東方穢天落 月の失敗作は地球に落ちて摩多羅隠岐奈に拾われる 作:四国の探索人
鬼たちがじりじりと一寸へと寄せる。夜気に混じった息遣い、鉄の擦れる音が耳を刺した。
隠岐人はその様子を静かに見据え、赤蛮奇が肩を寄せて小声で囁く。
「おい隠岐人、一人でやらせていいのか?」
隠岐人は薄く笑い、首を振った。
「一寸がどれほどの実力か気になるが、それ以上に――見て分かるだろう。茨木童子はかなりの実力者だ。私が動くのは、あれが本気を出した時だ」
鬼の群れの中から一匹が前に出た。金棒を構え、嘲笑を浮かべる。
「実力の差も分からないチビは、潰れてるんだな」
振り下ろされた金棒が地を抉り、大地が震える。
だが一寸は軽々と跳躍してかわし、抉られた金棒の上にひらりと着地した。布の裾が舞い、彼はそのまま鬼の腕を駆け上がる。
針が閃き、鬼の手に突き刺さる。
「痛え! この小人が!」
怒号とともに鬼は手を振り払うが、一寸は器用に反対側へ回り込み、首筋へ針を突き立てた。
血が噴き出し、鬼は呻き声を上げて崩れ落ちる。
一寸は地に降り立ち、針を構えながら静かに言った。
「安心せい。血管は避けておるゆえ、すぐ止まる」
その落ち着いた声に、影狼は息を呑み、赤蛮奇も目を見開いた。
鬼たちの表情が一変する。
「囲め! 小人だと思うな! 全員でかかれ!」
怒号が飛び交い、鬼たちは一斉に襲いかかる。
一寸は鬼の腕を駆け上がり、針を突き、跳ね、滑るように次々と倒していく。
その動きは風のようで、刃のように鋭かった。
しかし――数は圧倒的だった。
一寸に登られた鬼の一人が怒鳴る。
「俺ごとやれ!」
仲間の躊躇はなかった。
鬼たちは金棒を振り下ろし、岩を投げ、己の仲間ごと叩き潰そうとする。
だが一寸は、あざ笑うようにするりと抜け出し、攻撃はすべて味方同士にぶつかった。
「何人おっても変わらんよ。」
その言葉に、群れの空気が一変する。恐怖と焦燥。
そして、ずっと黙していた茨木童子が一歩、前に出た。
「お前ら、下がれ。今度は私が小人を捕まえる。」
空気が張り詰めた。
一寸は針を構え、目を細める。
「ほう、やっと大将が来てくれたの。」
「やるじゃねえか。見てて楽しかったぜ。」
茨木童子の拳が振り下ろされる。風圧だけで砂煙が弾け、一寸の小さな身体が吹き飛ぶ。
「やはりな。空中じゃお前も自由に動けんよなぁ」
「それだけで勝敗は決まるまい!」
一寸は風に逆らうように跳び上がり、針を突き出して童子の体に飛びつく。
「身体に取りつけさえすれば、こちらのものじゃ!」
だが童子は嗤った。
「ほんとにそうか?」
次の瞬間、茨木童子は大地を思い切り蹴りつけた。
轟音が走り、一寸は衝撃で振り落とされ、地面に叩きつけられる。
「ぐっ……!」
立ち上がろうとするその瞬間、童子の拳が落ちる。
隠岐人は即座に動いた。
扉を開き、一寸の身体をそこに引きずり込む。
だが――
「……閉じない!?」
隠岐人の目が見開かれる。
扉の端が、鬼の手に掴まれていた。
茨木童子が、笑いながら力ずくで扉をこじ開けていたのだ。
「なんだ、変な力かと思えば……お前か。」
童子は扉の中から一寸を引きずり出し、そのまま片足を掴んで――折る。
「がっ――!」
一寸の悲鳴が夜に響く。
「ハハハ! その機動力がなけりゃ、何もできまい。……おい、好きにしろ」
鬼たちが嗜虐的な笑みを浮かべる中、童子は一寸を放り投げた。
だが、空中で閃光のように何かが横切った。
――ひゅっ。
一寸の身体が掻き消える。
茨木童子の目がわずかに見開かれた。
次にその姿が現れたのは――赤蛮奇の頭の上だった。
「間に合った。」
赤蛮奇が息を切らしながら呟く。
「……すまぬ、な。」と一寸が微笑んだ。
茨木童子は口元を吊り上げる。
「おいおい、見物人じゃなかったのかよ、テメェら!」
隠岐人が一歩前に出る。
「一寸は負けました。――今度は、全員で挑戦ですよ。」
その声には、静かな決意と怒気が混じっていた。
そして鬼の四天王・茨木童子との本当の戦いが、幕を開ける。