東方穢天落 月の失敗作は地球に落ちて摩多羅隠岐奈に拾われる   作:四国の探索人

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第20話 一寸法師の鬼退治2

鬼たちがじりじりと一寸へと寄せる。夜気に混じった息遣い、鉄の擦れる音が耳を刺した。

隠岐人はその様子を静かに見据え、赤蛮奇が肩を寄せて小声で囁く。

 

「おい隠岐人、一人でやらせていいのか?」

 

隠岐人は薄く笑い、首を振った。

「一寸がどれほどの実力か気になるが、それ以上に――見て分かるだろう。茨木童子はかなりの実力者だ。私が動くのは、あれが本気を出した時だ」

 

鬼の群れの中から一匹が前に出た。金棒を構え、嘲笑を浮かべる。

「実力の差も分からないチビは、潰れてるんだな」

 

振り下ろされた金棒が地を抉り、大地が震える。

だが一寸は軽々と跳躍してかわし、抉られた金棒の上にひらりと着地した。布の裾が舞い、彼はそのまま鬼の腕を駆け上がる。

 

針が閃き、鬼の手に突き刺さる。

「痛え! この小人が!」

 

怒号とともに鬼は手を振り払うが、一寸は器用に反対側へ回り込み、首筋へ針を突き立てた。

血が噴き出し、鬼は呻き声を上げて崩れ落ちる。

 

一寸は地に降り立ち、針を構えながら静かに言った。

「安心せい。血管は避けておるゆえ、すぐ止まる」

 

その落ち着いた声に、影狼は息を呑み、赤蛮奇も目を見開いた。

鬼たちの表情が一変する。

 

「囲め! 小人だと思うな! 全員でかかれ!」

 

怒号が飛び交い、鬼たちは一斉に襲いかかる。

一寸は鬼の腕を駆け上がり、針を突き、跳ね、滑るように次々と倒していく。

その動きは風のようで、刃のように鋭かった。

 

しかし――数は圧倒的だった。

一寸に登られた鬼の一人が怒鳴る。

「俺ごとやれ!」

 

仲間の躊躇はなかった。

鬼たちは金棒を振り下ろし、岩を投げ、己の仲間ごと叩き潰そうとする。

だが一寸は、あざ笑うようにするりと抜け出し、攻撃はすべて味方同士にぶつかった。

 

「何人おっても変わらんよ。」

 

その言葉に、群れの空気が一変する。恐怖と焦燥。

そして、ずっと黙していた茨木童子が一歩、前に出た。

 

「お前ら、下がれ。今度は私が小人を捕まえる。」

 

空気が張り詰めた。

一寸は針を構え、目を細める。

「ほう、やっと大将が来てくれたの。」

 

「やるじゃねえか。見てて楽しかったぜ。」

 

茨木童子の拳が振り下ろされる。風圧だけで砂煙が弾け、一寸の小さな身体が吹き飛ぶ。

「やはりな。空中じゃお前も自由に動けんよなぁ」

 

「それだけで勝敗は決まるまい!」

 

一寸は風に逆らうように跳び上がり、針を突き出して童子の体に飛びつく。

「身体に取りつけさえすれば、こちらのものじゃ!」

 

だが童子は嗤った。

「ほんとにそうか?」

 

次の瞬間、茨木童子は大地を思い切り蹴りつけた。

轟音が走り、一寸は衝撃で振り落とされ、地面に叩きつけられる。

 

「ぐっ……!」

 

立ち上がろうとするその瞬間、童子の拳が落ちる。

隠岐人は即座に動いた。

扉を開き、一寸の身体をそこに引きずり込む。

 

だが――

 

「……閉じない!?」

隠岐人の目が見開かれる。

扉の端が、鬼の手に掴まれていた。

 

茨木童子が、笑いながら力ずくで扉をこじ開けていたのだ。

「なんだ、変な力かと思えば……お前か。」

 

童子は扉の中から一寸を引きずり出し、そのまま片足を掴んで――折る。

 

「がっ――!」

 

一寸の悲鳴が夜に響く。

「ハハハ! その機動力がなけりゃ、何もできまい。……おい、好きにしろ」

 

鬼たちが嗜虐的な笑みを浮かべる中、童子は一寸を放り投げた。

だが、空中で閃光のように何かが横切った。

 

――ひゅっ。

 

一寸の身体が掻き消える。

茨木童子の目がわずかに見開かれた。

 

次にその姿が現れたのは――赤蛮奇の頭の上だった。

「間に合った。」

 

赤蛮奇が息を切らしながら呟く。

「……すまぬ、な。」と一寸が微笑んだ。

 

茨木童子は口元を吊り上げる。

「おいおい、見物人じゃなかったのかよ、テメェら!」

 

隠岐人が一歩前に出る。

「一寸は負けました。――今度は、全員で挑戦ですよ。」

 

その声には、静かな決意と怒気が混じっていた。

そして鬼の四天王・茨木童子との本当の戦いが、幕を開ける。

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