東方穢天落 月の失敗作は地球に落ちて摩多羅隠岐奈に拾われる   作:四国の探索人

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第18話 薬のありか

京の町に着いたのは、日が西に傾きはじめた頃だった。

朱塗りの門をくぐると、都独特の匂いが鼻をついた。香の煙、行き交う人々の草履の音、そしてどこかに漂う薬草の香り。

 

「……これが、京の都ですか。」

隠岐人は周囲を見渡す。山の神の庇護を受けた諏訪とは違い、この地には人の手で築かれた秩序があった。

 

「ふぅむ、人間がこれほど多いと落ち着かんな。」

隣で一寸が腕を組み、眉をひそめる。

「どこを見ても背の高いやつばかりじゃ。これではまるで森の中を歩いておるようじゃの。」

 

「自分の身長の話をそこまで引きずりますか……」

苦笑する隠岐人の肩の上で、一寸は小さく足を組んだ。

 

やがて一寸は隠岐人の襟を引っ張り、低い声で言う。

「隠岐人、ワシをお主の服の中に入れてくれ。悪い奴に見つかったら厄介じゃ。」

 

「悪い奴?」

 

通りを歩く陰陽師たちは、札を貼られた妖怪を無表情に引き連れ、金貨の音を鳴らしていた。

神を信じる声は薄れ、技術と理で世界を支配しようとする匂いがする。

 

「……あれは?」

 

「最近、陰陽師どもが作り出した“制御札”というものらしい。低級の妖怪なら、あれ一枚で心を縛れるそうじゃ。」

 

隠岐人の目が細まる。

「何も出来なかった人間が、今では妖怪を使役するに至るか……。」

 

「人間も成長したということじゃろうな。だが、こうも残酷な成長は見ていて胸が悪い。」

 

一寸が吐き捨てるように言ったその先で、隠岐人は見覚えのある顔を見つけた。

――赤蛮奇。そして、首元に札を貼られた影狼。

 

「……あの二人、何してるんだ?」

 

「知り合いか?」

 

返事も待たずに隠岐人は駆け寄り、二人の手を取って人目の少ない裏路地へと引きずり込んだ。

 

「こんな人の多いところで何してるんですか。」

 

赤蛮奇は少し気まずそうに笑う。

「隠岐人……久しぶり。いや、そのね……」

 

影狼が後頭部を掻きながら言う。

「都には“願いを叶える薬”があるって聞いたの。赤蛮奇は首を隠せば人間に見えるし、私は……まあ、紙にテキトーな文字を書いて貼っておけばバレないかなって。あはは。」

 

「……命懸けでボケないでください。」

 

苦言を言う隠岐人の服の中から、一寸が顔を出した。

「なんじゃ、お主らもその薬が目当てか。」

 

影狼は目を輝かせて覗き込む。

「この子、小さくて可愛い!」

 

赤蛮奇も興味津々に手を伸ばす。

「人形みたい……!」

 

「や、やめんか! 触るでない!」と、一寸は小さな拳を振り上げて抗議した。

 

影狼が笑いながら問い返す。

「同じ目的ってことは、その“薬”を探してるの?」

 

一寸は胸を張る。

「うむ! 我が背を伸ばすための薬じゃ!」

 

隠岐人はため息をついた。

「ただ、“願いを叶える薬”って……噂に尾ひれがついている感じがしますね。どうにも――良くない気がする。」

 

 赤蛮奇が低く呟いた。

「薬の販売場所はリサーチしてある。――近くだ。」

 

「おお、それは助かる!」一寸は胸を張って言った。

「手間が省けるな。すぐに買いに行こうぞ。」

 

だが、影狼の表情は晴れない。

「……それが、出来たら良かったんだけどね。」

 

「どうした? 何かあるのか?」

一寸が首をかしげると、赤蛮奇が小さく息を吐いた。

 

「“願いが叶う薬”。――あれを作っていたのは、月から降りた人物が持ち込んだ物らしいの。

地上で生きるため、生活費の足しにと薬を売っていたらしいんですが……」

 

隠岐人の眉がぴくりと動いた。

「月から降りた……?」

 

影狼が言葉を継ぐ。

「でもね、その薬をある貴族が買い占めちゃったの。そのあと、薬の噂を聞いた鬼が、その貴族ごと攫っちゃったらしいのよ。」

 

「な、なんじゃそれは!」

一寸が跳ね上がる。

「鬼に盗られたのか、ぜ、全部!?」

 

赤蛮奇は静かにうなずいた。

「鬼は“薬と貴族が欲しければ、一ヶ月のうちに取り返しに来い”って通達を出したそうです。

けど人間たちは怖がって、誰も行こうとしない。……だから今はただ、時間が過ぎるのを待っているだけ。」

 

一寸の小さな拳が震えた。

「ふざけおって……! 貴族はどうでもいいが、薬はワシに必要なんじゃ! 隠岐人! 鬼から薬を取り返しに行くぞ!」

 

隠岐人は呆れたように息をつく。

「鬼の強さは子どもでも知ってるくらいですよ、一寸。」

 

「知っておる!」と一寸は胸を叩いた。

「もしや疑っておるな? これでも我は小人族随一の戦士であるぞ!」

 

赤蛮奇がくすりと笑いながら言う。

「ついでに私たちの分も取ってきてほしいな~。」

 

隠岐人は苦笑し、肩をすくめた。

「このまま一人で行かせるのも夢見が悪いので、分かりましたよ。」

 

「よし!」一寸は小さな腕を掲げる。

「わしの薬を取り返しに行くぞ!」

 

影狼は呆れ顔でため息をついた。

「貴方のではないと思うけど……まあ、頑張って。後ろで見てるから!」

 

そう言う影狼の肩を隠岐人は掴む

 

「お前も来るんだよ!!」

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