東方穢天落 月の失敗作は地球に落ちて摩多羅隠岐奈に拾われる   作:四国の探索人

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第3話 同じ景色を

食事を終えたあと、隠岐人はぽつりと呟いた。

 

「……その。こんな私に――名前を与えて、食事や……部屋まで与えてくれて。

 どうして、そんなによくしてくれるんですか?」

 

言葉は少し途切れ途切れだったが、それでも確かに、“問い”としての形をしていた。

 

隠岐奈は扇を畳み、目元だけで笑った。

 

「……建前を言えば、**“監視”**だ。」

 

「監視……?」

 

「月から落ちてきた、しかも不死で、得体の知れない霊力を持つ子ども。

 放っておいたら何をしでかすか分からない。

 だから“監視対象として保護している”って言えば、他の神々も文句は言わない」

 

「……」

 

隠岐人は黙った。だが、その言葉の奥にある“嘘ではないが、全てでもない”という気配を感じ取っていた。

 

隠岐奈は視線を彼に向け、少し扇を持ち上げながら続けた。

 

「だが。私が本当に興味を持ったのは、君が――“持ってはいけないはずの力”を持っていたからだ」

 

「霊力のこと、ですか?」

 

「ああ。持つ力というのは、基本的に“種族”によって決まっている」

「妖怪なら妖力。幽霊や神霊は霊力。神なら神力。――互いに混じることは、基本的にない」

 

そう言って、隠岐奈は扇を閉じると、指先で隠岐人を軽く指した。

 

「けれど君は、妖の血を引く半妖のはずなのに、“強い霊力”を持っている。

 魂を通じて周囲の霊を引き寄せる異常体質。

 それだけじゃない――」

 

「名前を与えた際の契約で、私の神力もちょっとだけ有しているぞ」

 

「……え?」

 

隠岐人は、ぽかんと目を見開いた。

 

「知らないのか? 神が名を授けるというのは、“祝福と契約”の儀でもある。

 ほんの微細なものだが、君には私の神力の“かけら”が刻まれている」

 

「き、聞いてないですけど……」

 

「どうやら、常識ある者として話していた私が悪かったようだな」

隠岐奈はため息混じりに言いながら、あからさまに反応を楽しんでいた。

 

そのやり取りに、すぐさまツッコミが飛ぶ。

 

「お師匠様のバカー!」

里乃が箸を振り上げて叫ぶ。

 

「クーリングオフしてやれ」

舞が無表情で言い放つ。

 

「こら! お前ら、師匠に対してなんという口を……!」

 

「「この無説明詐欺神!」」

 

隠岐奈は二人に軽く扇をぶつけながら、わざとらしく怒ってみせた。

 

一方で、隠岐人は――

そのやり取りを、ただ静かに見つめていた。

 

けれど、口元はほんのわずかにほころんでいる。

 

それが「笑み」と呼べるものだったかどうかはまだ分からない。

だが、その場の空気に、少しだけ“生きている実感”が溶け込んだのは確かだった。

 

 

 

 

その夜。

布団に横たわりながら、隠岐人は静かに天井を見上げていた。

 

天井など存在しないこの空間に、“見上げる”という行為が適切なのかはわからない。

けれど、そうしていないと、意識がどこかへ流れていってしまいそうだった。

 

「……これまでの生活とは、まるで違う。

 名前があって、部屋があって、食事があって……」

 

口に出してみると、不思議なことに、少しだけ現実味が増した。

 

隠岐人はそっと目を閉じ、布団をかぶる。

 

――が、数分も経たないうちに、気配に気づいて目を開けた。

 

何かが、いる。

 

(……隠岐奈……?)

 

そう思って身を起こすと、そこにいたのは、淡く光る“何か”だった。

 

球体でもない、線でもない。

けれど、確かにそこに存在する、光の霊魂たちだった。

 

その数は三つ、いや、四つ……次第に数えきれなくなっていく。

 

「……月からついてきた、物好きな連中……」

 

隠岐人はぽつりと呟いた。

 

「――君たちは、きっと……僕より前に、薬を飲まされた被験体たちなんだろう」

 

一つの霊魂が、ぴたりと止まる。

 

「……僕を、恨んでいるのか?」

 

そう問うと、霊魂たちは静かに横へと移動した。

左右に、ふわりと。

 

まるで「違う」と言っているかのようだった。

 

隠岐人はしばし黙り、そして苦笑した。

 

「……成仏したいなら、出来るかどうか分からないけど……神様に、頼んでみようか?」

 

霊魂たちは、その言葉に対して、今度は小さく震えるように光を揺らし、拒むような素振りを見せた。

 

「……そうか。まだ、そっちには行きたくないんだな」

 

しばらくの沈黙。

そして、隠岐人はほんの少しだけ、表情を緩めて呟いた。

 

「……じゃあさ。君たちも一緒に、ここで生きようか」

 

「同じ景色を、見ていこう。

 それくらいなら……僕にも、できると思うから」

 

霊魂たちはふわふわと動きながら、空中で静かに頷くような動きを見せた。

 

“ウンウン”

 

言葉を持たない霊たちの、精一杯の“返事”。

 

隠岐人は、布団を肩までかぶりながら、もう一度空を見上げ目を閉じた。

 

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