東方穢天落 月の失敗作は地球に落ちて摩多羅隠岐奈に拾われる   作:四国の探索人

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第24話 隠岐奈と紫の出会い

隠岐奈は紫の前に立ち、視線を逸らさず問いかけた。

 

「一つだけ確認する。この子が何か、お前に危害を加えたか?」

 

紫は目を細め、感情の読めない声で返す。

 

「問題なのは“行い”ではなく“存在”よ。

この子は、地上にあってはならないもの」

 

隠岐奈の眉がわずかに動く。

 

「産まれただけで罪だと言うのか。神として、それを肯定する気はないぞ」

 

紫は扇子で口元を隠し、吐息のように言葉をこぼす。

 

「この子には私の血が混じっている。

――月の民に採られた、あの忌まわしい血が。

気づかなかった? この半妖の体質は、半分が“私の力”よ。

確認もしたわ。血を舐めたのだから、間違いないわね」

 

隠岐奈の目が鋭くなる。

 

「血を利用されたからといって、この子が敵とは限らない。

意思も目的も持たないただの子だろう」

 

紫はその言葉を嘲笑で切り捨てた。

 

「月の民が仕掛けるのは、いつも“道具”からよ。

この子が刺客でなくとも、放置する理由がどこにあるの?」

 

空間がわずかに軋む。紫の力が満ち始める。

 

「邪魔をするなら、神だろうと容赦しないわ」

 

だが隠岐奈は一歩も退かず、逆に紫へ言葉を叩きつけた。

 

「ならば――どうだ。

月の民が干渉できぬ場所を用意したとしたら?」

 

紫の動きが止まる。

 

「そんなもの、どこにも存在しないわ」

 

隠岐奈は静かに首を振った。

 

「存在しないなら、作ればいい。

この現世は崩れ始めている。

いずれ人間は神を忘れ、妖怪は力を失い、月の民が好き勝手に干渉する未来が来る。

だからこそ――その前に隔絶された新たな世界を築く」

 

紫は思わず言葉を失う。

そして、吐き捨てるように笑った。

 

「狂気ね。

世界創造なんて、神ひとりの手に収まる規模じゃないわ。夢想も大概にしなさい」

 

隠岐奈は血まみれの隠岐人の肩に触れながら、紫へ静かに問いかけた。

 

「無論、その世界はこれから創造する段階に過ぎない。

お前も――来ないか?」

 

その声音は挑発でも命令でもなかった。

ただ、未来を語る者のように柔らかく笑っていた。

 

紫は思わず目を細める。

 

「……何よ、その顔。」

 

隠岐奈は肩をすくめた。

 

「やはりダメか……」

 

そして、ほんの一瞬だけ本当に残念そうな表情を見せた。

 

紫の胸がざわつく。

 

(……なんなの、この感情。

自分の“保護下の子ども”を叩き伏せた相手に、どうしてそんな顔が出来るのよ)

 

紫は視線を逸らし、息を吐くように呟いた。

 

「世界の創造は無理よ。神一柱で背負える規模じゃない。

――でも。元ある土地を“模造品”にすり替え、その領域に結界を張るのなら……

必要な力は、桁違いに少なくて済むわ」

 

隠岐奈の目が輝いた。

 

「ほう! その手があったか!」

 

紫は思わず眉をひそめる。

 

「ちょっと。さっきまで怒ってたんじゃなかったの?」

 

隠岐奈はふっと笑った。

 

「怒る? 君の気持ちは理解した。

月の民に血を奪われた被害者でもあるのだろう?――なら、責める気にはなれん」

 

紫は言葉を失う。

そんな反応を返されるとは思っていなかった。

 

「……本当に、不思議な神様ね」

 

隠岐奈は隠岐人の身体を抱き起こし、紹介するように言う。

 

「そして、名乗りが遅れたな。私は摩多羅隠岐奈。この子の育て親だ」

 

紫も扇子を下ろし、わずかに丁寧な声音で返す。

 

「八雲紫。境界を操る妖怪よ」

 

視線が隠岐人へと落ちる。

 

「その子のこと、怒ってないの?」

 

隠岐奈は静かに首を振る。

 

「この子は戦っただけ。生き延びるためとなれば、月の民相手でもそうするだろう。

それに――この子は不老不死だ」

 

紫は息を呑む。

 

「……ああ、やっぱり。

これも月の技術による産物かしら」

 

隠岐奈は目を伏せ、寂しげに呟く。

 

「らしい。私が初めてこの子を見たとき、月から落ちてきたんだ」

 

紫はゆっくりと隠岐人へ手を伸ばし、その身体に触れた。

 

「月に利用され……汚された私の血で作られた、もう一人の被害者。

地上に生まれるはずじゃなかった存在」

 

その声は、憎悪ではなく――同族を見るような微かな同情を含んでいた。

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