゆっくりと告げる。「今なら、村に戻れます」

 

赤蛮奇は首を横に振った。

「嫌です。帰りたくない」

 

「え……」隠岐人の目が見開かれる。

 

赤蛮奇は影狼の方をちらりと見て、はっきり言葉を続けた。

「人間の時、私には友達なんて一人もいませんでした。でも今は……影狼がいる。帰りたくない」

 

その言葉に、影狼が小さく息をのむ。

「赤蛮奇……私に気を使わなくていいの。妖怪の世界は常に命の危険があるし、人間の社会を出れば二度と戻れない。今なら、帰れるんだよ」

 

隠岐人は静かに口を開いた。

「村人たちは知りませんが、少なくとも一苗さんは……夜に貴方を探しに妖怪の森に入ろうとするくらいには、貴方を思っていました」

 

赤蛮奇はしばし黙り込み、やがて焚き火の火を見つめながらつぶやく。

「……一苗さんには感謝しているよ。一日だけの関係なのに、私に本気で力を使ってくれて……。でもね、私、もう人間じゃなくて妖怪。人間だった頃より、生き生きしてるんだ」

 

拳をぎゅっと握りしめ、涙を浮かべながら笑う。

「もう孤独じゃない! 自由に外を歩ける! 家の中だけの私じゃない!」

 

隠岐人はその姿を見つめ、静かに頷いた。

「そう……ですか」

 

赤蛮奇は真っ直ぐに隠岐人の目を見返した。

「どうする? 帰らない私を……殺す?」

 

隠岐人はゆっくりと両手を広げた。

「悪さをしているわけじゃないですからね。私は何もしません」

 

赤蛮奇は、ほっとしたように小さく微笑んだ。

「そう……ありがとう。……一苗さんにも伝えておいてくれる?」

 

「直接、伝えてあげてください」

そう言うと、隠岐人は空間を開いた。

 

赤蛮奇は目を丸くする。

「これは……?」

 

「私の能力です。中は私の部屋。一苗さんの方からも空間を繋いでありますから、二人で話せますよ」

 

「助かる……」

 

赤蛮奇はその空間に足を踏み入れた。

そこには、一苗が待っていた。

 

「赤蛮奇さん……諏訪子様が、本当にすみませんでした」

 

赤蛮奇はゆっくりと首を振る。

「いや、いいんです。いつか起こる問題が早めに出ただけですから」

 

一苗はふと目を見開いた。

「……赤蛮奇さんの声、初めて聞きましたね」

 

「これで相手に思いの丈を伝えられる。失ったものが取り返せた。……首が転がるのが難点だけどね」

 

二人は思わず笑い合った。

 

「ありがとう、一苗さん。孤立していた私に声をかけてくれて」

 

「……もう、帰らないんですか?」

 

「うん。妖怪として生きていく」

 

「どうか、お元気で……もう会えなくても、私たち、お友達ですからね」

 

「ありがとう、一苗さん。もう行くね」

 

「はい! お元気で!」

 

空間が閉じ、二人は別れた。

 

赤蛮奇は振り返って隠岐人に礼を言う。

「……確か隠岐人、だったかな。君もありがとう」

 

「どういたしまして。影狼のような友人がいて羨ましいです」

 

横で影狼が笑う。

「惚れたかい? いつでも会いに来ていいんだよ。赤蛮奇の友達は、私の友達だもん!」

 

隠岐人も微笑み、軽く手を振った。

「また機会があれば。……お元気で!」

 

そう言い残し、隠岐人は再び空間を開き、守矢神社へと戻っていった。

 

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